第百一話「女剣士」
エドワード……。
イケメン忍者の正体は王子様ってこと?
本当にあの第一王子のエドワードなの??
「フフ、フハハハハハハ……」
困惑してる私をよそに細長いおじさんが笑い出した。
「仕方ありませんね殿下。好奇心旺盛なのは良い事ですが、一国の王子たるお方がこんな場所まで顔を出すのは流石にいただけませんな?」
「ほう。ここへ来て余に説教でもするつもりか?
ふふ、よかろう。だがミズーロ卿、お前は説教では済まされぬと思え」
ミズーロ卿と呼ばれた細長いおじさんの顔がヒクリと歪む。
「セードルフ、色は倍にして払う。なんだったら言い値でもいい。直ちにこの殿下を騙る不届き者を即刻始末するのじゃ!」
「それなら言い値で請けさせて頂きますよ。
聞いたかみんなっ。ジェズ、シェリル、やっておしまいっ!」
セードルフさんが言い切らない内にシャリンシャリンシャリンと、大きな剣が抜かれる音が鳴り響く。
「どうやら血迷ったようだな?」
そう言ってイケメン忍者が腰を落としながらスっと一歩後ずさる。
いや、一国の王子とか言われてたから王子確定よね……。
「え……?」
嘘でしょ?
エドワード王子の左手にぶら下がってるのって銀一よね?
銀一はトロンとした顔で、エドワード王子に首根っこを摘まれてぶら下がっている。
てか、ヨダレ垂らしてぐんにゃりしてるよ……。
そして右手には私の斜めがけバッグも持っている。
あの中にはレムがいるはず!
とにかく二人とも無事だ!
私が興奮していると、エドワード王子は銀一とバッグを後ろに置くと、腰に帯びていた細身の剣をスルリと抜いた。
「初めに言っておくが、お前らは僅かな金の為に命を落とす事になる。運命人に手を出せばどうなるかを示す必要があるからな?
命が惜しければ今の内に立ち去ることだな?」
屈強そうな男の人達がチラリと隣の仲間に目配せをした。
その空気は完全に浮き足立っているように見える。
「フフ、面白いわ」
細身の女の人がスルリと前へ出た。
黒い革鎧に黒いブーツ。全身黒づくめに長い銀髪が印象的な女の人だ。
整った綺麗な顔をしているけど、冷酷そうな薄グレーの目のせいで不気味な感じ。
そしてこの人だけまだ剣を抜いていないのも不気味。
だって、女の人の剣が中でも一際大きいからだ。
女の人は身体とは不釣り合いな大きな剣を背中に背負い、両手を組みながら不敵な笑みを浮かべている。
背中の剣は長い銀髪に見え隠れしている。
「面白いか?」
「エドワード第一王子と言えば、なかなかの剣の遣い手だと噂で聞いたことがあるわ。
王子を騙る不届き者だったとしても斬り甲斐があるって事よ?」
冷めた声で応えた女の人の手に、フワっと大きな剣が現れた。
見ると背中には剣の鞘だけが残されている。
いつ剣を抜いたのか、私には全く見えなかった。
ぐいと大剣がエドワード王子へ向けられる。
それが合図のように、怖気づいたかに見えた男の人達も剣を構え直す。
そしてエドワード王子を取り囲むように、じわじわ間合いを詰め始めた。
「よかろう」
エドワード王子の声とともにキンと甲高い金属音が鳴り響く。
次の瞬間、エドワード王子はいつの間にか敵の輪を抜けて、私がいる鉄格子の前まで来ていた。
「そこから離れてっ」
刺すように言われた私は、慌てて鉄格子から離れる。
そして離れた瞬間、エドワード王子が剣を一閃させた。
ーーカランカランカラン……
音を立てて三本の鉄が地面に転がった。
見ると頑丈そうだった太い鉄格子がスッパリと断ち切られていた。
「でも、もう少しそこでじっとしてるんだよ?」
呆然と切り口を見てたら柔らかい声が聞こえた。
声に目を向けると、既にエドワード王子は私に背を向けて敵と対峙ている。
「そのスピード、どうやら風属性みたいだね?
フフ、少しは楽しめそうだよ……」
冷めた声で言いながら女の人が近づいてくる。
その左右には男の人達。
ごっつい幅広の大きな剣が半円を描くように並んでいる。
中でも女の人の剣はズバ抜けて大きい。
彼女の背丈とそう変わらないように見える。
対するエドワード王子の剣は細身で、ズラリと向けられた剣と比べるとまるで針のよう。
切れ味はいいんだろうけど、本当に大丈夫なのかしら……?
不安を覚えた瞬間、ブワンと大気を切り裂く音が聞こえた。
次の瞬間には目の前にいたはずのエドワード王子の姿はなく、その代わりに女の人の姿が目に入ってきた。
王子と入れ替わった女の人は剣を振り抜いた格好だ。
「確かに素早いわね……」
女の人はそう言ってチラリと横をみながらニヤリと笑う。
その視線の先を見ると、10メートルほど離れたところにエドワード王子の涼しげな顔があった。
側にはセードルフさんとミズーロ卿もいる。
「シェリル! 勿体つけてないで早く始末しろっ!」
セードルフさんの怒声が響き渡る。
エドワード王子との距離が詰まったことで身の危険を覚えたのかも知れない。
その証拠に、ミズーロ卿を追いやるようにして出口の方へと移動している。
「……詰まらない雇い主だよ全く」
シェリルと呼ばれた女の人は冷めた声を更に低めて呟くと、
「遊びはやめろだと……さっ」
言うなりブワンと大きな剣を振るった。
いくら剣が大きくても彼女とエドワード王子までの距離は凡そ10メートルはある。
エドワード王子の俊敏性を考えたら尚更無意味な攻撃に思えた。
そう思った次の瞬間、
「ぐ……」
エドワード王子から短い呻き声がもれる。
見るとエドワード王子の左腕から血が吹き出していた。
そして、
シャキシャキシャキシャキシャキシャキ……ガギン
との金属がぶつかり合う音が聞こえた。
数珠状にバラバラになった剣の刃が鞭のように伸びていて、ちょうど元に戻ったところだった。
エドワード王子は杖でもつくように、右手の剣を地面に突き刺しながら膝をついた。
良く見ると左腕の肘から下が無くなっている……。
「ふぅうん。蛇腹剣の一振りで片腕一本で済んだんだ?
初見なのに凄いじゃない? 素直に褒めてあげるわ」
シェリルの冷たい声が響く。
「く……」
エドワード王子は痛みに顔を歪めながら悔しそうな目をシェリルに向ける。
「その目、堪らないわ?
でも次の一振りで、そんな目も見れなくなるわねっ」
「レム出番よっ!!」
「ッ!!」
剣を振り上げたシェリルは、私の真後ろからの大声で動きを止めた。
「煩いわね、あんたっ」
「…………」
ジロリと冷酷な目を向けられて、金縛りのように身体が固まってしまう。
一瞬、薄グレーの瞳が発光しているように見えた。
「あんたもどうせ殺される運命なんでしょ?
特別に私がこの蛇腹剣で始末してあげるわよっ」
彼女はそう言って、振り上げていた剣を私に向けて振り下ろした。逃げようにも身体が動かない。
硬直した私は目を瞑ることしかできなかった。




