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大人しくしているからといって病気じゃない

 前世とは違って健康に生まれた体でいずれは家族に恩返しがしたい。そう思いつつも何だかんだで結局幼児ライフを堪能していた私だったけど、思い出してしまった。

 この世界は前世で私がやりこんでいたゲーム、「薔薇の戴冠」の世界。亡国の王女が攻略対象達と協力して祖国を取り返す乙女ゲームの世界。いやそんなまさかと否定したかったけど、私も、私を引き取ってくれた家族達もゲームの中と同じ名前で同じ顔だ。

「こまっちゃ・・・」

いやもう困ったとかいうレベルの話じゃないんだけど、思わず口をついて出たのはそんな言葉だった。

 何しろ「薔薇の戴冠」は、進め方によっては攻略対象達が死んでしまったり、攻略対象達と対立して命を狙われたりする中々ハードモードなゲームだった。

 そして、お兄様は攻略対象ではないけど、エステバンは攻略対象だったはず。・・・うわー、マジかー。しかも、そういえばエステバンって・・・。

「たいへんにゃ!」

「何が大変なの?」

「かーしゃ」

お母様が部屋に入ってきていることに気が付かなかった私は、思わず飛び上がった。

「どうしたの、アレックス。こんなに長く部屋で大人しくしているなんて」

 いやこんなにって、昨日のかくれんぼの後からだし。食事はしてるし、睡眠もとってるし。私ってばどれだけ大人しくしていられないと思われてるんだろう。

「どこか痛いの?」

しかもここまで言われてしまうとは。・・・わが身を振り返れば、確かに食事と睡眠以外はじっとしていなかったかもしれない。2度目の幼児生活、しかも健康体でのそれに浮かれてしまったかもしれない。

 内心で自省していると、お母様は私の額に手を当ててきた。

「熱はないみたいだわ」

ますます心配そうになってきたお母様に慌てて、私は、

「だいじょぶ!げんき!」

アピールしてみた。ついでに立ち上がって、ぴょんぴょん跳ねてみせる。

「そう?」

それでもやや心配そうなお母様に、

「にーちゃたちとあしょべる?」

聞いてみた。

 すると、

「ええ。そろそろお勉強が終わっているころでしょう。一緒に様子を見に行きましょう」

お母様は答えて、手を差し伸べてくれたので、私は安心してきゅっと手を握り返した。そこへ、リィンが鼻をそっと寄せてくる。

「ごめんにぇ」

うんうんとうなっている私のそばにずっとリィンはいてくれた。リィンにも私が元気がないように見えたのかな。ありがとうと言う想いを込めてリィンの鼻筋をそっとなでると、リィンが気持ちよさそうに目を細める。

 ・・・ん?そういえばリィンって。

「まじゅ?」

魔獣か!ゲームの中で常にヒロインと共にいて、一緒に戦ってくれる魔獣。名前も選べて私はリンとつけてた。・・・うん、惜しかったな。口が回りさえすれば同じ名前をつけることができた。というか生まれ変わってもセンスが変わらないものなんだな。

 内心で今度は前世の自分と現世の自分の同一性について納得していると、お母さまが、

「さあ、行きましょう」

と微笑みかけてくれた。

「あい!」

お母様と手をつなぎ、お兄様のお部屋に向かいながら、私には思いついたことがあった。・・・そうか、お勉強か。

 薔薇の戴冠の世界は、前世で言うファンタジーの世界。確か獣人は元々の身体能力が高い引換なのか魔力を持っていないことが多いからエステバンは魔力を持っていなかったけど、ヒロインの兄は魔力を持っていたはず。お兄様は、もう魔力を使う勉強をしているだろうか。

 そこに私も混ぜてもらおう。早く勉強を始めて、何が起こるかわかっていれば、私の力でエステバンを守れるかもしれない。リィンだって一緒に戦ってくれるはずだし。

 そんな強い決意を固めていた私だったが、お母さまには、

「そんなに神妙なお顔をして、やっぱりお腹でも痛いの?」

と心配されてしまうのだった。

 もう1度ぴょんぴょんと跳ねて納得してもらったが、やはり私は落ち着きのない幼児すぎただろうか。

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