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出会い

 はいはいからつかまり立ち、そして伝い歩きを経て歩くことができるようになって、少し行動範囲が広がった私は、中庭に出ることを許された。そう、中庭などというものがあるのだ、この屋敷には。

晴れて穏やかな今日、私はこの世界で初めて外に出ることができた。記念すべきこの日を祝うかのように晴れた空、まぶしい太陽。と現実逃避に空を見上げてみたが、

「アレックス様!」

緊迫した声で呼ばれて、視線を戻すと、目の前には私の名前を呼んだ騎士さんの足が立ちふさがっている。その先には、大きな狼。なぜ。私はただお庭の散歩をしたかっただけなのに。

うん?狼?

「ありぇ」

もしかして。あれは、この世界で初めて目を覚ましたときにいた狼?騎士さんの足の横からひょいっと覗き込むと、狼と目があった。そうしたら、それは攻撃しないと示すかのようにゆっくりと足を曲げた。

「これは・・・」

つぶやいた騎士の後ろを離れ、狼に近づいてみる。よちよちと近づいていく私を狼は穏やかな目でただ見ている。騎士さんは一瞬止めそうにしたけど、すぐ隣を私のよちよち歩きにあわせて進んでくれた。

私が、狼の前で立ち止まると、狼は私の前に伏せた。・・・しつけの良い大型犬みたい。そんなことを思った私は、しゃがんで狼のほうへ小さな手を伸ばした。

隣で騎士さんが緊張したのが伝わってくる。でも、狼は、そっと頭を差し出すようにして撫でさせてくれた。

「よちよち」

撫でていると狼が気持ちよさそうに目を閉じたので、私がご満悦になっていると、

「さすがだな、アレックス」

お父様の声がした。

「とーしゃ!」

私は、舌がまわらないながらもうれしくなってお父様を呼ぶ。

「この子が気に入ったかい?」

「あい!」

「閣下、この子などと」

そばに控えていた騎士さんが苦言を呈したっぽいけど、お父様は気にした様子もない。自由だなぁ。

「では、この子に名前をつけてあげなさい。そうすればこの子はずっとアレックスのそばにいてくれる」

「あい!」

このときの私は、この子を飼っていいってお許しが出たんだと思って単純に喜んでいた。さすが広いお屋敷があるとこんな大きな子も飼えるんだと呑気に思っていた。この子がずっとそばにいてくれるという意味も知らずに。

「閣下、そのような安易な!」

騎士さんはまた苦言を呈したっぽいけど、やっぱりお父様は気にした様子もない。ほんと自由だなぁ。・・・名前、名前かぁ。

「んーと」

悩んでいると、狼は期待に満ちたまなざしで見上げてくる。

「りぃん!」

凛々しい姿に前世の記憶で凛という名前を告げてみたけど、口に出してみたら、ちょっと違う気がする。 でも、もう1度言ってみる前に、

「リィンか。いい名前だ」

お父様に言われてしまった。しかも目の前の狼さんも満足そうな様子で私の頬をなめてくる。・・・まあ、いいか。

「リィン!じゅっといっちょ」

ご満悦な気持ちのまま宣言すると、リィンはまた私の前で伏せの姿勢になった。その頭をせっせと撫でる私に、

「その子を大切にするんだよ、アレックス」

お父様が言ったので、私は、

「うん!」

元気よく返事をした。・・・やっぱりお父様の言う大切の意味を知らないままに。

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