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更新だ……! なんかサクッと書けたから更新だ……!
《プレイヤー:マリスはこれまでの経験によりスキル【隠れる】を習得しました》
こそこそ、こそこそ。森の中をふらふらと進んでいく盗賊Aさんの後ろを、気取られないようについていく私です。
スニーキングミッション! 気分はどこぞの蛇さん。段ボールがあれば完璧でした。アレさえあればどんな厳重な警備もくぐり抜けられるというのに……。
盗賊Aさんに『呪い(笑)』をかけた後、盗賊団『深緑の餓狼』の拠点の位置を確認するべく、彼を追っているというわけです。こうしてこそこそすることでスキルも手に入ったようですし、いい傾向です。
ちなみに、『呪い(笑)』ですが、『私の言うことを効かないと死ぬ。命令を実行しなかったら死ぬ。命令をこなすと解除される』と盗賊Aさんには説明してあります。
なお、与えた命令は『盗賊団を行動不能にすること』。そのための手段やらなんやらは伝えてあります。
まぁ、呪い云々は全部嘘ですけど。恐怖で頭がおかしくなっていた盗賊Aさんはものの見事に信じていました。滑稽ですね。
さて、そんなことより。どうやら盗賊Aさんが拠点に到着したようです。
彼らの拠点は、高い木々に囲まれた広場のような場所でした。結構な広さがあります。
木々が密集しているので、周りから視認することは難しいですね。拠点に続く道も、獣道以下の非常に分かりづらいモノでした。
なので私は、盗賊Aさんをスニーキングしたことで手に入れたスキル【隠れる】を使いながらそこらへんの木に登ります。
私の赤い髪の毛はかなり目立つのですが、葉っぱが生い茂っているおかげで周りから私の姿は見えないでしょう。
盗賊Aさんが快く(尋問、拷問の末に)教えてくれた情報によると、ここの盗賊団は見張りを除いた団員全員で夕食を取るそうです。その時間帯なら、拠点の探索も容易でしょう。
……それにしても、一緒に夕食て。仲良しですか? 盗賊団の癖に、何ですかねその強固な仲間意識。盗賊Aさんがなかなか屈してくれなかったのも、その辺に理由があるのではないでしょうか?
まぁ、関係ありませんけど。最終的に裏切ってますからね、これまで積み上げてきた仲間との絆? 情? そう言ったモノはすでに盗賊Aさんの中にはありません。
私が、全部ぶっ壊しました。
「……ふふっ、さぁて。どうなるかしらね?」
太い幹に腰かけた私は、そう言って意味深にほほ笑みます。
はたして、盗賊Aさんはこのまま盗賊団を裏切ってしまうのか。はたまた、私に対する恐怖を乗り越え、ぶっ壊れた仲間との絆を取り戻すことが出来るのか。
お手並み拝見、と行きましょうか。
◇◇◇
《プレイヤー:マリスは魔術【精神の鋭敏化】を習得した》
《これまでの経験によりスキル【■■■■■■】のレベルが上がった》
木の上で、盗賊たちの夕飯の時間になるまで【隠れる】を続けていた私は、頭の中に響いたアナウンスを合図に、大きな書物――『AL・AZIF』を閉じました。
もう空は茜色で、森の中は木々の影が藍色の世界を作り出しています。もう少しで、完全な闇の世界が訪れることでしょう。
私は、『AL・AZIF』の表紙をさっと人撫でし、腰のブックホルダーに戻しました。
あの引き込まれるような感覚を覚えながら、何の言語で書かれているのか分からない、だけど、とてつもなく悍ましく、恐ろしいモノだということだけは分かる文章を読むこと一ページ。新しい魔術を覚えることに成功しました。
なんというか、疲れましたね。読み始めたら半強制的に一ページ分が頭に注ぎ込まれますから、休憩も一切なしでした。
「ちょっと時間空いたから読もうかしら?」なんて軽いノリで行うんじゃありませんでした。まったく、読み始める前の私ときたら……。
けどまぁ、時間も潰せて新しい魔術も覚えられて。結果オーライだと思うことにしましょう。それに、そろそろ盗賊団の拠点を探索するお時間です。
……ああ、そうだ。森に入ってから一度も確認していなかったステータスを見ておきましょう。結構な数の敵を倒しましたし、何かしらの変化があるでしょう。
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Name:マリス Gender:Female Race:人族
State:殺人症
STR:D-
DEF:E+
INT:D+
MIND:D+
AGI:D
DEX:D
LUK:D
Skill:【ナイフLv23】【銃Lv6】【隠すLv13】【目星Lv6】【聞き耳Lv7】【魔術Lv17(移動不可)】【魔導書Lv11(移動不可)】【蹴りLv17】【挑発Lv5】【不意打ちLv3】【隠れるLv7】
AlternateSkill:【■■■■■■Lv8(移動不可)】
Equipment:鋼鉄のナイフ(STR) 初心者の銃(DEX) ホワイトブラウス(DEF) シルクスカート(DEF) ニーソックス(AGI) 革のブーツ(AGI) 紅黒のリボン(MIND) 収納付き革ベルト(【収納】) 『AL・AZIF』(MIND INT 装備解除不可)
Title:【Fランク冒険者】【『AL・AZIF』の契約者】【■■■■の福音】
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おっ、ステータスが軒並み上がっていますね。スキルの方もいい感じに育っています。
……ただ、こうして見るとスキル構成が謎ですね、私。前衛とも後衛とも言えませんし……しいて言うならば、魔術系暗殺特化型……でしょうか?
まぁ、悪役っぽいスキルがそろってきているので満足です。これ以外に手に入れるとしたら……【医学】とか【薬学】? 医者ってなんか黒幕なイメージがあります。
それはさておき、そろそろ時間です。上手くいっていれば、盗賊たちは全員夢の中でしょう。
上手くいっていなければ……まぁ、その時はその時です。正直、賭けではありますが、決して分の悪いモノだとは思っていません。
それに、盗賊Aさんが恐怖から抜け出していて、盗賊団全員とドンパチすることになったとしても、ただでやられるつもりはありません。最後の最後まで足掻いて、一人でも多く地獄への道連れにしてやりましょう。
そんな感じに意気込んだ私ですが、それは見事に空回り。盗賊団の拠点からは物音一つ聞こえてきません。どうやら盗賊Aさんが上手くやったみたいです。
残っているのは見張りをしている盗賊さんが一人。私は木の枝を伝って見張りさんに一番近い木の上まで移動しました。
私の大体真下で、見張りさんは大きなあくびをしています。……のんきなモノです。今まさに、自分の命が危機に瀕しているというのに。
まぁ、油断しているのなら、それを最大限に利用させてもらうだけです。
「あー……今頃お頭たちは一杯やってんだろうなぁ……チクショウ、さっさと交代の時間になんねぇかなぁ……」
そんなことをぼやいている彼の背後に、【隠れる】を使った状態で飛び降ります。
【隠れる】は自分の姿を隠すだけのスキルなので、着地の音は隠せません。なので……。
「あん? なんの音……」
とまぁ、こんな風に無防備に振り向いてくれます。私は着地と同時にしゃがんで体勢を低くしていますので、見張りさんの視界には入っていません。
つまり、【不意打ち】し放題♪ ナイフの切っ先を見張りさんの首に向けて、曲げていた膝を元に戻す勢いをのせて突き出します。
「ガッ!? ……ァ」
急所&【不意打ち】で見張りさんはあっさりと死亡。全身を弛緩させてドサリと倒れました。
なんともまぁ、あっけないモノです。
けれど、これで私の邪魔をするものは何も亡くなりました。レッツ探索タイムです。
盗賊団『深緑の餓狼』の拠点には、五つの天幕が円を描くように置かれていました。一番奥に見える、一番大きな天幕からは光が漏れていたので、あそこが夕食会場なのでしょう。
残るは、左右に二つずつ。同じくらいの大きさのものが並んでいます。……手前から見ていきましょうか。
右側手前の天幕。ここは住居スペースだったようです。目ぼしいモノは特にありませんでした。精々、何かの鍵とお金がいくらか置いてあったくらいでしょう。根こそぎもらっておきました。
左側手前の天幕。ここは食料庫のようでした。肉や野菜、酒や甘味などの嗜好品の類までありました。……まさかの甘味ゲットですよ。クッキーみたいな感じのヤツで、試しに一つ食べてみると素朴な甘みが口に広がりました。当然、根こそぎです。
右側奥の天幕。ここは武器庫でした。剣やら槍やら、多種多様の武器が並んでいます。盗賊団でこんなに使うのかな? と疑問に思いましたが、そういえば商人を襲ったりもしていましたね、この盗賊団。きっとそこで奪ったものなのでしょう。見た感じ、今私が使っている装備よりも上等そうなのがありますし、これも根こそぎですね。
最後、左側奥の天幕。ここだけ鍵がかかっていました。
……鍵、さっき拾いましたね。そういえばこの鍵を手に入れた部屋は、他の部屋よりも広かったような……? まぁ、いいです。使ってみましょう。
『ガチャリ』
随分とあっさり空いてしまいましたね……うーん、いざ探索と意気込んでみたはいいですが、蓋を開けてみればこんなもんですか。ヌルゲーもいいところです。
少しだけ釈然としないモノを感じつつ、最後の天幕に足を踏み入れました。
「おぉ……!」
そこにあったのは、分かりやすいほどの『お宝』の数々。
金銀財宝、魔法付与された装備品、アクセサリー。さらにはポーション類まで。金目のモノを適当に放り込んだという感じでした。
この世界の市場にあまり詳しくないので何とも言えませんが……まぁ、最低でも小金持ちくらいにはなれそうな予感がします。
これも根こそぎ……とするのは当然ですが、その前にどんなものがあるのか見てみましょうか。幸いなことに、時間はまだありそうですし。
「どれどれ……ふふっ、何から見ようかなっ」
お宝を前にして、私のテンションも鰻登りです。こんなにいっぱい貯め込んでいた盗賊たちには感謝しないといけませんね。
……なんか、『お前のために貯め込んでおいたわけじゃない』って文句が聞こえてきそうな気がしますけど、気のせいですよね。
それに、どうせこのお宝たちの持ち主は、すぐに宝のことも何もかも、考えることが出来なくなりますから。それなら、私が貰ってあげた方がいいでしょう?
「あっ……これは使えるわね。こっちも役に立ちそう。こんなところで眠らせておくのが勿体ないアイテムばかり……ちゃんと私が有効活用してあげるわ♪」
『宝の持ち腐れ』にならないようにしてあげる私、優しい……優しくないですか?
手癖の悪いマリスちゃんカワイイヤッター




