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初フレンドだやったー。と、嬉しい気持ちでいっぱいな私は、多少浮かれた足取りで冒険者ギルドに向かいます。
イオリはなかなかに面白い人でした。私の新装備への感想を言ったときとか……ふふっ、思わず思い出し笑いをしてしまうくらい面白かったです。ああいう人と仲良くなれる機会はそうそうないですし、この出会いは大切にしたいと思いました。
さて、こうしてただ歩いているだけというのもアレですし……そうだ、ナンパ男の置き土産でも確認しましょうか。銃弾を一つ消費することになりましたし、精神的にもあまり良いとは言えない出来事でしたが、こうしてアイテムを手に入れるためのクエストだったと考えれば割り切れないこともありません。
むしろ、ナンパをあしらっただけでアイテムやお金を大量に手に入れることができたと考えれば、得したと言ってもいいのではないでしょうか? はい、ではそういうことにしておきましょう。あれですね、一つだけDだったLUKのお導きということで。
で、ナンパ男から奪ったアイテムですが……本当に女性用ばかりですね。後はポーション系がいくつかと、魔物の素材もありました。
ホワイトブラウス×1(装備中)
シルクスカート×1(装備中)
ニーソックス×3(装備中)
ローファー×1(装備中)
鋼鉄のナイフ×1(装備中)
紅黒のリボン×2(装備中)
収納付き革ベルト×2
見習い魔法使いのローブ×1
見習い魔法使いの帽子×1
皮の鎧×1
皮の胸当て×1
革のブーツ×3
見習い修道士の法衣×1
鋼鉄の剣×1
見習い魔法使いの杖×1
見習い修道士の短杖×1
ポーション×10
MPポーション×10
お金×200000エリン
魔物の素材各種
お金が一気に二十万。小金持ちになりましたね、私。それにしても、かなり溜め込んでいたようですねあのナンパ男。それもほぼ全部私のモノになったのですが。ざまあみろです。
あと、あのナンパ男は二―ソックスが大好きなご様子。知りたくもない性癖を知ってしまい、ちょっとげんなりしました。
魔物の素材はこれから行く冒険者ギルドで売っぱらってしまいましょう。いやぁ、ナンパ男のおかげでウハウハですね。何に使うかはしっかり考えないと行けませんが……。いやほんと、何に使いましょうか? 二十万。装備は手に入ってしまいましたし……やっぱり、銃を手に入れるために使うべきでしょう。
そうしているうちに、冒険者ギルドに到着しました。結構大きな建物です。石造りの三階建てで、幅が周りの家屋の四倍くらいあります。奥行はよく分かりませんが、そちらもかなりのものでしょう。
両開きの扉を開くと、中の喧噪が耳に届きました。冒険者ギルドはなんというか……とてもうるさい感じのところです。時折怒号が飛び交っていたりします。
入口の正面、ホールのようになっている場所の奥にはカウンターがあり、同じ制服を着た女性が居ました。あそこが受付でしょう。その隣には階段があり、そこから二階に上がれるようになっているようです。これはアレですね。二階は実力と実績のある冒険者しか利用してはいけないとかそんな感じのアレです。
左手の壁には大きなボードが張られており、そこには何枚もの紙が貼られているのが見えました。あれが冒険者ギルドに集められる依頼なのでしょう。ボードの前には大勢の冒険者たちが集まっています。
そして、ホールの右手には酒場らしき場所が。まだ日が高いというのに、酒を飲んでいる人が結構います。うるさいのも大抵この場所です。……でも、出されている料理は結構おいしそうです。後で食べてみましょうか。
では、ここで冒険者ギルドを見た感想を一つ…………めっちゃテンプレやん!
はい、失礼しました。口調が乱れてしまいました。けれど、この冒険者ギルドのなんて模範的なことか。いや、模範的な冒険者ギルドってよく分かりませんけど。
ここまでテンプレだと、『アレ』がありそうですね。そう、『アレ』ですよ。もはや冒険者ギルドときたら必ずあると言ってもいい『アレ』です。冒険者ギルドとは切っても切れない関係……例えるならそう、ハンバーガーとポテトのような関係の『アレ』ですよ! ……まぁ、私、ハンバーガー頼むときは大抵単品何ですけど。
私のハンバーガー事情は置いておいて、『アレ』……つまり、『新人冒険者への先輩冒険者のいちゃもんイベント』! このギルドのテンプレ具合、あってしかるべきだと思いませんか? 私は思いますよ。
ちょっとドキドキしながら、ギルドの受付に向かいます。さぁ、このあたりで誰か絡んできたり……!
「あっ、あの娘だよあの娘。あそこにいる赤髪ツインテのめっちゃ可愛い娘」
「ほーん、あの娘がねぇ……。とてもそうには見えないぞ?」
「ねぇ、本当にあの娘がナンパ野郎を一人で倒して、《黒閃の剣帝》をやりこめたの? 僕にも信じられないんだけど」
「えー! 信じてくれてもいいじゃん! オレがこの目で見たんだよ!?」
「お前の目ほど信じられないモノもないんだけど……けどまぁ、嘘をつく必要もないことだし、本当なんじゃない?」
「うぅう~、お前だけだよ、信じてくれるのは~!」
「うわッ!? お前、くっつくなよ!?」
……おやぁ? なんか私、噂になってません? 酒場で同じテーブルに座っている四人組の男性プレイヤーたちが、私の方を見て何やら言っています。普通なら喧噪に紛れて聞こえないはずが、私の耳にははっきりと聞こえてきています。もしかして、【聞き耳】が働いたのかもしれませんね。
そして、その四人組の話を聞いて、酒場にいた人たちが一斉に私に視線を向けました。……なんか、今まさに私へ絡もうとしていたらしい、ガラの悪い方々もぴたりと足を止めています。
おっと、まさかのイベントキャンセルですよ。これはアレですか。絡まれイベントは二度もいらねぇんだよというKPの策略ですか。ちくせう。
せっかく見事なロールプレイをしてやろうと思っていたのに……。原因となった四人組は、騒ぎつつも視線を私に向けています。向こうは、私に気づかれてるとは思っていないようですね。せっかく私に注目を向けてくれているようですし、一つ笑顔でも送ってみましょうか。にっこり。
「あれ? なんかあの娘、こっち見てない?」
「お前が騒ぐから、こっちの話聞こえてたんじゃないの? あーあ、俺知らないよー。怒らせちゃったんじゃない?」
「まぁ、恐怖対象みたく言われれば、怒るのも無理はないよね」
「こいつがどうなろうとオレは知らねぇが、メシはまだか」
「この人でなし共ぉ! ど、どうしよう……とりあえず謝ってこようかな……」
「それがいいんじゃない? ほら、行っておいでよ」
「えぇー、頼むよクリム付いてきてよー!」
「ちょッ、シアン!?」
おや、四人組のうち、二人がこちらに来るようですね。私の噂をぶちまけた金髪の……なんというか、モテなさそうな青年に、赤茶色で背の小さい少年の二人です。クリムと呼ばれた赤茶色の髪の少年の方は、シアンと呼ばれた青年に引っ張られてきただけですね。
「ほらっ、クリムお願い!」
「なんで!? 変なこと言ったのお前でしょ!? なんで俺が矢面に立ち必要があるの!?」
「だって、オレじゃ上手く話せないし……」
……面白い二人ですねー。残りの二人も、クリムとシアンの二人のことをあきれたような目で見ていました。そして、謝りに来た張本人であるはずのシアンは、クリムの背中に隠れてぐいぐいとクリムを押しています。
「あーもう! お前ってヤツはさぁ! ほら、俺の後ろに隠れるな! ちゃんと前に出て!」
「嫌だー! だってあの娘めっちゃ怖かったもん! こうザクーとしてバーンってやってさ!」
「はぁ? どういうこと……って、押すなっておわッ!?」
とうとう、クリムがシアンの手によって私の目の間に押し出されてしまいました。男性としては小柄な……それでも、私よりは十センチ以上高い彼は、ものすごく気まずそうな顔で私を見ています。
……というか、私もかなり気まずいですよ、この状況。こうやって出てこられて何を言えと? よくもイベント発生のフラグを折ってくれたなこの野郎とでも言えばいいんでしょうか。いえ、そんなことを言うとただの頭のおかしい人になってしまうのでやめておきます。
とりあえず、普通に声をかけてみましょうか。
「ねぇ、貴方。私に何か用かしら?」
私が声をかけると、クリムはビクッと肩を震わせました。……その反応は、若干傷つきますね。
「……えっと、なんというか……なんて言えばいいんでしょうか?」
「いえ、それを私に聞かれても困るのだけれど。……まぁいいわ。私はマリス、そこのシアンって人のいうところの、めっちゃ怖い人よ」
「うぐっ……コイツが失礼なことを言いました。すみません」
ちょっといじわるな言い方をしてみたら、素直で丁寧な謝罪が返ってきました。……特に関係ない人から。ちなみに、失礼な物言いの張本人はクリムの後ろに隠れたままです。
「別に気にしてないから、そんなにかしこまらないでくれるかしら。貴方も大変ね」
「あはは……はい。いやもう、コイツ本当に馬鹿でして……」
「それは見てれば分かるわ」
「ちょっ!? クリムもマリスちゃんもひどくない!?」
「「え? 何か間違ったこと言った(かしら)?」」
図らずも重なった私とクリムの言葉に、シアンが崩れ落ちました。というか、初対面でちゃん付けされるとは思いませんでしたね。なんとなく、人との距離感を考えることが苦手そうですね。別名、モテないタイプと言います。
その後、クリムが「本当にすみませんでした」ともう一度謝り、崩れ落ちているシアンに容赦のない蹴りを入れてから引っ張っていきました。彼はアレですね、面倒見のいい苦労人タイプです。別名、モテるタイプと言います。
まぁ、別に謝ってほしいわけでもなかったので、その場はそれで解決です。私は気にしてないと言ったのですが、クリムが「何かあったら言ってください」とフレンド申請をしてきたので、快く受けておきました。シアン? 無視ですよ無視。
モテないタイプのシアンに、モテるタイプのクリム。ちぐはぐな感じがする二人ですが、言い争いながら去って行く背中からは、二人の親密さがうかがえました。残りの二人と合わせて四人組、仲が良いのでしょうね。
「……腐腐腐、いいわぁ。シア×クリ……いえ、クリ×シアの方かしらぁ……? どっちにしろ興奮が止まらないわぁ……腐腐腐腐腐」
……何やらねっとりとした視線があの二人に向いている気がしますが、私は知りません。ええ、知りませんったら知りませんとも。その沼だけには嵌らないと決めていますから!
今のやり取りで、完全に私のイメージが『男に頭を下げさせる怖い女』で固定されてしまったのか、結局誰も私に絡んできませんでした。イベントフラグは完璧にクラッシュされてしまったようです。がっかり。
まぁ、気を取り直していきましょう。まずは冒険者登録、そして情報収集です。
私は開いている受付に向かい……って、私が向かおうとしている場所から人がいなくなっているのですが。私、そんなに怖いですか? いやまぁ、悪役ロールプレイとしては本望何ですが……とりあえず、モーゼの如く出来上がった道を堂々と進んでおきましょう。胸を張って、不敵な笑みで。受付カウンターに向かいます。
「ねぇ、いいかしら?」
カウンターの前に立ち、そこにいる受付嬢に話しかけます。
「は、はい!」
「冒険者登録をしに来たの。ここで手続きをしてもらえる?」
「わ、分かりましたぁ!」
受付嬢さん―――小麦色のふわふわした髪に、ペタンとした犬耳の獣人族の可愛らしい女性は、とても緊張した……と言うより、怖がっている様子で私の言葉に返事をしました。
ああ、ナンパ男にどれだけ怖がられようとなんとも思いませんが、こんな可愛らしい人に怖がられるのは、少々心に来ます……。
「え、えっと、ではここに名前を入力していただけますか?」
そう受付嬢さんが言うと、私の目の前にウィンドウが表れました。名前を入力する欄と、完了ボタンだけの簡素なモノです。
入力欄をタップし、あらわれたキーボードで『Malice』と打ち込み、完了を押します。ウィンドウは消えました。
「マリスさん、ですか。……はい、登録が完了しました。一度、ステータスを確認していただけますか?」
そう言われたので、ステータスを開きます。何か変わったところがあるのでしょうか……?
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Name:マリス Gender:Female Race:人族
State:殺人症
STR:E
DEF:E
INT:E
MIND:E+
AGI:E
DEX:E
LUK:D
Skill:【ナイフLv5】【銃Lv1】【隠すLv5】【目星Lv1】【聞き耳Lv2】
Equipment:鋼鉄のナイフ(STR) 初心者の銃(DEX) ホワイトブラウス(DEF) シルクスカート(DEF) 二―ソックス(AGI) ローファー(AGI) 紅黒のリボン(MIND) 収納付き革ベルト(【収納】)
Title:【Fランク冒険者】
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あ、Titleという項目が増えてますね。これは……称号ですか。
「ステータスに称号欄があることは確認できましたでしょうか? そこに【Fランク冒険者】の称号がありましたら、ギルドへの登録は完了です」
「ええ、あったわよ」
「では、これよりマリス様は冒険者ギルドの一員となりました。Sランク冒険者目指して頑張ってくださいね」
そういって、ニパッと微笑む受付嬢さん。とっても可愛くて、癒しに癒されました。
さて、これで冒険者登録が終わりました。次は……情報収集ですね。