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はふぅ……よく寝ましたね。おはようございます。二時間くらい寝てましたね。時間は……そろそろ夕食の時間ですね。冷蔵庫の中身を見て適当に決めましょうか。
夕食は、残り物のカレーになりました。以上。
さてさて、それでは二度目のログインと行きましょうか。また図書館に行って情報収集です。機工国ジパングのことを調べるのは必須。後は……そうですね、『銃の歴史』に書いてあった古神代と神代という単語が気になりましたし、それも調べてみましょうか。そのあとは……まぁ、時間があれば、情報屋さんの方にも行ってみましょう。
というわけで、ログインです。
◇◇◇
ログインしました。場所は図書館の近くにあった宿屋です。
『神話世界の探求者』では、町では宿屋、外ではテントを使用しなければ安全にログアウトすることが出来ません。ログアウト自体はできるのですが、十分間その場にアバターが残り続け、その間は無防備になってしまいます。
さて、ログインしましたし、一応ステータスを確認しておきましょう。……【銃】のレベルが5になっている以外に変化はありませんかね? ……いえ、殺人症が発症状態になってますね。GTが次の日になったってことですね。また誰か殺さないと(サイコパス感)。
この殺人症、結構めんどくさいですね。最悪、その辺の一般人をコロコロすればいいんですが……。実力は未熟、情報は不足、装備もロクに整っていないこの状況で、誰かに狙われる立場になるのは避けたいですね。今のところは、殺しても問題のない輩をコロコロすることにしましょう。盗賊とか犯罪者とか、そういう輩ならモーマンタイでしょうし。殺していい輩の情報は、情報屋さんに会いに行くときに一緒に買いましょうか。
では、もう一度図書館に行きます。
図書館に入り、同じように1000エリンを払います。そして、受付の司書さんに国について情報が載っている本のある場所と、古神代、神代のことが載っている本の場所を聞きました。都合の良いことに、二つの本は近い場所にあるそうです。
さっそくそれがある本棚に向かいました。今度は一階の東側に位置する場所でした。その区間に向かい、本を探し始めたのですが……あれ? あれれ? 三十分ほど探しても、お目当ての本は見つかりませんでした。うーん? 誰かがすでに読んでいるのか、単に見落としているのか……。
あっ、そうだ。こういう時こそ【目星】の出番じゃないですか? もの探しと言ったら【目星】。これ、基本です。
というわけで、本棚に向かって【目星】を発動します。……おっ、成功したようですね。本棚の一部が光って見えます。かなり隅っこの方なので、見落としたんでしょうね。そして、今度は手の届く高さでした。良かったです。
これから、探し物の時は【目星】必ず使うようにしましょう。絶対成功するかどうかは分かりませんが、探し物がぐっと楽になるに違いありません。
【目星】によって見つけた本のタイトルは、『機工国ジパングの歴史』です。……なんというか、シンプルこそすべてみたいなタイトルの付け方ですね。もうちょっとかっこいい感じでネーミングしたらいかがですか? ……まぁ、歴史書にそんなカッコイイ名前つけてどうするんだって感じですが。
もう一冊は……こちらはやけにあっさり見つかりましたね。五分もかかりませんでしたよ。タイトルは『古神代と神代』。はいはい、シンプルイズベストシンプルイズベスト。
二冊をもって、読書スペースに移動。さぁ、読書開始です。まずは『機工国ジパングの歴史』から行きましょうか。
『機工国ジパングは、現代になってから誕生した国であり、この世界の中でもっとも異端な国である。
このパンゲア大陸の東の最果てに位置し、他国との国境線に巨大な壁を築いている。この巨壁の守りはまさに鉄壁と言うべきモノであり、過去、この国に攻め込もうとした国がこの巨壁の破壊を試みたことがあったが、その尽くが失敗している。
自国で食料と資源をすべて賄っており、他国との交流は皆無に等しい。そのため、情報がほとんど出回ってこない。例外を除いて、他国の人物がこの国に入ることは不可能である。
この国は大陸にある他の国すべてと敵対していると言ってもいい。なぜなら、この国は他国の信仰する神の存在すべてを否定しているのである。そのためこの国は『神敵国』や『冒涜の国』と呼ばれている。
そんな国がいまだに滅ぼされていないのは、一重に巨壁の防護力に加え、『銃』や『砲』と呼ばれる兵器の数々の存在である。既存の武器や魔法とは比べモノにならない射程と攻撃速度を誇るそれらの前に、他国の軍隊はなすすべもなく敗れ去ったという。
また、この国の王族である『ダイロクテン』王家だけが使える防国天装『ヒナワ』は、全防国天装の中で最大の破壊力を有す』
……これ、無理ゲーじゃありませんか? 東の果てにある超閉鎖的な国にどうやってたどり着けって言うんですか。普通に考えたら無理に決まってます。まぁ、メタ的に考えれば、何か抜け道があるのでしょう。
それにしてもジパング、他国の神サマ全否定とか中々に思い切ったことをしますね。『神話世界』と銘打っているゲームにあるまじき存在です。そりゃ神敵だの冒涜だの言われますよ。使っている武器も近代兵器ですし。
そして、王族の家名は『ダイロクテン』ですか。分かりやすくて結構ですね。確かにこの人なら神サマ大っ嫌いですし、武器もヒナワですよ。炎属性の攻撃とかに弱そうです。
では、次に行きましょう。
『古神代、神代について。
古神代とは、この世界を創造した旧き神々が存在し、その敵対者である異端なる神々がいた時代である。
創世記によれば、旧き神々がこの世界を創造した時に同時に生まれた存在が異端なる神々であったという。絶望と破滅、邪悪と混沌。異端なる神々はそのような存在であり、旧き神々と敵対していた。
旧き神々と異端なる神は互いに争い、最終的には旧き神々が勝利した。異端なる神々の王を封印し、他の異端なる神々も同じように封じられた。
だが、その戦いによって旧き神々も深く傷つき、世界の管理が危うくなるほどに力を大きく落とした。そのため、旧き神々は自らに変わって世界の管理を行う存在を創り出した。
この旧き神々によって生み出された存在によって世界の管理が行われた時代が神代である。また、この時代に魔法が生まれた。
そして、旧き神々によって生み出された存在――神によって世界は管理されていたが、何らかの原因で一度世界が滅亡一歩手前まで滅んでしまう。
その出来事を『ラグナロク』と言い、それが起きた後の時代を現代という。現代に入った今でも、神による管理は続いている』
……まぁ、簡単にまとめるとこんな感じですね。古い神様が世界を作り、それが敵対者の神様との戦いで弱ったので、新しい神様を作って、今の世界はその新しい神様が管理している、と。
そして、この世界は少なくとも二度は滅び掛けているってことですね。そして、私が三度目になる……と。ふっふっふ、腕が鳴ります。
「ふぅ……んっ」
『古神代と神代』を閉じ、机の上に置いた私は、大きく伸びをしました。ずっと同じ体制で本を読んでいたので、少し肩が凝りました。
この本を読んでふと思いついたことがあります。というか、考え自体はゲーム開始当初からありましたけど、確証が持てなかった事です。それが今、ほぼ確証に変わりました。
それは、私がこの世界を滅ぼす方法です。
世界を滅ぼす。言うだけなら簡単ですが、実行するのは困難とかいうレベルではありません。個人でどうこうなるものでもありませんし。核の雨を降らせるとかそーいうレベルの話です。
人を一人残らず殺せばいいのか、文明を破壊すればいいのか、大陸を蒸発させればいいのか、星を粉砕すればいいのか。というか、普通に考えたらそんなの不可能ですし、どうやったらいいのか見当もつきません。
しかし、私の考えが正しければ、もしかしたら私一人でも世界を滅ぼすことが出来るかもしれないのです。
私の考え。それは、世界を滅ぼすことのできる存在を、召喚すること。
そして、私は世界を滅ぼすことが出来、なおかつ私が召喚できそうな存在に心当たりがあります。
神話世界というこのゲームのタイトル。
【目星】、【聞き耳】、【隠す】といったスキル。
図書館で出会った謎の少女。
『AL・AZIF』。
魔術。
旧き神々。
異端なる神々。
これらの要素から導き出されるのは、もっとも新しく、もっとも異質な一つの神話。
其の名を、クトゥルフ神話といいます。
宇宙から飛来する恐怖。正常を冒涜する不浄の者ども。ただそこに存在するだけで狂気が蔓延り、人の世は荒廃する。その恐ろしさと悍ましさから『宇宙的恐怖』と呼ばれることもあります。
このゲームのタイトルにある神話世界。これはつまり、この世界は既存の神話をベースに造られたモノであるということを示しているのではないでしょうか? そして、その中にクトゥルフ神話が組み込まれていても何もおかしくありません。
例えば、私の手に入れた魔導書『AL・AZIF』。これは、『ネクロノミコン』という名前の魔導書の原典であるとされています。『ネクロノミコン』はクトゥルフ神話に置いて、もっとも有名で、もっとも邪悪な魔導書とされています。
特に、とある神格に関係しているといわれているのですが……。私にこれを渡した少女の正体から考えても……。いえ、やめておきましょう。嫌な予感しかしません。
気を取り直して……。古神代に世界を作ったとされる旧き神々。これは、クトゥルフ神話に登場する、『THE ELDER GODS』……旧神のことなんじゃないでしょうか。そして、それと敵対していたとされる異端の神々は、『THE OUTER GODS』のことでしょう。
そして、クトゥルフ神話の神々の中で、世界を滅ぼすことのできるほどの力を持つ存在かみと言えば……。
「――――――アザトース」
静かな図書館に、私のつぶやきが響きました。
アザトース。
それは、『白痴の魔王』と呼ばれる、クトゥルフ神話において最高位の神格。外なる神の王にして、宇宙の始まりより存在せし万物の根源。世界はこの神が見ている夢であり、彼が起きると、世界は泡沫のように消え去ると言われているとんでもない存在です。
そう、この神を召喚することが出来れば、私は命題テーマを達成できたといえるのではないでしょうか。そんなことが出来るかどうかは置いといて。
《プレイヤー:マリスは【■■■■■■】に関する深い知識を得た。スキルレベルに+3されます》
ふぅ……どうやら、私の考えは間違っていなかったようですね。良かったです。さぁ、これで私のやることがはっきりしましたよ。【■■■■■■】が不穏過ぎて少し怖いですが、立ち止まるわけにはいきません。
この世界を滅ぼす。私マリスは、そのためにここにいるのですから。
「……とは言ったものの、困難なことには変わりないのよねぇ」
方法は分かりましたが、それを実行するのは至難の業。それに、この『古神代と神代』を読む限り、今の世界の管理者である『神』は、異端なる神々と敵対しています。
そんな、敵対している神を召喚するような真似を、神が許すでしょうか? 考えるまでもなくNOですね。ありとあらゆる手段を使って妨害してくるでしょう。そして、私の行動が国とかにバレたら、そっちからの妨害もありそうですね。はぁ、他国の情報も集めなくてはいけませんね。
結局、世界中を敵に回すことになるわけですね。ジパングと一緒ですね。案外、この国とは仲良くやっていけるかもしれません。『ダイロクテン』さんたちとも友達になれたり? あはは、流石にそれはありえませんか。
さて、到達点が見えたところで、私が今後やらなくてはいけないことを上げていきましょう。
まずは、強くなること。
世界中を敵に回すような存在が、あっさりやられるような雑魚では恰好が付きませんし、自分の身を守ることもできなくなります。ステータスやスキルを鍛えるのは、前提条件のようなモノでしょう。
次いで、情報収集。
アザトースの召喚方法は無論のこと、各国の戦力や神の情報。旧神はどうしているのか。調べることはたくさんあります。情報を制する者が、世界を制すのですよ。間違いないです。
そして、戦力の確保。
世界を破壊する。そんな大それた目的を、私一人の力でどうにかするのは不可能というモノでしょう。アザトースの召喚なら一人でもできるかもしれませんが、そこにたどり着くためには他者の力が必要になってくるに違いありません。この戦力は、できる限りこの世界の住人がいいですね。プレイヤーを仲間に引き入れるのは、メリット以上にデメリットが大きいですから。例えば、あの謎の少女とか……。
あとはまぁ、お金とか武器とかそういったモノですかね? ああ、『AL・AZIF』以外の魔導書を集めてみるというのもありかもしれません。
さて、まだまだ気になる情報は多くありますが、そろそろ情報屋さんのところに向かいましょうか。
ピロリン♪
図書館を出たところで、軽快な音が頭の中に響きました。これは……チャットですかね?
お相手は……フラン? えっと、誰です? フレンドリストの先頭に名前があるんですけど、身に覚えが……って、ああ! 百花ですか! こっちでの名前を聞いてなかったので、誰なのかわかりませんでした。
チャット画面を開き、『受信』を選択。画面が切り替わり、百花――いえ、フランの顔が映し出されました。フランのアバターは……白髪紅眼で……おっ、ケモミミが見えます。獣人でしょうか?
『もしもし、わらわわらわ』
「だから、詐欺なら間に合ってるわよ」
デジャヴ感のあるやり取りでしたね。私があきれ顔を向けると、フランは驚いたように目を見開きました。けれど、すぐに何かに納得するように頷くと、ふわりと微笑みました。
『おお、それがこの世界でのおぬしか。えっと……マリスよ』
「全く、こちらでの名前を聞いてなかったから、一瞬誰か分からなかったわよ?」
『……おぬしが本当に朱音か不安になってくるのぅ。変わりすぎてて怖いわ』
「こら、ルール違反よそれは」
『すまんすまん』
「はぁ、まったく……。それで、一体何のご用かしら?」
『何、一度こちらの世界でも顔を合わせておこうと思っただけじゃよ。で、今から会えるかの?』
「ふふっ、その言い回しだと、デートに誘われてるみたいに聞こえるわね。どこに行けばいいかしら?」
『茶化すでないわ。そうじゃのう……。ここは無難に、中央広場でいいかの?』
「了解よ」
『じゃ、待っておるぞー』
通信が切れて、チャット画面が消えました。
さて、情報屋さんのところに向かうのはまた後ですね。先にこの世界の百花、フランに会いに行きましょう。