終わりの始まり
「あはははははははははッ! 来た! 来ましたよ! この世の終わりが始まります!」
少女は嗤う。高らかに嗤い、陶酔したかのように叫びを上げる。頬を染め、歓喜を全身で表すように両手を高らかに掲げている。
彼女が見上げる上空には、血色に染まった空があり、そこを覆う天蓋のような巨大な幾何学模様が浮かび上がっていた。見ているだけ気分が悪くなってくるような、異様な幾何学模様。
その幾何学模様は漆黒に輝き、不気味に点滅を繰り返している。それは、今から生まれ出る何かの、鼓動のようなだった。
少女の足元には、無数の人間が転がっていた。その誰もが血を流し、死んでいるか。もしくは満身創痍であるかのどちらだった。屍山血河。その言葉がよく似合う光景だった。
「世界の終わり! 大地は砕け、海は枯れ、空は永遠の暗闇に閉ざされる! 生きとし生けるもの皆すべてが死に至り、輪廻に還る魂すらも消滅させる! 地獄なんて生ぬるいと思わせるほどの絶望を! 深淵に沈むが如く、全てよ、無に帰せっ!」
ハイテンションで叫び続ける少女。その瞳に正気はなく、狂気が蔓延っている。その姿から、少女が本気で滅びを―――この世の終わりを望んでいることが分かる。
少女の叫びに呼応するかのように、幾何学模様の輝きが強くなり、漆黒の光が大地へと降り注ぐ。光が当たった部分の大地は抉れ……否、消滅していく。
だが、それはまだ始まりに過ぎない。世界の終わり、この世の滅亡。たった一人の少女によって引き起こされたそれは、さらなる局面へと進みだす。
「さぁさぁ、全員跪いて頭を垂れなさいっ! 王の目覚め、王の顕現ですよ!」
幾何学模様の輝きがよりいっそう強くなるのと同時に、世界に笛の音が響き始めた。聞いているだけで頭の中を掻き毟られているように感じる、奇妙で悍ましい音色だった。
その音色に酔いしれる少女。だが、その陶酔を覚ますような勇ましい声が、彼女の耳朶を撃った。
「そこまでにしてもらおうかッ! この世界を終わらせるわけには、行かないんだっ!」
決意に満ちた言葉。それを口にしたのは、屍の山の中で、いまだに動く余力を残していた数人のうちの一人。金髪碧眼の精悍な顔立ちの青年だった。ボロボロになりながらも立ち上がり、剣を構えるその姿は、まさしく『正義の味方』といった様相を成していた。
青年の側には、寄り添うように立つ仲間たちがいる。少女と青年たちが対峙するその光景は、さながら『魔王に挑む勇者たち』。
「……おや、まだ生き残りがいましたか。まぁいいです。貴方がたは生きながら滅びに巻き込まれなさい。それと……頭が高い」
少女がどこからか取り出した厚い本を開くと、青年とその仲間たちに、不可視の重圧が降り注いだ。その場だけ重力が何倍にもなったかのように、押しつぶされそうになる。
「動けないでしょう? そこでおとなしく見ていなさい……王の、降臨を」
「うぐ……き、君は……何者……何だ……? 何故……こんな……ことを……?」
重圧で動けない青年が、少女にそう問いかけた。
その問いに、少女はにこやかに笑って答える。
「――――##################」
少女の口から放たれたのは、未知の『言葉』。怖気が走り、寒気に襲われるような、不協和音の羅列。
「……は?」
「今のが、私です。ふふっ、分からないでしょう? 分からないまま、何も知らぬまま、未知の恐怖におびえながら消えてください」
少女は言うだけ言って青年たちから視線を外すと、徐々に輝きが強くなっている空の幾何学模様を眺め、太鼓の音が混じり始めた不気味な笛の音に耳を傾ける。
「――――さぁ、来ます。王が、ご降臨なされます」
そして、少女がそうつぶやいた。
突如、上空の幾何学模様の輝きの中から、
――――――――『ナニカ』が、姿を現した。
これは、一人の少女によってもたらされる、世界を終わらせる物語。
破壊と殺戮、陰謀と裏切りの果てに、終末をもたらせ。
それが……それこそが、彼女の『命題』なのだから。