もう1つの出会い
不本意ながらまだおぼつかない足取りでよちよちと歩く私と、リィンが並んで歩く。リィンが一緒に暮らすことになって、雨が降らなければ、リィンと一緒の中庭のお散歩は日課となった。
「あたっ」
私がつまずくと、リィンがすかさずぐいっと体をいれて支えてくれる。
「ありぃあと」
ぎゅっとリィンを支えにして立ち上がっても、リィンはびくともしない。
そのリィンの耳には、お父様がくれた耳飾りがつけられている。一緒にいるためには、これをつけてあげないといけないと言われて、私がお父様に手伝ってもらいながらつけた。嫌がるかなと思ったリィンは大人しかった。
前世で犬に首輪をつけるのと同じことなのかなとのんびり思ってたけど、私の耳にもお揃いで耳飾りはつけられたから何か違うのかもしれない。そして、エメラルドのような石でできたそれを見たとき、何かが頭をよぎった。何だろう、どこかで見たことがある、ような気がした。
・・・思いだせないんだけど。そう思いながらよいしょっと立ち上がったところに、
「さすがですね、アレクサンドラ様」
この間お父様に言われたのと同じようなことを言われた。でも今まで聞いたことがない声で。
「だぁれ?」
今まで見たことがないその人に私はきいた。
「私は、アルトゥロ・バレスと申します。今日からアレクサンドラ様にお仕えいたします」
その人は、私の前に膝をついて視線をあわせてくれると、そう答えた。・・・使える?あ、じゃなくて仕える、かな。そうなの?とそばにいたクラリッサを見上げると、
「閣下からそう伺っております」
お父様がつけてくれたのかな?確かにこのうちは地位が高いから、こういうこともあるのかもしれない。乳母だっているわけだし。
「あい」
それならば。
「よろちく」
まだうまくまわらない口ながらがんばって挨拶をすると、アルトゥロは微笑んで、
「我ら生涯アレクサンドラ様に命をかけてお仕えいたします」
と私に頭を下げた。
「え・・・」
何か重いんですけど。
「いのち、いい」
命までかけてくれなくていい。
「アレクサンドラ様はお優しい」
私の言いたいことが伝わったのかわからないけど、アルトゥロは、
「ご希望に沿えるよう心がけます」
と言ったから
「あい」
とりあえず私が頷いた。
そこへ、今度は、
「あれっくす!」
お兄様が現れた。お勉強は休憩かな?
お兄様は、もともと私と遊んでくれる優しいお兄様だったけど、リィンがうちに来てから、リィンとも遊びたいらしく勉強が休憩になると必ずと言ってもいいほど姿を見せるようになった。
周りの大人は、お兄様もリィンと遊びたがるとなぜか微妙な雰囲気になったけど、私が「にーしゃもいっしょ!」と言うと、リィンは、私とお兄様の2人と遊んでくれた。・・・このあたりで懐いてきた大型犬を家族で飼い始めたくらいに思っていた私も、そういうものではないような気はし始めていた。
でもまだリィンがどういうものなのかはわからない。まだ幼い(見た目はね!)私に、周りはまだ教えてはくれないから。・・・まあそもそも見た目も大型犬じゃなくて、狼だけどねっ。
「おまえはだれだ」
駆け寄ってきたお兄様が、アルトゥロをにらんだ。
「にーしゃ?」
首をかしげた私の隣にお兄様が立った。お兄様は、アルトゥロをにらんだままだったけど、アルトゥロは気にするでもなく、
「私は、アルトゥロ・バレスと申します。今日からアレクサンドラ様をお守りいたします」
もう1度今度はお兄様に挨拶した。
すると、お兄様は、
「あれっくすはぼくがまもる!」
私の前に立ちはだかった。・・・お兄様まさかのシスコン発言?
アルトゥロは、そんなお兄様に動じることなく、お兄様の前に膝をつくと、
「パーシヴァル様。アレクサンドラ様を共に守らせてください」
厳かに告げた。
それがお兄様の琴線に触れたらしく、お兄様は、
「うん。ゆるそう」
何だか偉そうに受け入れていた。・・・まあうまくやれそうならよかった。
・・・我「ら」?アルトゥロだけじゃないの?いきなり命をかけてくる重さとか、お兄様とのやり取りに気を取られた私が、そんな疑問を抱けたのは、ずいぶん後になってからだった。