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遠大な計画の続き(多分)

 無事にお母様とお父様のお許しも得て、私もお兄様と一緒に魔力の勉強をすることになった。ちなみにその間魔力のない獣人のエステバンは、剣や弓のお稽古を始めた。剣や弓を学びたいとエステバンが言い出したとき、エステバンのお母様は遠慮したみたいだけど、お母様が例によって押し切っていた。エステバンのお母様も次代の主になるお兄様を守るために役に立つからとご自分のお気持ちと折り合いをつけたみたい。一度こっそりエステバンのお稽古を覗いたことがあるけど、エステバンがちょっとずつ鍛錬を始めている姿はほんと愛らしかった。

 念願の魔力のお勉強だ!と意気込んでいた私だが、あのときこっそりのぞいたお兄様の練習から悟ったように魔力のお勉強は地道だった。日々やることは、自らの内の魔力を感じとること。雨の日も風の日も・・・はやらなかったけど、そうやって地道に基礎を学び続けているうちに、1年がたった。

 その間にお兄様は次の段階に進んだらしく、小さな炎を灯すとか魔力を少しずつ使う術を学び始めた。そんなお兄様を尻目に自らの内なる魔力を感じ取る訓練を続けること、さらにもう1年。

その間に私は他のことはどんどんできるようになっていった。・・・はずである。家庭教師もついた。・・・まだほんの少しの時間しか勉強していないけど。ついてくれた家庭教師はイネスという女性で、優しいながらも毅然としたところもあり、どうもアルトゥロの知り合いみたいな感じだ。

 そして、乳母だったクラリッサはそのまま専属侍女兼マナー教師?のようなものになった。折に触れて所作について教えてくれるし、数日に1度はマナーの基本らしきことを教えてくれる。前世では縁のなかったマナーはそれなりに面白い。

 魔術の使い方以外のこともこつこつ学びつつ、どばーん!と派手な魔術へのあこがれも捨てきれずに過ごしていたある日、

「そろそろアレクサンドラ様も次の段階に進んでみましょうか」

サンダーズ先生がとうとう言ってくれた。

「はい!」

 私は、少し先をいっているお兄様にお手本を見せてもらいながら、私も少しずつ魔力を使う練習を始めることになった。・・・もちろんいきなりどばーん!と派手なことができるようになるわけではない。もちろんわかっている。わかっているとも。

 それはよくわかっているけれども、不安になることもある。この調子でエステバンの危機に間に合うのだろうか。何しろ私は、エステバンに危機が訪れる時期を私は正確には覚えていないのだ。・・・いやだって、ゲームの中の回想シーンでもはっきりとは描かれてなかった、はず。エステバンのそのときの年齢は触れられてた気がする・・・するけど・・・。覚えていない。大体において私は数字を覚えることが苦手なのだ。心の中で開き直ってみても問題は解決しない。回想シーンの中のエステバンと目の前のエステバンの大きさが近くなってきたことに気が付いた私は、最近焦り始めていた。

 そこで、ちょっと思いついたことがある。参考までに騎士団の魔術を使った演習をのぞいてみたらどうだろう。私にはゲームの知識があるわけで、それと実際に魔術を使っているところをみれば、万が一のときに見よう見まねでも魔術を使って、時間くらいは稼げるのでは・・・?

 思いついたらじっとしていられなくて、私は早速行動に出ることにした。演習場の場所は知っている。あとはいかに知られずに潜り込むかだ。今回はアルトゥロにも止められる気がするから、今回はいつにもましてこっそりと抜け出さなければいけない。

 そして。普段ならお昼寝をしている時間。部屋の中には、私の他にはリィンしかいない。でも、どうも外の廊下には誰かいるようだ。とすると。

「んっしょ」

窓から脱出だ。私の部屋は階上にあるけど、今日はこのためにここで眠くなってしまって動けないふりをしたのだ。

「ありがと」

ひらりと先に外に降りたリィンが、支え台になってくれた。

「よしっと」

 無事脱出すると、私はこそこそと中庭を抜けた。リィンもそっとついてきてくれる。・・・少しワクワクしてきた。1人と1匹の冒険だ。ワクワクする気持ちのまま植木に隠れて演習場を目指す。幼児の私の足でもそれほど長くはかからない演習場に近づくと、大きな歓声が聞こえた。

「なにごと!?」

 演習とは、歓声があがるようなものなのだろうか。目立たないように、演習場の柵の近くに植えられている小さな木のところまで行って、そこから演習場をのぞいた。

「わぁ」

 演習場では2人の魔術師が戦っていた。その戦いがすごいのだ。この世界で人間が持つ魔力には、炎、水、風、土の属性があり、まれに複数の属性を持つ人間もいる。ゲームのヒロインたる私は、さすがのハイスペックで複数属性どころか全属性だったはず。魔力を持つ人間は、それぞれの属性にそって自らのイメージを魔力で具現化する。ゲームの中でだけ見られたそれが、今目の前で繰り広げられている!

「しゅご・・・」

 ゲームの中のあの光景が今目の前に!とテンションがあがっている私だけではなく、演習場を囲む騎士達も歓声を上げているから、この2人はこの世界でもすごい人達なのだろう。

 1人はまだ成長期にある年頃の子の体つきだけど、2つの属性を操るらしく、炎を弾丸のようにして放ったかと思うと、相手の竜巻のような風の魔力をたぶん土属性のバリアで妨げる。

「ふぁ・・・」

 思わず見入っていたけど、やがて2人は申し合わせたようなタイミングでぴたっと戦いを止めた。周囲を囲んでいる騎士達から拍手があがる。戦っていた2人は、周囲へと軽く礼をしていた。その後、訓練の最後に力のある騎士の演習を組み込んでいたのか、演習場は土属性の魔力で整えられ、皆騎士棟に戻っていった。

「・・・ふむ」

 私が柵に手をかけると、自分を支えにしろというようにリィンがさらに寄ってくる。

「ありがと」

リィンに甘えて再び支え台になってもらって、私は柵を乗り越える。あまり高くない柵でよかった。

「さて」

 私は、手を前に突き出して、炎を思い浮かべた。現世ではまだ教えられていないことになっているが、前世のゲームの知識で魔力コントロールの最終形態が、イメージの具現化だとは知っているのだ。何とかなるだろう。

「よし」

手のひらから炎を放出するイメージを思い浮かべ、魔力を前方に押し出してみる。

「あ・・・!」

想定以上の炎が噴射されて、びっくりして手を下げる。

 しまったと思っていると、

「ちびのくせにすごいな、お前!」

生意気そうな声がした。

「にゃにやつ」

声のほうを向くと、さっきここで戦っていたうちの小さいほうがいた。・・・ん?この顔どこかでみたような。気になったけど、

「こうやるといいぞ!ほら!」

彼の言葉とそれに続いて彼が放った魔力にすぐに気がそれた。

「しゅご・・・」

目の前に現れた炎は美しかった。それを彼は自在に操ってみせる。

「よし!」

私も!さっきの経験を踏まえ、ちいさな炎を出してみる。そして、それを前世でみた野球ボールをイメージして丸めてみる。

 そして、

「えい!」

上に投げて、受け止めてまた投げてみる。・・・楽しいな。

「すごいぞ、ちび!」

「ちびじゃない!」

楽しそうに声をかけてみた少年に言い返したところへ。

「アレクサンドラ様」

「イライアス」

低く、不穏なほど静かな声が聞こえた。

「あ」

「げ」

そこには、魔術のサンダーズ先生と、さっき目の前の少年と模擬戦をしていた人がいた。

・・・何だかとってもまずい気がする。私とイライアスと呼ばれた少年は顔を見合わせて、一緒に逃げ出した。

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