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第七十一話「取り引き」

 


 ジョ兄さんは案の定と言うか、まんま空賊だった。


 ただ、私の中での空賊のイメージは、ゴッツくておっそろしい顔した人たちだったけど、意外や意外、実際はイケメン揃いの気さくな人たちだった。

 まあ、こう言う人たちが冷徹に人を殺したりするのかと思うと、逆に恐ろしくなってくるんだけど。


「なあ、本当に仲間になってくれないのか?」

「いや、流石に仲間はちょっと……」


 私はさっきから猛烈にスカウトされている。

 ジョ兄さんは泣く子も黙るダビアンヨカリって空賊のキャプテンで、本名はマッド・ウォンカ。

 ちなみにダビアンヨカリって言うのは、『進撃の荒くれ者』って意味らしい。

 ネーミングセンスが14歳。


 私がなぜ猛烈なスカウトにあっているかと言うと、乗船早々に怪我した船員さんを治癒魔術で治してあげたから。

 その他にキンゲスカーデとの戦いで見せた、攻撃魔法の腕も買っているみたい。


 全く、空賊なんかにならないっつの。


「とにかく王都までは俺の船で送ってやる。

 ま、その間に良く考えてくれ?」

「良く考えても変わらないと思うんですが……」

「フフ。思いのほか楽しい船旅で、きっと考え直すはずだぜ?」


 ジョ兄さんはそう言ってニヤリと笑みを浮かべると、「野郎ども! 今日は久々の馳走にありつけるんだ! さっさとキンゲスカーデを運び込め!」と大声を出しながら船員さんに指示を出しに行った。


 ま、考え直すことはないけどね。絶対に。

 ただ、銀一がとろけるように柔らかいと言っていた、キンゲスカーデのお肉には興味がある。

 それに王都まで送ってくれるのも正直助かる。


 王都行きは治癒魔術の謝礼に何がいいか問われて、思いつきで言ってみたことなのだ。

 ただ、流石に空賊の飛行船を王都の中心に着陸させるのは難しいとのことで、少し離れたところまでと言うことになった。

 それでも助かる。


 王都へ着いたら冒険者ギルドへ行き、ルークさんにオミニラーデで連絡すれば良い。

 御子息くんの飛行船には連絡用のオミニラーデがあったので、安否報告はできるはず。


 そう言えば私、ルークさん達の中では死んだことになってるのかしらね……?

 もしかしたら私が死んでしまったと思って、もうナッハターレ辺境地区へ帰ってしまったかも知れないよね?


 今頃ルークさん達は私の死を悲しんでるのかしら……。

 ニーナさんなんかはすっごく泣いてくれそうよね……。


 だったら尚のこと急いで王都のギルドへ行って、安否の連絡をしなければ。

 私が無事なのを早く知らせてあげたい。


「それにしても、あんなゴツイ火炎球ファイアボールを出せる遣い手がいるとは思わなかったぜ…」

「まあ、修理可能で良かったじゃねぇか?」

「まあな。でもナメてかかったら痛い目を見るってことだ。これからは用心しねぇとな?」


 そんな話をしながら、私の後ろを船員さんが通り過ぎていく。

 まさか私がやったなんて言えない。

 向こうもまさか自分たちの船を破壊したのが私だなんて、夢にも思っていないだろうけどね……。


 でもやっぱりヒヤヒヤするよ。

 バレたらどうなっちゃうんだろう……。


 怖っ。


「ねえイオン?」

「なぁにギギ?」


 銀一が耳元で話しかけてきた。


「本当にコイツらの船に乗って大丈夫なの?」

「大丈夫……だと思う?」


 そう改めて問われると、確かに声を大にして大丈夫だとは言えない。

 つい返事が疑問形になってしまう。


「地道に下で行った方がいいんじゃない?

 全く違うとこへ連れてかれる可能性だってあるんだよ?」

「…………」


 確かにそうだ。

 思いのほか気さくな人達だったので忘れそうだったけど、あの人達は泣く子も黙ると恐れられる空賊なのよね。

 まあ、自分でそんなこと言ってるから、妙に嘘っぽく聞こえたんだけどね。


「ちょっと早まったかな……?」

「うーーん……なんとも言えないけど、ボクだったらこんなヤツらの船に乗らないね」

「そ、そうよね……」


 やっぱり危ない人達なのよね、この人たち。

 ダビアンヨカリってアレな名前だけど、それなりに有名な空賊みたいだしね……。


 確かに銀一が言ってるように、何処か別のところへ連れてかれて、奴隷として売られてしまうかも知れないんだよな……。


「どうしたイオン、浮かない顔してんじゃねぇか?」

「…………」


 ジョ兄さんが戻ってきた。

 なんだか私、また顔に出てるみたい……。


「もしかして俺を疑ってんのか?」

「ッ! そ、そんなこと……」

「ハハ。あるみてぇだな?」


 私ってば抜群に顔に出てるみたい。


「安心しろ、イオン。空賊は約束を違えねぇ。

 王都エクシャーレまでは何があろうと連れて行ってやる。さっきも言ったが、これは空賊の誇りにかけて約束する」

「はぁ…」


 胸に両手で十字を作って言うジョ兄さん。

 目顔で「お前もやれ」って言われて、私も同じように十字を作って真似をする。

 私は空賊じゃないんだからやらなくてもいいと思うんだけど、ジョ兄さん的にはやらなきゃダメらしい。

 コレ、まあまあ恥ずいのよね……。


「まあ、無事に王都へ送り届けたあとの事は約束できねぇけどな?」

「…………」

「冗談だイオン、本気にすんなっての」


 そう言って笑うジョ兄さん。

 でも全然目が笑ってないんですけど……。


 やっぱりやばいんじゃないの、この人たち……?


「とにかくイオンは大事な客人だ。空の旅を存分に楽しんでくれ。

 早速これから旅の間に使ってもらう部屋へ案内してやる。ほら、俺について来い」

「はぁ……」


 そう言って歩き出したジョ兄さんの後を、やむなくついていく。


「…………」

「…………」


 肩にのってる銀一が「本当にいいの?」とでも言いたげに、目を細めながら私の顔を覗き込んでくる。


 正直、良くないと思います………。



「ここがイオンの部屋だ。抜群に眺めがいいぜ?

 まあ、しばらくここでゆっくりするんだな?」

「ありがとうございます……」

「それと、本当はメシは食堂で食うしきたりなんだが、イオンのメシは特別にここに運んでやるから、メシはここで食ってくれ」

「はぁ…別に特別扱いしてもらわなくても、時間を教えてもらえれば食堂に行きますよ?」

「いや、これはイオンを守る為でもあるんだ。

 なんせこの船は女日照りの野郎ばっかだからな?

 つい出来心で手を出しちまうヤツが出てもおかしかねぇ。

 まあ、俺の客人に手を出したらただじゃおかねぇがな?」


 親指で首を搔き切る仕草で笑うジョ兄さん。

 なんかイケメンなだけにヤケに絵になる。

 そして目が本気すぎて全然笑えない…。


「だが、どうなるかわかっててもヤル馬鹿がいるのも現状だ。

 そう言う訳なんで、飛行中はあまり船ん中をうろつかねぇ方がいいぜ?」

「…………」


 ちょっと冗談じゃないわよ。

 そんな輩はクビにしなさいよね!


 ……ッ!!


 てか、手を出したら処刑クビにするのか……。


 いやいやいやいや、手を出されてからじゃ遅いっつの!

 空賊の誇りとか言ってるくらいなんだから、規律とかそう言うとこ徹底させようよ……。


「俺はちゃんと警告したかんな?

 無闇にうろついて犯されたとしても、俺に文句言うんじゃねぇぞ?」

「そ、そんな……」

「まあ、安心しろ。そん時はイオンにソイツのアソコをちょん切らせてやるし、イオンがアソコを持ってるのを見せつけながら、ソイツの首を搔き切ってやっからな?」

「…………」


 だからそう言うの超迷惑なんですけど……。

 ちょん切るどころか持ちたくもないし……。

 てか、まずは未然に防ぐことを考えようよ。


 あ、出歩かないってのがソレにあたるのか……。


 いや、そんなの最悪の対処法でしかない。

 キャプテンなんだしジョ兄さんが何とかすべきよ。


「じゃあ、あとはゆっくり楽しんでくれ。

 メシの時は俺が持ってきてやるからな?」


 ジョ兄さんはバタンと扉を閉めて出て行った。


 はぁ……。


 ちょう後悔。

 完全に早まった取り引きをしてしまったよ。


 はぁ………。







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