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第十七話「屋台でごはん」

 


「そうだ。せっかく包んでもらったが、そっから買ったバッグだしてその荷物を一つにしちまえばいいんじゃねぇか?」


 店を出るなりルークさんが言ってきた。

 私はと言うと、両手にわんさか荷物を抱えている。

 せめて荷物くらいは自分で持つと言い張った結果だ。


 手には着替えたオールインワンとスリッポンにバッグ。

 皆ショップバッグのような紋章入りの袋に入っている。

 袋の中のオールインワンは、もはやオブツインワンだけどね…。

 とにかく、確かに3つも袋を持つのは邪魔と言えば邪魔だ。


 ルークさん、天才。


 私は早速、買ってもらったお高いバッグを袋から出し、次々にバッグの中へ入れていった。

 そして、せっかくだからローファーからスリッポンに履き替えてみる。

 なかなか軽くて履きやすい。


 なんか買ったものをすぐ使うのってテンション上がる。

 思わずニンマリしてしまう。


「そんな顔されたら、またなんか買ってやりたくなるな?」

「そ、そんな、もう十分ですよ。本当にありがとうございます」


 慌ててニンマリを引っ込めてお礼を言う。

 これ以上なにか買ってもらう訳にはいかない。

 なにせこのバッグだけで、あの高そうなドレス20着分だし…。


 ちなみにチラリと見たお会計はこう。



 ・ネイビーのワンピ:プライスレス(結果高いもの)


 ・赤いスリッポン:3銀貨,4銅貨(3銀の4銅エクシャナル)


 ・淡いグレーのバッグ:4大金貨,2金貨,6銅貨(4大2金の6銅エクシャナル)



 貨幣価値はさっぱり。


 エクシャナルと言う通貨らしい事は、おじさんが言ってたカッコ内の言葉でわかった。


 ギルド割引きで2割引かれるそうだけど、そもそもの貨幣価値がわからないのでピンとこない。

 とにかくかなりの出費をさせてしまった事は間違いない。


 いつか必ずこの恩を返そう。


 そう思いながらルークさんを改めて見たら、クゥキューっとお腹が鳴ってしまった。


「そうだな、腹減ったよな?」

「すみません……」


 私は恥ずかしさで溶けそうになりながら小声で謝る。

 全く、恩を返すどころではなかったよ。催促したみたいじゃない…。

 身体は正直なのが困る。


「じゃあ屋台の方がいいかもね?」

「そうだな。その方が早くメシにありつけるな? そんならパウロんとこにすっか?」


 ルークさんはニーナさんの提案に乗っかり、何やらよだれを垂らさんばかりに歩き出した。


 それにしても、私のお腹の都合を考えてくれたみたいで恐縮してしまう。

 しかし、屋台と聞いて少しホッともする。

 ここへ来て高級レストランみたいなところへ連れて行かれでもしたら、私は身売りするしかないだろう。

 そんな風に思うくらい、居心地が悪くなってしまいそうだ。


 でもこのスリッポン、本当歩きやすい。

 そしてこのバッグも持ってないみたいに軽く感じる。

 不思議と内容物の重さを感じさせないのだ。


 テトテトと二人の後ろをついて行くこと30メートル。

 意外と近くにそのお店はあった。


「おう、ギルドの副支部長さんじゃねぇか。久しぶりだな?」


 ルークさんは顔なじみのようで、顔を見るなり早速声をかけられている。

 日に焼けてるのかお酒に焼けてるのか、赤ら顔の威勢のいいおじさんだ。

 焦げ茶の髪の西洋人って見た目なので、人間族だろう。


「おっ、ニーナさんも一緒かい? って、後ろの可愛らしい娘もそうかい?!」


 おじさんはニーナさんを見つけて顔をパッと明るくし、私に気づくと更に目を丸くして大きな声をあげる。

 なんかこう言うの慣れないな…。


「こんな美女を二人も……。副支部長さんってぇのはいい仕事だねぇ?」

「まあそんな事いいから、早えとこ3人前頼むよ。あ、みんな腹減ってんで、それぞれケーレブもつけてな?」

「あいよ!」


 そんなやり取りの後、ルークさんは「そこで食おう」と指差して、ちょっとした広場に設置されたテーブル席へと向かった。


「ギルドで食ったカーニャロウズの仲間みてぇな料理だ。まあ来ればわかるが、なかなかイケるんだぜ?」


 席に座るなり嬉しそうに語るルークさん。

 さっきのよだれを垂らさんばかりのルークさんの顔を見てるので、それなりに期待はしていた。

 ニーナさんも嬉しそう頷いている。


「はい、お待たせさん。ケーレブ付きのパウロスペシャル、どうぞ召し上がれ!」

「なんだよパウロスペシャルって…。一気に不味そうになるじゃねぇかよ」


 そんな軽口を叩きあってる間に置かれたお皿からは、ゆらゆらと湯気が立ちのぼり、クリーミーでいてスパイシーな香りが立ち込めてくる。

 お皿の中は白いシチューのようなお粥のような見た目で、そのお皿の縁に串焼きになったお肉っぽいのが載っている。


「これがケーレブで、皿ん中のがノチェーナロウズだ。食ってみろ、美味いぞ?!」


 串焼きを手に説明してくれるルークさん。

 そんなルークさんの顔を見るだけで、確実に美味しいだろうと伺える。


「えーと…」

「これはこうして普通に食べればいいのよ」


 私が食べ方にためらっていると、可笑しそうに笑みながらニーナさんが実演してくれた。

 確かに普通だ。


 ニーナさんは、お皿のノチェーナロウズなるものをスプーンですくって食べ、串焼きはそのままかじっている。

 カーニャロウズで失敗してるだけあって、初めての料理に警戒し過ぎていたみたい。


 早速ニーナさんを真似て、まずはノチェーナロウズなるものを一口。


「美味しい!」


 思わず声を出してしまった。

 この白いのはとろみがついた牛乳だろう。

 そしてお粥のように見えているのは食サンロールだと思う。

 食サンロールを牛乳で煮込んだようなものだ。

 ギルドの食堂でも似たように食サンロールを煮込んで出しているのがあったから間違いないはず。

 また違うけど、カレー風ホワイトシチューと言ったところだろうか。

 食サンロールのモチモチ食感は残っていて、食べ応えも抜群だ。

 ホワイトシチューとの先入観を無くせば、この少し酸味があるのもクセになりそう。

 比較的濃厚な味付けだけど、この少しの酸味のおかげでいくらでも食べられそうな感じ。

 凄くいい。コレ。


「そんな顔してもらえると、俺のパウロスペシャルも本望だろうぜ!」

「美味しいです、本当!」

「だからその名前はメシが不味くなるからやめろって…」


 ルークさんの苦い顔にクスリとしながら、ケーレブなるものもいってみる。


 ん……?


「美味しいですっ」


 私のリアクションに、くしゃりと顔をほころばせるパウロさん。

 一瞬なんだ? って思ったけど、味といい食感といい、なかなかに美味なのだ。

 一見、何かのお肉かなって思って食べたけど、食感が白子と白身魚の間くらいのふわとろ食感。

 味付けは見た目の肉の串焼きとはかけ離れているというか、塩コショウ程度でさっぱりしている。

 そして薄っすら柑橘系の香りがするのもいい。


 これは美味しい。


 正直、もう一本食べたいくらい。

 コレ、ハマるかも。


「お嬢ちゃんは本当いい顔して食べてくれるねぇ〜」

「ひゃっ…」


 パウロさんの声に顔を上げたらパウロさんアップで驚いた。

 夢中になって食べてたみたいで気づかなかったよ…。


「フフ、ごめんよ。そんな美味そうに食べてくれるんなりゃ、もう一本サービスするぜ!」


 やった。

 パウロさん好き。

 これなら美味しいもの=パウロでもいい。

 よってパウロスペシャル、ありだと思います。


 パウロさんはいそいそと屋台へ戻り、私の為のケーレブを炙りにかかった。


「これってなんのお肉なんですか? ちょー美味しいんですけど」

「それか? 今イオンが着てるスネイルガンボスと先祖が一緒とされてるスネイラーキャットってカタツムリだ。美味いだろ?」

「…………」


 カタツムリ?

 あのナメクジが貝殻背負ってる感じのヤツよね…。

 でんでんまいまいのカタツムリよね…。


 聞かなきゃ良かったよ。


 て言うより、この服、カタツムリの殻で出来てるの??


 やっぱ聞かなきゃ良かった……。


「でもイオンの口に合って良かったわ」

「え、ええ。とっても美味しいです…」


 まあ美味しいのは変わりない。

 でんでん美味しい。


 この際だから先入観にとらわれるのはよそう。


 異世界なんだから今までの常識とは全く違うのだ。

 そうだよ。いい機会だから今後はそう言うスタンスで異世界を楽しもう。


「はいよ、ケーレブのお代わりだ。後から腹に溜まってくるんでハーフサイズにしといたぜ」


 パウロさんがお代わりを持って来てくれた。

 確かに結構お腹いっぱいになって来たかも。

 ハーフサイズでも完食できるか心配になってくる…。


「食えなかったら無理すんなよ? 俺とニーナで手伝ってやるからな?」

「ありがとうございます。お願いします…」


 私はよほどわかりやすいのだろう。

 あの石じゃないけど、顔に文字が浮かび上がっているのかと思うくらいだ…。

 ま、ルークさんが察しがいいのかも知れないけど、こう悟られ続けると恥ずかしい。



「それじゃ、ここは私が払っとくわね?」


 そう言ってニーナさんが立ち上がる。

 すっかり完食し、満腹になってまったりしていた。

 結局お代わりのケーレブは、ほとんどルークさんが食べくれた。

 パウロさんの言ってた通り、あれは後からお腹がふくれてくる感じで、美味しいからと言って沢山食べられるものではなかった。

 逆を言えば、あれ一本で満足できるので、携帯食なんかにいいかも知れない。


 とにかく、ノチェーナロウズもケーレブも美味しかった。

 そして、お腹いっぱいだ。


「じゃあそろそろギルドに戻るか?」


 ルークさんの一声で、私たちは馬車へと歩き出した。


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