27 入部
部活紹介が終わった後、本格的に部活が始まった。
サッカー部も入部希望者は部室の前に集まり、先輩たちの前で自己紹介を行なっている。
因みに部室の中に入らずに部室の前に集まっているのは、ただ単純に部室が30人以上が一度に入れる程広くないからだ。
「田中太郎です。よ、よろしくお願いします。中学でもサッカーをしていました。ポジションはディフェンスでした。サッカー部での目標は……俺も全国大会を目指して頑張りたいと思います!」
最初の入部希望者が、若干たどたどしくも挨拶を終えた。
「いいですね。一緒に頑張りましょう!」
顧問である夢崎先生が笑顔で拍手をする。同時に先輩たちも、同級生たちも彼に拍手を送る。
琴音も軽く手を叩いて歓迎の意思を示しているが、内心では、ちょっとそれどころじゃなかった。
この場にいる新入部員は琴音と兄さんを含めて9名。その中に佐田君が居ない。
──どうしましょう。
ソワソワと周囲を見渡すが、 彼の姿は影も形も見当たらない。兄さんも、こころなしか難しい顔をしている。
来ないつもりだろうか? 来ないのかもしれない。佐田君はサッカーをやるとは一言も言ってないのだ。
けれど、そうなると兄さんが天秤に来た意味が無くなってしまう。
焦る琴音だが、そんな彼女の心境とは無関係に自己紹介は続いていく。
正直、佐田君のことで頭が一杯で、いまいち集中できていないのだが、それでも、かろうじて耳に入ってくる新入部員のアピールによると、彼らのほとんどがサッカー経験者のようだ。
兄さんのことを思えば、チームメイトのレベルが高い方がいいに決まってるので、経験者が多いのは喜ばしい。
部長の演説もクラスの女の子たちと一緒に見たが、天秤サッカー部は、やる気のある人たちの多い、よい部活なのではなかろうか?
──これで佐田君がいれば……兄さんはどう思ってるんでしょう。
知りたいが、この場であらかさまな私語を話すわけにもいかない。
もどかしげに思っていると、兄さんの番がやってきた。
やはりというか、当然というか、みんな兄さんのことは知っているらしく、新入部員も先輩も、明らかに他の人の自己紹介よりも注意を払っている。
「滋賀槍也です。中学ではフォワードをやっていました。俺のことを知っている人もいるかもしれませんが、U-15の代表選抜に選ばれたこともあります。でも、高校では何の実績もない一年坊主なので、また一から頑張るつもりです。よろしくお願いします」
周囲から注目されながらも、自分らしさを失わない兄さんの挨拶と笑顔はやはり素敵だった。録画して何度も見返したいくらいだ。
その効果は劇的で、どこか別世界の住人と一線引かれていた空気が打ち解けていき、一緒にサッカーをやる仲間なんだと認められたと琴音には思える。
ところが中には兄さんのことを全く知らない人もいた。
「え? 日本代表だったんですか⁉︎」
夢崎先生の反応に、時が止まったかの様な静寂が訪れた。
──先生、兄さんのこと知らないんですか?
思わず、そう問いかけたくなった琴音だったが、直ぐに思い直した。
確かに兄さんはサッカーの世界では有名人だが、この国の誰もが知るほどの有名人という訳でもない。知らない人は知らなくても何らおかしくは無い。ましてスポーツに疎い人ならなおさらだ。
──例え、サッカー部の顧問でも……うん。まあ、そういうこともありますよね。
自分を納得させて落ち着いた琴音。
一方、夢崎先生はせわしなく尋ねた。
「じゃあ! 君は日本のあの青いユニフォームを着たことがあるんですか⁉︎」
「……え、ええ。まあ」
「凄いじゃないですか⁉︎ じゃあ、そんな凄い滋賀君がいるなら、うちのサッカー部が優勝できちゃうかもしれないですね!」
夢崎先生の言葉に周りがどよめいた。
夢崎先生の発言は明らかにサッカー未経験者のそれだったが、ある意味未経験だからこそ、物事をシンプルに捉えているとも言える。
実際、兄さんが1人いるだけで、サッカー部の戦力は大幅に上がるだろう。
あながち、優勝という言葉も不可能ではない。──そう周囲に思わせてしまう力が滋賀槍也という名前にはあるのだ。
「俺ら日本代表とサッカーするのか……」
「うわ、信じらんねー……今年の天秤、ヤバくね?」
「でも、なんでウチに?」
みんなが思い思いに喋ることで、収拾がつかなくなりそうになったが、部長が一喝した。
「静かに! まだ、自己紹介は終わっていないんだ」
その言葉で先輩たちが速やかに私語をやめ、一拍おくれて一年生たちも静かになった。
「滋賀。君のことはここにいる大半の者が知っている。正直、なぜ君が天秤に入学したのかはわからない。──ただ、理由はどうあれ、ウチのサッカー部に来た以上は特別扱いはしない。他の新入部員と同じ扱いをさせてもらうがいいかな?」
「はい! それで大丈夫です」
一見、厳しく見える部長の言葉に、兄さんは嬉しそうに頷いた。
それに、不思議な顔をする人もいたが、琴音には兄さんの考えがよくわかる。
ここで部長が、「滋賀君、君は特別だから自由にやっていいよ」などと言うような人なら、むしろ信頼出来なかっただろう。兄さんと他の部員の間に壁が出来ていたかもしれない。
それを思えば、ちょっと厳しい方がよほどいい。
──責任感があり、しっかりしている人。
というのが、琴音の部長に対する印象だ。
そのしっかり者は夢崎先生にも、やんわりと釘を刺した。
「先生。滋賀は確かに凄い選手ですが、サッカーは1人では勝てません。俺たちはみんなで力を合わせて戦いたいと思います」
夢崎先生はサッカー素人ではあったが、部長の台詞の意味を感じ取れないほど鈍感でもなかった。
至って素直に謝った。
「ごめんなさい。変なこと言っちゃいましたね」
「いえ」
お互いに一歩引いた感じで、この件は終了した。
その後は、再び新入部員の自己紹介が続き、男子が全員終わった後は、マネージャー志望の琴音も軽く自己紹介をした。
その際、先輩マネージャーがほのぼのと話しかけてくれた。
「滋賀さん……ううん。お兄さんがいるから琴音ちゃんって呼んでいいかな? ちなみ、こっちは沖島渚ね」
「はい。それでお願いします、沖島先輩」
「おおう、礼儀正しいね。──じゃあ、琴音ちゃん。私がマネージャーの仕事を教えるから一緒にサッカー部を支えていこうね」
「はい」
琴音は優しい感じの先輩にホッと安心した。やっぱり、男所帯のサッカー部で唯一の同性とは仲良くできるに越したことはない。
一通り、みんなの自己紹介を終えた後、キャプテンがこれからの方針を話した。
「新入部員が加わった上で、これからのサッカー部の目標は5月の中頃から始まる夏のインターハイの県大会を勝ち抜くことだ。その為にチームとして、レベルを上げていくことが必要だが、先の先生の自己紹介で言っていたとおり、夢崎先生はサッカーの経験が無く、技術の指導は出来ない」
「その……みんな、ごめんなさい!」
先生が謝ったが、キャプテンはちょっと慌てて否定した。
「いいえ! 顧問を引き受けて頂いただけで、ありがたいと思っています! ──とにかく、俺たちは自分たちの力でレベルを上げられるよう考えていかなければならない。当面は2、3年が考えた練習メニューをこなしていくが、いずれは1年も相談に加わって欲しい」
「「「はい」」」
新入生たちが元気よく返事を返したので、キャプテンは満足そうに頷いた。
「それでは、地区大会が始まるまで2月を切っている。時間が限られているから、今日から早速練習を始めたいと思う。まずは、今のレギュラーと新しく入った新入生たちで試合をしたい」
「えっ?」
新入生の誰かが疑問の声を上げた。また、その彼に限らず新入生の大半は驚きの表情を浮かべている。
琴音もそっち側の人間だ。まさか、いきなり試合をするとは思わなかった。
そんな様子を見てとったのか、キャプテンは付け加えた。
「試合をする理由は2つある。まず、新入生たちの実力を実戦形式で知りたいこと。もう一つは、新入生たちにウチのサッカー部のスタイルを実際に見て欲しいからだ。お互いを知る為にまずは試合をしよう」
キャプテンが理路整然と理由を説明してくれたおかげで、みんなが納得した風を見せた。
琴音も同様だったが、ふと、新たな疑問が頭をよぎった。
軽く挙手しながら尋ねた。
「あの、新入生は8名しかいませんが、足りない人数はどうします?」
「足りない人数は、2、3年で埋める。──他に質問は?」
最後の一言は琴音にではなく、新入生全員に向けられたもので、特に質問がある人はいなかった。
「じゃあ、一年は制服を着替えてくれ。練習着を持ってきている奴は、体操服ではなく、そっちで構わない。アップが済み次第、試合をはじめよう」
部長の号令と共にみんなが一斉に動き出した。一年生は我先と部室に入っていく。
また、夢崎先生は職員室へと戻って行った。新入生の担任は色々とやることがあり、サッカー部だけに構っていられない。
そんな中、琴音は兄を捕まえて相談した。
「兄さん。あの人、来ませんけど……どうしましょう?」
「うーん。待つしかない……かな」
不安そうな顔をする兄さん。その浮かない顔を見て。琴音は、兄さんの為に自分が何とかしなければと思う。
「私、ちょっと、佐田君のところに行ってきます! うんと言うまで説得します。なんなら、首に縄をかけてでも連れて来ます」
本気で言った琴音だったが、そんな琴音を槍也が止めた。
「いや琴音、やめておこう」
「そんな⁉︎ 兄さんは佐田君がサッカー部に入らなくてもいいんですか⁉︎」
「無理やり連れてきたってしょうがないよ。やっぱりさ、サッカーをやるかやらないかは、最後は自分の意思で決めるものだと思うから。──それに、まだ来ないと決まった訳じゃない。俺が誘ったんだから、ちゃんと待たなきゃ」
そう言って、兄さんもまた着替える為に部室へ入っていった。
人を信じようとする心は、兄さんの数え切れない美点の一つであるが、それも場合によりけりだと琴音は思う。
「もう! ……もう!」
「何を荒ぶっているのかな? 琴音ちゃんは」
もどかしさを抑えきれずに身悶えしていたら、沖島先輩に名前を呼ばれた。
「新入部員の名簿をまとめようと思うんだけど、琴音ちゃんも手伝ってくれる?」
「は、はい」
まだ、佐田君を説得しに行く……という考えを捨てきれずにいたが、折角、沖島先輩が、手伝ってね、という名目で琴音にマネージャーの仕事を教えようとしてくれるのだ。無下にすることも出来ずに大人しく従った。
近くのベンチに並んで座って、集められた入部届を確認しながら、サッカー部員の一覧表に五十音順に書き写して行く。
「みんな、残ってくれるといいねー」
「そうですね」
先輩とたわいもない会話をしながら、さらさらと三人目まで書き写したが、四人目、兄さんの所で手を止めた。
「ん? どうしたの?」
「いえ、ちょっと、このまま書き写して良いものかと思いまして……もしかしたら、もう一人入部するかもしれないんですよね……」
別にきっちり五十音順にする必要はないのだろうけど、それでも……。
知らず難しい顔をしていた琴音を見て沖島先輩が言う。
「さっきから、何か悩んでるみたいだけど……良かったら先輩が相談に乗りますよー」
おっとりとした喋り方と、自分を指差して、「ここ! ここに相談相手がいるよ!」と主張する仕草が妙にコミカルで、琴音はつい笑ってしまった。少しぐらいならいいかな、とも思う。
「じゃあ、ちょっと聞いてくれますか?」
「はいはい。何だって聞いちゃうよ」
「実はですね、私のクラスにサッカー部に入るかどうかを迷っている人がいるんです。佐田君って名前の男子なんですけど」
「ふんふん」
「私は入った方がいいと思うんです。その人にはサッカーの才能がありますし、きっとサッカー部の戦力になります。他に入りたい部活もないみたいですから……なら放課後、ただ帰宅するより、サッカー部に入ってチームメイトとボールを追いかけた方がいいと思うんです。何より……その人、サッカー大好きだと思うんですよ」
「うん? だと思う?」
「本人が言った訳じゃないですから。でも、前に佐田君がサッカーする所を見たことがあって、凄い楽しそうでした。それに──」
兄さんが佐田君を追って来た、という部分を伏せて佐田君の人となりを沖島先輩に伝えた。
「なるほどねー、話は良くわかったよ、琴音ちゃん」
沖島先輩はうんうんと頷くと、次いで、コメカミをグリグリとした。ふわふわのウェーブがかかった髪が揺れる。どうやら一休さんの真似っぽい。
面白い先輩だなぁと考えていると、どうやら考え事が終わったらしく、琴音の方を向いた。
「じゃあ、私の意見を言うね」
「はい」
「まず、そのツンデレ男子君なんだけど……」
「ちょっと待って下さい!」
琴音は沖島先輩の話を遮った。まだ、具体的な話は何もしていないが、尋ねずにはいられなかった。
「ツンデレ男子って、まさか佐田君の事ですか?」
「そだよー。 最近、流行りのツンデレ男子。サッカーが好きだけど好きって言えないなんて、正にツンデレ君でしょ?」
「ええっ?」
想像すらしていなかった言葉に、思わず佐田君の言動を思い返す琴音。
──そんな、佐田君がツンデレなんて可愛らしい筈が……筈が……意外とそうなのかもしれませんね。
思い返せば確かにツンデレと呼べなくもないかもしれない。
そう思った瞬間、笑いの衝動が抑えられなかった。
「あははっ……」
咄嗟に口を押さえて笑い声を抑えようとしたが、どうにも止まらない。
俯いて、肩を震わせながら、込み上げてくる笑いを遣り過ごそうとするが、なんとか会話が可能なまでに落ち着くまでに、たっぷり30秒はかかった。
「大丈夫? 落ち着いた?」
「はい。もう大丈夫です。それよりも沖島先輩」
「ん?」
「沖島先輩の佐田君に対する印象は、中々に的を射ているかもしれませんが、一点だけ明確に間違っていますよ」
「んん? どこが?」
「デレの部分です。佐田君はデレたりはしません。そんな佐田君は想像もつかないです。つまり、佐田君はツンツン男子なんです」
真面目に訂正したつもりだったが、今度は渚が声を上げて笑った。
「あははは! 何それ? 琴音ちゃんは面白いね!」
「そうでしょうか?」
「そうだよ。──それで、琴音ちゃんは、そのツンツン男子君にサッカーをして欲しい訳なんだ?」
「はい。でも彼は中々手強くて……なにせツンツンなものですから……」
「おい、滋賀」
「わひゃっ⁉︎」
突然、横から名前を呼ばれた琴音は変な悲鳴を上げてしまった。いや別に声をかけられただけでは、そこまで驚いたりはしないのだが、声の主が今まさに琴音たちが話題にしていた男子生徒の声だったので驚いたのだ。
慌ててそちらを向くと、そこにいたのは、やっぱり佐田君だった。
佐田君は、琴音が驚いて悲鳴を上げたことに驚いている。
「そんなにびっくりさせたか? んな大きな声でもなかったけど……」
「いいえ、なんでもないです!」
咄嗟に誤魔化した。佐田君はツンツン男子なので、そんな佐田君に、ツンツン男子などと言おうものなら、それはもうツンツンするだろう。
例え本当のことでも、言わなくていいことはあるのだ。
というか、それよりも、佐田君がここにいるということはもしかして……、
「佐田君は何故ここに?」
「そりゃ、入部するからに決まってるだろ。さっき、そこで夢崎先生とすれ違ったんだけど、入部届けはマネージャーが管理してるって聞いた……ほら、これ」
そう言って、入部届けを差し出してくる佐田君。
その入部届けをうやうやしく受け取った琴音は、喜ぶよりも先にホッと力が抜けた。
「よかった。部活が始まっても来ないから、サッカー部に入らないんじゃないかって心配しましたよ」
「ああ、確かに、少し遅れたな……いや、でも、色々と相談したり、考える事があって仕方がなかったんだよ」
その言葉を聞いて琴音は、おやっと思った。佐田君が相談、つまり、誰かを頼るとは思っていなかったからだ。
これは琴音だけの印象というより、佐田君の妹の七海ちゃんがそう言っていたからだ。
──兄さんではないですね……誰に相談したんでしょう?
疑問に思ったが、それを聞く前に佐田君が琴音の側を離れていく。
佐田君の動きにつられて、そちらを向くと、着替えを終えた兄さんがこちらに、というか佐田君へと駆け寄ってきた。
「佐田!」
「よう。さっきぶり」
「サッカー部に入るのか⁉︎」
「ああ、入ることにした。これからよろしくな」
その言葉を聞いて兄さんは破顔した。
「こっちの方こそよろしく!」
笑顔の兄さんを見て、こちらまで嬉しくなる。これでやっと、兄さんが天秤に来た甲斐があるというものだ。
──いえ、今はまだスタートライン。これからが大事ですよね。私もマネージャーとして、チームを支えて行かないと。
そう自らに言い聞かせている内にも二人の会話は続いた。
「ところで着替えているってことは、これから練習なのか?」
「ああ。これから今のレギュラーと一年生で試合するんだ」
兄さんが、試合をする目的を説明すると佐田君はにやりと笑った。
「ちょうどいいな。今、俺、すげえサッカーしたい気分なんだ」
やる気満々という気配を見せる佐田君。
そんな佐田君に兄さんは怪訝そうな顔をした。
琴音とて同感だ。違和感が凄い。
不思議に思っていると、
「ねえねえ」
と、沖島先輩から小声で声をかけられた。
先輩は琴音に近寄ると更に小声で尋ねてくる。
「この人が、さっき言っていたツンツン君なんだよね」
「はい」
「でも、聞いた話とずいぶんと違わなくない? 普通にサッカー大好き少年っぽいんだけど?」
「ですよねー……」
先輩の指摘した違和感は琴音も感じていた。はっきり言って、佐田君らしくない。
そして、そのことは兄さんも感じているらしく、至ってストレートに問いかけた。
「さっきの今で、雰囲気、凄い変わったよな?」
「ん? そうか? どんな風に見える?」
「前向きっていうか、迷いが無くなったように見えるよ」
「あー、そうかも……」
佐田君は兄さんの指摘に、心当たりがあるのか、ウンウンと頷いた。
「うん。俺の悩みが綺麗サッパリ消えてるわ」
「悩んでいたのか? 俺に相談してくれれば良かったのに? いったい何を悩んでたんだ?」
「大したことじゃねーよ。サッカーやる上で人付き合い……つーか、チームワークは必要だと思っていたんだが、それが上手く出来るかどうか不安だったんだよ。でも、もう解決した」
つまんねーことで悩んでいたもんだと、頭をかく佐田君を見て、琴音は思わず微笑んだ。
──佐田君。その気持ち。すっごくわかります。
琴音とて昔は引っ込み思案で、人の輪に入って行けなかった時期があったのだ。
けれど、兄さんの助けもあり、勇気を出して踏み込んだことで、人と人が助け合う素晴らしさを身をもって実感出来た。
佐田君も、あの時の琴音のように悩んで、そして今、前に踏み出そうとしているのだろう。
──なら、佐田君の気持ちがわかる私が、ちゃんと手を貸さないと……、
「いや、マジでつまんねーことで悩んでたわ。他人を気にかける余裕も必要も無いのに、一体てめえはどこの聖人君子様だって話だよ。──他人の都合なんてどうでもいい。俺は俺のことだけを考えてりゃ、それで良かったんだ」
──…………えっ?
聞き間違いかと思ったが、兄さんも目を丸くしているから琴音の耳がおかしくなった訳ではないだろう。
それでも信じられずに、佐田君の横顔をまじまじと見つめたが、佐田君は真剣そのものだった。こころなしか晴れ晴れとしているようにすら見える。
「とにかく、今から試合するなら俺もジャージに着替えて参加するわ。高校で俺がどの程度通用するのか知っときたい──じゃあ、とりあえず部長に挨拶だけして、着替えてくるわ」
そう言って、部長の元へ颯爽と歩いていく佐田くん。
残された三人は、しばし無言だったが、やがて沖島先輩がポツリと言った。
「なんか、凄い子が入ってきたね」
どう答えていいのか、琴音には見当もつかなかった。
……。
……。
どうもカロリーゼロです。自分の小説を読んでくれて、ありがとうございます。
因みに、ここから先は本編になんら関係のない呟きなので、興味のない方はスルーして下さい。
実は、少し前にスマホでカンガルーの写真を見ました。
特にカンガルーを見たかった訳でもなく、偶々、目についたんですが、自分は滅茶苦茶びっくりしました。
というのも、自分の中でカンガルーは、こう凄く可愛らしいイメージしかなかったんですが、その画像の中のカンガルーは、それはもうムキムキマッチョマンでした。
「え? これがカンガルー? 嘘だろ⁉︎」
と、叫びたいくらいにムキムキでした。
それで気になって色々と検索したところ、種類にもよりますが、カンガルーという生き物は自分のイメージより遥かに強い生き物だと知りました。
一つ利口になった瞬間でしたが、同時に、カンガルーの強さを語りたくなったので小説を作って見ました。
カンガルーとボクシング!! です。
短編で既に完結しているので、もしよかったら見て、カンガルーの強さを感じ取って下さい。
それでは、失礼します。