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50 天秤高校のサッカー5

「あー、くそ! マジくそ! 出来ねえ……ってんだろうがゴラァァァッ!」

 

 サブチームの左サイドバック、柏木(はがね)は荒れていた。

 先ほどからサブチームはボールを極端なまでに右サイドに寄せてサイドからの突破を狙っている。そして、それを主導しているのはボランチである佐田だ。

 つまり、奴はハーフタイム中に鋼と坂上先輩に告げた作戦を実行する気なのだろう。さっき鋼に対して鋭い視線で一瞥をくれたあたり間違いない。

 あれは、やれというサインだ。


「あれほど無理だって! ……俺はお前の為を思って忠告したんだから人の話は聞けよ!」


 鋼は佐田のことをガチで嫌っている部員も多い中、少なからず佐田のことを肯定している人間だった。

 確かに佐田は問題の多い人物だ。高校からサッカーを始めた初心者の一年坊主でありながら、主張が強く、協調性はなく、部長と揉め、部にも顔を出さず、挙句に何故か、学校一の美人とも噂されるマネージャーの滋賀がそれに付き合って部に顔を出さなくなったのだから、まあ佐田を嫌う奴らの気持ちもわかる。

 噂によると、もっと上の進学校を余裕で狙えた筈の滋賀が天秤に進学したのは、佐田を追っかけてのことらしい。

 噂は噂とはいえ、もし、それが本当なら鋼だって「爆発しろよ、この野郎!」と一発ぐらいはぶん殴りたいところだ。

 ただ、子供の頃からばっちゃんに、


「人様のことを妬むよりも、自分が自分を誇れる人間になりな」


 と、そう言われて育ってきた鋼なので過剰に妬む気にはなれなかった。

 それに、佐田を嫌う奴らの気持ちがわかる一方で、佐田の気持ちも決して分からない訳ではない。

 サッカーは多人数で行うチームスポーツであるが故に、大なり小なり、譲り合ったり、主張を控えなければならない節度が求められる。

 いわゆるチームワークだ。

 例えば鋼にしたって、実はもっと攻め上がりたいと思っている。

 サイドバックの役割は大まかに分けて2つある。

 サイド際を行き来して攻撃にも参加する縦の動きと、ディフェンスラインの一員として組織守備を行う横の動きだ。前者を優先するサイドバックがいわゆる攻撃的サイドバックで、後者を優先すれば守備的サイドバック。

 どちらが正しいという正解は無いが天秤では基本、守備的サイドバックを求められている。

 ハイプレスというハイリスクな戦法を取る以上、それが突破されたときの対策として守備陣は安定した防壁にならなくてはならないと、そういうことらしい。

 攻撃時も中央にボールを集め、サイドバックが最前線まで攻め上がることはまず無い。精々が後方支援と言ったところ……。

 鋼はそういった天秤のスタイルが間違っているとは思わない。

 自分たちを卑下する訳じゃないが、天秤は、あれもこれもと欲張ったところで、それを十全に活かせるような学校じゃない。

 色々な戦術を学んで中途半端な結果を招くぐらいなら、割り切って、集中させて、切り捨てるところは切り捨てるべきだ。

 サイドバックの攻撃参加を切り捨てた結果が守備の安定に繋がっているなら、それはそれで正しい。

 事実、そうやって出来上がった今のサッカー部の実力は、鋼たち1年がビックリするほどに強い。

 もし仮に「サイドバックはもっと攻め上がるべきです」と主張して受け入れられたところで、サッカー部の実力が劇的に上がることは無く、むしろ攻守のバランスが崩れてチーム全体の戦力としては劣化するだろう。

 そういったことを鋼はちゃんとわかっている。わかっているからサッカー部の一員として、わきまえる所はわきまえているのだが、その一方で、攻撃に加わりたいという気持ちが無くなる訳ではなく、そこは我慢しているのだ。

 だからなのだろう。そんな鋼だからこそ、同じ一年坊主でありながら何のためらいも無く自分の主張を押し出す佐田のことは嫌いじゃなかった。

 自分の都合で部の練習内容の変更を要求するのは、無理だろうと呆れるし、自分の都合を優先させて練習に来なくなるのは、なにやってんだと思うし、挙句、戻ってくるやいなや「レギュラーより俺の方が強いので試合をやろう」だなんて「お前、頭の方は大丈夫か?」と聞きたくなるぐらいの空気の読めなさだが、チームのことなど気にもかけずに、ひたすらに自分のサッカーを模索する様には、ある種の羨望と賞賛を抱いていた。

 そんな訳で佐田から話を持ちかけられた時、鋼は反感から判断を歪める様な事はせずに、真面目に耳を傾けた。

 あいつが鋼たちに要求した事は主に2つ。

 一つはサイドから攻める際の、サイドバックの攻撃参加。

 そしてもう一つは、サイドからの攻撃時にスペースの空いた逆サイドへのオーバーラップ。つまりサイドチェンジによる攻撃だ。

 その案を聞いた鋼は、前者に対して了承し、後者に対して否定した。

 まず、前者に関しては、佐田の考えに納得がいき、かつ、自分の心情的にも納得がいった。

 レギュラーチームが中央をがっちり固めたなら、その分、手薄になるサイドからの突破を仕掛け、それで相手がサイドに人員を回すようなら、今度は中央へと仕掛ける。

 天秤ではあまりやらないが割とオーソドックスな攻撃スタイルであり、攻め上がりたいと思っている鋼にとっても悪くない提案だ。

 喜んで……とまでいかなくとも、ノリ気で佐田の案を了承した。

 けれど、サイドチェンジに関しては考えるまでもなく否定した。否定せざるをえなかった。なぜならサイドチェンジを使った攻撃なんて一朝一夕で出来る代物ではないし、仮に時間をかけて練習しても、やはり使い物にはならない。

 あれは殆ど曲芸で、自分たちのレベルで使える技ではないということを、過去の経験からよくよく学んでいたからだ。

 鋼は中学生の頃もサッカーをやっていた。

 ポジションはサイドバック。

 といっても、最初から望んでサイドバックをやった訳でもない。

 本当はFWやMFが良かったのだが、そのポジションは鋼よりサッカーの上手いチームメイトがレギュラーとして活躍していて、鋼の入る余地が無く、控えに回るよりはとサイドバックを選んだのがきっかけだ。

 そんな風にある意味妥協してサイドバックを選んだ鋼だったが、だからといってサッカーに対するやる気を無くしたりはしなかった。

 ちゃんと守備でチームに貢献するつもりだったし、出来るなら攻撃でも役に立ちたかった。

 そして地味なポジションだと思っていたサイドバックも、いざ、学んでみるとなかなかに面白いポジションだった。

 ライン際を駆け上がるオーバーラップ。中央に切り込んでいくインナーラップ。近年増えつつある司令塔型のサイドバックなど、一口にサイドバックといっても、やるべきことが多岐に渡る。

 まあ鋼には司令塔型とかそんな高度な真似は出来ないが、幸いなことにスタミナには自信があったので、基本、センターバックと連携しながらゴールを守りつつ、時にはライン際を駆け上がってクロスを上げる。そんな運動量を生かした攻撃的サイドバックを目指して、実際、それなりに活躍もした。

 味方の中盤を追い越して前に出るあの爽快感は、サイドバックならではの特権だ。

 けれどサイドチェンジ。あれは駄目だ。自分たちの手に余る。

 ちゃんと練習して試してみたからこそ、出来ない事がはっきりと分かっているのだ。

 佐田の意図は分かる。

 サイドを集中して攻めれば、当然、逆サイドが手薄になる。

 それも天秤のような4バックだと、逆サイドのサイドバックが中に入って中央のカバーをするから更に手薄だ。

 一見すると、サイドバックが駆け上がる為の道が出来ているように見えるが、それが罠だ。

 そこから先、サイドチェンジが攻撃として成立するまでの条件は果てしなく遠い。

 まず前提として速やかな奇襲でないと意味がない。

 これは基本DFである鋼には良く分かるのだが、ただ単にサイドから逆サイドへボールを流したところで守備側には何の脅威にもならない。それどころか、長い滞空時間の間に守りを固められるので、ひと息つけるまである。

 守備側に追い詰められて、ぼーんと高いボールで逆サイドに逃げるけど、落下する頃には囲まれてて奪われる、なんてシーンはプロの試合でもよく見かける。

 下手なサイドチェンジは逆効果にしかならない。

 技術的にもかなり難易度が高い。サイドバックは状況を見定めて駆け上がることを要求されるし、パスの出し手にもかなり精密なロングフィードが要求される。

 特にロングフィードに関しては、さっきも言ったが、ただ単に高いボールだと時間を食って意味がない。かといって低い弾道も駄目だ。

 サイドバックが届かなくても駄目だし、逆にサイドバックのスピードを殺してもいけない。

 敵味方の数秒後をかなり正確に予測した上での絶妙なロングフィードが要求される。

 そして、これが一番の難関なのだが、サイドバックとパサーの距離が離れ過ぎていて意思疎通が難しく連携が取りづらい。

 大声でボールを要求すれば相手も気付き、奇襲の前提が崩れる。

 かといって、アイコンタクトや小さな仕草では気付かれない。

 そもそも、サイドチェンジが有効な局面というのは、逆サイドで激しい凌ぎ合いが行われている状況で、味方だって忙しいのだ。とてもじゃないが逆サイドまで気を回していられない。

 そんな数々の理由によって、サイドチェンジは何ら実用的な攻撃手段には至らなかった。

 中学時代、勢いよく駆け出していって、ボールが回って来ず、相手のサイドバックに「お前、やらかしてんなぁ……」という目で見られながらトボトボと守備位置まで戻った事が一体、何回あったのか……最後には味方から「もう意味ないから止めようぜ」と言われて実際に止めた。

 そんな苦い体験から得た経験から、鋼は佐田の案を否定した。

 それも単に否定した訳ではなく、これこれこういう理由があって無理なんだと、ちゃんと理由を、自らの苦い体験も含めて余さず伝えた。

 すると奴はこう言った。


「それはお前が出来ないってだけの話だ。俺には全然関係のない話。——とりあえず連携はこっちで合わせるから、柏木はチャンスがあったら突っ走れ。後のことは全部俺がやる」


 鋼はキレた。当たり前だ。


 ——ばーか! ばーか! ばーか! 出来ねえって言ってんだろうが、このばーか!

 ——何が後のことは全部俺がやる、だ! そんなちゃらんぽらんなやり方で出来たら人間じゃねえわ!

 ——自分がエイリアンだとでも言いたいのか、このボケナスが⁉︎


 激昂した鋼は殊更むきになって反論したが、佐田も譲らないままにハーフタイムが終わった。そして今、サブチームはサイドからの攻撃を仕掛けているが、鋼はサイドチェンジをやる気になれない。

 それは佐田への反感うんぬんの前に、サイドチェンジは無理だという鋼の常識的観点からの判断だった……のだが、


「なんなんだ? 一体?」


 今、逆サイドでは佐田のスルーパスを受け取った坂上先輩が、中央へ向けてクロスボールを上げる所だった。

 残念ながら先輩へのマークが厳しかった為か、クロスボールの精度に難があり、ボールは誰にも触れられずにペナルティエリアを通り越してサイドラインを割っていった。

 得点にはならなかったのだから失敗といえば失敗なのだが、逆にクロスボールを上げられる程のチャンスだったとも言える。

 少なくとも今の攻防はサブチームの方が優勢だった。

 そして優勢なのは今回だけじゃない。後半に入ってから、いや、一点取り返した前半の終わり頃から、試合の流れはずっとサブチームに傾いている。

 レギュラーチームのハイプレスは全く機能せず、さっきから敵陣のゴール前で紙一重の攻防を繰り広げている。

 はっきり言って、どっちがレギュラーかわからないぐらいだ。


 ——調子が悪い? いや、んなことないよな?


 GWの練習試合、レギュラーの実力をこの目で見ているだけに、現状に納得がいかずに戸惑っていたが、ふと、ボランチの定位置に戻った佐田と再び目が合った。

 さっきより更に鋭い。もはや、こちらを突き刺すような視線は、相手が何を要求しているのか一目瞭然だった。

 鋼は焦って呟いた。


「いや、でも出来ねえだろ。……出来ねえよな?」


 常識的に考えれば絶対に無理だ。サイドチェンジはさっきやると決めて今できる、そんなもんじゃない。でも、それを言ったら後半から何回も通っている佐田のロングフィード。あっさり通っているが、あれも相当に難易度が高い。

 もしかしたら、もしかするのかもしれない。

 それでも踏ん切れずに守備についたが、幸いなことに、その迷いが守備に悪影響を及ぼすことは無く滋賀をがっちりマークした。

 滋賀を相手に1対1で守り切れる自信はまるで無いので、センターバックと2人がかりの荒技だ。

 流石の滋賀も動き辛そうに見えるし、相手も露骨なマークに囲まれている滋賀へボールを集めるような真似はしなかった。

 逆サイドで中盤がボールを持って、更にFWへボールを入れようとするが、そのルートに佐田が割り込んだ。

 意外にも佐田は守備にも長けている。1対1でボールを奪取するような派手なプレーが無いので目立たないが、あらかじめ危険なスペースを潰しておくような嫌らしさを備えている。

 きっと性格が悪いから、相手の嫌がることがわかるのだろう。

 縦のルートを消されて戸惑っている所に味方のインサイドハーフが距離を詰めた。更にはトップ下も降りてきて挟み込む形だ。

 相手は慌ててボールを回そうとするが上手くいかず、味方のインサイドハーフがボールを奪った。

 そして佐田が右サイドに大きく膨らみながらボールを受け取った。

 また右サイドからの攻撃だ。徹底して右サイドに人を集めている。鋼の忠告なんて聞きゃしねえ。


「はぁ、わかったよ。……この、分からず屋が」

 

 根負けする形で鋼は佐田の案に乗ることにした。敵味方の意識が右サイドに集中している現状、サイドチェンジが有効な局面には違いない。もしかしたら……という気持ちもほんのちょっとはある。

 さりげなく向こうのサイドバックの動向を観察するが、鋼が普段より外に膨らんで前のめりな位置取りをしている事にまるで気付いてはいない。完全に逆サイドに注意がいっている。

 その右サイドでは坂上先輩がライン際からドリブル突破を仕掛けていて、この状況で鋼まで上がれば守備力は半減するだろう。カウンターを食らったらひとたまりも無い。


 ——取られたら、終わりだな……。


 天秤では久しく感じていなかったオーバーラップへの緊張に体を震わせながらも、先に進めなくなった先輩が佐田へボールを戻した所で鋼は飛び出した。

 サイド際へと大きく膨らみながら前へ前へと駆け上がって行く。


 ——まだ気付かれていない。佐田は……。


 ここで佐田がもたもたするようだと勢いが削がれて失敗するのだが、当の佐田は鋼が声をかけるより先に、バックパスを受け取った最初のトラップでボールを軽く中央に流し、こちらへロングフィードを蹴れる体勢を作り出していた。

 そこで初めてあいつと視線が合ったが、向こうは明確に鋼の飛び出しを把握している。


 ——マジで⁉︎


 信じられないという気持ちで一杯だったが、現実に左足の一閃がフィールドを斜めに斬り裂いた。

 レギュラーチーム、特に向かい側のサイドバックは完全に意表をつかれて出遅れた。焦っている様子が見てとれるが絶対に間に合わない。

 そして、そんなサイドバックを追い越した鋼は、1回2回とバウンドしながらサイドラインを割ろうとしているボールに追いつくと、ボールを大きく前に弾き出して、更にボールの後を追った。

 ドリブルというよりも、自分の出した前方へのパスに自分が追いついている、そんな動きだ。

 当然、隙が多い動きだが構わなかった。既に鋼の行く先には誰もいない。ボールを取られる心配はない。

 ただ真っ直ぐに敵陣の最奥目指して走りながら、ちらりと中を窺うと、敵味方に関わらず慌てふためいていて、こんな時にも関わらず、くすりと笑えた。


 ——たぶん、一番びっくりしているのはこの俺だ。


 込み上げる衝動に身を任せながらもフィールドの最奥までたどり着くと、即座にクロスを上げた。

 上げた先は2枚のFWではなく、その後ろから上がって来ているトップ下の先輩だ。そこが一番ゴールに近い気がした。


「うらぁ!」


 先輩は、山なりのクロスボールにタイミングを合わせてヘディングを入れた。

 マークは着いていたが、マークとの身長差とフィールドを渦巻く混沌が先輩に味方した。

 決して良いコースとは言えないが勢いのあるヘディングシュートは、キーパーが咄嗟に差し出した右手を弾いてゴールへと吸い込まれていった。


「いょーーし!」


 味方のゴールを見届けた鋼は、咆哮を上げながらその場で飛び上がった。



 ひとしきり味方と喜びあった後、鋼は佐田の元へと小走りで駆け寄った。そして、たどり着くやいなや興奮気味に問いかけた。


「佐田! お前はあれか? あれなのか?」

「何がだ?」


 真顔で問い返されて、ちょっと落ち着いた。


「いや、えっと……あれだ、今のサイドチェンジが成功したのは実力か? それとも、もの凄く運が良くて偶々成功しただけなのか、どっちだ?」


 それは鋼本人に自覚は無くとも、無意識に次を期待しての質問だった。だから、


「うーん……どっちかって事なら運だな。今回は偶々いい方に転がった」


 その返事を聞いて、素で落胆してしまった。

 期待させておいて、がっかりにも程がある。そんな鋼の内心が顔にも態度にも現れていたのだろう。佐田は顔をしかめながら言い返してきた。


「しょーがねーだろ! 俺は右利きなんだよ!」

「は? 右利き?」


 訳がわからずおうむ返しに問い返すと、佐田は怒りながらも続きを語った。


「ああ、右利きだ。だから左でのロングパスは右ほど正確には蹴れねーよ。そもそもロングボールが蹴れるようになったのも、つい最近だぜ? まだ狙い通りの場所に蹴れなくても仕方なくね? ちゃんと、いずれは同じように蹴れるようになるわ! つーか、のんびり話してねーで、とっとと自分の持ち場に戻れ。試合が始まるぞ。まだ1点負けてんだからな?」


 矢継ぎ早にまくしたてられ、最後は乱雑に追い払われた。

 怒ってもいい場面だが、そんな事よりも佐田の言い訳の方が気になった。

 今のあいつの台詞は、左足さえなんとかなれば、幾らでも今のサイドチェンジが出来る。それどころか右足でなら今すぐにでも出来る……そう言っているようにしか聞こえなかった。

 一番の難関である意思疎通の難しさなど気にも止めていない。鋼の飛び出しなどわかって当然、そんな感じでしゃべっていた。

 そして、実際あいつはそうだった。

 自分の持ち場に戻った鋼は、ぼそりと呟いた。


「ははっ……あいつ、人間じゃねえわ」


 なんの誇張もない、本心からの言葉だった。

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[一言] お盆休みに1話から50話まで読み直しました。とても面白いと思っており、更新と今後の展開に期待しています。
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