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第三十八話「忘れもの」

 


「あったよ、ぎんい……………」


 私は見つけ出したあるものの前で絶句してしまう。


 うげ……。

 流石にこれはキツイわ………。


 靴を見つけ出したはいいけど、そこにあるのは私の旧左足付きスリッポン。


 ちょっとこれ、無理だわ……。


 赤い可愛らしいスリッポンが凄まじくおどろおどろしい。


 やっぱ無理だわ……。


「良かったね、イオン。でもこのままにしておくのも可哀想だから、ちゃんと土に埋めてあげたら?」


 なんだか慈悲深く斬新な発想の銀一。

 しかもせっせとスリッポンを脱がせてくれている。

 触りたくないと思っていただけに、ちょう助かる。


 しかし自分の足なのにヤケにグロい。

 自分のだからグロいのか?

 とにかく気持ち悪い……。


「はい、これで痛くないね!」

「あ、ありがとうギギ……」


 銀一がスリッポンを咥えてきて、ポンと私の足下に置いてくれた。

 履きたくないとは言えない……。

 そもそも私が靴がないと痛くて歩けないと言い出して探し始めたのだ。

 裸足だなんて、未来少女イオンじゃないんだし。

 これ以上じぶらせると流石にマズイよ……。


 複雑な心境ながらありがたくスリッポンに足を通す。

 当たり前だけどサイズはピッタリ。

 やっぱり私の足だ、アレ……。


「わ、わかったわ……」


 私は妙な実感で戸惑いながらも、銀一の目配せでアレを埋葬することとする。


 一瞬のうちに左足の周り20センチほどが凹み、私の旧左足はスッと消えるように落ちていく。

 そして瞬時に蓋をする。

 その際にスマホ大の墓石も用意した。

 16年間ありがとうの感謝の気持ちは忘れない。


 しかし自分の魔法の上達には驚いてしまう。

 こんなお墓をつくるだけなら無詠唱で一瞬にできてしまうし、特に仰々しく魔力を込めなくても魔法を行使できる。

 しかも迷宮に転移してからが、それが如実に表れているのを実感する。


 この短時間でこれだけの変化をもたらすのだ。

 銀一が任務をサボって迷宮に入る気持ちがわからなくもない。

 そのくらい魔力強化が実感できる。


 ただ、私は魔力強化なんかしたくないんだけどね……。


 望むと望まずにかかわらず、ここはそう言うところなのかも知れない。

 ぼんやりと感じることだけど、ここは地上より大気中の魔素が濃い気がする。

 それも関係あるのかも知れない。


 こんなところにいつまでもいたら、魔力強化フェチな銀一の思う壺だ。

 魔王認定一直線な気がしてきた。


 早くここから抜け出さなければ。


「じゃあ行きましょ?」


 私の真似をしていたのか、肉球を合わせていた銀一に声をかける。

 銀一は「うん、行こう!」と、ぴょんとひと跳ねして嬉しげに歩き出した。


 さあ、次は何が待っているのやら……。



<<<



【ニーナ視点】


 しかし大変なことになった。

 ギルド職員がわらわらしてしまうのも当然だ。

 全てを明かして指示を出す訳にはいかないからだ。


 イオン探索に副支部長が私まで連れて直々に向かうのだ。

 しかも危険な迷宮転移魔法陣ラビリンストラップを使ってまで。


 ジジはパーティメンバーの救出を謳っているので、大して怪しまれていない気がするけど、私たちの行動はギルド職員から見たら困惑であり、穿った見方をするものでがいておかしくない。

 そこへ来て破格の報奨金付きの探索依頼を冒険者へ出させるのだ。


 察しのいい者は既に勘付いているだろう。

 そうでなくても、『イオンには何かがある』くらいには思っているに違いない。


 その疑心暗鬼が各職員の心を無駄に騒つかせてしまっている。


「ニーナ、準備はできたか?」


 部屋の外からルークが声をかけてきた。

 ルークは使い慣れた愛剣と盾を取りに来たくらいで、準備と言えば携帯食くらいなもの。

 魔法を主に戦う私も着替えと携帯食くらいなものだ。

 ただ、魔力強化の為に魔石付きのワンドは携帯する。

 ランク5以上の迷宮ならば絶対に必要になってくる。


 忘れてはいけないアイテムだ。


 斜めに背負うタイプのブリザードマウス製バッグにワンドを差し入れ、準備は完了だ。


「できたわよ。今行くわね」


 さあ、早くイオンを探しに行かなければ。



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