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第六十六話「あぶないイオン」

 


「イオン大丈夫?」

「だ、大丈夫よ……」


 前を行く銀一が心配そうに私に声をかけてきた。

 私がふうふう言いながら歩いているからだろう。

 昨日は日没まで歩き通しだったから、それなりに疲れが残っていたんだけど、理由は明らかに違うところにある。


 ちょっと食べすぎた……。


 河豚《シーラスカイマン》のお刺し身が美味しくて、レムの手《フライパン》に盛られたお刺し身を二回もお代わりしてしまった。

 お代わりするくらい美味しく食べられたのは、なんと言ってもお醤油のおかげ。


 アレは血なんかじゃない。


 うん。あくまでもお醤油。


 残ったお醤油はもったいないので、土魔法で小さなお魚のお醤油入れを作り、それに入れて携帯している。

 もちろん冷凍済み。

 お魚のお醤油入れは、弾力を保ちながら極限まで薄くした上に、顔やウロコとかの造形にこだわったので、思いのほか時間と魔力を使った。

 ただ、そのおかげで可愛くできたし、なによりお魚のお腹を押すことによる吸引が可能になったのが大きい。

 最初に作ったやつは、肝心のお醤油を中に入れられなかったからね……。


 今、バッグの中に23個入っている。

 笑いが止まらない。

 これで料理のレパートリーがぐんと増える。

 この森でのサバイバル料理にも潤いを与えてくれるはず。


 そして、ここまでお腹がいっぱいの理由は、お刺し身を食べすぎただけではない。

 それは嬉々としてお魚の容器をバッグにしまっていた時、バッグの中で小さな巾着袋を見つけたことから始まった。


 その巾着袋は、以前ジャーナイルさんが温泉に入り行く私にくれたものだった。

 そう。迷宮に転移してしまった日のことね。


 あの時は、なんか木ノ実みたいなのが入ってるな、とは思っていたけど、袋を開ける前に迷宮へ転移してしまったから、袋の中身を確かめていなかった。

 そしてそのままその存在を忘れてしまっていた。


 それを思い出した私は早速巾着袋を取り出し、紐を解いて中身を出してみた。

 木ノ実だと思っていた中身は、コロッとふっくらしたそら豆みたいな豆だった。

 色もそら豆色のグリーンで美味しそうな見た目。


 そして、お刺し身をたらふく食べたばかりにもかかわらず、美味しそうだったので思わず一つ食べてみた。

 これがポリポリした食感で味は甘納豆みたいに甘く、思いのほか美味しかったのよ。

 まさに食後のデザートに最適。


 そして思わずもう一つ食べようとした時、「それ、ヤンズーだから一つにしといた方がいいよ」と、銀一に注意されたの。

 ただ、甘いものは別腹。

 私は銀一の忠告もお構い無しに、もう一つ口に放り込んでから袋を縛った。


 そして巾着袋とレムをバッグに入れ、呆れ顔の銀一の後に続いて歩き出した。


 ちなみにバッグの中身は、レムとそら豆の巾着袋、お魚のお醤油入れ23個に、手拭いと下着、いくらかお金が入った巾着とアダマーレムの目の魔石が二つ。

 魔石は私から渡すことになったので、王都まで私が持っていることになったのよね。


 ポリポリとした食感を楽しみながら歩いていると、徐々にお腹が苦しくなってきた。

 それはもう今まで経験したことのない満腹感。

 ただ、少し筋肉痛気味だった足は全く痛みを感じなくなって、お腹とは裏腹に足の運びはすこぶる調子がいい。

 お腹が満腹を通り越して苦しいだけなのだ。


 ヤンズーとはヤンと言う植物の種らしく、銀一が言うにはヤンズーを一粒食べれば、一日何も食べなくても平気なくらい腹持ちするとのことだった。

 それに疲労回復の効果が抜群にあって、旅の携帯食や兵糧はもちろん、何かあった時のため常備食として最適なんだと。

 そんなヤンズーを私はお刺し身を食べた上に二つも食べてしまった。

 それはそれはリバース寸前の満腹感。

 度を過ぎた満腹感って、死ぬほどの空腹感より苦しいかも……。


 そのくらい苦しい。


 ただ、お腹以外はすっごく調子がいいからタチが悪い。

 座って休んだら逆に苦しいし、寝転んで休んでも苦しさは歩いているのと変わらない。

 そんな訳で、どうせなら先に進んだ方がいいとので歩いている。

 ふうふう言いながらだけど、昨日よりハイペースで歩けてる不思議。


 ただお腹が苦しい。


 ヤンズーは一日一粒まで。


 これだけは頭にしっかりと刻んだ。


「気をつけてイオン、また来たよ!」

「またぁ……」


 今日は魔物の襲撃がことのほか多い。

 昨日も大型の蚊みたいなマクドーキや、特大のヒルみたいなダァーサって魔虫がわんさか出てきたり、ネコサイズのリスみたいなビッキマンや、極端に下顎が突き出たイノシシみたいなキンゲスカーデって魔獣が襲ってきたんだけど、今日は魔物との遭遇回数が半端じゃなく増えている。

 銀一が捕まえてきた、シーラスカイマンがいた川を越えてからが如実で、その他にライオンのようなフサフサな鬣《たてがみ》を持った陸亀のアートネートルや、黒豹に翼の生えたビヒートヨーダって凶暴な魔獣が現れ、魔虫や魔獣の魔物との接触が激増している。


 ちなみにマクドーキは極小の火炎球《ファイアボール》をスプレー放射、それ以外は基本的に大小の氷槍《アイスランス》で対処してきた。

 火炎球《ファイアボール》の方が命中精度が高いし、範囲も広くて楽なんだけど、なんせ森の中だから極力控えているのよね。

 氷槍《アイスランス》だと、仕留めた魔物の死骸に群がる魔物も出てくるので、いちいち土魔法で埋めに行くのが手間なんだよね……。


「あの速さはアートネートルだと思うよ?」

「あのフサフサの亀さんね……」


 あのフサ亀が一番厄介なのよ。

 体長が2メートルくらいあるわりに、今まで出てきた魔物の中で一番動きが速い。

 しかも甲羅がめっちゃ硬くて氷槍《アイスランス》を弾き飛ばしちゃうから、ピンポイントで頭を狙わなくちゃいけない。

 でも動きが速くて狙いが定まらない上に、当たったかと思ってもヒュッと甲羅の中に隠れちゃうから、さっきはかなり苦戦したんだよね。

 最終的にはフサ亀が首を伸ばして噛みつきにきたところに、口の中へ氷槍《アイスランス》を撃ち込んで仕留めた。

 あの時は氷槍《アイスランス》を放つ手のすぐ先、20センチくらいのところまでフサ亀の口が迫っていた。

 本当にギリギリだったんだから……。


 でも、私は既にフサ亀の攻略法を見出している。

 さっきの戦いで完全にフサ亀の攻撃パターンを読み切ったのだ!


 フサ亀は確かに速くて甲羅がめちゃ硬い。

 でも、最終的には首をにょーんと伸ばして噛みついてくるしか攻撃方法がないのよね。

 そう。フサ亀は噛みつくしか能がない。

 だったら、どうせ氷槍《アイスランス》は当たらないんだし、にょーんと来たところを見計らって、ズバーンと特大の氷槍《アイスランス》で頭を撃ち抜けばいいのよ。


 そう。待てばいいのだ。


 私ってばマジ軍師!


「来たよイオン! さっきみたいに氷槍《アイスランス》を連射して!」

「いや、待つのよギギ」


 フサ亀はシュパパパバパっと葉音をたてながら、猛スピードで木々をすり抜け駆け回っている。

 一定の距離を保って牽制しているんだと思う。

 この後に徐々に距離をつめてきて、鋭角に進路を変えた瞬間のにょーんが、フサ亀の攻撃パターン。


 これがわかっていれば無闇に氷槍を連射するよりも、進路を変える瞬間だけに集中して、瞬時に氷槍を発射した方がいい。

 その方が余裕ができるから、あそこまでギリギリにならなくて済むし、確実に当てることができる。


「イオン、氷槍《アイスランス》を早く撃たな…」

「いいから待つのよ!」


 私はフサ亀から目を離さずに銀一を手でせいした。

 もう少し近づいてから急激に向きを変えるはず。

 その瞬間が勝負の分かれ目、フサ亀の最後の時よ。

 あいかわらず距離を置いて牽制走りをしているフサ亀。


 にょーん!


「あぶないイオン!」


 え?






ここまでお読みくださりありがとうごさいました。

やっぱり…と、サブタイトルを予想されていたお方もいることでしょう。

でもアレは、あくまでセリフからきてます。

セリフからきてるんだからねっ!!

そしてクイズです。

次のサブタイトルはナンデショウ??

もうバレバレですねww


いやいや。

ブックマークしてくださった方々、ありがとうございます。

感想もいただけて感謝です。

ブックマークがまだのお方はこの下に…ッ!!

いや、お読みくださりありがとうございますww

これからもどうぞ宜しくお願いします!

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