第五十二話「新しい仲間」
「……え?」
「イオン、気をつけて!」
銀一が私とアダマーレムレプリカの間にサッと飛び込んできた。
レプリカは3メートルはないけど、やっぱり立つとかなり大きい。
思わず口を開けて見上げてしまっている。
「ナニ、スル、ゴシュ、ジン…」
「何する、ご主人って言ってるの?」
なんとなく危害を及ぼすようには見えなかったので、話してみることにした。
でも銀一は相変わらず警戒態勢をとっている。
頼もしい限りだ。
「ソノ、トオ、リ、ゴシュ、ジン…」
「私があなたのご主人ってこと?」
「ソノ、トオ、リ、ゴシュ、ジン…」
「……………」
機械的でいておっとりした低い音声にちょっと癒される。
ただ、私がご主人って……。
まあ、私が作ったんだからそうなるのか。
「わ、わかったわ。でも今は別にやる事ないのよ。あとは寝るだけだしね? それと、私のことはご主人じゃなくってイオンでいいわよ? そうだ、あなたお名前は?」
「イオ、ン、ネル、ケイ、ビ、スル、ケイ、ビ、スル、ナマ、エ、ナイ」
聞き取り難いけどわかるはわかる。
私の警備をしてくれるってことよね。
それにちゃんと私の言ってることが通じてるみたい。
それにしても名前がないのか。
やっぱり名前がないと不便よね。
もしかして、また私がつけていいのかしら?
ジーニャさんがいなかったら、今度こそ迷わずアノ名前をつけるんだけどね……。
そうだ、シャアとかはどうだろ?
いや、これ以上こじらせたくない……。
「じゃあ、あなたは今日からレムね? こっちは銀一。ギギって呼んであげてね?」
面倒なのでアダマーレムのレムにした。
「レム……ギギ……」
小首を傾げてるけど、わかってくれたみたい。
なんだか可愛く見えてくる不思議。
本物みたいにずんぐりむっくりのゴツゴツにしなくて良かったよ。
それにしてもこの子、どうしよう……。
だって、なんてったってデカイ。
一緒に生活するには無理がある大きさよね……。
迷宮ならまだしも街中では目立ち過ぎる。
可愛そうだけど一緒にいられないよな。
迷宮に逃がしてあげようかしら……。
「いいかレム、ボクはイオンの相棒だから、この群れの中ではお前はボクの下だからなっ」
「レム、ギギ、ムレ、シタ、ワカ、ッタ、レム、ギギ、ムレ、シタ」
「わかったんならいいよ。じゃあ、これからはしっかりイオンの警備をするんだぞ!」
「ハイ、レム、ケイ、ビ、シッ、カリ、スル、ギギ、シタ」
なんか話が進んじゃってるんですけど。
しかし銀一は群れの上下関係を重んじるみたい。
すっかりレムを下っ端あつかいしている。
って言うことは、銀一はレムを群れに迎え入れたってことよね?
それにしてもレムと群れがややこしい。
名付けて早々、安易に決めてしまったことを後悔してしまう。
でも、群れとかじゃないし。
ましてや最強の群れ長とか目指してないし!
それはさておき、やっぱりウチではこんな大きな子は飼えない。
拾って来た猫を元の場所へ返してきなさいって言った、お母さんの気持ちがわかった気がする。
ここは心を鬼にして迷宮へ逃がそう。
「でも警備するにしてもレムは大きすぎるからね…」
私が作っておきながら本当心苦しいけど、大きさを理由に迷宮へ逃がす方向へと話を向けてみる。
「あ、そうか。確かにね……。こんなデカイんじゃ部屋に入れないしね。それに、なんてったって部屋には相棒のボクがいるもんね!」
「そうなのよ。私にはギギがいるしね?」
銀一が乗っかって来てくれた。
レムには本当に申し訳ないけど、この筋で押し通そう。
実際、ギギがいてくれるので護衛はいらないっちゃいらないしね。
「レム、オオ、キイ、ダメ……」
「……………」
レムの顔は横スリットに黄緑色の目が光ってるだけで、無表情と言っていい顔なんだけど、やけに哀しそうな表情に見えてしまう。
罪悪感が半端ない。
自分で作っておいて始末に負えないから捨ててしまう……。
最低だよ、私……。
でも、どう考えても無理がある。
だからと言って、広告塔としてここにずっと立っててもらうのも、こうしてレムに意志があることを知ってしまうとどうかと思う。
って言うか、絶対に頼めない。
どうしよ……。
「レム、そう言えばボクたちは明日から王都に行くんだよ。王都だと建物も人も多いから、その大きさだと足手まといになっちゃうな。だからやっぱり警備は無理っぽいかな……。そうだ、たまに魔力強化で迷宮に行くと思うから、その時だけでも群れに入る?」
いやいや、たまにでも迷宮なんかに好き好んで行かないから。
でも、確かに迷宮とか危ないところへ行くんだったら、レムがいてくれると心強いかもね。
いや、そんな都合よくレムを使ってはいけない。
中途半端に拘束するより逃がしてあげた方がレムにとって幸せよ。
「やっぱり、ここでお別れしてレムは迷宮へ……ってレム!?」
「レム、チイ、サイ、ダメ?」
レムがみるみる小さくなっていく。
なにコレ……。
レムはどんどん小さくなって、500mlのペットボトルくらいの大きさになってしまった。
もちろん銀一より小さい。
なによ、コレ……。
「レム、チイ、サイ、ダメ?」
ちょう可愛い。
声まで高くなって、ちょう可愛いんですけど!
てか、レム凄い!
「ダメじゃないよダメじゃ。それにしても大きさを変えられるなんて、レムは凄いのね?」
「ダメ、ジャ、ナイ、レム、ヨカ、ッタ…」
ピコピコキラキラと目を点滅させるレム。
オモチャみたいでちょう可愛い。
これなら誰の邪魔にもならないし、全く問題ない。
良かったぁ……、ほんっとうに良かったよ。
あの捨て猫を元の場所へ戻しに行くのって、本当、すっごく辛いんだよね……。
「じゃあ、これからレムは群れの仲間だな? しっかりやるんだぞ!」
「レム、ムレ、ナカ、マ、シッ、カリ」
王都行きを明日に控えた夜、新しく可愛らしい仲間が増えた。
ただ、決して群れではないけどね。




