第六話「聞くべきことは聞いておく」
良くわからないうちに異世界での宿が決まった。
これは何よりも喜ばしい事なんだけど、ルークさんのペースで話が進み過ぎていて、未だに聞きたい事が聞けていない。
いや、挟む余地がない。
私もかなりの妄想癖だと自認しているけど、このルークさんには敵わない。
次から次へと勝手に私の境遇を創作して行くのだ。
主に例の冒険者の話を織り交ぜながら進むファンタジー。
見事なまでのストーリーテリングだ。
そうなのかも。と、思わずその気になってしまうこと度々。
しかもとてもユーモア溢れる語り口なので、ついつい聞き入ってしまう。
今ルークさんから洗剤とか勧められたら、確実にセットで買ってしまうだろう。
それはさておき、この喋りにこのイケメンぶりを思うと、さぞやおモテになったのだろうな。ルークさん。
頬の傷もワイルド言えばワイルドだし。
ル:「この傷はお前の為につけたようなもんだ」
お前:「それってどう言う意味なの?」
ル:「決まってるだろ? 他の女に惚れられて言い寄られでもしたら、断るだけでお前と過ごす時間が減っちまうじゃねぇか」
お前:「ッ!!」
なぁんてね。それとか、
ル:「この傷を触らせるのは特別な女だけなんだ」
特別な女候補女:「それって私が特別ってこと?」
ル:「決まってるだろ? お前を特別と言わないで誰が特別なんだい?」
特別な女認定女:「ッ!!」
とかとか、
ル:「傷ってもんはな、時が経てば全く痛まなくなるもんだ。だが、俺にお前と言う傷がついちまったら、俺はもうその痛みを…
「……で、たまにこのオミニラーデ使って確認するといいぜ」
キター!
リア充ルークさんを妄想してたら、突如救いのキーワードが飛び出した。
あの石を持ちながらのオミニラーデ。
あの魔道具の名前に違いない。
「それ、オミニラーデって言うんですね?」
「ああ。とは言え、こいつはブラッケンストーン製なんで、そんじょそこらのオミニラーデと違うがな? って言っても、イオンはオミニラーデ自体覚えちゃいねぇんだから、言ってもわからねぇよな?」
そう言ったルークさんは可笑しそうに笑う。
覚えてるとか以前に全く知らないんだけど。
勝手に私を記憶喪失認定してるから、しょうがないんだけどね。
「それって名前の他にどんな事がわかるんですか?」
「普通のオミニラーデは、種族や名前、性別に年齢、職業に魔力量と言ったところだが、こいつは凄えぜ。その他に潜在寿命や潜在使命、潜在魔力量なんてのもわかるんだぜ? それに、面白ぇ事に運命の人ってのも出て来るんだ。庶民は別として、王侯貴族なんかは、こいつで跡取りや正妻なんかを決めてたりするんだぜ?」
スラスラと答えてくれるルークさん。
やはり運命の人がわかるんだ。
でも、どのくらい信憑性があるんだろう。
「それって、どのくらい正確なんですか?」
とりあえずそこのところを聞いてみる。
「まあ、あくまでも潜在的に持っているものなんで、特に寿命なんかはズレが大きいな。戦や流行病なんかで早死する者も多いからな。そんなもんだから王侯貴族が跡取りを決めるんでも、明らかに短命な子供は別として、こいつに出る寿命はそう重視しねぇくれぇなんだよ。それにくらべ、使命や魔力量はそうズレがねぇ。だからこいつで使命や魔力量を見て、それに見合った育て方をして行く感じだな。まあズレがねぇのは、そんな教育の賜物かも知れねぇがな?」
いやいや、寿命とか魔力量とかいいから。
運命の人のところが知りたいんですけど。
「運命の人って…」
「それな?」
私が言いかけたところで、ルークさんは被せるように言ってニヒヒと笑った。
そして「お前くれぇの年頃の娘は、やたらと食いつくんだよな…」と、呆れたように言ってから、笑みを引っ込めた真剣な眼差しで私を見てくる。
肌が白く髪の毛も白いルークさんの瞳は淡いグレー。
整った顔立ちに全体的な色素が薄いせいか、急にこんな真剣な顔をされると神秘的にすら感じる。
私は何やら神のお告げを待つ心地になりつつ、ルークさんの次の言葉を待つ。
「ほぼほぼ間違いない」
ついに神はおっしゃられた。
私の顔が神託によってパァっと明るくなったところで、ルークさんは可笑しそうに笑い言葉を続ける。
「しかし、あれは途中で変わったりするんだよ。相手が死んだり、他により強い運命で繋がった相手が生まれて来たりと、考えられている理由は様々だが、とにかく変わるんだ。そんな訳で、間違いようがないと言えばそうなんだが、大抵は当たっているみてぇだな。だからと言って、こればっかりは本人の意志もあっての事だから、余程格式の高い家じゃねぇ限り、その通りにくっつく訳じゃねぇ。やはり運命の人ってぇのは、あんなもんに決められたくねぇしな?」
なんだか微妙な言い回しだったけど、過去のデータもありそうだし、それなりに信憑性はあるらしい。
【運命の人:井伊加瀬航平】
またさっきの石に浮かび上がった文字が脳裏に浮かび、またまたドキドキして来た。
なんせ井伊加瀬航平。密かに憧れ続けていた先輩の名前だ。
ちなみにあの石に出て来た情報はこう。
名前:稲田依音
種族:人間族
性別:女
年齢:16歳
職業:学生
魔力:12
潜在寿命:87歳
潜在使命:勇者(助手)
潜在魔力:82756000
運命の人:井伊加瀬航平
名前のところには、こっちの文字であろう柄がマークのように入っているけど、ちゃんと稲田依音と、日本語でも書いてあった。
ところどころ突っ込みどころがあるにしても、何よりも運命の人のところが眩しく光って見えた。
本当、なんで! って感じよ。
それに、ルークさんの話には聞き捨てならないキーワードがあった。
『相手が死んだり』
先輩は死んでないんだ。
私の巻き添えをくってトラックに跳ねられてはいないのだ。もしくは接触があったとしても、命に別状はなかったのだ。
私だって死んでないのかも知れない。
死んでないからこそ、あの石に情報が出て来たって事も考えられる。
もしトラックに跳ねられていても、命を取り留めているのかも知れない。
もしくはトラックに跳ねられる直前、その瞬間に転移したとか。
とにかく、あの石に出て来た情報は名前以外日本語だったのだ。
これにはそうした生死に伴う意味があるのかも知れない。
あの小学生、私は死んだって言ってたけど、あれは嘘だったのだろうか?
もし嘘だったとしたら何であんな嘘つくんだろう。
しょうもない嘘つきやがって。
くそガキめ!
『いくらなんでも、くそガキは酷いじゃろう? それに本当に死んどるぞ、お主』
「……!!」
再びあの小学生の声が私の脳内に響き渡った。