8
ムクリ、意識を取り戻した私は起き上がりました。どうやら倒れ、気を失っていたようです。お腹の上に、『銃の歴史』と『銃の図巻』の二冊が乗っかっています。
場所はさっきいた場所、図書館の武器の本がある本棚の近くです。メニューで確認しましたが、特に時間が経っているということもありませんでした。身体に異常はなく、記憶も正常です。
……ええ、正常なんですよ。何が起きたのかばっちり覚えてるんです。出来れば夢であってほしいですが……無理ですよね。現実ですよね。ここVR世界ですけど。とりあえず、ステータスを確認しましょう。
====================
Name:マリス Gender:Female Race:人族
State:殺人症
STR:E
DEF:E
INT:D
MIND:D
AGI:E
DEX:E
LUK:D
Skill:【ナイフLv5】【銃Lv1】【隠すLv5】【目星Lv1】【聞き耳Lv2】【魔術Lv1(移動不可)】【魔導書Lv1(移動不可)】
AlternateSkill:【■■■■■■Lv3(移動不可)】
Equipment:鋼鉄のナイフ(STR) 初心者の銃(DEX) ホワイトブラウス(DEF) シルクスカート(DEF) ニーソックス(AGI) ローファー(AGI) 紅黒のリボン(MIND) 収納付き革ベルト(【収納】) 『AL・AZIF』(MIND INT 装備解除不可)
Title:【Fランク冒険者】【『AL・AZIF』の契約者】【■■■■の福音】
====================
ああ……ステータスが、なんかすごいことになっています。INTとMINDが上昇し、スキルが三つ、装備が一つ、称号が二つ追加されています。
ステータスの変化は……称号の効果ですか。【『AL・AZIF』の契約者】と【■■■■の福音】は、両方ともINT、MINDに補正が入るようです。この見えないところに入る文字が気になりますが、今は分かりそうにありません。
その他の効果としては、【『AL・AZIF』の契約者】は【魔術】と【魔導書】を強制取得させ、その二つを控えスキルに移動させることが出来ない状態にするというモノがありました。
……スキルの取得は嬉しいのですが、強制装着はちょっと遠慮したかったですね。もう手遅れですけど。
スキル【魔術】はそのまま、魔術が使えるようになるスキルですね。今使用できる魔術は、【祝福の刃】、【防害の盾】、【魔力付与】の三種類のようです。詳しい説明を見てみましょう。
===================
【祝福の刃】/【魔術】
MPを任意消費し、刀剣系統の刃を強化する。MP消費量に比例して効果上昇。攻撃の物魔攻撃化、ダメージボーナス(中)。
【防害の盾】/【魔術】
相手の攻撃に対し手をかざすことでその攻撃を強制的に逸らし、無効化する。無効化したダメージ分のMPを消費する。
【魔力付与】/【魔術】
MPを任意消費し、物体に魔力を付与する。MP消費量に比例して効果上昇。武器に使用した際は攻撃の物魔攻撃化、ダメージボーナス(小)。
===================
むっ、これは強力ですね。直接攻撃手段はありませんが、私の攻撃手段を強化できます。
【防害の盾】は攻撃の無効化……これだけ見れば完全にボーナスなんですけどねぇ……。取得方法が不安でしかありません。
【魔導書】はその名の通りです。そして、控えスキルに生えてる情報開示率ゼロの【■■■■■■】。これに至ってはもうどうしようもありません。詳細情報も何一つ読めないですし。
そして、ステータス以外に変化は……ああ、はい。ベルトの部分にいつの間にブックホルダーに収まり、どういうわけか単行本くらいまでサイズダウンした『AL・AZIF』が収まっていますね。
これ、装備解除不可ってありましたけど……、呪いの装備ですかそうですか。
確かに呪われてますよね、人皮で装丁された本とか呪われていてしかるべきだと思います。絶対邪悪なモノが憑りついてますって。
確認したくない……けど、そういうわけにもいかないんですよね……。はぁ、とりあえずこのどこか落ちつける場所に行きますか。この二冊が読めるところにも行きたいですし……。
というわけで、銃関連の二冊を手に、ここを離れましょう。この場所に来るまでに、本を読むためのテーブルが置かれているスペースがいくつか見ましたし、そこでいいでしょう。
そうして歩いていると、ここの職員さんらしき女性NPCに出会いました。……そういえば、『AL・AZIF』ショックで忘れていましたけど、私にこの呪いの装備を渡してきたあの少女。突然消えてしまったあの変わった羽を持つ少女は、ここで働いていると言っていましたね。
……十中八九、あの言葉は嘘だと思いますが、一応確認しておきましょう。女性NPCに話しかけます。
「ねぇ、そこの貴女。ちょっといいかしら?」
「はい、なんでしょうか?」
「この図書館で、十歳くらいの女の子が働いていたりするかしら? こう、ピンクっぽい赤色の髪を二つ結びにした、可愛らしい子なんだけど……背はこのくらいかしら?」
少女の特徴をいい、身長を手で示しながら「どうかしら?」と女性の方を見ます。案の定、女性は怪訝そうな表情を浮かべました。
「女の子……? いえ、この図書館の職員は全員成人していますので、子供はいませんね。そもそも、ここに子供が来ること自体稀ですので……」
「そう……」
「あの……それが何か?」
「いえ、どうやら私の勘違いだったようね。教えてくれてありがとう。呼び留めてしまってごめんなさいね」
「いえ、また何か分からないことがあればお申し付けください」
はい、これであの女の子が普通じゃない存在であることが分かっちゃいましたね。アイデアロールに成功したというわけですか。分かったらヤバめの方の。
しかし、人間の形をしていたということは、人に化けられるナニカなのか、それともこのゲームでは某ニコニコしながら這い寄ってくる銀髪のアホ毛みたいに、ナニカが擬美少女化されているのでしょうか?
ふむ……ピンクっぽい赤色……蝙蝠にも昆虫にも見える羽……アホ毛……『AL・AZIF』…………ッ! …………イヤー、ナンノコトカサッパリデスネェ。ワタシ、ナニモワカラナイナー。
……このゲーム、MMORPGでしたよね? 間違いじゃありませんよね?
はぁ……本を読んだら、一度ログアウトしましょうか。なんというか、とても疲れた気分です。
頭痛がし始めたような気がする頭を押さえながら、私は読書スペースに向かい、そこに置いてあった長机の上に本を置きました。木製の椅子に腰掛け、読書タイムスタートです。
まずは……そうですね、『銃の歴史』から読みましょうか。あっ、【言語学】……無くても読めるんですか、そうですか。
本の内容は、こんな感じでした。
『銃。
この武器の歴史は短い。古神代にも神代にも登場せず、現代になって開発された武器だ。
金属製の筒から金属片を火薬の爆発力で高速で飛ばすという代物であり、開発国である『機工国ジパング』以外ではほとんど使われていない。
この武器は使い手の能力にほとんど依存しない。爆発力による反動に耐えられるだけのSTRがあれば使用することができる。威力も一定であり、銃の性能と弾の材質、火薬の材料によって威力が決定する。また、武器の基礎威力は全武器中で最も高い。
銃による攻撃はすべてが物理攻撃であり、物理攻撃を無効化する敵には効果がない。だが、これには例外が存在し、機工国ジパングに存在する『魔技掛螺狗裏隊』が放つ銃撃は『物魔攻撃』という物理攻撃であり魔法攻撃であるという特殊な攻撃である。
銃には様々な種類があり、その全てが機工国ジパングによって開発されている』
これは……要するに、機工国ジパングという場所に行かなければ銃も銃弾も手に入らないということでしょうね。そして、物理攻撃限定だから、物理無効の敵には効果が無い……と。例外とやらも、その国に行けば分かるのでしょうか?
これは、機工国ジパングのことについても調べなくてはいけませんね。まぁ、それを調べるのは次のログインの時にしておきましょう。
後は……誰が使っても威力が一定。能力に依存せず、武器の性能によって威力が決まってしまう。という部分ですね。
武器の基礎威力が高い、というところだけを見ると銃って強武器じゃね? って思うかもしれませんが、能力に依存しないということは、逆に能力の恩恵を受けることができないというわけなんですよね。
例えば、最弱武器(仮)である木の棒の基礎威力が1だとします。そして、初心者の銃の威力が100だとしますね。
これを、STR1のステータスを持つ者同士が使えば、木の棒は総合威力が2で銃は変わらず100。もちろんのように銃の方が威力が高いです。
ですが、STR100の者同士が使うと、木の棒の威力が101となり、銃はこれまた変わらず100。なんということでしょう、銃での一撃より、木の棒の一撃の方が威力が高くなってしまいました。
これは極端な例ですが、このような欠点が銃にはあります。他にも、銃弾の補充や、リロードなどの問題もあると思いますし……ふむ、やはりジパングに行くのは急務ですね。
それにしても、何ですかね、『魔技掛螺狗裏隊』って。物理攻撃の銃を物魔攻撃に変える手段でも……ん? 物魔攻撃?
それって確か……【祝福の刃】と【魔力付与】で出来るやつですよね? もしかして、銃弾に【魔力付与】を使用すると銃撃が物魔攻撃化したり……あ、あははは。いや、流石にそれはないんじゃないですかね?
……つ、次のログインで試してみることにします。
では、気を取り直して、もう一冊を読みましょう。『銃の図巻』です。
その本の内容は、こんな感じでした。
『銃には、いくつかの種類がある。
1.ハンドガン・オートマチック
片手持ちすることの出来る銃であり、装弾数は7~15発。射程は最大50メートル。連射が出来る種類もある。
2.ハンドガン・リボルバー
片手持ちすることが出来る銃であり、装弾数は7~8発。射程は最大50メートル。威力の高い銃弾を使用することが出来る。
3.スナイパーライフル
両手持ちで長距離を狙撃する銃。単発式であり、装弾数は最大6発。射程は最大1000メートル。
4.アサルトライフル
両手持ちで全自動射撃のできる銃。装弾数は30発。射程は最大500メートル。先に銃剣を付けることが可能。
5.ショットガン
両手持ちで散弾を放つことのできる銃。装弾数は最大7発。射程は最大50メートル。
6.マシンガン
両手持ちで連射性能に優れた銃。装弾数は最大200発。射程は最大700メートル。一定時間使用する度に冷却時間が必要となる。
7.ヒナワ
機工国ジパングにて、王族だけが使用可能な最終兵器。装弾数は1発。銃弾をエネルギーに変換し広範囲を殲滅する。連射は不可。
以上が機工国ジパングにて主に使用されている銃である』
ふむ、わりとリアル基準なんですね。ファンタジー要素はどこに消えたんですか?
いや、最後のヒナワがめっちゃファンタジーですね。リーサルウェポンって書いてあるんですが。そして何をどうすればヒナワが質量をエネルギーに変換する兵器になるんでしょうか?
もしかしなくても、機工国ジパングって日本がモチーフなのでしょうか。名前からしてそうなのではと思いましたが、『ヒナワ』の存在でほぼ確信しましたね。……銃社会な日本ですか。なんだか複雑な感じがします。
《プレイヤー:マリスの銃への理解が深まりました。スキルレベルが+5されます》
二冊目も読み終わり、本を閉じたとき、そんなアナウンスが流れました。ほう、知識を手に入れるだけでもレベルは上がるのですか。まぁ、これも経験に違いはありませんからね。
はぁ、なんだかさらに疲れが増した気がします。『AL・AZIF』は……次のログインの時にしましょう。
では、本を返したらログアウトしましょうか……。
◇◇◇
ログアウトして、現実に戻ってきました。
ヘッドギアを外し、ベッドから起き上がります。うーん、体が凝ってますね。ちょっとストレッチでもしておきましょうか。
凝り固まった体をほぐしていると、机に置いておいたスマホが着信音を鳴らしました。曲は『創〇のアクエ〇オン』。百花ですね。
スマホを手に取り、電話に出ました。スピーカーから、百花の声が流れ出てきます。
『もしもし、わらわわらわ』
「詐欺なら間に合ってます」
わらわわらわ詐欺とか新しいですね。……勿論冗談ですよ? それが分かっているのか、電話越しに百花のカラカラという笑い声が聞こえてきます。
『冗談じゃよ。おぬしの親友、白野百花じゃ』
「はいはい、貴女の親友の千寿ですよ。それで、どうしたんですか?」
『いや、フレンドリストで確認したらおぬしがログアウト状態になっておったのでな。丁度良いし、初日の感想でも聞こうかと思ったのじゃ』
「ああ、そういえば百花のIDは最初から登録されていましたね。すっかり忘れていましたけど」
『おぬし、何気に酷いのぅ……。まぁいいのじゃ、わらわもいろいろ忙しくて、おぬしのことは忘れておったからな』
「じゃあおあいこということで。百花は何をしてたんですか?」
『わらわか? わらわはβの時の仲間とレベリングをしておったよ。おぬしは?』
「えっとですね……」
今日あったことですか。いやもう、ホントいろいろありましたよね。言ったらヤバそうなこと以外は、教えても大丈夫でしょう。それでは……。
「まず、ナンパされたのをスルーして」
『……ふむ』
「そのあとは戦闘を体験するために『旅立ちの草原』に行きました」
『まぁ、打倒じゃな』
「そして、一度町に戻り冒険者ギルドへと向かい」
『ギルドへの登録は必須じゃからのう』
「また同じナンパに絡まれました」
『何やっとるんじゃおぬし』
「で、なんやかんやあってナンパを撃退し、《黒閃の剣帝》さんとフレンドになり」
『待つのじゃ、なんやかんやのところを詳しく説明せい』
「かくかくしかじか」
『なるほどのう……。それは災難じゃったな』
「気を取り直して向かったギルドに登録して、情報収集をし」
『情報を制する者、ゲームを制す……じゃな』
「図書館に行っていろいろ調べものをしようと思ったら、謎の幼女に遭遇」
『おっと、急展開過ぎてついていけないのじゃが』
「幼女から呪いの装備をプレゼント(強制)され」
『ぬぅ?』
「図書館で調べものをしました。イマココ」
『なるほど、分からんのじゃ』
「まぁ、私にも分からないことが多いんですよね。取り合えず、今後の目標としては、銃を手に入れることですね」
『ほぉ……って、おぬし寄りにもよって銃を選びよったのか!?』
「はい。けどご安心を。すでにある程度の目星はついていますので」
『そ、そうじゃったか……。まぁ、おぬしなら大丈夫じゃろ。で、一日目の感想はどうじゃ?』
「そうですねぇ……楽しいし面白かったですが、予想外のことが重なりすぎてちょっと疲れました」
『まぁ、普通一日でここまでイベントに巻き込まれるとは、思わんのじゃ』
「そうですよね……ふわぁ」
百花との通話中ですが、眠くなってきましたね。あくびが漏れてしまいました。想像以上に疲労が溜まっていたようです。意識が朦朧とし始めました。
『本気でお疲れじゃの。そうだのう……最後に、おぬしの命題テーマを教えてくれんかの?』
「私の……命題テーマ?」
『そうじゃ、わらわは無難に『自由に生きる』にしたが……おぬしは?』
「私はですね……ふわぁ……世界滅亡です……」
『…………おん?』
あー、ヤバい。そろそろ意識が落ちそうです。百花には悪いですが、もう通話を切らせてもらいましょう。
「百花……切りますね……」
『……えっ、あっ、ちょお!?』
「さよなら……」
私は通話を終了し、スマホをその辺に放ると、さっきまで寝ていたベッドに舞い戻ります。なんか最後に百花がナニカを言いたげな雰囲気でしたが、まぁいいでしょう。
ベッドの上に横たわった瞬間、強烈な眠気に襲われました。抗うことはできません。
はふぅ……。それでは、おやすみなさい。
………………………………すやぁ。