表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/116

第三十二話「迷宮の外と内・1」

 


<<<


【ニーナ視点】


「わ、わかったわ。確かに処遇の詳細がはっきりするまでは、ギリギリまで捜索依頼は出さない方が良さそうね……」


 イオンが第一王子の運命人さだめびとだなんて……。


 こんなことってあるの?


 さっき「ちょっといいか?」とルークが部屋に入ってきた時、その表情で何か重大なことを話しに来たのだと感じた。

 感じたけど、まさかこんな話になるとは……。


 イオンには本当に驚かされる。


 もしかしてイオンは自分の運命の人を知り、このエクリャーナル王国を目指して遠国から旅をしていたのだろうか。

 そして旅の途中、何かしらの事故に遭って記憶を失った……?

 てっきり魔力量の多さを疑われ、やむを得なず生まれ故郷を追われたのだと思っていた。

 記憶を失ったのも、その道中で事故にでも遭ったのだと思っていた。


 まあ、今考えても不毛よね。

 いずれイオンの記憶が戻れば明らかになるんだし。

 イオンが運命人さだめびとだとわかった今、イオンを保護することが第一よね。

 王国の意向次第で処刑される恐れもあるし、更新前の運命人の地位や家柄次第では、新しい運命人に暗殺者を差し向ける恐れもある。

 今のところ前者は無さそうだけど、まだまだ気は抜けないわ。

 歴史を見る限り、成功の有無にかかわらず後者は必ず実行されてきたのだ。


 魔王どころの話ではなく、間違いなく生死に関わる事案になってしまった。


「そうだろ? とにかく少しの間だけでも、この事は俺たち二人で止めておくしかねぇ。ただ今後どうなるにしても、当事者のイオンにだけは考えておかねぇとな?」

「そうね……。まずは本人がこの事実を知って、これからどうしたいのか聞いてあげたいしね?」


 ただ、王国が受け入れる意向を示している今、イオンには選択肢がないんだけど……。

 私たちはイオンを暗殺者から護る事しかできない。


「もうそろそろ魔法を習いに来るんだろ?」

「ああ、それだったら夜に変更したのよ。今日の休憩時間は、例のエルマーテに行くとか言ってたわよ?」

「そうだったのか……。じゃあ、イオンが来たら一緒に俺の部屋に来てくれ」

「わかったわ」


 私の返事と同時に、コンコンと扉をノックする音が聞こえてきた。


「アニーです。こちらにルーク副支部長がおられますか?」

「おう、俺はここにいるぞ?」


 ギルド受付のアニーだった。

 誰か客人でも来たのだろう。


「ナッハターレ卿御子息、ヴィンツェント様がお越しでして、応接室へお通ししております。至急応接室へ足をお運びください」

「そ、そうか……」


 ルークが苦い顔で私を見てくる。


「すぐ向かうから茶でも出しといてくれ」

「承知しました」


 アニーの足音が遠ざかると、ルークは更に苦い顔になる。


 原因はわかる。


「辺境伯のところへも連絡が入ってたって事ね?」

「そうだな? 辺境伯が王家の親類筋に当たる事をすっかり忘れてたぜ。そりゃ真っ先に連絡が行ってもおかしかねぇや……」

「でも他の要件って事もあり得るから、向こうの出方を見てから話をすることね?」

「そうだな。いずれにせよニーナも聞いといた方がいいだろうし、お前も一緒に来てくれ」

「わかったわ」


 私の返事を聞いたルークが立ち上がった。



 >>>



「なに……アレ?」


 私は崩れた穴からそっと中を覗いている。

 足元では銀一も同じように覗き込んでいる。


 薄っすら明るいのは、地面や壁や天井の岩が淡く薄紫色に発光しているからだ。

 体育館を少し大きくしたくらいのスペースが、薄紫色にぼんやりと発光しているのだ。

 そして薄紫色に淡く照らされた空間の先には、同じく薄紫色に発光した巨大な岩の怪物が二体。


 3メートルは優に超える巨体のそれは、岩を積み上げて作ったかのような人型をしている。

 肩幅も2メートル近くあり、そこから伸びる腕は地面に着きそうな程に長い。

 全体的にずんぐりしてる怪物は、一箇所だけ発光していない岩壁を挟むようにして立っている。

 岩壁が黒い扉のように見えるので、まるで門番のような佇まいだ。


「多分アダマーレムだよ、アレ。ボクも初めて見たよ」

「アダマーレム……」

「うん、ゴーレムとよく似た魔物さ。自我を持ってるから魔物として認識されてるけど、誰かの創造物って話もある謎の多い魔物なんだよ」


 なんでも知ってる銀一先生。

 本当に助かる。


「ただ、光るゴーレムを見たらアダマーレムだから、すぐに逃げた方がいいって言われてるんだよね…」

「ってことは、相当凶暴で強いってこと?」

「まあ、アイツとやり合って生き残った魔物や冒険者の話は、今まであまり聞いたことないかな。とにかく、出会ってしまったらすぐに逃げろとしか聞いてないんだよね」


 なにそれ。

 超ヤバイ相手じゃない……。


 一気に中へ入らなくて良かったよ。


「じゃあ、気づかれないうちに別の出口を探そうよ?」

「そうだね。きっとヴィギーダが通ってる道があるはずだからね」


 魔力強化の為にヤバイ挑戦を選択するのかと思いきや、銀一は意外とあっさり聞き入れてくれた。

 それを考えると、あのアダマーレムはよほど危険な魔物なんだろう。


「そうと決まったら、とっとと移動した方がいいね?」

「そ、そうね……」


 直立不動のアダマーレムから銀一へ目を移すと、可愛らしい顔で私を見上げていた。


 癒される。


 銀一が可愛らしい猫で本当に良かったよ。

 この状況でヴィギーダやヴィッギーマウスみたいなのに見上げられでもしたら、絶望の二文字しか浮かばない。


 相棒が銀一で本当に良かった。


「暗いし危ないから、ギギはまたバッグに乗っててよ?」

「そだね。じゃあ行こう!」


 銀一は返事と同時にひょいとバッグに飛び乗ると、前足を突き出すようにして肉球を高らかに挙げた。


 そうね、迷宮からの脱出よ!



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ