遠大な計画の始まり(多分)
お兄様やエステバンと一緒に勉強をしたい。
そうつたない言葉で言い出した私に、お母さまは微笑まし気な表情になった。きっと私がお兄様達の真似をしたがっていると思ったのだろう。・・・お兄様とエステバンの2人が揃って勉強をしている間は、少しつまらないと思うことは、ある。
が、違うのだ。これは私の将来を見据えた遠大な計画の始まりなのだ!と拳を握りしめてアピールをしてはみたが、お母様には伝わらなかった。
まだ文字も読めないでしょうとしごくごもっともなことを言われ、絵本の読み聞かせの時間が増やされたくらいだ。仕方ない。確かにまずは読み書きができなければ何も始まらないだろうと、私は大人しく絵本の読み聞かせで文字を覚えていくことにした。最近ではどんどん読める文字が増えている。現世の私のポテンシャルはなかなかのもののようだ。
いやでも待って?私が学びたかったのは、座学じゃない。魔力を使ってエステバンを守れるようになりたいのだ。座学はそれなりの年齢になってからでいいんじゃない?
決して面白くなさそうなことは後回しということではない。今の私が優先すべきは実践だというだけだ。・・・私は誰に言い訳してるんだろう。さておき、私は決めた。こうなったら、お兄様の授業に突入だ!
お兄様だけが勉強中にエステバンと庭で遊んでいたとき、お兄様が中庭で魔力の実践の勉強をしているのを見たことがある。あそこに突入・・・じゃなくお兄様の勉強を見学させてもらうところから始めたらどうだろう。
そうと決まったら、行動あるのみ。そろそろお兄様とエステバンが一緒に勉強する時間が終わるころだ。この後お兄様は、中庭で実践の勉強をするはず。私は、早速リィンを従えて部屋を出た。てくてくと廊下を歩いていると、
「どこに行かれるのですか、アレクサンドラ様」
すかさずアルトゥロが現れた。・・・どこで見ているんだろう。と思うタイミングでアルトゥロは姿を見せることがある。大体クラリッサの目を盗んで私が1人で抜け出そうとするときだ。
「にわ」
「お供します」
仕方ない。それでもアルトゥロは、危ないことをしようとしない限り私の行動を妨げることはないし、私を心配してくれてるのだろう。
「あい」
重々しく頷いてみせて歩き出した私の後ろをアルトゥロも歩き始めた。アルトゥロは、階段をよいしょよいしょと降りるときは私を抱き上げてくれ、館から庭へ出る重い扉を開けてくれた。・・・うん、アルトゥロがいないと中庭まで行けなかったな。
「ありあと」
お礼を言うと、アルトゥロは微笑んでくれた。
アルトゥロの助けを得て、中庭続く道にたどりついた私は、植え込みの陰から、中庭をのぞきこんだ。
「いた」
お兄様が先生と一緒にそこにいた。やってるやってる。私はまず様子をうかがうことにした。アルトゥロも何も言わずに私の後ろから中庭を見ている。こういうときのアルトゥロの対応はありがたい。
「それでは、復習から始めましょう」
ちょうどよかった。始まったばかりのようだ。
「はい、先生」
はきはきと先生に答えるお兄様。・・・素直ないい子だねえと私の中の前世の私がお姉さんぶっている。その間にもお兄様の授業は進んでいく。
中庭の草の上に敷かれた布の上に座ったお兄様は、目を閉じて瞑想のような態勢になった。
「?」
何してるんだろ。不思議に思いながらもお兄様を見ていると、
「あ」
お兄様の周りを何かが包んでいるのが見える。前世の言葉で言うならオーラみたいなものだろうか。
「見えていますね。あれが魔力なのですよ」
後ろからアルトゥロがそっと教えてくれるのに、頷いた。自分の中の魔力を感じてコントロールするための練習なのかな?何かこうもっとどばーんと派手な技が見られるかと期待してたのにな。
何事も基本から、ということだろう。残念に思いながらも自分に言い聞かせていると、
「わっ」
目の前にお兄様の先生がいた。植え込みをかき分けてしゃがみこみ、私と同じ目線になっている。
「アレクサンドラ様ですね」
「あい」
ばれてしまったと少し焦りながらもとりあえず頷いておく。
「魔力の勉強に興味がおありですか?」
「あい!」
続けて受けた質問には元気よく頷いた。ぴん!と手もあげた。
「そうですか」
そんな私に少し笑った先生は、ちょっと考えるように私を見た後、
「アレクサンドラ様も魔力が多いようですから、早めに始められてもいいかもしれません。パーシヴァル様にも励みになるでしょう」
と言ってくれた。
「閣下と奥様にご相談してみましょう」
付け加えられた言葉にちょっと不安になったけど、
「きっとご許可いただけますよ」
アルトゥロは言ってくれた。どうやらアルトゥロも私の魔力の勉強には賛成らしい。
・・・お母様とお父様がいいって言ってくれるといいなぁ。