第二十四話「ご褒美」
「わぁ……!!」
私は思わず感嘆の声をあげていた。
まさに芸術的なものが鏡に映っていたのだ。
それは大きな赤いリボンを頭に付けた私。
形といい色合いといい、それはもう完璧。
ーーそれと言うのも。
「なんだい、そんなことかい? それならあたしがちゃちゃちゃってやったげるから、これから持って来ればいいさ。なぁに、イオンちゃんがお皿洗ってる間にできちゃうから、遠慮しないで持っておいで」
「いや…そんなつもりで言ったんじゃ……」
「いいからいいから。ほら、早く持っておいで」
と、あれからジュリエルさんとそんなやり取りをしていたのだ。
そして、私が恐縮しながら取りに行ったものと言うのは、昨日ルークさんに買ってもらったバッグが入っていた袋。
厳密に言うと、バッグを包んでいた内袋だ。
流石お高いバッグなだけあり、綺麗なビロード調の赤い内袋に入れてから、ショップバッグのような紋章入りの袋に入っていたのだ。
最初見た時は綺麗な生地だなっとは思っただけで、特になんとも思わなかった。
でも、黒い銀一を見た途端にひらめいたのだ。
と言うより、見えたのだ。
黒い銀一と赤いリボンを付けた私。
そんな夢の映像が見えたら、あとはもうオートマチック。
あの赤い内袋、あれをリボンにしたら?
からのジュリエルさんへのお願いだ。
とは言っても、ハサミや針などの裁縫道具を借りるつもりだったんだけど、ジュリエルさんは裁縫が得意のようで、やってくれるとの事だった。
本当、図々しさの天才のようだ。
天才でも99%の努力をしていると言うのに、1%の努力もなしに、こんな素敵なリボンができあがってしまった。
鏡に映る自分にニンマリしてしまう。
そして、その私の隣には戸惑いを隠せない首にリボンをつけた銀一。
まるでサボ◯んのよう…って、
「ちょっと、なんで緑になってんのよ!」
「にゃ〜」
可愛らしく私を見上げてニャーじゃないわよ。全く……。
名前をゆずってあげたんだから、色くらい協力しなさいよね!
って思ってみて、銀一が緑色に変色してる事実と向き合った。
凄いじゃない。
って思ってる間に、黄色、赤、白、青と毛色を次々に変えていく。
「あらぁ〜。ギンちゃんって、もしかしたら上級種のホーバキャットなのかもねぇ?」
ジュリエルさんが普通に驚いている。
どうやらジュリエルさんの反応を見る限り、普通のホーバキャットはこんなにコロコロ色を変えられないのだろう。
「ねえギギ。とりあえず黒にしてくれないかな…」
自分的に赤に落ち着いたのか、赤に戻ってリボンと同化していた銀一に頼んでみる。
「にゃ〜」
「あら、ギンちゃんは本当いい子に言うこと聞くのねぇ?」
毛色を黒に戻して可愛らしく小首を傾げる銀一に、ジュリエルさんはとろけるような笑顔を向けていた。
確かに可愛いので気持ちはわかる。
だって本当、赤いリボンがとってもキュート。
銀一のリボンは、ジュリエルさんが機転を利かせ、余った布で作ってくれたのだ。
思わず口角が上がってしまう。
「本当、ありがとうございます! ジュリさん」
私は大事な言葉を忘れていた事に気づいて、慌ててジュリエルさんに頭を下げた。
「なぁに、イオンちゃん。そんなかしこまることないんだよぅ。こんなもの何かやってあげたうちに入らないしねぇ。まあ、真面目にやってくれてるご褒美よご褒美」
そう言って、くしゃりと破顔するジュリエルさん。
やってもらっておいて言うのもなんだけど、確かにパパパパパーっと、本当にあっという間に仕上げてしまった。
しかも私のリボンの大きさといい、銀一のリボンのキュートさといい、抜群の出来の良さだ。
本当、魔女宅を知ってるんじゃないかと疑ってしまうくらいだよ。
ほんと、しゃしゃしゃしゃってハサミで切って、チクチクチクチクって物凄い速さで布を縫い合わせたと思ったら、それをひっくり返して出来上がってしまった。
感覚でこの形にしてしまうって、本当凄い。
「やっぱりイオンちゃんには、そのくらいの大きさが可愛くていいねぇ?」
「本当、ありがとうございます!」
満足げな顔で私を見るジュリエルさんに、あらためてお礼を言う。
ジュリエルさんの本名はジブリエルさんだったりして……。
「あっ、洗い物、やっちゃいますね!」
すっかり手が止まってしまっていた。
本当は私が残りの洗い物をやっている間に、作っておいてくれるとの事だったのだ。
「じゃあ、あと少しだから頑張ってちょうだいね?」
「はい!」
私は厨房の裏口近くに移動させた盥に水を入れ、残り少なくなったお皿にとりかかる。
これからの時間は主にお酒と簡単なおつまみになるそうで、よっぽど混み合わない限り水に浸けておいて、明日まとめて洗うのだそうだ。
今日も最初に山のような洗い物が待っていた。
さて、ラストスパートだ。
途中地下牢に入れられたとは言え、私の異世界初のお仕事がもうすぐ終わる。
長かったよ……。
【イオンの異世界日記・まとめ】
今日一日でわかったこと。
・ワイバーンは怖い。
この季節の早朝に窓辺に立ってはいけない。
・辺境伯さま、及び御子息くんは無視しちゃいけない。
臭い目に遭う。
・この国はエクシャーナル王国と言う国で、ここはナッハターレ辺境地区と言うところ。
犬猿関係のアレークラ王国と隣接していて、ピグメリー王国と言う小国とも同じように隣接している。
・通過はエクシャナル。
1エクシャナル大金貨=5エクシャナル金貨
1エクシャナル金貨=20エクシャナル銀貨
1エクシャナル銀貨=12エクシャナル銅貨
貨幣価値はさっぱり。
ただ、わかってる限りで推測はできそう。
昼夜の皿洗いの日当、エクシャナル銀貨1枚。
定食屋で出している定食、エクシャナル銅貨8〜15枚。
ブリザードマウスの淡いグレーの革製バッグ、大金貨4枚+金貨2枚+銅貨6枚。
傷を負ったホーバキャット、銀貨1枚。
私の治癒魔術料、大金貨10枚。
やっぱりさっぱり。
・夜になるとヴィッギーマウスなるネズミコウモリのグロい魔物が出る。
ただ、お肉はあっさりしてて案外美味しかった。
ジャーナルさんがちゃちゃって料理して、お夜食に持たせてくれたのだ。
・ジュリエルさんは手が器用。
おかげで魔女宅セットが完成した。
・やっぱり魔王クラスの魔力量はやばい。
もし見つかれば処刑される……。
最後は知りたくなかったよ。
でも、また明日からがんばろう。
うん、明日からが凄く楽しみだ。
皆さんも何かの時の為に覚えておきましょう。
依音xxx




