9 日曜日のお出かけ2
「え? なんで、わざわざ静岡まで行くのかって? ——いや、実は最初は、サッカー部のみんなにお願いしようかって考えていたんだけど……でも俺の同期って、俺を含めて10人ちょっとしかいなくて試合するには足りないし、後輩は、もう冬の大会に向けて頑張っているところだから頼めないし、だから、小学生時代のリトルチームの元チームメイトのみんなに頼んだんだ。そこ、結構な大所帯だったから」
「それで、なんで静岡?」
「私たち、中学校に入る時に、お父さんの仕事の都合で神奈川に引っ越して来たんですけど、産まれは静岡なんです」
「じゃあ……もう三年程、会ってないのか? ……よく協力してくれたな?」
「ん? そりゃ、あいつら、凄えいい奴らだからさ!」
道中、そんな会話を交わしながら、3人は静岡のとある駅へとたどり着いた。改札を抜け、駅前の景観を見て、槍也が感嘆の声を上げた。
「おー、なつかしー!」
「本当に……変わっていませんね」
そのまま歩き出した3人だったが、槍也と琴音は、そわそわと周囲へ視線を彷徨わせている。
一見して雰囲気は変わっていない。二人がこの町を離れた時のままだ。でも、よく見ると、所々に変化がなくもなかった。
「あそこにスポーツジムなんてなかったよな?」
「ええ。前は、小さな喫茶店でしたっけ……大きくなったら一度入ってみたいと思っていたんですけど……ちょっと残念です」
そんな風に、郷愁に浸りながら歩く二人の少し後ろを、アキラは歩いていた。時折、二人から投げかけられる話題には適当に答えている。
『いやー、やっぱり他県ともなると印象がずいぶんと変わるよね! ここの人たちは、神奈川の人たちより少しゆっくりとしたテンポだわ』
「テンポね……俺にはわかんねーな」
ぶっきらぼうな言い草だが、別に機嫌は悪くない。
むしろ、初めて訪れた静岡の地が物珍しくて観光客の様に眺めている。
最初はリトルチームの同窓会に一人だけ部外者。という状況に嫌気がさしていたが、よくよく考えてみれば地元だった所で知らない人間に囲まれるのは同じだろう。なら、遠く離れたこの場所の方が気楽だ。
——まあ、どんだけ無様晒しても静岡だからな。
——なんか問題が起こっても、後は野となれ山となれ……だ。
ある意味、投げやりとも言える心境で、目の前の景色を楽しんでいた。
そんな時だ、小さな公園の前で槍也が立ち止まった。
「なあ、佐田。悪いけど、ちょっと寄り道いいか?」
「別にいいけど?」
そうアキラが答えると、槍也は公園へと入って行った。軽く駆け出す様なステップからは、だいぶ浮かれている心境が伝わってきた。
「どうしたの、あいつ?」
「ここは、私たちがよく遊んだ公園なんです」
残された二人は、そんな会話をしながら槍也の後を追った。
狭い土のグランドに、シーソー、ブランコ、滑り台、それに水飲み場。小さな公園だ。
槍也はその中の象の形をした滑り台を、懐かしそうにぽんぽんと触れていた。
「俺さ、サッカーを始めたの、この公園がきっかけだったんだよ」
「へえ……ここが?」
U-15の日本代表、日本サッカーの救世主と呼ばれる滋賀槍也がサッカーを始めたきっかけ。興味が全くないと言えば嘘になる。
好奇心から続きを促した。
「ああ。子供の頃、よく、みんなとここで遊んでいたんだけど、サッカーボールを持ってくる奴がいて、二手に分かれてサッカーしたんだ。で、この象の前足と後ろ足の間のトンネルがゴールがわりだったんだ」
懐かしそうに語る槍也は、当時のことを思い返しているのかもしれない。
「それが、まあ、凄え楽しかったから、サッカークラブに入団して、本格的にサッカーを始めたんだ。それからもクラブの練習がない時はここで琴音とボールを蹴ってたな」
「ええ。今でもはっきりと思い出せます」
「ふーん……」
興味深い反面、意外と普通なきっかけだな、とアキラは思った。似たような理由でサッカーを始める輩はごまんといるだろう。
——この狭い公園が無ければ滋賀はサッカーを始めなかったかもな。
——もしかして、看板でも置いて宣伝すれば観光客が来るんじゃねえの?
——あと意外といえば、このおしとやかなイメージのこいつが、元サッカー少女だった事も意外だな……。
特にとりとめもない事をつらつらと考えていると、
「佐田はどうなんだ?」
そう槍也から問いかけられた。でも質問の意味がわからない。
「どうって、何が?」
「いや、琴音から聞いたんだけどさ、昔はサッカークラブに入ってたんだろう? 佐田のサッカーを始めるきっかけは何だったのかなって?」
「ああ、なる……」
親切丁寧な補足で質問の意味はわかった。わかったのだが、
「…………覚えてねえな」
多少、考えた末にそう答えた。嘘じゃない。本当に思い出せなかった。
「え? マジで?」
「マジだよ。もう昔過ぎてさっぱりだ……」
「そうなんだ…………じゃあ、サッカーを辞めた理由は?」
ずけずけと聞いてくる槍也。好奇心というのもちょっと違う。
「それも昔のこと過ぎて覚えてねえよ。……滋賀、そんなに俺の……その、何だ、俺のサッカーについて知りたいのか?」
んな価値ねえよ。と、アキラは思うのだが、槍也の意見は違った。
「うん、知りたいな……マジな話、佐田が今サッカーやってないのはもったいないと思うよ?」
あけすけな言い草に欝陶しさと爽やかさを同時に覚えて肩を竦めた。
——正直な奴だ。
アキラはそう思った。次いで、
——俺は嘘つきだな……。
そうも思った。実は、サッカーを辞めた理由の方は覚えていた。ボールを蹴るのが嫌いになった訳じゃない。嫌気がさしたのは人間関係の方。
アキラは、チームメイトやコーチと上手く馴染めず、それでサッカーを辞めた。
といっても、別にチームメイトからいじめられたとかコーチが糞だったとか、そんな訳じゃない。
むしろ原因はアキラの方。サッカーは11人でやる競技で、ある程度の協調性は必要で、でも、アキラは個人主義でそれがなかったというだけの話。
つまらない話だし、そんなつまらない話を誰かに話す気にはなれなかった。
別に正直者になりたいとは思わないが、少しだけモヤッとした。
どうも、カロリーゼロです。自分の小説を見て頂き、ありがとうございます。
恋愛ジャンルの日刊一位を取ったことは素直に嬉しいです。
ブックマークしてくれた方、評価してくれた方、ありがとうございます。
恋愛ジャンルなのに、ヒロインがまだ登場していない4話目あたりで一位になった事で、何か妙なプレッシャーがかかった事も、いい経験です。
感想をくれた方、誤字脱字を報告してくれた方、わざわざありがとうございます。
因みに、タイトルの『サッカーと恋愛』を見てピンと来た方は、何ヶ月か前に書き終えた漫画家の話を読んでくれた方で、いわば、カロリーゼロの常連さんなのだと思います。毎度、ありがとうございます。一度、作中作のような事をやって見たかったんです。(でも、ランキングに入っているのにアクセス数が悪くて3日もしない内にタイトル付け足しましたけどね! おかげでアクセス数が倍になって、結果一位取れたけど、そんな思い入れのあるタイトルだっただけに超複雑な気分でした!)
さて、そんな常連さんならわかると思うのですが、自分はそんなに執筆スピードが速くはありません。今まで、毎日投稿できたのは、作り置きがあったからで、それも今回の話でおしまいです。
なので、これからは投稿のペースが落ちることになります。申し訳ありません。