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第八十九話「まずは教育が大事」

先日投稿しました「ラハンナの少年」の話の前のお話です。

追記しようと思ったのですが、一話分の文字数が多くなってしまうので分けさせてもらいました。


次話の「ラハンナの少年」も少し改稿しています。

(繋がりを良くする為の改稿なので、内容はほとんど変わっていません)

 第八十九話「まずは教育が大事」


「あのぅ……」

「あいよ、もう今日は品物薄いんだけど何に……げっ!」


 にこやかに応対してくれていた男の子の顔が一瞬にして青ざめた。

 原因は私の後ろにいるルルだ。

 ルルに気づいた途端、ギョッと目を見開いて凍りついたように固まっている。


「み、店を燃やしに来たのかっ!」


 赤毛を短く刈り込んだ、6、7歳くらいの腕白そうな男の子が、カラフルな果物が並ぶワゴンの向こうであたふたしている。

 どんだけの火炎球ファイアボールで脅したのよ……。


「あの……」

「ッ!!」


 誤解を解こうと思って口を開くと、男の子がビクリと体を震わせた。


「お、お前も仲間なのかっ!」

「いや、仲間と言うか……この子の姉なんです。

 妹から話を聞いて一緒に謝りに来たんです」


 とりあえず姉妹ってことにして話を進める。

 どうせルルの正体は明かせないし、保護者として謝りに来たって事にすれば話が早いしね。


「ほ、本当か?」

「本当です。

 この度は妹のルルがご迷惑をかけてしまい、本当に申し訳ありませんでした」


 保護者としてきっちり頭を下げる。

 頭を下げたら、足下の銀一が後ろ足でルルの足を蹴っていた。

 次の瞬間、ルルの頭がバサリと現れた。

 蹴られなくても頭を下げなきゃ、ルル……。


「本当みたいだな……」


 頭を上げると、男の子がホッとした顔で呟いた。

 てか、いつの間にかナイフを握ってるんですけど。

 どんだけ警戒してんのよ……。


「つーかこいつ、とんでもないぞ!?」


 ビュンとナイフを向ける男の子。


「危ないからナイフは置いて話しましょ?」

「そ、そうだな……」


 極力穏やかにお願いすると、男の子は自分の手にあるナイフにギョッとして、慌ててナイフをワゴンの上に置いた。

 ナイフを持っていたことも忘れてたみたい……。


「お姉ちゃんな? こいつ、勝手にウチの商品をあれこれ食べた挙句、美味かったとか言って帰ろうとしたんだよ?」

「ごめんなさい……」

「ごめんなさいじゃないよ!

 そんで逃げられないように手を掴んだら、触るなとか言ってひっぱたかれただよ?

 女だし手荒なことはしたくなかったから、代わりに衛兵さんに叱ってもらおうと思って捕まえようとしたら、でっかい火炎球ファイアボールを突きつけられたんだからね!

 魔法まで使って放火をほのめかされたんだから、溜まったもんじゃないよっ!」

「…………」


 確かに溜まったもんじゃないわね。

 なんか取っ組み合いと言うか、ルルが一方的に暴力を振るってたみたいだし……。

 チラリとルルを見ると、ルルはニコリと返してきた。

 ダメだ。全く悪びれる様子がない……。


「本当にごめんなさい」


 とにかく謝るしかない。

 反省の気持ちが伝わるまで誠心誠意謝るだけよね。


「謝る前にすることあるでしょ?」


 すること?

 頭を上げて男の子を見ると、男の子は呆れたように首を振る。


「教育だよ教育。

 確かに悪いことしたら謝らなきゃダメだけど、こいつの場合はまず教育しなきゃ。そうしないと、ずっとお姉ちゃんが謝って回るハメになるんだよ?」

「…………」


 ごもっともです……。


「それに、もしオイラが物凄く強くて悪いヤツだったら、こいつは死んでたかも知れないよ?

 この世の中、子供だからって許してくれるような大人ばっかりじゃないんだよ?」

「そ、そうね……」


 確かにルルには人間界の教育が必要だって、私もさっき痛感したもん……。


「お姉ちゃんはちゃんとしてそうだから大丈夫だと思うけど、こんなことが無いようにしっかり教育するんだよ?」

「はい……」


 なんだかどっちが歳上だかわからなくなってきたよ……。


「おいテオ、そんな可愛い子らに目くじら立ててんじゃねーぞ!?」

「黙っててよガル爺っ! ガル爺だってさっきの騒ぎ見てたでしょ? オイラは目くじら立ててるんじゃなくて、親切心から言ってんだっつーのっ」


 男の子の反論に、ガル爺と呼ばれたお爺さんが戯けたように肩をすくめた。


 男の子はテオくんって名前らしい。

 お爺さんはテオくんのお店の隣で干物みたいなものを売っている人で、さっきからずっとクスクス笑っていた。


「世の中ガル爺みたいな優しい人ばかりだったら、オイラだって何も言わないさ……」

「ふふ、まあそれもそうだな?

 お嬢ちゃん、テオは親父を盗賊に殺されちまったのさ。

 世の中何が起きるかわからないって事は、テオはこんな小さくても身に染みてるんだよ。お節介かも知れないけど、テオの話は一理あるから聞いといて損はないよ?

 それに、小さくとも店を任されてるだけあって、大人顔負けのしっかり者なんだよ」

「そんな話すんなよガル爺っ!」


 口を尖らせるテオくんに、お爺さんは手をひらひらさせながらお客さんの対応に戻ってしまう。


 それにしても、テオくんはお父さんを殺されてしまったんだね……。

 小さいながらも色々あったのね。

 お仕事もしてるし、私なんかよりも人生経験は豊富なんだろうな。


「ったく、ガル爺は余計なこと言いやがって……」


 テオくんはそう呟くと、お爺さんを睨んでいた目をこちらに向ける。


「とにかくお姉ちゃんの妹は教育が必要なんだよ。庇ってくれる家族が突然いなくなるってこともあるんだしね?」

「…………」


 お爺さんの話を聞いたあとだと、言葉の重みが半端ない。


「でもあれだよ、お前がちゃんと聞く耳を持ってなきゃ何にもならないよ?」

「お前呼ばわりするなっ、我はルルだ!」

「なっ……」

「ルルっ!」


 ルルが余計なことを言う。

 しかもツンと顎を築き上げて、なんか偉そう……。


「だいたいお姉ちゃんが謝ってるのに、当の本人が全く反省してないって、どう言うことなの?

 小さいから許されるってことなんて、本当はないんだからね?」

「我は小さくなんかない……ぐぬぬっ!」


 ルルがまた余計なことを言うので口をふさぐ。

 確かにエンシェントドラゴン姿のルルは、ビックリするくらい大きいんだけどね……。


「お姉ちゃん、これでわかったでしょ?

 そもそも今までが甘やかし過ぎなんだよ。そんなんだから…………」


 テオくんの長い説教が始まった。



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