そして、出会った。
一緒に暮らし始めた日からずっとそばにいるリィンとお散歩したり、お兄様と遊んだり。順調な幼児ライフを送っていたある日、お母さまのお部屋に呼ばれた。呼ばれたのは私だけじゃなかったみたいで、お母様の部屋のドアの前でお兄様と一緒になる。
「あれっくすもよばれたの?」
「あい」
2人揃ってドアをたたくと、
「お入りなさい」
お母さまが入室を促してくれる。お兄様が手をつないでくれて、2人でお母さまのお部屋に入った。
すると、お母様のお部屋にいたのは、お母さまだけじゃなくて、初めてみるお母様くらいの年の女性もいた。
「2人に紹介するわね。お母様のお友達のアドラ・エステベスよ。今日から一緒に暮らすことになったの」
「今日から奥方様にお仕えすることになりましたアドラ・エステベスと申します」
まるで訂正するかのように、その人は挨拶をした。あらあらと言いたげなお母様とは、親しそうでもともと知り合いみたい。でも仕える?不思議に思っていると、
「そして、この子がエステバン」
とお母様が続けたので、疑問は新たな疑問にすり替わった。
「このこ?」
「どこ?」
お兄様と顔を見合わせて首をかしげてしまう。
「ほら、エステバン」
アドラが優しい声で言うと、彼女の後ろから。
「かっ」
かわいい生き物が出てきた。私より少し大きな子。そして、その頭にはリィンとそっくりな耳があって、おずおずとこちらを伺う体の向こうでふさふさとしたしっぽが揺れている。
あまりの愛らしさに感動していると、お母様が私とお兄様に歩みよってきた。
「アレックスは、初めて獣人と会うのだったわね」
「じゅ・・・?」
「今までアレックスの周りにはたまたまいなかったけれど、私達と異なる耳と尾をもつ人たちのことよ」
この世界には、獣耳としっぽをもつ人達がいるのか!萌え・・・!・・・良かった、まだ口がまわらなくて、今だけは感謝だ。喋れたら、思いきり不適切な言葉を口からほとばしらせるところだった・・・。
そんなアホなことを考えているとはもちろんわからないお母様は、
「けれど、外見が違っても何も変わらないのよ、私達は」
穏やかに私を諭した。
「あい!」
もちろんです、差別、ダメ絶対。私は元気よく頷いた。
お母様は、そんな私に優しく微笑みかけると、
「この子達が、パーシヴァルとアレックスよ」
私達を紹介してくれた。
「よろしくおねがいします!」
お兄様は立派に挨拶をしてみせたので、私も
「ましゅ!」
便乗してみた。そんな私達兄妹に、アドラは優しく微笑みかけてくれる。そして、
「エステバン、ご挨拶は?」
ぎゅっと彼女の足にしがみついている子に言った。
「よろちくおねがいしましゅ」
「まあ、立派にご挨拶できたこと」
お母様はほほえましげにその子を褒めてから、
「これから一緒に過ごすことになるから、仲良くね」
と私とお兄様に言った。
「はい!」
「あい!」
私達兄妹は元気よく頷いたけど、アドラは慌てた様子で口をはさんだ。
「お子様達と一緒に過ごすなど、とんでもない!」
えー、そうなの?遊びたいのにな。お母様を見上げると、
「いいえ、同じ年頃の遊び相手ができると嬉しいわ。ね?」
お母様は私とお兄様を見た。
「ボクいっしょにあそびたい!」
お兄様がまっすぐに言うので、私も、
「あい!」
と再び便乗した。
そして、アドラの陰に隠れるようにしているエステバンを見た。・・・近くに行っちゃだめかな?お母様に視線を動かすと、お母様の目が私達からいくようにと言っている。
そう判断して、私はてくてくとエステバンに近づいた。
「あしょぶ!いっちょ!」
今の私の精一杯の言葉で伝えてみる。
「いっしょにあそぼう」
お兄様も言った。エステバンは、おずおずとアドラの陰から出てきたので、私は、
「あい!」
手を伸ばした。エステバンはためらいながら伸ばした手をつかんでくれた。それを見ていたお兄様がエステバンの反対の手を取る。
「まあ、すっかり仲良くなったこと」
お母様の朗らかな声がして、アドラが苦笑するのが見える。
「りぃんといっしょにあそびにいこう!」
「りぃん?」
首をかしげるエステバンに、
「かわいいんだ。いっしょにあそんでくれるよ」
お兄様が得意げに言う。・・・リィンは私が見つけたんだけど。あとその説明じゃわからないと思う。
私とお兄様に手を引かれたエステバンが、アドラをいい?と見上げた。
「行ってらっしゃい」
私達親子にあきらめたらしいアドラは、エステバンに微笑んで言った。ので、遠慮なく私達兄妹は、エステバンをお母様の部屋から連れ出した。
こうして、エステバンは私達と一緒に育つことになった。