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第十八話「ひと騒動」

 


「こらっ、大人しく捕まりやがれっ!」


 パウロさんの屋台を後にしてすぐ、ちょっとした騒ぎに遭遇した。

 男の人の怒鳴り声に人だかり。

 明らかに殺伐とした雲行きである。


「ギギ、ギギギッ、シャァアア!」

「こんの野郎〜、もう手加減しねぇぞ!」


 人だかりを覗くと、猿っぽい…と言うかズバリ猿顔の男の人が、シルバーグレーのネコと格闘していた。


 猿顔の人は顔中キズだらけで、流血こそしてないけど痛々しいまでに血がにじんでいる。

 ネコの方はと言うと、両耳が裂けたように千切れていて、前足を引きずっている。耳も足も毛並みが濡れているので、どちらも出血しているみたいだ。


「どうしたんですか?」

「ああ、あれはホーバキャットって言ってな。相手方を偵察すんのに飼い慣らされてる、別名スパイキャットってネコの魔物だ。きっとスパイ先でヘマして耳を千切られたんだろうな。可哀想に」

「で、どうしてあのお猿さんとやり合ってるんですか?」

「イオン、お猿さんなんて本人の前で言うんじゃねぇぞ? 奴らは誇り高い猿人族で、先祖がどうあれ猿扱いは嫌うからな。覚えとけよ?」

「そ、そうなんですね。ごめんなさい…」


 危ないところだったよ。

 確かに人をお猿さん呼ばわりしたら怒るよな。

 ま、どう見てもお猿さんだけど…。

 でも、覚えとこう。


「あれは口減らしだな」

「口減らし?」


 口減らしって、あの口減らしなんだろうけど、なんか聞きなれない言葉が出てきたので、思わず聞き返してしまった。


「ああ。ホーバキャットは耳に魔力を溜め込んでるんで、ああやって耳を千切られちまったら、なんの役にも立たねえんだよ。ヤツはホーバキャットを使っての情報屋ってところだ。仕事に使えねぇホーバキャットは餌だけ食わす事になっから、きっと始末しようとしてんだろうよ」

「始末って、殺しちゃうってことですか?」


 ルークさんは静かに頷いてその答えとした。


 なんか酷くない?


 ネコちゃんはネコちゃんなりに頑張ってたんだろうし、きっと今まではちゃんと稼いでくれてたんだから、名誉の負傷って事で後の面倒くらい見てあげなさいよね!


「ギギギ、ギギ、ギギギッ……」

「覚悟しやがれ、もうお前には安楽死なんかさせてやらねぇかんな!」


 猿顔の人はネコちゃんと睨み合いながら、ボウガンのような武器を腰から抜いた。


「ルークさん、お願いだからやめさせて!」


 咄嗟にルークさんに無理なお願いをしてしまった。


 シュッ

「ギャンギャンギャンギャァン」


 悲痛な鳴き声をあげるネコちゃん。

 間に合わなかったみたい……。


「やめてください! もう気が済んだでしょ?!」

「なんだお嬢ちゃん。これはこっちの話なんで野暮はよしてくんねぇか? それにそんなとこ立ってると危ねえぞ?」


 まだネコちゃんに息があったので、思わず勢いで飛び出してしまった。

 この距離で見るリアル猿顔って意外と怖い…。


「ああ、そうだ。もうそのくれぇにしておこうぜ?」

「あ、副支部長さんじゃねぇか…」


 ルークさんが助け船を出してくれる。

 本当、助かるよ。


「見たところ、もうそれ程保たねぇだろう?」

「ま、まあそうなんですが、こっちはこんだけやられてんですよ? こんなのを許しちまったら、他のホーバキャットが言うこと聞かなくなっちまうんで、見せしめにしっかり仕留めとかねぇと、商売あがったりなんですよ。俺に食わしていく女房子供がいるの、副支部長さんなら知ってるでしょうよ? だから邪魔しねぇでくださいよ」


 猿顔の人も生活がかかってるらしく、泣き落としのように懇願している。

 なんだか厳しい現実を目の当たりにしたようで、複雑な気持ちになってくる。


「じゃあ、こいつは俺が買い取るって事でどうだ?」

「え? だってそいつはもういつ死んでもおかしかねぇんですよ?」

「ああ。だが未だ死んでねぇ。買い取りなら、他のホーバキャットにも言い訳もつくだろ?」

「ま、まあ…そりゃ」


 猿顔の人の顔に安堵の色が広がる。

 もしかしたら彼も、殺したくて殺そうとしてた訳じゃないのかも知れない。


 なんだか余計にやるせない気持ちになってくる。


「決まりだな? で、いくらで譲ってくれんだ?」

「まあ、そんな状態ですし、助かったとしてもそいつはオスなんで子も産めねぇから銀一ぎんいちでいいですよ」

「エクシャナル銀貨一枚でいいのか?」

「逆にその状態でそれ以上はもらえねぇでしょうよ?」


 猿顔の人は呆れたように投げやりに言うも、その目は言い知れぬ感謝を映している。


「ほらよ」


 ルークさんの手から放たれた銀貨らしきものが、キラキラと放物線を描いて飛んでいく。

 それがやけに綺麗に見えて、キラキラ輝く軌道にすっかり見入ってしまう。


「ほら、アイツを回収して帰るぞ?」


 ルークさんはそう言って、ぐったりしたホーバキャット抱き上げた。


「ほらイオン。早く帰るぞ?」


 ルークさんの声でハッとする。

 美しい景色をただ楽しむように呆然としていた。


 ルークさんのイケメン度がぐんぐん上がってる。


 ルークさん、カッコいい!



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