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第三話「ちっともムズムズしない」

 


 ーー遅かった。


 訂正しようとしたら、突然目の前が真っ暗になった。


 あの小学生、せっかち過ぎる。


 で、今はどんな状況かと言うと。


 私の目の前を馬車が何台も通り過ぎて行き、道行く人々は物珍しそうに、私を舐めるように見ながら通り過ぎている。


 中世ヨーロッパのような、ファンタジー感溢れる街並みだ。

 そして、そのファンタジー要素をより色濃くしているのが、私を舐めるように見ている人々だろう。


 私の胸にも満たない小学生のように小さなおじさんたち。おそらく小人族だろう。ちなみに私は156センチなので、それほど大きくはない。

 それに肩幅が広く力士のようなゴツい体格なのに、私とそう変わらないくらいの身長の髭もじゃのおじさんたち。炭鉱族のそれとしか思い当たらない容姿だ。


 とにかくみんな小さい。


 そして私の格好はと言うと、関商かんしょうの制服に学校指定の鞄を持っている。

 ようはあのバス停の時のままの姿だ。

 そのままの姿なだけに思い描いていた転生とは違うみたい。


 小人族は麻のようなざっくりした織りもので出来た上着に、同じ素材のダボついたズボン姿で、足元は何故か素足。上着は小さな木のボタンが細かく並んでいて、ちょっとカワイイ感じ。

 髪の毛の色は、赤みがかったブラウンだったり濃いブラウンだったりが多く、皆カーリーヘアだ。

 炭鉱族は革っぽい素材の着物のような膝上のワンピース姿で、膝までのブーツを履いている。皆一様に腰に太いベルトを巻いていて、そこに袋をぶら下げている。

 髪や髭はもじゃもじゃで長く、黒に近い濃いブラウンが多いけど、金髪に近い人もいたりする。

 そして、小人族も炭鉱族も彫りの深い西洋人のような顔である。


 一方で私は、白でパイピングされたネイビーのブレザーにチェックのプリーツスカート、白いブラウスに赤いリボンタイ、ネイビーのハイソックスに黒いローファーと言った制服姿だ。

 そんな人々から見れば、この女子高生ルックは悪目立ちして当たり前だろう。

 しかも自分たちよりも大きい、真っ黒ストレートのさっぱり顔の女である。

 もし私が彼らの立場だったら、こっそりスマホで撮って友達に写メしちゃうかも知れない。

 そんなアミューズメントな衝動にかられる違和感に違いない。


 とにかく暗転が解けると、私の目の前にこんな光景が広がっていた。


 まさに異世界である。


 そして、ちっともムズムズしない。


 花粉のない異世界である。

 いや、正確にはスギ花粉のない異世界である。


 これを喜んでいいのかどうかわからないけど、とにかくこんな大通りに立ち尽くしているのもどうかと思う。

 私は遠くに見える、モスクのような丸い大きな建物へと向かう事にした。


「………」


 建物前まで来てふと思った。


 言葉って通じるのだろうか?


 道行く人の話し声を聞く限り、何を言っているのか全然わからなかった。

 もっとも、あまりにも声が小さ過ぎて聞き取れなかったので、何語なのかもわからなかったんだけど。


「どうしたんだい?」


 扉の前で躊躇してした私に誰かが声をかけて来た。

 小人族とも炭鉱族とも違う、長い白髪を後ろで結った三十代くらいの大きな男性だ。顔はやはり西洋人のごとく彫りが深く、イケメンと言っていい。

 ただ、左の頬に大きな傷があるので、整った顔とあいまって少々不気味だ。


「あ、えーと…。私の言ってる言葉がわかりますか?」

「わかるに決まってるじゃねぇか。どうしたか聞いて、言葉がわかりますかって返って来るとは思わなかったぜ」


 男性はそう言ってケケケと変な笑い方で笑う。

 言葉は通じるようだ。

 しかし、なにかが違う。

 男性の言葉は理解できるし自分の言葉も通じているみたいだけど、なにか発音に違和感がある。

 それは自分から発せられるものにも言える事で、自分で話していて妙な違和感を感じるのだ。


「ここって何をするところなんですか?」

「なんだい、そんなことも知らねぇで突っ立ってたのかい?」

「ま、まあ、そう言う事になりますね…」

「ったく、ここに書いてあるじゃねぇか?」


 わかった。

 これは日本語じゃないんだ。


 男性の指し示した文字を見て確信した。

 何かの柄だと思っていたものが文字なのだ。

 どうやら理屈はわからないけど言葉は話せる設定らしい。

 ついでだから字も読めるように設定して欲しかった。


 あの小学生め。



「私、字が読めないんです…」


 高校生にもなってこんな事を言わなきゃいけないのが情けない。


 あのガキ。



「そうなのか? そりゃ悪かったな…」


 少し哀れんだ目をする男性。

 私の家庭環境を間違った方向で想像したのかも知れない。

 小声で「大変だったんだな…」などと言っている。


「ここは冒険者ギルドだ。俺はこのギルドの副支部長でルークってもんだ」

「冒険者ギルド…」


 なになに、これってファンタジー設定なんじゃない?

 花粉しばりじゃなかったんだわ。あの小学生、気がきくじゃない。

 今度会ったらオシャレなハーパン買ってあげよう。


「なんだいなんだい。その様子だと、本当にここが何処かもわからなかったみてぇだだな? 何か探し物だったりの依頼かと思ったぜ」


 商売上がったりとでも表現したいのか、両手を広げた大袈裟な素振りで苦笑いを浮かべる。

 しかし然程怒っている訳ではなさそうなのと、ハリウッド俳優のような整った顔立ちのおかげで、見ていて嫌味に感じない。むしろ何故か好感が持てる。


「でもお嬢ちゃん。なんか困ってんだろ?」

「……はい。正直に言うと凄く困ってます…」


 ルークさんの慈愛のこもった物言いに、私は少し涙目になりながら答えていた。



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