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第五十五話「秘密」

 


「それにしても不思議よね…」

「なにが不思議なのニャ?」

「あぁ…この飛行船が飛行石で飛んでるってことです…」


 私とジーニャさんはシリさんの船内ツアーを終え、デッキ的な船体の中間層に戻ってきて流れる景色を眺めていた。

 ここは比較的天井も高い上、唯一360度の景色を眺めることができる。

 今は地平線のように雲が広がり、ところどころに山が見えている。

 絶景と言えば絶景で、原理を考えるとまさに絶叫風景。


「こんな大きなモノをどうやって飛行石以外で飛ばすのニャ? やっぱりイオンは面白いこと言うのニャ?」


 こっちの常識ではそうなるのね……。

 ま、だったら心配することないのかな?

 これからは飛行石を飛行石ボーイングと呼ぼう。

 うん、なんか安心できる。


「でも、ジーニャさんは本当に良かったんですか?」

「なんのことニャ?」

「なんのことって…王都行きですよ? なんだかんだ言って、この飛行船でも往復で二週間以上かかるんですよ? ジーニャさんは冒険者なんですよね? なにか依頼とかなかったんですか?」

「アハハ、そんなことニャ? イオンと一緒に行くのは当然なのニャ。それにパーティメンバーと一緒なら、依頼は王都でも何処でも受けられるニャ。やっぱりイオンは面白いこと言うのニャ。それと、仲間なんだからジジでいいのニャ」

「……………」


 ジジって呼ばせてくれるのはありがたいんだけど、相変わらずパーティメンバー認定されてるみたい。


「群れに入れてあげてもいいけど、ジジはレムの下だよ?」

「レムって誰なのニャ?」


 いきなりレムが出てきたら気になるよね……。


 銀一は何故かジーニャさんとは話ができるのよ。

 それにしても銀一、もし誰とでも話ができたら、この調子で何でもペラペラ話してしまいそうだよ。

 レムには目立たないよう注意してたくらいだから、その辺のことはわかってるはずなんだけど……。


「昨日イオンが作った高位のアダマーレムさ?」

「ギギっ!」

「凄いのニャ!! そのアダマーレムは何処にいるのニャ!?」


 私の声でヤバっみたいな顔をする銀一。

 秘密なのはわかってて単に忘れてたみたい。

 頼むよ相棒……。


「い、いや、アレは……ッ!! 夢だったかも! そうだよ! 夢で見たんだった!!」

「…………で、何処にいるのニャ?」

「いや、何処って言われても………」


 もう遅いよ、銀一。

 それにジーニャさんは、もう銀一の言い訳は耳に入ってないし。


「でもアダマーレムじゃないんですよ? アダマーレムに似せて作ったゴーレムなんです」

「でもアダマーレムって銀一が言ってたニャ?」

「あれはギギが勘違いしてるだけで、本当にゴーレムなんですって…」

「でも高位のアダマーレムって言ってたニャ。どう言うことニャ?」

「…………」


 ジーニャさんは追求を緩めない。

 もう銀一の厳しい夢のくだりは無に等しいのだろう。


「わかりました。じゃあお見せします……」

「やっぱりいるのニャ!」


 もう見せるしかない。

 そしてジーニャさんには黙っててもらおう。


「でも動いたりしゃべったりなんかしませんからね?」

「そうなのニャ?」

「ええ。動いたりしゃべったりなんかしません!」


 私はバッグの中のレムに向けて二度同じことを言ってみる。

 これだけ念を押しておけば、レムはきっとフィギュアを演じてくれるだろう。

 あとは真面目なレムに頼るほかない。


「こ、これ………ニャ??」

「これです」


 斜めがけバッグからレムを取り出して、ジーニャさんへかざして見せる。

 まさに期待はずれを絵に描いたような反応のジーニャさん。


「で、でもこの目は綺麗なのニャ…」


 確かに褒めどころに困るわよね……。

 男の子だったらもっと食いつきが良かったかも。

 レムは私の思いが通じたようで、ジーニャさんの手の中でフィギュアになりきってくれている。


「そ、それにしても、イオンはしゃべるゴーレムを作れるのニャ?」

「作れ…」

「ゴーレムってしゃべったりするんですか?」


 銀一を抱き上げながら逆に質問を返す。

 そしてさりげなく胸で銀一の口を塞いどく。


「なんでニャ? イオンが動いたりしゃべったりって言ったのニャ?」

「そ、そうでしたっけ?」


 墓穴を掘ったっぽい……。

 でもアレはレムへのメッセージだったから仕方ないか。

 ここは惚け通すしかないだろう。


「言ったのニャ。賢者の石でも埋め込まない限り、ゴーレムがしゃべることなんてないから驚いたのニャ。だから聞き間違えるはずないのニャ?」

「そ、そうなんですね……。ただ私は記憶を失くしているので、そう言うことがわかってなかったんですよ…」


 我ながら苦しい言い訳よね。

 言葉を発する度にボロが出そうだし…。


 それにしても賢者の石って……。


 あのチカピカボール??


「そうなのニャ……」


 絵に描いたようながっかり顔でレムを返してくるジーニャさん。

 ちょっと可哀想だったかも。


 と、思った瞬間。


「ごめん、なのニャ!!」

「ッ!!」


 目にも留まらぬ速さで剣を抜いたジーニャさんが斬りかかってきた。



<<<



【ルーク視点】


「おい、間者がいるかも知れねぇって、どう言うことなんだ!?」

「ルークっ」


 思わず声を荒げてしまった……。

 ニーナに袖を引っ張られて、知らぬ間に立ち上がっていた事にも気づいた。


「出発直前に王都より父上へ連絡が入ったのだ。これは未確認情報ではあるが、確証がなければ父上に連絡などすまい」


 しかしガキのくせしてヤケに落ち着いてやがるぜコイツ。

 取り乱した俺の方がよっぽどガキだな……。


 ヴィンツェントは乗船してすぐ、離陸したら話したい事があると言ってきた。

 そして離陸して気流が安定すると、ヴィンツェントはイオンを船内の案内へ行かせ、言葉通り俺のところへやってきたのだ。

 俺はニーナとジョシュにも同行を願い、ヴィンツェントの話を聞くことにしたのだ。

 なんせジーニャはイオンに着いていっちまったからな。

 今頃船内ツアー真っ最中ってところだ。

 相変わらずお気楽なヤツだぜ。


「お前の部下に裏切り者がいるって言うのか?」

「それは先ずない……と願いたい。とくにこの飛行船に乗り込んだ者たちは、信頼の置ける者ばかりだからな? ただ、念には念を入れて、イオンの寝泊まりするフロアは急遽我らだけにした」

「一体全体どう言ったことから、そのような間者の話が出て来たのですか?」

「そぉ〜うだぜぇ〜。そぉこんとこを聞かねぇことには、警護するにしても対策が絞れねぇぜぇ〜」


 ニーナとジョシュが言うのも尤もだ。

 すっ飛ばしちまったが、先ずはそこんとこを聞かなければな。


「王都よりアルギーレ家に不穏な動きがあるとの情報で、空賊に見せかけての襲撃も考えられる故、航路変更を打診して来たのだ」

「アルギーレ家と言えば前『運命人さだめびと』のエレン嬢の本家……」

「そうだ。ただ、我らが『運命人さだめびと』を伴い王都へ向かうことを知る者は、今のところ王都でも限られた者だけだ。恐らく殿下ですらご存知なかろう」

「こっちに情報を漏らした者がいると?」

「そう言う訳だ。間者がもしナッハターレ領内にいれば、父上が炙り出すことになっているのでじき報告が入ろう。航路は随時変更する故、父上とて与り知らぬ。なのでこの先は情報漏れはないと考えている」


 確かに早すぎる。

 俺たちがイオンに同行するのも、王都に到着してからの襲撃が心配だったからだ。

 王都の地理や情報に明るいジョシュを雇い入れたのも、偏にその為だったんだが……。

 それに、空の上で襲撃されちまったら護り切る自信がねぇ。


「ちょ、ちょっと待てよぉ〜。確かジーニャはアルギーレ家の剣術指南をしてたよなぁ?」

「なに!?」

「嘘でしょジョシュ、そんなの初耳だわ!」

「いや、俺も昨日聞いたのさぁ〜。も〜っとも一年くれぇ前に辞めたって話だがなぁ〜?」


 なんてことだ。

 もしジーニャが間者だったら?


 イオンが危ねえじゃねぇか!



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