第五十一話「楽しいものづくり」
「ねぇイオン。それって明日じゃダメなの?」
「ん? だって明日は王都へ出発するのよ? だから今やっておかないと……」
銀一と話しながらも魔力を最大限に込める。
土魔法で砂粒くらいの塊を作り出し、それを硬度を上げながら大きくして、アダマーレムのパーツを形成しているのだ。
場所は定食屋の洗い場。
銀一はヴィッギーマウスの襲撃に備えて見張りをしている。
でもヴィッギーマウスは洗い場に着いてすぐ一匹仕留めたけど、それからは全く襲撃がないので、銀一は相当退屈してるみたい。
確かに退屈して当然なんだけどね。
だって、魔力を無駄に使って硬度を上げているせいか、形になるスピードが超ゆっくりなのよ。
砂粒から角砂糖くらいの大きさにするのに2分くらい、角砂糖からミカンくらいの大きさにするのに5分くらい。
大きくなるにつれ、時間と大きさの比率は違ってきてるみたいだけど、とにかく時間がかかる。
やっている私は、集中しているし魔力を大放出しているせいか、ふわっとした気持ち良さがあるので苦にならない。
だけど、側から見ている銀一はこんなの退屈でしかないはず。
それにしても、ここへ来てかれこれ一時間近く経っていると言うのに、まだ片腕の途中なんだよね。
腕はビヨヨヨーンって伸びる蛇腹式にしているので、なおさら時間がかかるのかも知れない。
イメージとしては、ずんぐりむっくりだったアダマーレムをスマートにする感じ。
えーと、アダマーレムだと絵が浮かばない?
そうね、ラーなピュタさんのアレでソレな感じと言えばわかるかしら……?
まあ、コツがつかめて来たのか、少しは早くなっているんだけど、それでもかなりの時間がかかる。
ただ、最初は人を呼ぶ為に実物大ガン◯ムくらいの大きさにしようと思ったけど、実際に始めてみたらあまりにも時間がかかるので、六分の一モデルくらいにすることにした。
要は実物大アダマーレムレプリカ。
アダマーレムを細身にした、スタイリッシュバージョンだけどね。
でも、今となってはもう少し小さめに下方修正しようかと思っている。
徹夜とか嫌だしね。
それに寝ないとブスになる。うん。
「ってことは腕の長さはこのくらいでいっか…」
「ってことは本気で完成させるつもりなんだ……」
思わず出た私の呟きに、銀一がすかさずうなだれながらのリツイート。
どうやら末期的に暇らしい。
かまってあげたいのは山々だけど、それこそそんなことしてたらいつまでたっても終わらない。
こんな所に作りかけの腕だけ落ちてたら、不気味でしかないわよね?
集客どころか客足が遠のいてしまう。
可哀想だけど銀一にはもう少し我慢してもらおう。
とは思いつつも銀一は大切な相棒だ。
そんな大切な相棒のために魔力を込める。
砂粒くらいの塊がみるみるテニスボール大の塊に。
カキンカキンの硬度は求めていないので、あっという間にできた。
ただ、ここからが本番。
できあがった丸い石を磨きにかけるイメージで更に魔力を込める。
徐々に表面が滑らかになりツルツルになっていく。
照明として浮かべていた火炎球に反射してピカピカ光りはじめた。
「あ、なんか綺麗だね!」
銀一の食いつきに満足しながらも更に魔力を込める。
ここからが大事なところなのだ。
イメージはダイヤモンド。
ピカピカな球体の表面に、直径2ミリくらいの小さな穴を、ラウンドブリリアントカットの形状で無数に凹ませていく。
でも、一つ凹ませる毎にラウンドブリリアントカットをイメージしながらの魔法行使は、思っていたより大変で、なにより時間がかかる。
これでは本末転倒よね……。
なので思いつきを試してみることにする。
「できた……」
複製するイメージで倍々に凹ませたらあっという間だった。
なかなかの出来栄えに思わず笑みがこぼれてしまう。
そして、早速できあがった球体を銀一の足元へと転がすと、球体は火炎球の光に反射しながらチカチカキラキラ転がっていった。
「おぉぉおおお〜、なにコレっ!」
お気に召したみたい、銀一。
前足でチョンチョン小突きながら、チカチカキラキラ輝く球体を楽しんでいる。
左右の前足でチョンチョン、チカチカキラキラ、チョンチョン、チカチカキラキラ………
うん、暇は潰せそうね。
右へ左へ大袈裟に飛び跳ねたりしながらチョンチョンやってる銀一、もうすっかり夢中になっている。
なんだか達成感が半端ない。
そして、高揚感も半端ない。
だって閃いてしまったのだ。
その閃きを今から試すのだ。
早速さっきのアダマーレムレプリカの腕に手を添える。
そして最大限に魔力を込める。
ゴゴゴゴゴーって音が聞こえて来そうなくらい、私の体内で魔素が暴れている感覚。
それが堰を切ったように一気にレプリカの腕へと流れだす。
対象物が今までより大きいせいか、毎秒あたりの放出魔力量が半端ない。
魔力で手が持っていかれそうになる。
でもドバドバとを魔力を消費するこの感じ、癖になりそう。
「あ……」
やっぱり思った通りだ。
腕がむくむくと脱皮するように膨らんでいく。
ゆっくり分身してるみたい。
やっぱり複製できるってことね。
さっきのチカピカボールを作った時に思いついた複製魔法を、こっちでも試してみたのだ。
蛇腹式の腕のパーツを作っていた時、最初の砂粒からパーツの大きさになるまでは、やけに時間がかかったけど、次の節のパーツは半分くらいの時間、その次も同じく半分くらいと、最初と比べて作業が早くなっていた。
あの時はコツをつかんだのかと思っていたけど、今思えば「このパーツをもう一つ作らなきゃ」って考えながら作っていたと思う。
知らず知らずのうちに複製のイメージで作っていたのだ。
「できた……」
ものの5分くらいだろうか。
パーツを一つ作るくらいの時間で、もう片方の腕ができてしまった。
その代わり消費魔力はケタ違いだけど……。
でもコレ、便利。
足もこの調子で腕を利用して作ろう。
腕の半分くらいの長さで蛇腹式のパーツのみを複製してみる。
ドバドバ魔力を消費しながら、あれこれアレンジすること10分くらいだろうか、片足ができあがった。
私ってば天才!
恐ろしいほどの効率化に成功したよ。
まずはできたばかりの足の複製をするにして、胴体部分も半身を作ってから複製しよう。
複製魔法ってば便利!
しかも、私にとっては消費魔力のドバドバ感が気持ちいい。
まさに一石二鳥の魔法よね、複製魔法。
どんどん行きましょ!
否応無しにテンションが上がってしまう。
足に手を添えて魔力全開、ドバっと魔法を行使する。
イメージしたものが形になるって楽しい。
それに、なにより魔力消費が気持ちいいんだよね。
本当に癖になりそうだよ……。
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「えっ、もうできたの?!」
できあがったアダマーレムを眺めていたら、銀一が素っ頓狂な声をあげた。
確かに早いと言えば早いけど、それでも二時間近く経ってると思うんだけど……。
逆に今の今まで、できあがりに気づかない方がおかしい。
チカピカボールに夢中になりすぎだよ、銀一。
「あ、それ……」
私がチカピカボールを拾い上げると、銀一が寂しげな声をあげた。
どんだけ夢中なのよ……。
「これはね……」
と、私は地面に寝ている巨大なアダマーレムレプリカの顔に近寄り、
「こうするのよ」
チカピカボールを顔の窪みにはめ込んだ。
私は顔の横長のスリット部分、アダマーレムの目のところを丸く窪ませていたのだ。
これはアダマーレムの頭部を作る時に思いついたのだ。
本物は目がマゼンダピンクに光ってたので、この子の目も光らせたいな、と。
その時にチョンチョンやってる銀一が目に入ったのだ。
アレだ! ってなるでしょ?
ちなみに某モビルスーツのアレを思い出して、アダマーレムにはないツノみたいなカッコいい突起物を額に生やしている。
専用機だ。
「って、ちょっと大きさが合わなかったわね……」
窪みが小さかったみたい。
顔のバランスを考えると、チカピカボールを小さくした方が良さそうだ。
そう言う訳で、チカピカボールをもう気持ち小さくすることとする。
ついでに本物のように発光するイメージもしてみる。
魔法行使。
ドドドドドドドドバァァアアアアアアアア!!
と、魔素が大放出された。
消費魔力が半端ない。
今まで大量の魔力を使って複製魔法を行使していたせいか、さじ加減を間違えたみたい……。
それにしても、放出した魔力量に比べて対象物が小さいせいなのか、発光するイメージを付け加えたからなのか、手中のチカピカボールが物凄く熱を帯びてきた。
そして、なんと薄っすらと黄緑色に発光しだした。
「熱っ…」
とうとう耐えきれずに落としてしまう。
でも黄緑色に発光したチカピカボールは、上手い具合にスポッと窪みにはまった。
マゼンダピンクをイメージしてたから色は違うけど、どうやら大きさはイメージ通りになってたみたい。
しかし目が発光するだけで見え方が大分違って見える。
今まで無機物だったモノが、一気に今にも動き出しそうな有機物、いや、生命体に見えてくる。
魂が宿ったかのような神聖な光景だ。
「カッコいいとは思うけど、コレ、こんなとこに寝かせてたら邪魔じゃない?」
「……ッ!!」
しまった!
実物大ガ◯ダムみたいにカッコよく立たせて、ギルドの広告塔にするんだった!
「きっとジュリたちも困ると思うよ? こんなデカイのが転がってたら、流石に邪魔だもん」
先に言ってよ、そおゆうの。
膨大な魔力を使って三時間以上かけてんだからさ……。
「だから、もったいないけど土に埋めちゃって、あの玉はボクにちょうだいよ?」
そおゆうこと……。
チカピカボールの進化版、発光チカピカボールに文字通り目が眩んだらしい。
しかし銀一の言う通り、店の出入り口ではないにせよ、裏口でもある洗い場にこんなデカイものが転がってたらいい迷惑だ。
商売繁盛の置き土産どころか、ただの嫌がらせだよ、コレ。
これはマズイぞ、私……。
「ナニ、スル、ゴシュ、ジン、ナニ、スル…」
「え?」
たどたどしい声の方へ目を向けると、アダマーレムレプリカがのっそりと立っていた。




