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よし、更新更新っと
「はぁ……その呼び方、ほんとに恥ずかしいんだからな?」
私に鋭くツッコミを入れたイオリは、ため息を吐き、がっくりと肩を落としながらそう言いました。《黒閃の剣帝》、普通にカッコいいと思うんですけどねぇ。
さて、何故イオリがここにいるのかも、何の目的で声を掛けてきたのかは分かりませんが、これはチャンスです。彼の乱入により、衛兵さんの注意が若干逸れています。
この機会を逃すわけにはいきません……! まずは、イオリに話掛けて、衛兵さんのヘイトをそっちに向けましょう。
さぁ、イオリ。私の盾になるのです!
そんなゲッスいことを考えながら、私はイオリに微笑みかけました。
「ごめんなさい、とっさに出たのがそっちだったのよ。今度からはちゃぁんと、イ・オ・リ、って呼んであげるわ。ふふっ、そうよね。こんなに可愛らしい名前があるのだもの。そっちで呼ばなくちゃ」
「可愛いと呼ばれるのもそれはそれで嫌なんだが……? ……ところで、俺のさっきの質問に答えてもらいたいんだが?」
と、イオリは私と……衛兵さんの方に視線を向けてそう言いました。衛兵さんの反応を伺ってみると……おや、目を見開いて驚いていますね。
この感じから察するに……衛兵さんは、イオリのことを知っている?
ふむ、イオリがプレイヤーの間で有名なのは知っていましたが、もしかしてNPCからの周知具合も高かったりするんですかね?
それとも、この衛兵さんと個人的に友好があるだけ……はっ!
「イオリ……」
「ん、どうかしたのか、マリス?」
「もしかして、すでに衛兵さんのお世話になるようなことをしてしまったの?」
「……はい?」
「可愛い顔をして、なかなかやんちゃなのね……少しびっくりだわ」
「いやいやいや!? なんでそうなる!?」
「だって、この衛兵さんと顔見知りっぽい反応をするものだから。衛兵さんと知り合いになる機会なんてそうないし、その中で最も可能性が高いのが何かって考えたら……ねぇ?」
「ねぇ! じゃなぁああああああああああい!! 俺は何にもしてねーよ!!」
必死にそう主張するイオリは、衛兵さんに縋るような視線を向けました。
「おい、アラン! 俺は衛兵にしょっ引かれるようなことしてないよな! なぁ!」
「それはもちろん。というより、《始まりの街の英雄》たるイオリ様が、そのようなことをなさるはずがありませんから」
「うぐっ……そ、その称号は止めてくれって言っただろ? あと、イオリ様じゃなくて、イオリでいいってあれほど……」
「そういうわけにはいきませんよ。イオリ様は私たちの……この街の大恩人なのですから」
「別に、あの時は俺だけが頑張ったわけじゃないだろ? 俺だけを変に持ち上げるのは止めてくれよ」
衛兵さん――アランさんは、イオリへの敬意がありありとうかがえる声色で、自信満々にそう言い放ちました。
彼の視線は、さっきまで私に向けていた警戒たっぷりなモノから、まるで憧れのヒーローと対面した子供のように輝くモノに変わっていました。
イオリも、ぽりぽりと頬を掻きながら、恥ずかしそうに……それでいて、まんざらでもなさそうな顔で言葉を返しています。
こちらはあれですね。褒められることを素直に受け入れられない思春期特有の反応でしょう。
知り合いだとは思っていましたが、まさかここまで仲が良いとは予想外です。純朴そうなイケメンと女顔の美少年……アリだと思います。いえ、何がとは言いませんが。
それにしても、《始まりの街の英雄》、ですか。また意味深な言葉が出てきましたね。
そんな風に思考を巡らせていると、イオリがほっとした表情を浮かべた後、どうだと言わんばかりの表情でこちらを見てきます。……なんだかイラっとしますね。
よし、なんでも言ってきなさい。全力でからかって、絶対に赤面させてやります。
「どうだマリス、これで分かっただろ? 俺は犯罪者じゃないっ!」
「そうみたいね。ごめんなさい、私が間違っていたわ……英雄様?」
「なっ……!」
「あら、どうしたのかしら英雄様。《始まりの街の英雄》なんてカッコいい称号持っていたことを黙っていた英雄様? それにしても、《黒閃の剣帝》以外にもう一つ称号を持っているなんて凄いわね、さすがは英雄様だわ」
「や、やめろぉおおおおおおおお! それ以上は言うなぁあああああああああっ!!」
真っ赤になった顔を押さえて、ぐぎぎ……と身体を捻っているイオリ。
やっぱり、《黒閃の剣帝》とか《始まりの街の英雄》とか、称号で呼ばれるのが恥ずかしいみたいですね。私はカッコいいと思うのですが、普通はそうは思わないんですかね?
まぁいいです。赤面するイオリが大変可愛らしいので、もうちょっといじり倒してやりましょう。
英雄様英雄様、いったいぜったいどんなことをして英雄様と呼ばれるようになったんですか? 私、是非とも英雄様の口からきいてみたいなぁ?
ほらっ、武勇伝は秘するよりも語ってこそですよ。え? イキってるみたいで気が引ける? やだなぁ、私はそんなこと気にしませんよ。英雄様の、ちょっといいとこ見てみたいっ! きゃ~~~!
うーん、強情ですねぇ。そうだ、アランさんに聞いてみましょう。アランさんアランさん、こちらにおわす英雄様はどんな偉業を果たされたんですか?
……ふむふむ、なるほど。始まりの街を魔物の群れが襲った事件で、数多の魔物を屠ったり、絶望に暮れる衛兵たちを力強い言葉で鼓舞したり、挙句の果てには黒幕だった『邪悪なるモノ』を一対一で倒した?
わぁ、すっごい。まるで物語の主人公のようですね。かっこいいじゃないですか! 素晴らしいことをしたんですねぇ、イオリ……いえ、英雄様?
と、にっこり笑顔をイオリに向けました。すると彼は、顔だけでなく首辺りまで真っ赤に染め上げると、天を仰ぎながら、あらんかぎりの力を込めて。
「うがぁああああああああああああ!! やぁーーーーーめーーーーーーろーーーーーーー!!??」
そう、羞恥の感情を叫び上げました。わぁい、面白い反応をしてくれますねぇ、イオリは。
さて……イオリをからかっているうちに、アランさんからの視線もだいぶ和らぎましたね。この隙にこの場を離れてしまいましょう。
私は未だに羞恥に悶え苦しんでいるイオリの側によると、彼の腕に身を寄せました。イオリが「なぁ!?」と驚いているのを無視して、アランさんへ微笑みかけます。
「ねぇ、衛兵さん。私、この後イオリと一緒に出掛けるところがあるのだけれど、もう行ってもいいかしら?」
いけしゃあしゃあとそんなことをのたまう私に、イオリが無言で口をパクパクさせています。驚きすぎて声が出なくなっちゃったんですかね?
そんなイオリの様子を照れているだけと判断したのか、アランさんは先ほどとは打って変わったにこやかな表情をしていました。
「イオリ様のお知り合いの方でしたか。ならば私の勘は外れていたんでしょう。先程までの御無礼、どうかお許しください」
「謝ってもらわなくても結構よ。あなたはただ職務を全うしただけなのだから」
「あはは、そう言ってもらえると幸いです。……では、私は失礼しますね。後は、お若いお二人で……と、言うべきでしょうか?」
「ふふっ、ご想像にお任せします。……と、言っておくわ」
あはは、うふふ、と笑顔で言葉を交わす私とアランさん。
ふぅ、イオリを出しにすることで、なんとかこの場は切り抜けそうですね。良かったです。いやぁ、一時はどうなるかと思いましたよ。
そう、私が内心で胸をなでおろしていると、私の側を通り過ぎていこうとしたアランさんが、耳元で何かを囁きました。
「(あなたがイオリ様のお知り合いであるというのは間違いないようですが……)」
イオリには聞こえない程度の声量で告げられる言葉には――背筋が凍えそうになるほどの、殺気が込められていました。
ちらりと覗き見た彼の瞳。そこには友好的な感情など欠片も込められておらず、冷徹な殺意が渦巻いています。
おやぁ……? もしかしてこれ……誤魔化せてないですか?
「(もし、あなたがイオリ様を騙しているのだとしたら、僕はあなたを許さない……!!)」
アランさんは最後にそう言い残し、そのまま去っていきました。
その背中をそっと見つめていると、私の中に、ある一つの確信が生まれました。
――――彼とは、何処かで戦うことになる。
――――そしてそれは……そう遠くない未来で起こる出来事だと……。
……ふっふっふ、上等です。
覚悟しなさい、アラン。
私の道に立ちふさがるというのなら、どんな相手だろうと――――殺してやります。
「あ、あの……マリスー? う、腕をはなして欲しいんだが……?」
私は、顔を赤くしてカチカチに固まっているイオリのことを忘れ、私は固く決意を固めるのでした。
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