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神よ我らの祖国に栄光を!  作者: 卯柿魯安
第一章:王国の危機
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1話 「転生」

 長い夢を見ていたようだった。

 暗い場所にいた。でもその場所は心地よかったような気がする。暖かさと安息。しかし、何かを忘れている。だが、何をだろうか。僕はいったい何を忘れているのだろうか?

 突然、夢の世界から現実の世界に引き戻されたように意識がはっきりした。なんなのだ、これは? 僕は、どうしたのだ……。それに、どこだ、ここは? 確か事故に遭い、そして、女神に会ったような気がする。だが、その後の記憶がない。

 辺りを見渡してみるが、視界は白く、ぼんやりとして何も見えない。それは、ピントの合わない眼鏡で眺める世界のようだった。

 そして、首が回らない。首が回らないなんて、まるで赤ん坊だなと自分を貶める。……赤ん坊。そう赤ん坊だ。僕は生まれ変わったんだ。その事実を飲み込むのに、そう時間はかからなかった。

 前世の記憶を所持したまま生まれ変わる。そんなにわかには信じられないことが、まさか自分が体験することになるとは。少し複雑な気持ちだが、状況を整理したことにより生きようという勇気が湧いてきた。

 安堵のせいだろうか。尿を漏らしてしまった。

 下半身に得も言われぬ不快感が襲う。湧き上がる不快感にどうすることもできず、泣き叫んだ。泣くことに少し恥ずかしさを感じる。しかし、大の大人ならいざ知らず、そもそも赤ん坊とは泣くものである。即ち、今の自分の行動は当然のことであり、恥じることなどないのだと自分に言い聞かせる。

 泣いていると、すぐに女性が駆けつけてくれた。

 極度の低視力のため、輪郭と髪型しか認識できなかったが、オムツのようなものはがされる感覚があった。オムツを変えてくれるということは、彼女はこの世界での僕の母親だろうか。そして、前の世界でもこのようにオムツを変えてもらっていたのかな、そんなことを考えていた。

 そんな僕に、彼女は僕の背中に手を差し入れた。そのまま、彼女はひょいと抱きかかえ、僕をあやす。

 赤ちゃんからやり直すとは聞いていたが、これは少し退屈だな。しばらくは喋ることもできない、歩くことも、何かを食べることも、一人でトイレにすらいけない。自分だけで何もできないというのはつらいな。

 そんなことを考えていると、一人の女性が近づいてきた。月光に輝く白銀色の髪を持ち、紅色の瞳をもつ女神、イシュタリーテだ。


「こんにちは。転生は無事完了したみたいですね。別に話さなくてもいいわよ。まだ喋れないだろうし。心の声を聞き取るから話したいことがあれば念じてね」

 心の声を聞ける。それは、凄い能力だ。古今東西如何なる名君でもその能力を欲しがるだろう。


「それで、この世界でのあなたの名前は、レオンハルト・ロード・フェル・ファントムロードよ。ヴェルトリア王国第13代国王ヘルシング・クラウド・フェル・ファントムロードの初子として生まれてきたの」

「どうして王子なんかに……?」

「私はあなたに眠る君主の才を感じ取りました。その才を活かせば天下万民を救うこともできるでしょう。しかし、ゼロから一国の主になるというのは困難を極めます。ですから、あなたの才を最も活かせる境遇を与えたまで。感謝には及びません」

 彼女は続けて話す。


「それよりも、あなたの使命について少し話したいの。この美しきヴェルティア(ヴェルトリア王国の前身レヴィオニア帝国も含む)は私の誇り高き信徒たちが心血を注いで築き上げてきた国です。しかし、今や奸臣が権力を握り、外では悪しき賊により私の清廉な信徒達が蹂躙されています。正しき者が殺されヴェルトリアは瀕死の状態です」

 イシュタリーテは穏やかな口調で話すが、その瞳には憤怒の炎がはっきりと宿っていた。


「故に、あなたは次期ヴェルトリア王となり、賊を殺し、ヴェルトリアを再興しなさい」

 一瞬彼女の気迫に押され後れを取ったが、心の中で了解の返事をする。


「承知しました。我が主よ。必ずやご期待に応えると誓います」

「よろしい。もし私に会いに来たければ、セントエレナ大聖堂に訪れなさい。それではごきげんよう」

 そう言い残して、イシュタリーテ様は去っていった。

 僕はベットに横たわって天井を見上げながら、これからのことを考えていた。

 そんなこと考えていると、眠気に襲われいつの間にか眠ってしまっていた。


 一年ほどが経過し、僕はいろいろなことをできるようになった。

 まず、視力が上がったので、人を識別できるようになった。今では母親の顔も父親の顔も分かる。僕の読み通り最初にオムツを変えてくれた女性が母親だった。

 母親と父親の両方とも金髪だ。そして、容姿は日本人離れしている。透き通る白い肌、高い鼻、長いまつげに碧色の瞳。まるで人形のようだ。その子供である僕もこの二人のような見た目になるのだろうか。

 それにしても、みんな身なりが煌びやかだ。家族はもちろんこの家を訪れる者も同様である。

 そして、王族の家ということもあり、半端じゃないくらい金持ちだ。

 見るからに高そうな壺やヨーロッパ風の骨董品、鹿の剥製、豪華なシャンデリア、真っ赤な絨毯。そして、僕はシルクの布団に包まれている。

 とんでもなく恵まれた環境にいるようだ。

 次に言葉が聞き取れるようになった。この国で話されている言語はどうやら日本語ではない。これも女神からの贈り物かは分からないが、彼らの話していることは理解できる。誰からも教わっていないのに、言葉が分かるのだ。しかし、前の世界での母国語(日本語)をペラペラ話したときは、周囲の者は皆驚いていた。日本語を話すときは気を付けるべきだな。

 周りの会話を聞いといていると、どうも母親は僕のことを心配しているようだ。


「赤子はもっと泣くものだとおもっていたわ。それに、たまに訳の分からないことを言うし……。悪魔にでも取りつかれているのかしら?」

「奥様、心配はいりません。泣かないのは、落ち着きがある証拠です。それに、まだ王子様は幼い。それ故に、王子様は話すための訓練をなさっているのです。これはごく自然なことです」

 乳母の一人が母親の不安を払拭してくれたから、何も問題が起こらなかったけど、これからは奇怪な行動を慎もう。

 そして、順調に乳児期を過ごしハイハイもできるようになった。ハイハイができるようになったものの、そんな簡単に退屈な生活が終了とはいかなかった。部屋には常に誰か居て、部屋から出ることはできない。自分で本を読もうとしても、あなたにはまだ早いと窘められる。元々読書は好きだったが、今の僕は今まで以上に知識を欲している。

 できることと言えば、一日中おもちゃで遊んだり、母親や乳母に絵本を読み聞かせてもらうことぐらいである。


 あと、ここ最近の大きな出来事と言えば、国民に、僕のお披露目が行われたことかな。王妃様つまり、母親に抱きかかえられて、民衆を見渡すことができるお城のバルコニーに連れていかれた。そこから見た景色は大変美しかった。燃えるように赤いレンガ造りの家が立ち並ぶ。その他にも、木組みの家や鐘のモニュメントのある家などが見える。太陽の光に照らされて、まるで黄金のようであった。そして、町の広場らしき所には民衆が集まっていた。


「我が民よ。今日はよくぞ集まってくれた!」

 父親である王様が高らかに民衆に語り掛ける。


「皆知っていると思うが、改めて紹介させてくれ! ファントムロード家に新しい家族が加わった。、第一王子、レオンハルト・ロード・フェル・ファントムロードだ!」


 民衆が一斉に声を上げる。

 王子様万歳! レオンハルト王子万歳!

 老若男女問わず、皆が祝ってくれる。

 今までの人生でこんなにも賛辞を受け取ったことはない。これが権力というやつだろうか。


「今日は、めでたい日だ。我が民よ、大いに歌い、食べ、踊り楽しんでくれ」

 国王陛下万歳! レオンハルト王子万歳!


 民衆たちの万歳の連呼が国中に広がる。

 万歳を全身に浴びる中で、僕は思う。

 もう少し待ってくれ。我が民よ。必ずや僕が天意に逆らう賊を討ち、天下を安らかにする。   

 それまでどうかこの乱世で生き抜いてくれ。

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