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第五十八話「満腹」

 


「ちょっとギギやめなさいって…」

「あ……」


 レムを前足でチョンチョン小突いていた銀一からレムを取り上げた。

 あじゃないわよ、あじゃ……。

 レムはもうチカピカボールじゃないっつの。


 銀一をひと睨みして急いでレムに魔力を注入する。

 魔力を込めた瞬間、魔素が爆発したように一気に私の体内を駆け巡る。

 そしてドカッと大量にレムへと放出されていく。

 まるで恵の雨を待ち望むカラカラの大地のように、レムの体が私の魔力を吸い込んでいく。

 放出しているはずなのに吸引されている感覚。


「イオンっ」


 銀一が心配顔で声をあげる。

 短時間で大量の魔力を消費したせいか、思わずふらついてしまった。


 それにしてもこの魔力消費量は半端じゃない。

 気持ちいいを通り過ぎて頭が真っ白になりかけたよ。

 手なんか魔力行使の余韻で震えてしまっている。

 レムを作った時の総魔力に勝るとも劣らない魔力が、一気に放出された感じだった。


「…ン、オカ、ゲ、レム、イオ、ン、カン、シャ」

「おっ、レムが復活した!」


 銀一がぴょんぴょん飛び跳ねて喜んでいる。

 瀕死のレムで遊んでたくせに……。

 でも本当よかったよ。

 それにしてもやっぱり魔力切れが原因だったみたいね。

 これからは毎日のように魔力を注入してあげなきゃね。


「レム、もう大丈夫?」

「レム、イツ、モ、ダイ、ジョブ、イオ、ン、ケイ、ビ、スル」


 レムには魔力切れの自覚はないのだろうか。

 なんか淡々とし過ぎててわかりにくい。

 自己申告が難しそうなので、ちゃんと私が見ててあげなきゃダメみたいね。


 まあ今の魔力消費にはびっくりしたたけど、前もってわかってれば気持ちいいはいいから、全然苦にならないけどね。

 これからはレムへの魔力注入は日課にしよう。

 スマホを充電するみたいにね。

 朝起きたらバッテリーの残量が一桁とかあり得ないし。

 てか、レムとスマホを一緒にしたら可愛そうよね…。


 あれ?


 レムの目から光が消えて、また動かなくなってしまった。

 まだ魔力が足りなかった?


「レム?」

 ーーコンコン


 私がレムに声をかけたのと同時に扉をノックする音が聞こえてきた。


「イオン、今から会議室に来てくれる?」


 ニーナさんだ。

 と、手に持っていたレムの目がピコピコ点滅した。

 まるでウィンクしてるみたい。

 ニーナさんが来たからフィギュアになったってことかしらね?

 そうだとしたらレムは人の気配に敏感よね。

 ちゃんと警備してくれてるんだね。


「ありがと、レム」


 小声で言うとレムはまた目をピコピコ点滅させた。



 >>>



 ニーナさんに続いて部屋へ入ると、ふんわりいい香りがして、自分がお腹空いていたことに気づかされた。

 テーブルの上にはすっかり見慣れたカーニャロウズ。

 ご飯でも食べながらお話しましょうってことかしらね?


「そこに座ってくれ、イオン」

「あ、はい……」


 ただ、会議室は何かピリピリしていた。

 難しい顔した御子息くんに、ルークさんもジョシュさんもしかめっ面。

 ニーナさんは私を迎えに来た時から無表情で、なんか逆に怖い。


 この場にジーニャさんがいないってことは、きっとまだ誤解が解けていないのだろう。

 そして話というのは、もちろんジーニャさん絡みなはず。


 それにしても、席について2、3分は経ってると思うんですけど……。


「えーと……。これ、食べないんですか?」


 たまらず聞いてしまった。

 だってみんな黙ってるだけだし、何より料理は冷めたら美味しくないしね。


「クックックック……。そぉ〜うだよなぁ〜? メシを前に黙りこくっててもしょうがねぇよなぁ? さぁあみんな、冷めねぇうちに食っちまおうぜぇ〜?」


 込み上げるように笑ったジョシュさんが、おちゃらけた感じでみんなを見回しながら言い放つ。

 そして大袈裟な仕草で、スプーンの柄を食サンロールに突き刺した。


「それもそうだな? 食っていいぜ、イオン。フフ、もう食い方わかるよな?」


 ルークさんもジョシュさんに毒を抜かれたみたいで、いつもの調子に戻って軽口を言いながら食サンロールを手にとった。

 でもそうだよね。

 ルークさんに食べ方教えてもらわなかったら、これが美味しそうな匂いに感じなかったもんね……。


「何言ってるの、ルーク。今じゃイオンは名料理人よ?」


 幾分表情が和らいだニーナさん。

 こうでなくっちゃね。


「どう言う意味だニーナ?」

「ああ、ヴィンツェントさまはご存知なかったですか。イオンはギルドの定食屋で……」


 ニーナさんが御子息くんに自慢げに説明している。

 なんか照れるけど、やっと張り詰めた空気が解けてホッとする。


 私も早速いただこう。


 ブスリとスプーンの柄を食サンロールに突き刺し、小さめに千切った食サンロールをスープに浸す。


「にゃ〜」


 まずは相棒ファースト。

 肩の銀一が嬉しそうに喉を鳴らす。

 そして私も一口。


 うん、美味しい。


 しかしカーニャロウズは簡単だし、特に食サンロールは日持ちするから船旅には最適なんだろうけど、ずっとだと飽きるな……。


 思わず先の心配をしてしまう。

 ま、贅沢は言えないわよね。

 陸路だったら味気ない食事が当たり前だったんだろうし、それが役半年も続くことを考えたら今の状況は贅沢極まりない。

 あらためて御子息くんに感謝しなきゃだわね。


 などと考えながら銀一と分け合って食べてたら、あっという間にお腹いっぱいになった。


 うん、幸せ。


「じゃあ、そろそろ話すとするか?」


 そうだった。

 ジーニャさんの話があったんだ。



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