第八十四話「寄道」
なんでこんなことになっちゃうの?
やっとルークさん達と連絡がとれると思ってたのに……。
「で、本当は『運命人』の情報があるんだろ?
おじさん、これでもなかなか情報通なのさ」
おじさんの目が鋭く細められる。
さっきまでの人の良さそう顔が嘘のよう。
私は今、酒場の奥にある薄暗い部屋に監禁されている。
さっきおじさんに案内されながら歩いていたら、いかにもガラの悪い人たちに後をつけられたのだ。
そして、おじさんの「この店の裏口から出てアイツらを撒こう」との言葉を信じてこの酒場に入って来た。と言う訳……。
この部屋には、おじさんの他に例のガラの悪い人たちもいる。
でっぷりした髭もじゃの大男と、その子分然とした目つきの悪い細身の男の人。
最初からグルだったみたい。
「数日前、ナッハターレのギルドから『運命人』を見つけたって連絡が入ってるらしいんだよ?
そんな時にナッハターレのギルドへ連絡したいってもんが現れたら、そりゃ不審に思うさぁ」
「…………」
「お嬢ちゃんも見つけた者にそれなりの報酬があるの知ってるだろ?
おじさん、この人達にお金借りてるんだよ?
門番程度の給金じゃ返せないから、こう言った情報屋みたいな事もやってるんだ。
情報さえ教えてもらえれば何もしないから、おじさんを助けると思って教えてもらえないかね?」
そう言っておじさんは人の良さそうな笑みを浮かべる。
その顔には騙されないよ。もう遅いけど……。
「レックス、また無駄足か?」
「いやいや、これは絶対金になる情報だって!」
大男に凄まれて慌てるおじさん。
レックスって名前らしい。
このやり取りを見る限り、確かにおじさんは借金でもして弱みを握られてるのだろう。
なんだか可愛そうにもなってくるけど、だからと言って協力する義理などない。
そもそも私には関係のないことで、全くもって迷惑千万な話よ。
「コイツら、悪いヤツらだよな?」
この場に似つかわしくない可愛らしい声が響いた。
ルルだ。
「こんなカスどもに付き合うことはなかろう?」
「何をこのガキっ! 痛い目に……」
細身の男が怒鳴り声をあげながら拳を振り上げた瞬間、男の腕が肘の上からスパッと切断された。
男は何が起こったのかわからないようで、自分の腕から凄い勢いで噴射している血をポカンと眺めている。
ただそれも一瞬で、すぐに物凄い咆哮を上げながら部屋を転げ回った。
銀一の仕業だ。
銀一が透明になって爪で切り落としたに違いない。
そう思った時、私の足下でトンと軽い音がして銀一が姿を現した。
何やら得意顔。
やっぱり銀一だったみたい。
「ほほう。ギギに負けてはられんぞ!」
「ルル、ダメ………よ…」
私が止める前にルルは火炎球を大男へ発射していた。
見ると大男の上半身がなくなり、背後の壁にポッカリ穴が開いていた。
メラメラと燃える丸い穴からは外の景色が見える。
幸いにも隣家に被害はないみたい……。
「ひゃっ…」
「ルル、もうやめて!」
「こやつも仲間だろう?」
おじさんに手をかざしながら首をかしげるルル。
ルルは殺すことに何のためらいもないみたい。
「そうかも知れないけど、もうやめて!」
「イオンが言うなら、もうやめるー」
「イ、イオンって、まさかお嬢ちゃんが………」
おじさんが私の名前に驚いている。
どうやら『運命人』の名前を知ってるみたいね?
情報通って言うのは、あながち嘘ではないのだろう。
「私達もう行きますけど、いいですよね?」
「…………」
ブンブン首を縦に振るおじさん。
「あ、ギルドはどっちですか?」
このくらいは聞いとかなきゃね。
「こ、ここをまっすぐ行って突き当たりを右に行けば、丸いドーム型の建物が見えてくる。そ、そこがギルドだ…」
本当でしょうね?
ま、こんな状況で嘘つかないか?
「もう借金なんかしちゃダメですからね?
行くわよ、ルル、ギギ」
私達は壁に開いた穴から外へ出た。
出たあとにメラメラ燃える壁が心配になったので、魔法で散水鎮火。
せっかく王都にたどり着いたと言うのに、着いて早々放火魔扱いされたら溜まったものじゃないもんね。
「イオン、あんまり人を信用し過ぎない方がいいよ?」
「そうよね……」
銀一の言う通りだ。
ここは日本じゃないんだし、簡単に人を信じちゃいけないよな……。
でも、人を信じられない世界ってちょっと寂しいよね?
ルークさんやニーナさん、そしてジュリエルさんやジャーナイルさんみたいな人たちもいるんだし、初めから人を疑ってかかるなんてしたくない。
甘いのかも知れないけど、一人くらい私みたいなのがいてもいいよね?
でも、みんなに迷惑をかけてしまうのはいただけないし、これからは極力気をつけよう……。
「あのおっさん、嘘じゃなかったみたいだね?」
「そうね」
突き当たりを右に折れて少し歩いたところで、白いドーム型の建物が見えてきた。
ナッハターレ辺境地区のギルドに比べるとかなり大きい。
ギルドの入り口から中へ入ると、中は半円状のスペースになっていて、円の直径にあたるところに受付らしいカウンター、その手前にはテーブルとイスが並んでいた。
大きさは違えど、造りはナッハターレのギルドと同じみたい。
すっかり陽も落ちてると言うのに、そこには冒険者らしき人たちが4、50人ほどたむろしていた。
人族と獣人族が多いみたい。
例によって何匹か大型犬のようなトカゲみたいなのもいる。
「あの…ブライトさんっていらっしゃいますか?」
カウンターからこちらを見ていた人がいたので、ルークさんから聞いていた人物を呼び出してもらうことにした。
「ブライト……ですか?」
獣耳をヒクヒクさせながら困惑した顔の男性。
あれ? 名前違ってたかしら……。
「えーと、こちらのギルドで本部長さんをしてるみたいなんですが……」
「ああ、やはりブライトン本部長の事でしたか。
失礼ですが、ブライトン本部長とどのようなご関係でしょうか?」
惜しかった。
ホワイ◯ベースの人って覚え方してたから、そのまま言っちゃってたみたい。
「直接関係はないんですが、ナッハターレ辺境地区のルークさんから、王都のギルドに着いたらブライトンさんを訪ねるように言われてたんです」
「ルークさんと言うのは、ナッハターレ辺境地区副支部長のルーク殿の事ですか?」
「はい、そのルークさんです」
「少々お待ちを……」
受付の人は急に顔色を変えて立ち上がり、あっという間に背後の扉から中へと消えてしまった。
ナッハターレのギルドと造りが同じならば、あの先は通路になっていて、いくつかの部屋に通じているはずね。
そう言えば、このギルドにもジャーナイルさんのお店みたいな、ギルド直営の定食屋さんが併設されてるのかしらね?
なんて思っていたらガチャって扉が開いて、さっきの獣耳の男の人が帰ってきた。
「こちらがその少女です」
「うむ、ご苦労。
私がブライトンだ。ルークから話は聞いている。詳しい話は中で聞こう」
低い声音で矢継ぎ早に語るブライトンさん。
挨拶を返そうにも口元に指を当ててそれを許さず、さっさと中へ入ってしまった。
名前の印象では、黒髪のウエーブヘアで細っそりした人をイメージしてたけど、実際は銀に近い薄い金髪を短く刈り込んだアーミーヘアで、身長2メートルほどもある超マッチョな御仁だ。
黒いサングラスが似合いそうなアイルビーバック。
「さ、どうぞ中へ…」
「あ、はい……」
やっとルークさん達に連絡ができるよ。
私はルルの手をぎゅっと握り、ブライトンさんを追って扉の中へと入った。
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