第百十三話「みんなでプリン食べてます」
「そぉ〜れにしてもうんめなぁ〜。なぁ〜んて言ったっけか〜、こいつはぁ〜〜?」
「プリンなのニャ、プリン! さっきからプリンって何度も言ってるのニャ!」
「ジジ、ジョシュはあなたにプリンって言わせたいだけなんだから放っておきなさい」
「そうだぜ。こいつはお前がプリンって言った時に無駄に揺れる胸を見て喜んでやがんのさ」
「ニャニャ!」
私もそう思います、ルークさん。
だってジョシュさん、鼻の下が猿並みに伸びてるもん。
ま、猿人族の血が入ってるから元々なんだけど……。
いや、他にもある。
ジョシュさんは御子息くんの反応を楽しんでるのよ。
御子息くんは目のやり場に困りながらも、ジーニャさんをチラ見して顔を真っ赤にしてるんだもん。
しかしジーニャさんもジーニャさんだよ。
そんなにムキになって言うことないのに……。
そうやってムキになって勢い込んで言うもんだからポヨンポヨンと揺れるんだよ。
全く。羨ましい限りだよ……。
でもまあ、それもしょうがない気もするのよ。
だってジーニャさんはみんなが仲良くベル○薇ルックで正装してる中、一人だけいつものビキニアーマーなんだもん。
オマケに両手を手枷で拘束されてるので両腕で胸を挟む形になっている。
だからさっきから食べ難そうに無駄に胸を強調しながらプリンを食べているのよ。
まるで深夜番組のお色気罰ゲームだよ……。
これ、誰が悪いのかわからないよね?
突き詰めれは、悪の根源はジーニャさんのポヨンポヨンって事になるのかしら?
まあ要するにこの和気あいあいとした雰囲気でわかるのは、ジーニャさんの疑いが未だ晴れていないってことなのよね……。
「ねぇイオン。殿下とはお話したんでしょ?
どんなお話をしたの?」
興味津々といった表情のニーナさんが小声で聞いてくる。
さっきから何か聞きたげにチラチラ私を見てたけど、やっぱりそっちだったか。
なんだか妙に恥ずかしい。
「まあ……今後のお話とかを色々と…………」
「ふぅーん。色々と?」
「は、はい。色々……と……」
「で、イオンは殿下に恋しちゃったのね?」
「ッ!!」
何をいきなり……。
ニーナさんが好奇の目で私を覗き込んでくる。
私の顔色は今、御子息くん以上に真っ赤に変色してるはず。
そのくらい顔が熱い……。
「良かったわ。いくら『運命人』とは言え、やっぱり好きになれない相手だと……ね?
まあ、殿下は容姿端麗で優しいお方だと聞いてたから、その点は安心していたんだけど。とにかくその顔を見て本当に安心したわ」
「…………」
ニーナさんは私の顔をみながら可笑しそうに笑っている。
やっぱり私の顔は真っ赤っ赤なのね……。
「イオン?」
私の肩に手を置いたニーナさん。
いつの間にかその顔から笑みが消えている。
「殿下もその気があるって話だし、本当におめでとう」
「は、はい……。でもまだ……」
「そう。婚儀は未だ先ね」
「…………」
婚儀って、ニーナさん。
そう言うことを言いたかった訳じゃないんだけど……。
「だからこそこれからが大変なのよ?
いい、イオン。イオンを王妃として迎え入れる話が進めば進むほど、益々敵から狙われるって事なの」
「はあ……」
「それに王妃となってからだって安心できないわ。敵は常にイオンの周りにいて、隙あらばあなたを狙って来るはずよ?
私もずっとイオンの側にいて守ってあげたいけど、きっとイオンを護衛できるのも婚儀までだと思うの。だからイオンも今から自分の立場と置かれた状況を理解した上で、慎重に行動しないとダメよ?」
「はい……」
そっか。
ずっと一緒にいられないのか。
ニーナさんだけじゃなくルークさんも……。
心配してくれるのは嬉しいけど、それ以上に離れ離れになってしまうのは寂しい。
そうか。結婚するってことは、大好きな人と暮らす代わりに大切な人とお別れすることにもなるのね。
やだ私。結婚する気になってる?
いやいやいやいや。
まだそう言うんじゃないから。
まだ?
ま、まずその前に、私にはやらなければいけないことがある。
そ、そうよ。
井伊加瀬先輩がどうなってるか分からないのよ。
それを知るまではエドワード王子と一緒になんかなれない。
エドワード王子と一緒……?
なんか、もう私……。
とにかく顔が熱い……。
「イオン様、シューリングより言伝でございます」
恥ずかしくて俯いてたら、ノックの音と同時に思いのほか幼い声が聞こえてきた。
「はい。どうぞ中へお入りください」
私が返事を返すと遠慮がちに扉が開いた。
すると12、3歳くらいの女の子が入って来た。
部屋へ入った途端、みんなの視線を浴びてアワアワとたじろいでいる。
「シュ、シューリングの言伝でございます!
西の庭園のみ外出が許されました。ただし日暮れ前にはお部屋へ戻られるように、との事でござます。では、わたくしめはこれにて失礼致しますっ」
めっちゃアワアワ早口で言った女の子は、頭を下げて部屋を出て行こうとする。
「ちょ、ちょっと待ってください!」
「ひゃっ」
私の声に小さな悲鳴を上げて尻もちをつく女の子。
スカートの中を覗き込むように首を傾げたジョシュさんが私に親指を立てる。
誤解を生むからやめてほしい……。
「えーと、西の庭園って何処なんですか?」
「ひっ……」
尻もち付きながら後ずさる女の子。
怯えたような目でジョシュさんと私を交互に見ている。
完全に誤解されたみたい……。
「あ、えー。ご、御案内します。はい!」
「あ、いえ、教えてもらえれば行けると思いますので無理なさらずに……」
ぴょこんと飛び跳ねるように立ち上がった女の子は、バサリとお下げ髪を振りかざして畏まる。
艶やかな長い青い髪がだらりと垂れている。
そんな白いうなじを見て、ニヤリと笑いながらまた親指を立てるジョシュさん。
「む、無理している訳ではありません。ただ……畏れ多いだけなんです……」
「そ、そうなんですね……。でも畏れ多いことなんてありませんから……ってジョシュさん!」
「ひゃッ」
急接近したジョシュさんに驚く女の子。
ジョシュさんは女の子の口元にスプーンを持っていき、プリンをあーんしていた。
悪戯にもほどがある……。
「ジョシュ!」
「たぁ〜いくつな船旅だったんだぜ〜。このくれぇ遊んでもいいんじゃね〜の〜?」
ジョシュさんはニーナさんの一喝に肩をすくめるも、すぐに口を尖らせながら言い返してヘラヘラ笑う。
この人は極力退屈させない方がいいみたい……。
「なんだイオン、散歩にでも出たかったのか?」
ジョシュさんに眉をひそめながらルークさんが聞いてくる。
「はい……。昨日からずっと部屋から出してもらえなかったので、ルル達も退屈しちゃって……」
「確かにこのチビっ子は部屋でじっとしてられねぇだろうな?」
自分の膝の上でプリンを貪るルルの頭を撫でるルークさん。
ルルはルークさんの分のプリンを食べている。
すっかり懐いたと言うか、餌付けされたと言うか……。
ルルは両親が魔物に襲われて亡くなってしまい、一人で森を彷徨っていたことになっている。
少し強引な言い訳だけど、それを聞いたルークさんは途端にルルを可愛がりはじめたんだよね。
頬にでっかい傷があって一見強面ではあるけど、やっぱりルークさんは優しい。
「我はチビっ子ではないのだ!」
「そうだな、悪りぃ悪りぃ」
ルークさんの膝の上で振り向いたルルはスプーン片手に抗議する。
そんなチビっ子丸出しの絵面のルルに、ルークさんは目を細めながら謝っている。
「しかし、部屋に軟禁されんのもしょうがない事だぜ?
なんせ勝手にギルドを抜け出してエライことになったばかりだからな?」
「そ、そうなんですけど……」
それを言われたら何も言えない……。
「まあ俺たちも着いた事だし、これからは少しは外出も許されるだろう。でも必ずニーナに声をかけて側にいてもらうんだぞ?」
「はい……」
ニーナさんを見ると、ニーナさんはニコリと笑いながらも「無断で抜け出しちゃダメよ」と書いた顔で少し睨むようにして頷いた。
信用、失っているみたいね、私……。
「じゃあニーナ。食べ終わったら早速散歩に行くぞ!」
「ふふ。はいはい」
偉そうにスプーンでニーナさんを指しながら言うルル。
ニーナさんもルルを可哀想な子と見ているせいか、完全に甘々な対応になっている。
ちょっと心苦しい……。
「では、わたくしめはそれまで外でお待ちしております」
「す、すみません、お願いします……」
女の子は早くこの場から立ち去りたかったのだろう。私にペコリと頭を下げると急いで扉を閉めた。
扉を閉める寸前に怯えた目でジョシュさんを見ていたのがなんとも心苦しい。
ジョシュさん……。




