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第十二話「地下牢」

 


「イオンちゃん、思ったよりお客さんが早くはけたから、そろそろ休憩に…って、あれ? イオンちゃんったら何処行ったのさぁ……」


 あれま、イオンちゃんが馬車に押し込められてるじゃないのさ。

 それにあの紋章は確か辺境伯さまんとこの…。


 こりゃ大変だ。

 早いとこウチの人に教えなきゃ!



 >>>



 問答無用で捕らえられた私は、そのまま馬車に乗せられ、ちょっとしたお城のような建物へ連れられて来た。

 そして、着いて早々に地下の牢屋らしき部屋に放り込まれた。

 牢屋らしきと言うか、この鉄格子を見れば誰でもわかる。


 THE地下牢よ…。


 まさか自分がこんな絵に描いたような地下牢へ入るなんて、夢にも思わなかった。

 夢ならワクワクもするだろうけど、リアル地下牢はかなりキツイ。

 だって、なにより超臭い。

 それはもう、本当に凄まじい。


 原因は明白だ。


 部屋の隅っこに落ちてるアイツに間違いない。

 アイツの生みの親であろうあの男も臭い。

 よって私は鉄格子にしがみつくようにしてスーハーしている。

 せめて男女は別にしようよ…。


「だからお嬢ちゃんは何やったんだよ?」


 さっきから親の方がずっと話しかけて来てる。

 でも実はこの人、意外とイケメン。

 金髪でもっさりと頬まで覆った無精髭なんだけど、妙に顔が整っているせいか、主演俳優が牢屋に放り込まれているシーンみたい。

 短めの髪の毛も天然ジェルで固められ、ツンツンといい感じの無造作ヘア。

 ぶっちゃけアンジェリーなピッドさんそっくり。

 それに、きっと二十歳そこそこくらいで歳も若そう。


 ただ、臭いのよ。


 あの天然スタイリング剤が物語っているように、何週間もお風呂に入ってないんだ臭。

 この何プロ臭が酷い。やばいよ、この人。


 それを凌駕するかの如し、存在感を発揮する隅っこのアイツ。


 窒息死するっつうの。


 この牢屋には私とこの臭いブラピだけ。

 二人しか居ないので、生まれたてのアイツの親はクサピに間違いない。

 全く、初めて見たわよ。人のウンコ。言っちゃった…orz


 しかし、自分の汚物を見られてるにもかかわらず、よくもまあこんな呑気に声がかけられるものだ。

 全くと言っていいほど、このクサピには恥ずかしさのかけらもない。


「そんなとこにしがみついてたって、すぐには出しちゃもらえねぇぞ? 長え付き合いになるかも知れねぇし、話くれえしようぜ?」


 クサピはそう言いながら、なんと私の肩に手をかけて来た。

 手、その手、アイツを拭いた手じゃないでしょうね!


「ちょっとやめてよ! 私は捕まることなんか何もしてないの! それにクサピと話すことも何一つないし!」

「おいおい、どうしたんだよ急に。それに誰だよクサピって? 俺たち以外、人はいねぇぞ? 看守に知り合いでもいんのか?」


 クサピって認定ワードが思わず口をついて出ちゃったみたい。まあ、いいわ。事実だし。

 そんな事よりクサピが私の真横まで来て、同じように鉄格子を掴んで外の様子を伺っている。

 濃厚なクサピ臭が私のスーハーを襲う。

 やばい…。


「ふぉおぅふ…」


 私の下半身へ目をやりながらニタニタするクサピ。

 反射的に服の裾をめくり上げ、鼻をふさいでしまったのだ。

 完全にパンツ見られたよ…。


「って、臭いのよっ!」


 私はしゃがみながら、まんまを叫んでいた。

 言いようのない恥ずかしさと腹立たしさだ。


「あぁ、そう言う事か。悪りぃ悪りぃ。旅続きだったんで、湯浴みなんて何日もしてねぇからな…」


 クサピはそう言って後ずさるも、「でもそのうち慣れると思うぜ?」などとのたまいながらのWhyポーズ。

 絵になるところが実に腹立たしい。

 無臭の時にやれ。


「それはそうと、何もやってないのに捕まる訳ねぇだろ?」


 あたかも私が打ち解けたとばかりに、勝手に話を続けるクサピ。

 どかりと地面にあぐらをかいて、しゃがんだ私とさり気なく目線を合わせてくる。


 私はと言うと、さっきのまんまな叫びのせいで室内の空気を存分に吸ってしまい、もうすぐ死にそう。

 この服、可愛いけど生地が荒すぎ…。


「まあ、俺も何もやってないっちゃやってないんだがな? だってよう。ちょっと正規のルートで入国しなかっただけなんだぜ?」


 それ、密入国って言うんだけど。

 良くもまあ抜け抜けと何もやってないとか言えるわね。立派な犯罪よ!


「あ、お嬢ちゃんもその口か? まあ気持ちはわかるが、これ、密入国って言うんだぜ?」


 お前が言うな!

 との言葉をぐっと堪える。

 言ったあとのあの恐ろしいまでの臭撃回避だ。死にたくない。


「でもお嬢ちゃんはどうしてそんな事したんだ? ひょっとしてお嬢ちゃんも訳ありか?」


 勝手に同罪者にして話を進めるクサピ。

 ウザイ。


「俺はアレークラ王国のもんだから、知られるとちょっと厄介だろ? なんせ今は休戦状態とは言え、いつこのエクシャーナル王国と戦が始まるか、ここ最近の情勢を見る限りわかったもんじゃねぇからな? 間者扱いされた日にゃ堪ったもんじゃねぇ。ま、それでこうして捕らえられてんじゃ、元も子もねぇがな?」


 なんだか聞き慣れない名詞を並べながら話し続けるクサピ。

 異世界2日目の私には到底ついて行けない。

 こんな目に来る臭いさせてんだから、せめて初心者にはもっと配慮して話して欲しいものだ。

 そのくらい無理聞いてくれてもいいと思います。


 ただ、ここがエクシャーナル王国と言う国だとわかったのは朗報だ。

 ルークさん達に聞けばすぐにわかる事だと思うけど、自分が一体何処にいるかも定かでない身としては、国名がわかっただけでも大きな一歩だ。妙に安心する。

 それに戦争云々の話などは、平和な日本育ちの私では思いつきもしない事だから、こうしてそんな情勢を聞けるのはありがたい。

 とは言っても、聞きたくなかった情報でもあるんだけどね…。


「まあ、お嬢ちゃんは見たことねぇ種族だから、訳ありと言っても、俺なんかよりよっぽど複雑なんだろうけどよう。俺なんかで良かったら聞いてやるぜ? それに、意外と役に立てるかも知れねぇぜ?」

「…………」


『肥料』の文字しか浮かばない、クサピの役立てかた。

 とにかくこの調子だと、クサピの独り言は暫く続きそうだ。


 この浅い呼吸がどこまで保つか、心配になってきた。



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