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リアルに銃を撃て。  作者: 金澤裕志
9/19

光さす方へ。

朝、目覚ましが鳴り起きると、針は完全に寝坊に当たる時間を指していた。

スターからLINEが来ていたので、それに返信をする。

『ごめん、今から行くわ』

そもそもこの時間の時点で1限に間に合うかは分からんが、とりあえず支度していく。

秋半ば、文化祭の小堺くんの一件もあり、ここ最近頭の中で考え事ばかりしていた俺。

ほたるの記憶の件、麗にコクりたい件、波奈とほたるの仲の件、ひかりの謎の母親の件、スターと平賀さんの恋仲を守りたい件…

問題はもっと色々あって、進路をそろそろ決めなければいけないと分かっているのに、何一つ考えていないってことも挙げられる。どうすれば良いか分からないことだらけで、そもそもこれらの件全てが俺の関与して良いものかどうかも分からない。

うっかり定期券を忘れそうになって、家に引き返す自分が、この先こんなんで大丈夫かと不安を更に増長させ、それでも今は時間の流れに身を任せて誤魔化している。



学校に着くと、どうやらホームルームが始まる手前だった様だ。滑り込む形で教室に入るが、クラスがざわついている。

「ほ、ほたる、何があった?」

釈然としないほたるの表情を見て、俺が腑に落ちない中、パッと教卓の方に顔を向けると、端に寄せられた城島先生、そして教卓のド真ん中には見たことのない女性とその隣にひかりがいた。

その女性はビジネスウーマンと言わんばかりの強面と風格を持ち合わせ、それで持って若く美人であった。スタイルも良く、しかし狂気さえも滲み出している威厳が教室全体にピリピリとしたムードを漂わせていた。そんな事を気にせずザワザワしたままのクラスと真っ向から対立した構図に俺は恐ろしさを感じた。

その女性はゆっくりと口を開く。

「まったく…ホントにしょーもないクラスですね。しつけはきちんとなさっているのですか?城島先生」

「わ、私なりに精一杯…」

「ほーお、口応えですか」

そう言われてシュンとなってしまった城島先生が可哀想だった。

「今日で、うちのひかりは退学させます。実験は終了です。お疲れ様でした、ガキども」

ひかりは俯き、悲し気な表情こそしているものの、彼女に何を反論することもなく、完全に諦めてしまった表情でいた。

この意味不明な状況を俺は勿論のこと、事情を知っている教壇の3人以外、クラス全員が飲み込めるはずもなかった。


謎の女性が去った後、納得できないクラスの空気を裂く為、城島先生は沈んだ表情を無理やり浮かせて語り始めた。

「えーっと…そういうことで…蒼井ひかりさんは退学となりました…」

「そういうことってどういうことか全然分かりません!」

上級カーストの使命感か、単純に我慢できなかったのか、一番最初に切り出していったのは波奈だった。それに続くように、

「そうですよ先生!こんなのおかしいと思います!」と平賀さん。

「そ、そうよね…」

意外とこういう時に踏み込めないのが男子だが、そんな事よりも更に表情が沈んでしまった先生が徐々に覚悟を決めていくように見えた事が、何だか俺自身も覚悟を決めなければならない様な気がして、とにかく俺は怖かった。

「皆さんには言っていなかったけれど、うちの理事長先生はあの方なの」

クラスがどよめく。集会などで顔を出すのは大抵校長か教頭なので、あの人の存在自体を皆知らないのだ。

「でも、何で公立のうちの高校に理事長いるんすか」

そう切り出してきたのはスターだった。彼の言う通り、私立の学校法人の長にあたるのが「理事長」であり、そうでない公立高校は基本的には存在しないものである。

「実は、うちの学校はあの人が元々管理していたものを公立として独立させたものなの」

「そんな事出来るんすか?」

「基本は出来ないわ。でも、それを裏で手引いたのがあの人みたいなの」

このやり取りに俺も口を開き、


「てことは、あの人が噂の、ひかりのお母さんですか?」


「ええ、そういうことよ」


理事長という立場を公立で無理くり立たせ、校長や教頭を裏で先導し、学校そのものをコントロールしていた化け物…。彼女がただ者ではない事が分かった。

「ここまで来たら全てを話すわ。蒼井さんはね、常にお付きの人に監視されてきたの。ひかりさんに遭遇した全ての人で、彼女の今後を見出だせる人であればそれを利用しようって企んでたらしいから」

未だに思い浮かぶのはアイツと電車で初めて出会った時。とても楽しそうに友人達と話していた。その後、うちのクラスの女子や数人の彼女のファンには常にニコニコと優しい笑顔で接し、決してつまらない日々を送っていたわけではなかったと思う。俺にだけツンケンしていたのは、もしかしたら単純に嫌われているだけかもしれんが…。

お付きの人やあの母親が何を企んでいたのかは知らんが、ひかりの気持ちを無視して前の高校との関係性に将来を見出だせないと勝手に判断し、彼女を切り離して無理やり転校させたという結論に残念ながら到ってしまう。つまり、俺らの誰か、もしくは俺らという集団そのものに、あの電車で遭遇した一瞬に価値を見出だして、彼女を強引に転校させたとでも言うのか…?

「それ、ひかり本人は望んでるんですか?」

「分からない…」

怒りを露にしたほたるが、

「そんなことも分からないのに、ひかりさんをお母さんの手のひらの上で転がしてたって言うんですか!?先生はそれを止めようって思わなかったんですか!?」

「私も止めたかった!大事な生徒だもの!でも…あの人が転校って言ったら転校だし、もう無理だって決め付けたら退学になるんだから…」

張り詰めた緊張が一気に破裂したように、先生の感情も爆発する。

こんな面倒なこと、関わるだけ無駄かもしれない。どうせ俺らが関わっても、きっと大人には何も刺さらないのかもしれない。それでも俺は、ひかりを見捨てることなんて出来ないお人好しだ。

「行くぞ、ほたる」

「やっと男見せんのね。良いよ、力貸すから。麗も行くよ!」

「う、うん!授業抜けるのあれだけど、ひかりちゃんは大切な友達だから!」

「上崎さん、アンタも来なさいよ!」

「アンタに言われなくても行くし!」

「充師匠が行くなら僕も行くです!」

ほたるに急かされた波奈も立ち上がり、モブもつられて手を挙げる。

スターはやれやれという表情を浮かべ、面倒臭そうにしていたが、

「スター、行って来なさいよ」

「何でだよ」

平賀さんの提案に疑問に感じるスター。

「もしかして希美、焼きもちか?」

「はぁー!?んなわけあるかー!」

「まあまあのぞみん!スターくん、行ってきな!大切なお友達なんでしょ?」

平賀さんと花蕾さんの後押しに、スターも渋々うなずく。

「スターも来るのか」

「来ちゃ悪いかよ。充、お前がカッコ付けられんの、もう金輪際無いかもしんねぇから精々暴れるんだな」

「ふんっ。往生際が悪いヤツほど暴れるのは得意なんだよ」

城島先生も諦めた様子で、

「あーやばーい。先生これから1限の理科のプリント取ってくるからみんな教室で大人しくしててねー」

見ないフリする演技下手すぎだろ…。それもまた味だが。

「ありがと、先生」

礼を言った6人 ── 俺、ほたる、麗、波奈、スター、モブは教室の扉を勢いよく開け、理事長室へ向けて走り出した。




走る廊下にて。


「充、何か分かったの?」

「ああ。アイツが何故俺と麗が夏祭り行った時に、お前と一緒に監視してたのかがな」

「はあ!?星野さん、アンタ、ウチの充くん麗ちゃんとくー付けようしとんとか?」

「うるさいわね、この方言女!アンタの男でもないし、麗はミツルのこと好きなんだからしょうがないでしょ!」

「あ、あの、私そんなこと一言も…」

うんうん、そうだよな麗。そうなんですよ、一言も言ってないんだよなー。麗が俺のこと好き?ないない、あり得ない。麗のこの反応から分かるように、別に彼女は俺のことを友達として大事にしてくれてるだけなのだ。

でも、何かやっぱ断言されると辛いわー。

「アンタはそがんと勝手なことばっかやるんけ、それが鬱陶しいゆーとんじゃか!」

「そういうアンタもいい加減、麗エンド認めてやったら?麗が可哀想でしょ!」

「ねーねー、昨日ね、青森で初雪を観測したらしい…」

「黙れ!モブキャラ!!!」

ほたると波奈の声が被ってぶん殴られて、飛んでくモブ。どんまい。

「良いから本題に戻れや」

一人冷静なスターが俺に突っ込んできたので俺が答える。

「ひかりの親は監視役をひかりに付けてたんだろ?それでしかも夏祭りの一件で俺らを追ってたのは親の命令だってアイツ言ってた。つまり、俺と麗が本当にひかりの友人として相応しいか、自分の目できちんと観察しろってことなんだろ」

「なるほどな。あの親だったら確実に蒼井と信頼関係を結ぶ事が出来る友達しか公認しねぇだろうな」

スターの納得に加えて、

「じゃあ、何でひかり本人に観察させたのかな?あの親御さんだったら普通監視役の人にミツルや麗を見張らせるはずだと思うけど」とほたる。

「恐らくそれはひかりの拒絶だ。過去に勝手に友人との仲を引き裂かれて転校させられたひかりにとってしてみりゃ、もう親に決め付けられるのは嫌だったんだろ。どうせ監視されるくらいなら、自分の意志で判断させてくれという、せめてもの抵抗だったんだろうな」

俺の発言にみんなが納得の表情を浮かべると同時に、もっとひかりのことを親身になって考えてやりゃよかったと各々が後悔する。

会話しながら廊下を走り続け、ついに理事長室前までやって来た。



部屋の前には「理事長 蒼井はるか様」と書いてある。楽屋かよ…。

躊躇う事もなく、興奮していた俺は何も考えず力いっぱい扉を蹴り開けた。


「失礼します、ひかりさんを取り返しに来ました」

目の前にいたのは、理事長用に準備されたご立派なデスクに踏ん反り返る理事長と、客用の黒いふかふかとした椅子に前のめりで腰かけ、半泣き状態のひかりだった。

「何なの、君達。今すぐ出ていきなさい」

「嫌です」

「は?私に口答え?それに授業はどうしたの」

「勝手に抜け出して来ました」

「よく見ればそこのガキはさっき教室にいたわね。まったく。城島先生を問題にして訴えて金ふんだくってやろうかしら」

「理事長、お話があります」

「君達ごときは私と話してすらいけないんだよ!そんな提案はもっと立派になってから語りなさい」

大層偉いのは事実だろうが、それを隠そうともしないご身分な方の話は無視して俺は続ける。

「ひかりは返してもらう」

「み、充…」

「ほーお。君が噂で聞いた仲沢充か。なら話は別だ。言っておかなければ」

聞く耳は持ってくれたようだが、決して手のひらを返したように態度が変わったわけではなく、むしろ先程よりも更におぞましい顔付きに変わり、


「君のせいで、うちのひかりは病気になってしまったようなんだよ。責任を取ってもらうべく慰謝料を請求する」

「は?」

「私に向かって何なんだその態度は!君が娘にいちいち突っ掛かってくる事は私のコマどもから報告済みだ。以前より学校に行きたいと前向きになってくれたまでは良かったが、決定的なのは祭りの際だ」

「祭りの時がどうかしたんすか」

「他の女とデートもどきをし、尚且つその女を見捨てて帰ろうとしたそうじゃないか」

「母さん!ボクが言ったわけでもないのにどうしてそれを…!」

「監視を付けていないとでも思ったか、馬鹿者め」

ひかりが抵抗して勝ち取ったはずの友人関係への非干渉は何も実を結んでなどいなかった。

「女を複数人たぶらかすのは知ったことではない。しかしうちの娘となれば話は別。よって君を含め、その周囲の人間関係に干渉し過ぎた病人である娘がこれ以上悪影響を受けない為に、退学をさせる。以上。今すぐ出ていきなさい」

全ては俺のせい…。またか。こうやって俺はいつも立ち回りが上手く出来ていたようで何も出来てなかったんだな。

「充くん」

「なに」

「今、自分を責めたでしょ」

ちゃっかりしている波奈に隠し事など無理か。

「アンタの子育て方法。何なの、ムカつく」

我慢の限界だったほたるが前に出てくる。

「子育てもしたことないガキが何の茶番かしら」

「親ってみんなそうだよね~。本人のことなんかちっとも考えないで分かったつもりになっちゃって。ひかりちゃんも辛かったよね」

「ほ、星野さん…」

「うちの娘にその程度の揺さぶりはしても無駄」

「私の親もそうだったから。私を道具だとしか思ってなかったし。あなたは少しでも真剣にひかりちゃんのこと考えたことあるの?」

ほたるの真っ直ぐな瞳が訴える気持ちに応える気は微塵もない、死んだ目で彼女は言った。


「私が望む女の子にするの。それがこの子の幸せ」


「あ、アンタね…!」

ほたるがぶち切れそうなとこで俺が入ろうとすると、

「ひかりちゃんはどうなの?」

何も話せないひかりに、麗は直球で聞いた。

「ボ、ボクは…」

「ひかりちゃんは、どうしたいの?」

「ボクは…ボクは…」

親には逆らえない。でも、それでもひかりにとってはたった一人の母親なのだ。彼女を裏切ることなんて、こんな親に限らず俺でもしたくない。

それでも、守らなきゃいけない。俺は、ここまで自分の力でここまで楽しい日常を掴んだわけではない。誰かが決めたわけでもなく、ただ神が奇跡を連続で運んでくれてるだけなのだ。そしてひかりともそうやって出会った。俺にとって蒼井ひかりとは、その程度の繋がり相手なのかもしれない。そしてひかりにとっても俺は、単なるクラスメイトでしかないのかもしれない。それでもこの理事長が言うように、俺と少なからず繋がりがあると認識されているから俺らを切り捨てる決断をされたわけだ。勝手に切られようが何をされようが、俺は例え全てを失っても神がくれた彼女との繋がりを全力で守るしかない。そこに理由なんて存在しない。

もう理事長室に乗り込んでる時点で、停学退学、上等じゃねぇか。


「逃げるな。お前はどうしたいんだ、ひかり」


「ボクは…」

涙ぐむひかりはそれを拭い、初めて俺らの方へ体を向けた。


「ボクは、みんなとの繋がりを絶ちたくない」


「あなたが何を望もうともう変えることは出来ないわ。退学手続きは既に済ませてるから」

「それでも構わない。それでもボクは、みんなと関わりを壊したくなんて絶対に出来ない」

「関係を絶つために退学手続きをしたのよ!?それじゃあ手続きした意味がないじゃない!私はあなたを幸せにしてあげるためにこうして色々面倒なこともやっているんだから!」

「ボクの幸せは、ボクが掴むから!もう母さんに迷惑なんてかけない!だからもう、母さんも無理しなくて良いんだよ…。ボクの為に母さんが傷付くのは耐えられないし、それに何よりボクの友達を傷付けるのが一番辛い!」

元はと言えば、全てはひかりの為にやった事だった。理事長はひかりを大切に想い、自分がかつて父親とのトラブルで彼女を傷付けてしまった事への、せめてもの罪滅ぼしだったのだろう。この一つの家庭に、過去何があったのか俺らはきっと踏み込んではいけない。何が起こったのかは知らないけれど、その彼女の罪滅ぼしが、結果的にたった一人の娘を束縛していたということに、彼女自身もやはり向き合わなければならない。

「そんなこと…分かってるに決まってるじゃない!分かってるに…決まってるのに…!赤の他人どもが口挟むんじゃない!!」

そう言うと彼女は懐からナイフを取り出し、

「全員…ここで殺してやる…!私の邪魔をするものは、みんなここで死ねばいい…!」

女子3人+モブが怯み、麗は恐怖のあまり泣き出してしまったので、

「スター」

「おうよ」

襲い掛かってくる理事長の刃先をするりとかわし、手首を最小限の力で抑え捻ると同時にスターは彼女の背後をとる。すると彼女の狂気に満ちた手は一瞬の緩みを見せ、それを狙うかのようにスターは彼女の腕を力でねじ伏せ、手からナイフを落とさせた。そして彼女の両手を背後にまわして押さえつけ、無理やり黒いソファーへと座らせた。

「流石だな、スター」

「手を出すのは好きじゃないけどな。まあこれは正当防衛だ」

何もかもを失ったような絶望な顔付きになった理事長の表情はおろおろとしながら崩れ落ち、子供のように大声で泣き始めた。

「何で…何で私の思い通りにいかないのよぉ…!私だってひかりの為にあれこれ考えて、この子の幸せを想って頑張ってきたのに!うわぁぁん!」

彼女の気持ちそのものに嘘はないし、報われるべき事なのだと思う。ただ、そうである為のやり方や道筋を間違えてしまったのだ。分かっていても、ガキとしか認識されていない俺が何を語ろうと、何を説教臭く偉そうに言おうと、きっと何も響かない。彼女を変えることなんて叶えられやしない。でも、確かに蒼井ひかりの運命を変える事は出来た。


何もしてこなかった俺が、全てを失う覚悟で挑んだ説得は、まあ成功ってことで良いのかもしれない。




その後、理事長は逮捕され、彼女が多くの不正を働いていたことが発覚した。幸い、何も知らなかった校長やその他の職員は無罪となり、城島先生に危害が加わる事はなかった。しかし、承認してしまったひかりの退学は阻止できなかった上、俺ら押し掛けた6人は授業を抜け出した罰として、一週間の停学処分を食らう事となった。

この壮絶な一日の終わり。俺が帰ろうとすると、

「ちょっと良いか」

俺を呼び出したのはひかりだった。

「おう」

ほたるに今日は一緒に帰れないことをLINEすると、

『浮気は程々にね』という意味不明な返事が返ってきたので既読無視。

夕暮れの河川敷。こういう空間でスターと平賀さんが結ばれたと考えると、俺もいつかそういう何かしらのシチュエーション考えてコクる日が来るのかと思いドキドキする。

ふいにひかりが口を開く。

「今日はありがとう…」

「別に。活躍したのはスターだし」

「そうじゃない。来てくれたことに礼を言っているのだ。先導したのは貴様だろう?そのくらい分かる」

「まあ言い出しっぺではあるかな」

「ふふっ。相変わらず素直に感情を出せないヤツだな。そこが逆に素直なのかもしれないが」

「どうしたんだよお前、何か様子が…」

言葉を続けようとした時、ひかりが俺の正面へ飛び込み、抱きついて来た。テンパって動けなーい。

「ありがとう…ホントにありがとう…」

涙する彼女は、俺の押し付けていた価値観と全く違う一面だ。どこか期待していた。蒼井ひかりは、強い女子であることを。そしてそれに憧れ、求めていた俺がいたことを。そうなりたい思いがあったことを。そうでない彼女を避け、勝手な偏見を押し付けて、それで俺だけの満足で満たしておこうって無意識に感じていたんだろう。その弱さを受け入れてやらなければ、俺は俺として、彼女を救えたなんて言えない。

浮気は程々に…か。許してくれ、麗。

「好きだ…充…」

か弱く泣く彼女が吐露する言葉に、鈍い俺でも気付いたし、受け止める以外したくなかった。

夏祭りでデートに行った俺らを監視していた彼女は、もう自分の恋が実らないことを悟っていたのだろう。生まれて初めて受けた告白の想いに応えられない辛さは、こんなに苦しいものなのかと自分が嫌になった。でも、そういうものなのだろう。

俺達が守った彼女の時間を、彼女には他の人と使ってほしい。彼女へ、尊敬、感謝、そんな低レベルな言語では語り尽くせないこの感情を、俺はその夕陽の河川敷で伝えきることなど出来ず、ただ泣く彼女を抱き締めてやることしか出来なかった。




さあ9回目の更新です!


ちょいちょい噂になっていたひかりのお母ちゃん、とんでもない人でした。やりすぎです。

蒼井ひかりという、掘り下げ易いようで出番を作りにくいポジション。彼女が半年以上の景色で見てきた物は、確かに充くんへの純粋な気持ちでした。そしてヒロイン勢の中からトップバッターで踏み込んできたわけです。

でもこの一件が無ければ踏み込むことは無かったのかなぁ…どうだろうなぁ…と思いつつ、肝心な時に充くんは何もしてあげることが出来ないわけで。

いよいよ終盤に突入するリア銃。引き続きお楽しみ下さい。

後は、廊下の途中のモブくんがまったく空気読めてない所が個人的にお気に入り(笑)。

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