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第八十七話「ルールルルルルル」

 


「ギギ待って! まだ行っちゃダメだってっ!」


 私の声が届いてないのか、銀一は跳ねるように走りながらギルドの外へ出て行ってしまった。

 裏口の扉がちょうど銀一が通れる分開いてるってどうなの?


 とにかく、この状況ではブライトンさんに外出許可をもらうのは無理ね……。


「イオンさん……?」

「あ、ちょっと出かけてきますっ」


 昨日の獣耳の男の人とすれ違った。

 確かシャムロさんって言ったっけ。

 シャムロさんは私を追おうか迷った挙句、アワアワとギルドの中へと入って行った。


 これって間接的に断りを入れたことになる?

 ならないよね、流石に……。

 でも今はそう言うことにして銀一を追おう。うん。


 しかし銀一、ちょう速いんだけど……。

 銀一がみるみる小さくなっていく。

 って言うか、銀一はちゃんと当てがあって走っているの?

 なんだか闇雲に走ってそう……。


 それにしても、起きて早々こんなに全力疾走するとは思わなかった。

 なんだか急に動いたせいか、無性にお腹が空いてきたよ……。


「イオン、きっとルルはあっちにいるよ?」


 ハアハアしながら走っていくと、銀一が道の真ん中でちょこんと待っていた。

 ちゃんと当てがあって走っていたようで少しホッとする。


「行き先を思い出したの?」

「うぅうん。ルルの匂いと魔力の波動を感じるんだよ」


 ほう。流石銀一。やっぱり頼りになる。

 と思いつつも、今の今までリボンにまっしぐらの闇雲走り中なんだと疑ってた。

 ごめん、銀一。


「良かったぁ。ギギにそんな能力があるんだったら、ルルはすぐに見つけられそうね?」

「ルルとは昨日会ったばかりで馴染みが薄いから、そう簡単に見つけられるとは限らないよ?」

「え、そうなの……」


 なんか糠喜び?

 でも仕方ないか。

 こういう時なんかは、エンシェントドラゴン姿のルルだと便利なんだけどね?

 街中にあんな大きなドラゴンがいたら、遠くからでも見つけられるもん。


「じゃあとにかく急ぎましょ?」

「そだね。急がないと犠牲者が増えちゃうからね?」

「…………」


 銀一くん、そうゆうことはニコニコと言わないの。

 あえて考えないようにしてるのに……。


 そう思いながら銀一をじとっと睨む。

 銀一は悪戯っぽく舌を出して、「とにかくついて来て!」と言うや、プイっと駆け出した。

 とにかく銀一に頼るしかないので、私も銀一に遅れないように走り出す。


 銀一の後を追って路地に入ると、衣類や雑貨の商店が軒を連ねる商店街で、プーンといい匂いもしてきた。

 この先に食べ物屋さんがあるに違いない。


 なんて思いながら走ってたら、食べ物屋さんらしきお店が両側に見えてきた。

 どこのお店も屋外にテーブルとイスを出していて、お昼時だからかほどんどの席が埋まっている。

 テーブルにはキッシュやステーキみたいなものが並んでて、なんかちょう美味しそう。

 ルルを探してなかったらお店に吸い込まれてるかも……。

 お腹空いてる時に通っちゃダメな道ね、ココ。


 とにかく、今は我慢してルルを探さなくっちゃ。


 そう思い直して、誘惑を振り切る為にもあまり周りを見ないように走る。

 更に紛らわす為にも「ルールルルルルル」って口ずさんでみたりする。

 ひょっこり出てくるかも知れないしね?


「キサマ無銭飲食かっ!」

「オヤジ〜、未だガキなんだからそう怒るなって」


 通り過ぎたお店から怒鳴り声とそれをなだめるような声が聞こえてきた。

 ルルの予感が半端ないんですけど……。


 振り返って見ると、いつの間にか前を走っていたはずの銀一が一軒のお店の前に立っていた。

 食べ物をあまり見ないようにしてたせいで、銀一を見失ってたみたい。

 危うく自分が迷子になるとこだったよ……。


 銀一が得意げに顎で店内を指している。

 ってことは、やっぱりルルがいるみたいね。


 恐る恐る店内を覗くと、店内にも15席くらいの席があり、その奥の方で人だかりができていた。


「オヤジ、小せえのにいい食いっぷりだったじゃねぇか? あの食いっぷりに免じてタダにしてやれよ?」

「煩え! こっちは商売なんだ!

 ガキであろうと関係ねえ、金がねえなら皿洗いでもなんでもして体で払ってもらうしかねえ!」


 男の人の声に被せるようにして、店主らしき人の怒鳴り声が上がる。


「なんなら俺が払ってやるぜ?」

「俺も払ってやってもいいぜ?」

「だったら俺も払うぜ?」

「ほらよ、俺も払うぜ!」


 最後の一人がコインをテーブルに置くと、カチャカチャカチャカチャと音が重なり、あっという間にテーブルにコインの山ができた。

 なんだか良くわからない展開。

 なんとなく出て行くタイミングを失ってしまう。


「どうだ店主、これで満足か?」

「ぐぐっ……」


 人だかりの向こうからルルの可愛らしい声と、店主らしき人の唸り声。


「助かったぞ皆の衆。ヌシらに何かあれば、次は我が助けてやるからな?」


 声高々に続けるルル。

 てか、何故に上から目線?


「ハハ、今度は母ちゃんに金もらってから来るんだぞ?」

「全くだ、面白えガキだぜ」

「また気持ちのいい食いっぷりを見せてくれよ!」


 ルルの言動が逆に可笑しかったのか、笑い声に包まれながら人だかりがはけていく。

 みんながみんな呆れた顔をしながらも朗らかな笑みを浮かべている。なんか奇妙な笑顔。


 そんな人達の隙間からアゴを突き上げながら仁王立ちするルル発見。

 ルルもすぐに私に気づいたみたいで目をまんまるに見開いた。


「あ、イオンっ!」


 ルルが嬉しそうに声を上げながら一目散に駆けてきた。


「ルル、勝手に外に出たらダメでしょ?」

「だってイオンがいいっていったしー!」


 そうだった。

 寝惚けて応えてたんだったわ……。


「おっ、もしかしてこの子のお姉ちゃんかい?」

「あ、はぃ……」


 お金を出してくれた人から声をかけられ、咄嗟に肯定してしまった。


「お姉ちゃんも美形だね〜。ウチはそこで衣料店をやってるんだよ。良かったら帰りに寄っておくれ?」

「あ、はい」

「妹ちゃんはいい食いっぷりだったぜ?」

「おっ、こりゃかなりの美人姉妹だぜ!」

「なんならサービスするからウチにも遊びに来ておくれ?」


 ワワワワーって、一度に何人もの人から声をかけられた。

 私は曖昧に頷きながらルルの頭をぐいっと下げ、「どうもありがとうございました」とルルと一緒に頭を下げる。

 とにかく無銭飲食で捕まるとこだったんだから、まずはお礼しなきゃだよ。


「この先の左手にあるファブリーって店だから、後で寄っておくれ」

「はい……」


 最初に声をかけてきた人に念を押されてしまった。

 まあ、方向的には帰り道だから寄ることにしよう。

 なんか買ってあげれば恩返しにもなるしね。


「で、お姉ちゃんの方は何か食べるのかい?」

「ふぇ?」


 お店のおじさんが急に声をかけるもんだから変な高音が出ちゃったよ……。


「いや、みんなから余分にもらっちまったから、食べるんだったらその分で何か出してやるぞ?」

「そ、そんな悪いですよ……」


 と言った途端に、クゥ〜ってお腹が鳴ってしまった。

 体は正直っていうか………恥ずかしすぎ……。


「ハハ、今出してやるからそこへ座って待ってな?」

「ありがとうございます…」


 思わぬ形でブランチにありつけるみたい。


 それにしても無事にルルが見つかったし、誰も死んでなくて良かったよ……。


 てか、ここの前とかで死んでないよね………?


 





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