第九話「新しい朝が来た」
ヒョヒョヒョヒョヒョヒョとの何かの動物が姦しく鳴く声で目覚めた。
声音としては小鳥の囀りような鳴き声。
初めて聴く鳴き声に驚きはしたけど、耳障りとしてはすこぶる心地がいい。
うん。とっても良い朝の迎え方だ。
私は伸びをしてベッドから降りると、窓際へ近寄りカーテンを開けた。
キラキラしい朝の陽光がまた、寝惚け眼に心地いい。
高原へ家族旅行に行った時の朝のようだ。
本当に清々しい朝だ。
睡眠もバッチリ。
前日にネット小説を読み耽った寝不足をすっかり取り戻した感じ。
そう。
昨日は一度に色々な事があり過ぎたせいか随分と疲れていたみたいで、ニーナさんにこの部屋へ案内された私は、着いて早々に眠ってしまったのだ。
多分ニーナさんが居るにも関わらず寝てしまったはず。本当申し訳ない…。
子供かよ! って、ニーナさんがミムラ式ツッコミを入れたに違いない入眠ぶりだったと思う…。お綺麗な容姿でのミムラ式、見たかったけど。
そんな訳だから、今は制服のブラウスとスカート姿。
かろうじてブレザーとリボンは外してたみたい。
それはさておき、私はニーナさんが簡単な部屋の説明をしている段階でコックリし、明日からの事を話し出したところで記憶をなくしている。
よって、ニーナさんと何を話したかさっぱり。
ぼんやりふわふわの記憶しかないのだ。
なんか、最初に「私の部屋はここの隣だから、いつでも遊びに来てね」って言われたのは薄っすら覚えている。
なのでお隣ではニーナさんがスヤスヤ眠っているのだろう。
ただ今絶賛 美女寝 中と言う訳だ。
私もついさっきまで美女寝してたんだけどね。クカクカ可愛らしく。
それにしても、本当に清々しい爽やかな朝だ。
まさに新しい朝にふさわしい。
なんてったって異世界で最初に迎える朝だ。
言いたくないけど、一度死んで初めて迎える朝でもある。
私はこれから心機一転ここで暮らして行くのだ。
がんばろう。
………。
とは言っても、やはりお母さんやお父さん、それにお兄ちゃん…。
家族の事を考えると切なくなって来る。
お母さんなんかは酷いこと言って別れたのが最後だ。
あんなこと言って家を出た娘が交通事故で死んだのだ。
お母さんだってやり切れない思いになっているのだろうな。
お腹を痛めて産んでくれて、16年間育ててくれていたにも関わらず、あんなこと言って勝手にお母さんより早く死んだのだ。
親不孝者だよ。私。
酷いこと言ったこと、謝りたい…。
死んでしまうにしても、せめて普通に「行ってきます」って家を出たかった。
夜更かしなんかしないで普通に寝てたら、あんなことにもなっていなかったのだろう。
ヒョヒョヒョヒョヒョヒョと、さっきの小鳥だろう囀りが私の鼓膜を優しく揺する。
陽光もこの短時間でお日様の角度が変わったせいか、より力強く私の寝惚け眼に飛び込んで来る。
「早起きっていいな…」
思わずそんな言葉が私の口からこぼれた。
そうだ。
お母さんにあんなこと言ってしまったのも朝寝坊が原因だったんだし、こっちでは早起きを心がけよう。
早起きは三文の徳って言うしね。
うん、そうしよう。
そんな事を思ったら少し前向きな気分になれた。
いつのまにか頬をつたっていた涙を拭う。
「でも井伊加瀬先輩、残念だったな…」
気分を変えようと思ったのに、もう一つの憂いを呟いてしまう。
だって、あのまま死んでなかったら、先輩と私は結ばれてたかも知れないのだ。
【運命の人:井伊加瀬航平】
あの石に浮かんだ運命の人、井伊加瀬航平の文字が私の脳裏に焼きついている。
「そのうち消えちゃうのかな…」
ルークさんは、相手が死んでしまったり、もっと強い結びつきを持った人が産まれてきたりしたら、あの石に出てくる名前も変わると言っていた。
それに、あの小学生も言ってたな。
私はこの世界で特別な良縁に恵まれる。って…。
良縁に恵まれるのに越したことはないけど、やっぱり先輩と一緒になりたかった。
初めて話したのが昨日。
しかも、私はその直後にその先輩の前で死んでしまった。
間近で聞いた先輩の声が未だに耳に残っている。
低くて、でも温かみがあって……。
今でも耳を澄ませばあの優しげな先輩の声が…
ヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョ…
「……!!」
先輩に想いを馳せていたら、先ほどから聞こえていた小鳥の囀りが、囀りどころの話ではなく急激に音量を増して騒ぎ出した。
明らかに異常な鳴き方だ。
私は騒がしい鳴き声、窓の外を見る。
「なにアレ……」
窓の外には、小型飛行機ほどの赤黒い塊が空を飛翔していた。
こちらへ向かって飛翔するその塊は、次第にその全体像が明らかになってくる。
ドラゴンみたいな頭にコウモリみたいな翼…。
まさにアレは…
「イオン、ワイバーンよ! 直ぐに窓から離れなさいっ!」
ワイバーンだ。