色々と決意、はしてみるものの。
闇の中で眠りに落ちた後、次に目を覚ましたときには、私は暖かな部屋の柔らかなベビーベッドに寝かされていた。そこで数日しっかりと世話をしてもらいながら過ごすうちに、少し状況がわかってきた。
まずは拾われてきたここで私はとても大切にされている。どうやら裕福らしいこの家の主人が私を抱き上げてくれた人で、彼とその妻のもとに、私は子として引き取られたようだ。
そして、夫婦の間には私が拾われてくる直前に亡くした子がいたみたいだった。それでもその子の代りにと私を育ててくれている。ありがたい。しみじみと感謝はしているけど、いかんせん赤子の体ではまだ十分に示すことはできないので、感謝を示すことは今後の課題としたい。
あとわかったのは、夫婦は私の産みの親を知っているらしいことで、私に名前をつけたのではなく、私の名前を知っていた。アレクサンドラという立派な名前は、どうやら血縁上の両親がつけてくれたみたい。・・・そしてその両親の身に何事かが起きて、私はここにいるらしい。
なるべく早くできるだけ多く、身の回りの事情や前の記憶にある世界とはどうも様子の違う今いる場所について色々と知りたいとは思うけど、何度も言うが何せ赤子の体だ。眠気に負けて多くを把握できないのが無念だ。
「あ、おっきしてる」
でも、わかったこともある。
「あれっくすおっきしてるよ」
ゆりかごの端をつかんで覗き込んでいるのは、この家の息子で、血はつながってないけどお兄様だ。パーシヴァルという名の彼は、お兄ちゃんになったことが嬉しいらしく、よく私のところに来る。
それは嬉しい。嬉しいんだけどっ。
「ダー!」
急に大きく揺れたゆりかごが不快で、私は抗議の声をあげる。
「パーシヴァル様。そっと、ですよ」
いつも私のそばにいるクラリッサがパーシヴァルに優しく注意した。クラリッサは私の乳母?なのかな。乳母なんてフィクションの中でしか見たことがなかった私からすると驚きの存在だけど、どうもここの家の主人夫婦は裕福で使用人がたくさんいるみたいだから、この家では当たり前なのだろう。
「そっと」
お兄様は、少しだけゆりかごに触れた。うんうん、そのくらいなら私も楽しい。
「アー」
よくできました、と手を伸ばしてパーシヴァルの指をつかんでみた。
「あ、あれっくすが!」
反応があったことに嬉しそうに笑って、パーシヴァルがクラリッサを見上げた。
「お兄様だとわかってらっしゃるんでしょう」
・・・どうだろう、このくらいの月齢でそこまでわかるもの?ま、いいか。私はわかってる。つかんだ指をふってみた。
「ほんとだ!」
ますます嬉しそうにパーシヴァルが笑って、私も嬉しくなったとき、
「またここにいたのか、パーシヴァル」
お父様が登場だ!お父様は、すっとパーシヴァルを抱き上げる。お兄様はますます嬉しそうにきゃっきゃっと笑う。
「あれっくすがぼくのことおにいちゃんだってわかってるんだって!」
「ほう、そうなのか」
お兄様を抱き上げたまま、お父様が屈んで私の頬に触れた。
「アレックスのことを大事にするんだぞ」
優しい目でお兄様と私を見比べて、優しい声でお父様が言う。
「わかってるよ!ぼくおにいさまだもん!」
お父様の腕の中で、お兄様が胸をはって答えた。そんな2人のやり取りを見上げていると、幸せな家族だなって思う。前世での家族は悲しませてばかりだったけど、今世では私を拾って育ててくれている家族に恩返しがしたい。
そう心に決め・・・ながら、
「ぁ‐」
あくびがでてしまう。眠い。しょっちゅう襲い来る眠気に今の私に勝てる術はなく。
「あれっくす、ねむそう」
「寝かせてあげよう」
「うん。おやすみ、あれっくす」
お父様とお兄様のやりとりを聞きながら、私はすとんと眠りに落ちた。