第六十九話「もっともあぶないイオン」
とにかく足を治さなくっちゃ……。
右足は脈打つ度に鋭い痛みに襲われている。
ただ、傷口は無意識のうちに治癒が始まっていて、既に三割くらいふさがっている。
放っておいても治りそうだけど、銀一とレムに護ってもらっているうちに早く治さなければ。
いくらなんでもあの数のキンゲスカーデ※じゃ、二人だけでは太刀打ちできないよ。
早く加勢しなければ。
私は焦りを感じながら全力の魔力を右足へ送る。
【イオンの魔物メモ・銀一受け売り編②・追記】
※キンゲスカーデ
極端に下顎が突き出たイノシシみたいな魔物。
大きさはイノシシの2倍くらいで体毛はモスグリーンに黄色のメッシュ。
下顎が20センチくらい突き出ていて、その先端から二本の湾曲した大きな牙を持っている。
主に体当たりで獲物を気絶、即死させ、獲物を牙に引っ掛けて餌場まで運ぶ。
一直線に向かってくるので、特大の氷槍などを撃ち込めるスキルさえあれば無問題。
私にとってはいいカモらしい。
お肉はとろけるように柔らかいみたい。
【追記】
群れのキンゲスカーデは統率が取れていて厄介。
現に超ピンチ。
全力魔力の治癒魔術は凄まじく、傷口は一瞬にしてふさがった。
今は血の跡だけが生々しく残っている。
焼けるような痛みも消えてなくなり、血の跡さえなければ何事もなかったみたい。
あとはあの大量のキンゲスカーデをどうするか、よね……。
「イオン、あの群れ長が怪しい!
他のキンゲスカーデの相手はボクとレムがするから、イオンはあの群れ長への攻撃に専念して!」
銀一はそう叫ぶと鋭い爪を一閃した。
次の瞬間、キンゲスカーデの前足が宙を舞う。
それを見届けるまでもなく銀一は次のキンゲスカーデへと跳躍する。
その間にもズバァン、ズバァンと立て続けに鈍い衝撃音が前後左右と響き渡る。
其処彼処でレムの張り手が炸裂してるのだ。
銀一が言った群れ長とは、あの一際大きなキンゲスカーデだろう。
あれが怪しい………?
私は最初に現れた大きなキンゲスカーデに目を向ける。
「あ……」
毛色が変わっている。
モスグリーンに黄色メッシュの毛色が、今は鮮やかなエメラルドグリーンに変わっている。
いや、あれは発光しているのかも知れない。
それに、その場でじっとしていて不気味なくらい動かない。
まるで戦況を見守っているのかのよう。
確かに銀一が怪しいと思うのも頷ける。
とにかく、私はあれへの攻撃に専念すればいいのね。
思うや、瞬時に魔力を込めながらボスらしきキンゲスカーデに右手をかざす。
イメージはあの大きな巨体に負けないくらい大きな氷槍。
「氷槍!」
特大の氷槍を発射する。
フシュンと風切り音を残し、一際大きなキンゲスカーデ目がけ一直線に飛んでいく。
元々巨体な上に今はじっとしているので狙いを外すことはあり得ない。
陽に反射して更に煌めく氷槍が、音もなくボスキンゲスカーデの脳天に吸い込まれていく。
やった!
と思った瞬間、ガゴゴゴーンと雷でも落ちたような轟音が響きわたり、ボスキンゲスカーデの背後の樹木がバギバキバキバキと横倒しに倒れた。
「え……」
不気味に発光するボスキンゲスカーデは、何もなかったかのように戦況を睥睨している。
その間にもズザザザザザー、グヒヒヒヒヒッと、重い物が地面を転がる音とキンゲスカーデの苦しげな鳴声、ズバァンズバァンと鈍い衝撃音が響き渡る。
銀一とレムが戦っている。
見ると銀一は風のように飛び回りながら爪を一閃させ、レムはその場を動かずに回転しながら、前後左右に腕を伸ばして張り手を連発させている。
ただ、敵が多すぎる。
次々と現れるキンゲスカーデに、二人の対応が遅れつつあるのを感じる。
このままだと戦況は厳しくなるばかりだろう。
早くアイツを倒して二人に加勢しないと。
今度はさっきよりも魔力を込め、特大かつ槍先を十文字に変形させた氷槍を発射。
さっきは直撃したはずだけど、念のため当たる範囲を広げてみた。
右手から発射した次の瞬間には、煌めく氷槍は光の線となってボスキンゲスカーデに突き刺さる。
まさに光の速さと言っていい。
「なんでよ……」
ただ、ボスキンゲスカーデには変化がない。
突き刺さったはずの氷槍は、無情にもボスキンゲスカーデの体をすり抜け、背後の樹木が轟音を立ててなぎ倒されていく。
さっきと全く同じだ。
氷槍は効かない?
「キャプテン、シャークがやられました!」
「クソッ! もう構いやしねー、火炎球をぶちかませ!」
飛行船の方から怒鳴り声が聞こえてくる。
向こうもキンゲスカーデと戦ってるみたい。
声の感じからして、かなりの苦戦がうかがえる。
私も火炎球に切り替えた方がいいのかしら?
いい手が浮かばない今、飛行船から聞こえた「火炎球をぶちかませ!」との言葉が、自分に言われたように思えてくる。
それに、今まで使ったことのある攻撃魔法は氷槍か火炎球くらい。
氷槍が効かないとなると、残る攻撃魔法は火炎球しかない。
確かに山火事は心配だけど、他に選択肢がない。
何よりのんびり考えてる時間もない。
私はイメージを新たに魔力を込め、右手に火炎球をつくりだす。
熱い。頰がチリチリと焼けるようだ。
「火炎球!」
ボスキンゲスカーデに向け発射。
火炎球はヒュンと猛スピードで尾を引きながら飛んで行き、すぐにブバババァーンと着弾音が鳴り響く。
爆音とともに視界が遮られるほどの黒煙が上がる。
うわっ、大変!
森から火が上がったのだ。
すぐさま放水。
全力の水魔法で鎮火にあたる。
消防士も顔負けの水量での放水。
念のため火炎球はそこまで火力を上げていない。
最大限の火力にしなくて良かったよ……。
「なによ……」
火が収まり黒煙も晴れると、無傷のボスキンゲスカーデが目に映った。
あいかわらず不気味に発光して、何もなかったかのように戦況を睥睨している。
火炎球も効かない……。
どうしよ……。
お読みくださりありがとうございました。
「あぶないイオン」が終わりませんね…。
もう少しだけお付き合いくださいませ…。




