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第二十八話「決心」

 


 しかしあの時は完璧に裸を見られてしまったよ……。


 何がもっとメシ食えだよ。

 女性の裸を見て言うセリフじゃないっつの。

 何よりあの時のルークさんが私に向けてた甥っ子アイ。


 いいんだけど、地味に傷ついてる……。


 それにジャーナイルさんとかに言うのもやめてほしい。

 翌日からの賄いの量が半端ないし……。

 ジャーナイルさんも悪気はないんだろうけど、ものには限度があるのを知るべきよ。

 これを30分で食べ切ったらタダ的な量だよ、アレ。

 出るところが出るって言うより、あれじゃ力士体系まっしぐらよ……。


「イオン、今日もオンセン行くの?」

「へ?」


 あれこれ思い出してたのでびっくりしてしまった。

 相変わらず私の肩で皿洗いを見学している銀一ぎんいちだ。

 顔は見えないけど嬉しげなのは声音でわかる。

 やはり私の魔力強化を喜んでいるのだろう。


「もちろん行くわよ。ただ今日は夜のお仕事の前だけどね?」


 初めて温泉に行ってから今日で10日ほど経っている。

 私はルークさんを警戒しつつ、あれから毎日温泉に通っていた。

 ジャーナイルさんの定食屋での皿洗い、ニーナさんの魔法レッスンと続き、温泉に入ることは私の生活に定着しつつある。

 いや、もうすでにルーチンワーク化されている。


 あのあとのルークさんは、私のチクリでニーナさんからめちゃくちゃお叱りを受けた。

 そんな訳なので、あれ以来はブラっと乱入して来ない。


 ただ、警戒するに越したことはない。


 そして今日まで温泉へはお仕事が終わってから行っていたんだけど、その間、ヴィッギーマウスにヴォーパルニーは行き帰りに出会う常連さんで、レジーガなる黒豹に猪の牙が生えたような魔物や、ジジントなるネズミほどの大きさもあるアリの魔物の大群など、新顔さんにも遭遇した。


 レジーガは特大の『氷槍アイスランス』で仕留め、ジジントはカッチカチに『氷結フリーズ』させ土深く埋めた。

 それはもう必要以上に深く。


 なんてったって、このジジントってアリの魔物、銀一がもっとも苦手にする魔物なんだとか。


 ジジントは、俊敏さが売りのホーバキャットに負けずと劣らずの素早さなうえ、身体が鋼鉄のように硬いのだとか。

 大群で襲われるとたまったものではなく、銀一は魔力切れ覚悟で透明になって逃げるそう。

 銀一が言うには、大群のジジントはAクラスの魔物に匹敵するらしい。

 ちなみ鋼鉄のようなジジントの体は軽く、鎧の素材として高値で取り引きされるのだとか。

 でも、銀一のたっての願いで土深く埋めたのだ。

 ジジントって名前を聞くだけでゾッとするくらいなので、袋に入っているにしてもソレがソコにあるってだけで気持ちが悪いのだとか。


 ジジント。


 ジジ……ント。


 ……………………。


 ジ◯は本格的に諦めるしかないみたい。


 とにかく温泉に入りに行く行為は、魔物退治に行くようなものなのだ。

 おかげで随分と魔法のコツがつかめてきたんだけど、なんか銀一の策にハマっているようで釈然としない。

 銀一の思惑通り、きっと魔力強化もされているのだろう。


 このままでは魔王認定されそうで不安になってくる。


 最近、誇らしげにピンとしっぽを立て、堂々と私の前を歩いている銀一が気になる。


 いつ魔物仲間に魔王自慢しだすか気が気でない。


 と言う訳で、私は時間帯をずらして温泉に行くことにしたのだ。

 明るい内なら魔物も少ないかも知れないからね?


 とりあえず実験だ。


「イオンちゃん、あんた凄いねぇ! あのオムライスって言うヤツもカーニャローズのロマロ煮込みも大好評だよう!」


 ジュリエルさんだ。

 相変わらずの肝っ玉かあさん然とした、横幅は私の倍は優にある小さな身体をゆさゆさ揺すりながら歩いてくる。

 大きなキョロっとした目をまん丸くして凄く嬉しそう。


「それは良かったです! そしたらまた違うのも考えてみますね?」

「それなんだけどね、イオンちゃん。ウチの人がイオンちゃんに皿洗いなんかさせとくのは勿体ないから、厨房に入ってくれないかって言うんだよう。給金も上げられるし、良かったら中に入ってくれないかねぇ?」

「ま、まあ厨房のお手伝いするのはいいんですが、洗い物はどうするんですか?」

「ああ、そんなことなら心配しなくていいのよ? イオンちゃんが来てくれる前まで、あたしやジェシーでやってたことなんだし、そんなのはどうにでもなるんだよう」


 くしゃりとシワを寄せて笑うジュリエルさん。

 少し団子っ鼻なところが殊更キュート。


「じゃあ、とりあえずお皿も洗いながらお手伝いするってことでどうですか?」

「もう、イオンちゃんったら、そんなに働かなくていいんだよぅ。そんなんじゃ人生つまんなくなっちゃうよう? お仕事ってもんは、人生を楽しむためにやるもんなんだからねぇ?」


 一気に眉を寄せたジュリエルさんは、


「人生ってのは美味しいもん食べて、好きな人と一緒にいるのが一番なのさぁ。人ってのは、そう言う時間を作るために働くんだからねぇ? イオンちゃんも仕事はほどほどにして早くいい人見つけなさいな?」


 と続けてカラカラ笑う。


 そう言うものなのか、人生って……。


 私は井伊いい加瀬かせ先輩と一緒に時を過ごすことができるのだろうか……。


 ま、今からこんな弱気だと叶わないのだろう。

 しっかり希望をもって諦めずに前を進んで行けば、何かしら見えてくるのかも知れない。


 そうよ。

 諦めないで一緒になれることを考えよう。


「じゃあ、早速だけどこれから厨房に入ってもらっていいかい?」

「え、ああ…。はい、わかりました!」


 先輩のことを考えててぼうっとしてしまっていた。

 でも、こう言う小さなことにチャレンジして行くのも、先輩と一緒になるために役立つのかも知れない。


 それに張りも出てくるしね。


 私はそんなことを思いながら、手元に残ったお皿を急いで洗った。



 >>>



【ルーク視点】


「なんだこりゃ……」


 俺は目を疑った。

 何気なく手にしたオミニラーデに記されていた文字にだ。


 イオンがちょいちょい俺の部屋に忍び込んでいるのは知っていた。

 きっと自分の記憶が蘇らないので、先にオミニラーデに表示されていないか定期的に確かめていたんだろう。


 別に俺に断りを入れればいつだって使わせてやるんだが、あの日エルマーテに一緒に入ってからと言うもの、あまり口を聞いてくれないので俺も見て見ぬ振りをしていた。

 イオンから自然に口をきいてくるまでは、そっとしておけとニーナに言われたからな。


 とにかくこれは、間違いなく今日イオンが使ったオミニラーデだろう。


 相変わらずイオンって名前以外は文字化けしていると思いきや、名前以外にもポッカリ文字が浮かんでいたのだ。


 しかも衝撃的な文字だ。

 それは名前以外は文字化けが続き、一番下の運命の人の欄に浮かんでいた。



【エドワード・カーユイン・エクシャーナル】



 我が国、エクシャーナル王国第一王子の名前がそこにあったのだ。

 とんでもないことだ。



 俺はどうすればいい…………?



『こちらギルドエクシャーレ本部、こちらギルドエクシャーレ本部。ギルド辺境地区支部、副支部長、ルーク・ロザンブルクはおりますか? 繰り返します。こちらギルドエクシャーレ本部。ギルド辺境地区支部、副支部長、ルーク・ロザンブルクはおりますか?』


「……!!」


 本部からオミニラーデを使っての連絡が入りやがった。

 タイミングが良すぎねぇか?

 もしやイオンの事じゃねぇだろうな……。


 どうする。

 ここは居留守でも使うか?


『聞いてる者は直ちに副支部長、ルーク・ロザンブルクにコード9の連絡があった事を伝言すべし。繰り返します。聞いてる者は直ちに副支部長、ルーク……』

「俺だ。ギルド辺境地区支部、副支部長、ルーク・ロザンブルクだ。コード9とはどう言うことなんだ?」


 居留守どころではなかった。

 コード9と言えばアレークラ王国との開戦レベルだ。

 この状況下で開戦はないだろうから、どうやらイオンのことだろう。

 それしか考えられない。

 コード9は王子の運命の人が更新された時にも使われる、最重要事項を取り扱うコードだ。

 全くもってタイミングが良すぎるぜ……。


『ルーク・ロザンブルク副支部長、応答ありがとうございます。今から本部長にお繋ぎしますので暫しお待ちください』

「ああ」


 しかしイオンのことで間違いないだろうが、本当に前もってオミニラーデを見といて良かったぜ。

 とにかく、要件はわかりきっているが、出方次第ではシラを切るしかねぇな……。


『ブライトンだ。ルーク、聞こえるか?』

「お久しぶりです、ブライトン本部長」

『うむ。早速本題に入るが、この状況下でのコード9だ。もう何かはわかっているだろうから単刀直入に言う。第一王子、エドワード殿下の運命人さだめびとについてだ』


 やはりな。

 あとはどう出るかだ。


『これは昨夜判明した事なんだが、殿下の運命人が更新されていたのだ。名はイオン。何処の貴族名簿にも無い名前だ。出は平民かも知れぬし、国外の者かも知れぬ。辺境地区でも捜索をするとともに、冒険者に捜索の依頼を出すよう手配しろ。わかっていると思うが、あくまで通常の尋ね人として取り扱うようにな。もちろん報酬は弾んで良い。では大至急手配を頼む』

「承知しました、ブライトン本部長。大至急手配いたします。ですが、その前に一つお聞きして宜しいでしょうか?」

『なんだルーク。今また別の支部が繋がったようなので手短に頼む』

「ありがとうございます。では手短に。この度イオンなる運命人を見つけ出した際は、その者には如何なる処遇がなされるのでしょうか?」

『はっきりとはした通告はないが、今のところ王都に迎え入れる話にはなっている。何より殿下がその気らしいのだ。だが最初に言ったが、未だ正式な処遇についての通告はない。まあ、そんな訳たから、今のところ見つけ出した際は、後に面倒の無いよう手厚く接する事だな?』

「承知いたしました、ブライトン本部長。では早速取りかかります」

『頼んだぞ』


 とりあえず最悪の事態ではなさそうだ。

 時に運命人の暗殺もあるのだ。

 あっちの世界がほとほと嫌になる事案だぜ。全く。


 とにかく良かった。


 暗殺指令なんか出された日にゃ、魔王どころの話じゃねぇからな?


 だか処遇の詳細がはっきりするまでは動くのは危険だな。

 この事は現段階ではニーナと俺で止めておこう。



 そうだな。それがいい。



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