精霊との契約
「つまりあなたはせいれいで、アリシアとけいやくがしたいの?」
組んでいた腕をほどいて、私は聞いた話を要約してみた。
「そのとおりよ!」
どうやら精霊と判明したそれは、嬉しそうに答える。いや、この状況でそんなに嬉しそうにされてもな。
「ちょっとごういんじゃない?」
ここにはクラリッサはいないので、現世でのお作法に則った言葉遣いは忘れることにして、私は話を進める。そして、もう1度腕を組む。偉そうに見えるだろうか。
「だけど、1人になってくれないとゆっくりお話ができないじゃない?」
精霊の言い分としては自分の領域内で1人になってくれないと交渉ができないだろうということらしい。そんなものなのかな?というか。
「わたしは?」
アリシアが1人でここに連れてこられるよりは良かったが、私は何なのだ。素朴な疑問をぶつけてみた。
「あなたは、精霊の誰かの気配がするもの。精霊のことを知っているでしょう。契約することになっているんじゃないの?」
「はて」
精霊の言葉に全く心当たりのなかった私は腕を組んだまま首をかしげた。
ゲームの「薔薇の戴冠」の中での私は精霊とは契約していなかったはずだ。生みのお母様は精霊と契約していて、その精霊がそのよしみで私を助けてくれるシーンはあったけど、契約には至っていなかったはず。現世では会った記憶がない。・・・お母様が最期に私を逃がしてくれたときにはその力を借りたとゲームではあったけれど・・・。
「あら、まだ話してないのかしら。まあ、いいじゃないの。今はその子と私の話よ」
精霊というのはそういうものなのか、相手はかなりマイペースに話を進めようとする。
「わたくし、ですか?」
アリシアは戸惑っているけど、
「そうよ!」
精霊はかなり前のめりだ。
「私はずっとあなたと契約がしたかったの」
精霊は気にいった人間がいると契約を交わし、その相手に力を貸してくれるという。ただ、滅多に現れる存在ではない。ゲームの中では攻略対象で精霊と契約していたキャラクターがいたけど、少なかったと思う。主人公の私だって契約そのものはしてないくらいだし。
だけど、そういえばアリシアはゲームの中でも精霊と契約していたはずだ。とはいえ、とりあえず。
「アリシアはどうしたい?」
今ここにいるアリシアの意思が肝心だ。
「わたくしは・・・」
アリシアは戸惑っているけど、嬉しそうにも見える。
「せいれいがすき?」
現時点での口の回るレベルの都合上ものすごく端的な質問になってしまったが、
「・・・そうなの」
アリシアは少しはにかみながら頷いてくれた。・・・可愛い!
「だったら、契約してくれるわね!」
アリシアの言葉に喜んでふわふわと舞い上がりながら、精霊がぐいぐいと近づいてくる。そんな前のめりな精霊にひくこともなく、アリシアは、
「ええ、するわ。」
嬉しそうに、でも決意を固めた様子で頷いた。アリシアの答えを聞いた精霊はくるくるとますます舞い踊っている。
と、いうことは。
今から精霊との契約を見られる?
何だかそこにいたからついでに私を巻き込んだというだけみたいだけど、私もワクワクしてきた。何せゲームの中でも私は精霊と契約していないから、精霊と人との契約がどんなふうに結ばれるのか知らない。今までの流れでいけば精霊は他の人もいる場所ではあんまり契約しないみたいだから、精霊と人との契約をこの目で見られるなんて、かなりレアなんじゃないかな。それを見られるなんてラッキーだ。
「じゃあ、私に名前をちょうだい?」
ふむ。契約の際に名前を与えるというのは定番ですな。うんうんと納得している私の横で、アリシアが、
「シシリーはどう?」
迷う様子もなく言い出した。いつか精霊と契約できたらと考えたことがあったのかもしれない。
「シシリー!素敵な名前ね!」
精霊もシシリーという名前が気に入ったようだ。
「では、あなたのお名前はシシリーよ」
そうアリシアが名付けた瞬間。
辺りを強い光が包んだ。
とっさに瞑ってしまった目を開けると、そこは元の森のようだった。
「アリシア様!」
「アレクサンドラ様!」
精霊の領域に引き込まれる前に私達の後をついてきてくれていたメイド達の声が聞こえる。
その声にまぎれて、
「いつでも呼んでね」
精霊・・・シシリーの声がした。
・・・うん、いいものを見た。




