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リアルに銃を撃て。  作者: 金澤裕志
7/19

夏祭り

「お待たせ~!」

「お、おう!待ってないぜ全く!」

今日は念願の麗とのデート!しかも浴衣姿!この夏休みの最大のイベント、秋葉祭というカップルがわんさかいる場所に、俺がついに勇気を出して動き出した…わけがない。そんな勇気は微塵もない。

ソワソワしている俺の元へLINEが来た。

『何で手繋がないの?』

速攻で返信した。

『繋げるか!』

なぜか後ろで監視しているほたる。それよりもほたるとしては…

「何でひかりちゃんがいるの?」

「ふっ。このカオスな現場を見届ける役目は、星野さんだけでは足りないということだ」

「よく分かんないんですけど…」

俺はとにかく、今目の前で浴衣姿の麗にドッキドキだ。

「て、て、手、繋ごっか…!」

「お、おう?」

提案してきたのはまさかの麗の方からだった。なるほど、ほたるは同じ文面のLINEを麗にも送ったんだね。

「麗、ちょっと良い?」

「な、何?」

「これ、全部ほたるが仕組んだんでしょ?後ろで何かアイツ覗いてるけど」

「や、やっぱり充くんにも送ってたの?ほたるちゃん」

「うん、まあ。なぜかアイツとしては俺と麗を二人きりにしたいらしいんだけど…」

とか何とか呟いてる言葉自体にさほど意識していなかったが、麗の顔が急激に赤くなったので、自分も置かれている立場が急に怖くなって、恥ずかしくなってきてしまった。

「ふ、二人きりとか考えるより、まあ!ほたるが後ろにいるって思えばさ!ね!」

「う、うん…」

ったーく、麗の気持ちも考えないで俺とくっ付けようとするなんて。俺としては最高なんだけど。

「と、とりあえず行こっか!」

「あ、うん!」


夏休み。勿論今日の日のために準備をしてこないわけがない。男が色気付いてカッコいい浴衣なんか着たりするのも何かみっともない気がしてしまって、精一杯のお洒落をした私服で挑むことにした。一方の麗はバッチリの浴衣姿で青をベースに小さな花柄が自由に揺らいでいるような可愛らしいデザインに、もう数秒で気絶しそうなほど俺はメロメロであった。

「それにしてもほたるに何を吹き込まれたの?アイツのせいで迷惑してるよね…俺なんかでごめん」

「な、何で充くんが謝るの!?そんなことないよ!私、充くんが相手で嬉しかったんだよ!」

「え、それどういうこと(笑)」

「私、一緒に行きたかったんだ!」

俺のことを友達と思っていてくれたのか…。ああ…なんて良い子なんだろ。

「どうせなら…こんな形よりみんなで一緒に行きたかったんじゃない?」

「充くんは…嫌なの?」

みんなでお祭り…。当然それは俺もしたかったことだが、申し訳ないけどそれより何倍も麗と二人きりでいる時間の方がドキドキはするけど嬉しい。

「嫌なわけないだろ!麗と一緒にいれるんだし」

完全にいきすぎた言葉のチョイスに顔が赤くなったので、

「あ、ごめん!今のはその…深い意味じゃないから!」

チラリと後ろを見ると、なんかアツアツなものを見ているかのように照れているひかりと、終始ニタニタしているほたる。お前ら、助けろや。

「麗、何が食べたい?」

「うーん」

屋台に行くと、その数が多過ぎて中々決められない。そもそもこれほどの数の屋台を生まれて18年、見たことがなかった。当然多過ぎて決められないまま、ダラダラと歩いてしまってまた無言。もう耐えられねぇ…。

「北海道ってどんなお祭りがあるの?」

麗が唐突に話し掛けてくるので、

「あぁ、青森とかはねぶた祭りとかが盛んだな。俺の地域は…大したもんはないかな」

「そ、そうなんだ。ねぶた祭りは知ってるよ!」

何で青森のこと答えるんだし…バカか俺は…。

「あ、いや…言うて普通だよ?北海道って言っても…」

「私は行ったことないから一度行ってみたいな…」


この「行ってみたい」という麗の言葉は果たして本心なのだろうか。疑っちゃいけない。この子は本当に素直なのだ。でも単純に素直な単細胞人間だったら、俺は好きになってなんかいない。この子はその素直さの中に、真っ直ぐな心に…


そう、優しさがあるのだ。


優しさとは表面的に言えば、世間一般からしてみれば正しいものである。時には人を傷付けるという考え方もあるが、それはあくまで「時には」であって、大前提には良いものとして捉えられている。誰もが上辺だけの人間関係を築いているとは別に思わない。思わないけれど、俺はそれが良いものだとは微塵も思わない。特に、恋愛にあててしまえば、だ。


俺は故郷、北海道で、高1と高2それぞれの時に好きな女子がいた。

惚れっぽいと言えばそうだ。軽い男と罵りたければ勝手にしてろって思う。どうせ男は結婚でもして責任が生まれない限り、本当に一人の女性を好きになれるほど器用じゃないんだから。男は単純だから、少しでも優しくされれば好きになる。そしてそうしてくれる人が多ければみんな好きになっていく。

一人目に好きな女子はどちらかと言えばほたるタイプ。真っ直ぐで基本的にポジティブ。時には弱さを見せる女の子。そんな乙女心まで俺は把握してる気になっていた。だから互いに弱さを見せ合えば分かり合えるだなんて思っていた。なのでヘタレな部分をちょっとだけ出してみた。速攻、拒絶された。キモいとか、男のクセして愚痴るとかないとか。何も私のこと分かんないのに偏見で決めつけるな、とかなんとか。

分かったようなこと言いやがって。俺がお前に弱さを見せる理由なんて決まってるだろ。決まってなきゃむやみに弱い部分なんか女子に見せられるかよ。お前と連絡取りたいから、他愛ないことでも何でも良いからお前と話をしたいだけに決まってんだろうが。そんな男心も分からねぇで語ってんじゃねぇって、その時言ってやりゃ良かったわ。

二人目に好きになった子は、麗タイプ。おしとやかで、とっても優しい部分に俺は惹かれた。俺にもよく話し掛けて来てくれて、ニコニコしてて、前の女なんかより断然性格が好きだった。LINEをすれば、「絶対俺のこと好きだろ」って思わせる文面を天然さ故かポンポン送ってくる。でも実はその天然さの中にガチで俺に気があるんじゃないのかとか妄想しちまって、勝手にどんどん好きになる。そしてコクったら「ごめん、付き合ってる」だと。俺に「彼女できたら教えてね!」とか仲良い友達風にしてたのは、自分の出来事になった瞬間こうも簡単に人を裏切れるのかと感心さえしてしまった。そして冷静になって気付いた。

誰にだってその子は優しかったのだ。

二人の時間を作ってLINEをして、その優しさを見せてくれるだけで、変な誤解をし続ける。本当は誰にだってこんな感じだと頭では分かっていたはずなのに、トークの回数が進めば進むほど忘れていってしまう。あまりにも残虐で、一回目の子より、卑劣だ。そしてそれに対して気付けなくてイライラしている上、こんな感じに過去を掘り返してグチグチ言っている俺が、本当に大嫌いだ。


そして、そんな両タイプを好きになった俺にはよく分かる。いつも気があるように見せてくれる麗の行動は全てピュアなものだ。ピュアだけど、いや、ピュアだからこそ彼女はきっと、誤解させた男を傷付けるのだろう。「そういうつもりじゃなかった」って取り返しもつかない言い訳をしてしまうんだろう。俺は麗にそんなことをさせたくない。


結果、坂下麗は、優しさ故に人を傷付ける生き物なのだ。


何で気付かなかったんだろう、こんな大切なことに。俺はまた同じ地雷を踏むところだった。麗は誰にだって優しいのだ。俺はまた少しずつ誤解をしていた。女子はそうやって愛想を振り撒き、傷付ける。それは別に悪気があってしているとは限らない。彼女は人を傷付けたくなんてないはずだ。その彼女なりの配慮が、結果的に男を傷付けてるなんてこと知らずに。


「ごめん、麗」

「どうしたの?」

「やっぱ…俺といちゃダメだ」

「え、何で? 」

「ほたるに振り回されてるんだよね。だったらお前は被害者だ。俺となんかといて、もしクラスのやつとこのお祭りで遭遇したらいらん誤解を招くだけだ。それに…」

「それに?」

「お前は、優し過ぎる」

「え…?」

「隣にいて良い人間じゃねぇよ、俺は」

「そんなことない!確かにほたるちゃんに誘われてなかったら私は今日踏み出さなかったかもしれない…。でも、一緒に友達とお祭り行きたいのはホントだよ!充くんは大切な友達だから!」

「すっげー嬉しいよ。でも、何で俺なの?」

「そ、それは…」

「普通に女子友達と一緒に行けば良いんだよ。無理してほたるに合わせなくたって良いさ」

元はと言えば、俺が麗を好きっていう理由だけで、麗はほたるに呼び出されたのだ。彼女からしてみれば、俺と一緒に回りたいってことなんかより、友達との時間の方が絶対良いに決まっているだろう。

彼女の為だ。天然さ故に、人を傷付けない為に、優しい心を裏切りの凶器にしてしまう前に、俺が身を引かなければ。

「気は遣ってくれるのは有り難いよ。ほたるの面倒な計画にいちいち付き合ってくれたんだもん。でも、気遣いは正直嬉しくない。そんな気遣いなんて…」


「気遣いなんかしてない!」


ざわめく屋台の通りの喧騒にかき消され、特に誰も気にかけないレベルのボリュームだったのかもしれない。しかし、俺にとってこの叫びは、一生忘れられないくらい強く響いた、麗の心からの力強い思いだった。

「私、今日は充くんと一緒にいたいの!一緒に屋台回りたいの!気遣って回ってなんか少しも考えてもないし思ってもない!今日は二人で楽しみたいから来たの!その気持ちは嘘じゃないから!」

涙ぐみながら言った彼女の衝撃的な発言の数々に意識がぶっ飛びそうになった。使命感ではなく、己がそうしたいから。断言できる彼女の潔さは、やはり俺みたいにカッコ付けてるやつには到底成し得ない業なわけで。また、その潔い台詞が、どう見ても俺のことを好きだとしか思えない要素を含んだワードばかりで、そしてまた俺はここから誤解し続けるのだろう。

きっと、いつか俺は彼女から「そういうつもりじゃなかった」とか「好きだったなんて全く気付かなかった」とか言われるんだろう。そして、やっぱ女子ってそういう生き物かと落胆するんだろう。でも、涙ながらに訴える彼女を見てしまっては、もうなんかどうでもよくなってしまった。

悪気無しのピュアガールが、俺なんかじゃない素敵な男の元へと舞って行ってしまうまで、俺はその優しさに、結局のところ浸っていたい。


「ごめん、ありがとう。ちょっと思い込み過ぎてたわ…」

「ううん…私も大きな声出しちゃってごめんね…」

「麗…」

「なに…?」

「俺も今日、死ぬほど楽しみだったんだ。空気悪くしちゃったお詫びに、何でも奢ってやるよ」

「え!?そんなのいいよ!申し訳ないって!」

「男がカッコ付けられる場面は限られてるの!」

先ほど銀行からおろしてきたお札。そうだ、今日は気合いを入れてこの現場に挑んだのだった。だったらもう、ほたるがいようが、ひかりがいようが楽しむだけだ。


「麗、ありがとな」

「どういたしまして」


いつもなら、「こちらこそありがとう」とか言いそうな麗からの、この意外な返しが、祭りが終わった後もなぜか頭に残る俺であった。




ーーーーーーーーーーーー





今日からまた新学期が始まる。高校生活も残り半分だ。

教室に入り、席につく。隣を見たらニタニタしているほたる。

「あれまぁ~夏休みのアレは何だったのかなぁ~?」

「う、うるせぇよ…」

「二人でラブラブしちゃって~お姉さん嬉しいよ~こんな楽しんでくれるんだったら仕組んだ甲斐があったわ~」

「お前ちょっと黙れ」

「いや~それにしても何であそこで急にヘタレになるかな~。普通好きな子と一緒にいたら突然突き放したりしないっしょ」

「放っとけ。色々考えた結果あれが一番良いと思ったんだよ」

「そうかな?あんなところで女の子一人放ったらかしにしたら、信頼関係失うどころじゃないよ?麗を放っておくとかマジ最低行為」

「お前らもいたし、別に俺がいなくなったところでどうにかなるって思ってたんだよ」

「それは違うな」

否定をしてきたのは、ほたるではなく、今教室に入ってきたばかりのひかりだった。

「貴様はボクや星野さんがいるのを分かった上で坂下さんに対して行動を取るほど高等芸は出来ない」

「何で決め付けんだよ」

「あの時の貴様は、あの状況を何とかしようとするので精一杯だったろう。何があったのかは知らんが、坂下さんのあの一手がなければ、今頃どうなってたことか…」

「そうだよミツル!アンタはヘタレなんだから麗に感謝しなさい!」

「はいはい、そうですか」

コイツらは相変わらず面倒臭いが、言ってることは確かに正論なので何とも言えない。

「ところで充」

「ん?」

「貴様は何故坂下さんが好きなのだ?」

「ぶふっ!」

毎度毎度コイツらは何で人が飲み物を飲んでいる時に爆弾を投げるんだ。

「いきなりなんだよ!てかその言い方自体、麗に失礼だろ」

「いや、興味本位だ。ボク自身は恋愛経験がないのでな。単純に何故好きになったのかを聞きたい」

「やだな~ひかりちゃ~ん、コイツは麗だけじゃなくて女だったら誰にだって手ぇ出すに決まってじゃーん!」

「お前な…」

「き、貴様!やはり女たらしということか!貴様に近付くとたらし菌が感染する!近寄るな!」

「お前が俺の席に近付いて来たんだろ!」

ところで、俺が一つ疑問に思ったのは…

「ひかりは何で俺らの後つけて来たんだよ」

「貴様が坂下さんに変なことをしないか観察していたのだ。貴様はすぐに女子に手を出すからな」

「出さねぇよ!」

「というのも勿論あるが…実を言うと母からの命だ。」

「え?お母さん?何で?」

俺も同じ問いをしようとしたが、それよりも先に事態をよく把握していないほたるが食い付いた。

「ああ、星野さんには言っていなかったな。ボクの母は、ここの理事長だ」

「え!?マジで!?」

「にしても、何故お母さんが?」と俺。

「どうやら、君達がボクに合う友人として相応しいか判断したいらしいのだ」

「はあ?それどういうこと…」

「分からない…。ボクの両親はまあ色々あってな。ボク自身も一時期母を嫌っていたのだ。勿論、今は母を大切にしているつもりだ。しかし…」

「しかしどうした?」

「母としてはまだ罪悪感が抜けきってないようでな。ボクに対していつも最高の満足を届けさせたいと、感情を全面に押し出し過ぎてしまって…」

罪悪感の意味は、いわゆる家庭の事情ってやつだから、敢えて踏み込まないでおこう。

「そっか。まあでも娘を心配すんのはどこの親もそうだろ」

「その一般論で片付けられれば、ボクもそんな問題にして話すことでもないと思うのだがな。それと……母は、どうやら貴様のことを元より知っている様なのだ」

「は?俺を?」

「ああ。電車の時の一件と言い、今回の観察と言い、母は次に何を企んでいるのか」

疑問は次々と生まれていくが、それだけひかりを大切に思う母親なのだろう。でも、その母親が一体何を考え、俺らに何を期待しているのか。そんな未知の理事長と俺は話をしたくなった。

「でも、ミツルと麗は、二人ともちょっと面倒なトコあるけど、ひかりちゃんのお母さんならきっと受け入れてくれるんじゃない?」

「ボクの母親がそんな一筋縄でいくような人間だったらね。結局のところ、ボクもあの人のことをよく知らないのだ」

きっと結論は遠くて、果てしないのかもしれないが、それでもいつか答えが出てほしいな…と思う俺であった。



「なあ、ほたる」

「なに?」

「親って…何なんだろうな」

「なーに、急に」

「急ってわけでもねぇよ。さっきひかりがその話題挙げてたばっかだし」

「そりゃ、そうだけどさ」

「俺も…それに悩んだ時期、あったな」

「そなの?」

俺の親は自由人だ。北海道からこっちに引っ越してきたと思えば、今は二人で海外旅行に行っている。引っ越しからおよそ半年経ったとは言えまだバタバタしているこの時期に、自分達の時間を優先するなど良く言えば仲が非常に良くて、悪く言えば自分勝手な人達だ。もうそういうのにも慣れたから今回はサラッと送り出せたのだが、中学の最初の頃なんて思春期だからこそなのかもしれないが、そんなラブラブな親が何か恥ずかしくて、何より小学校からの上がりたてであった身だったこともあり、構ってもらえない事がどこか寂しかったのだろう。自信を持って、ひかりに「子供を心配しない親なんていない」なんて言えた身じゃない。分かっているんだけれど、きっと高3になった今でも、結果どこか俺は親に甘えたかったのかもしれない。

「んー、でも私の家もそんなトコだよ」

「そうなのか?」

「うん。私が記憶無くなった時にね、お父さんすごい心配してくれた。『ビジネスの記憶は壊れてないか?』って」

「は?ビジネスの記憶?」

「うん。何か私、ちっちゃい時からお仕事してたらしいんだ。でも私がそのことすら覚えてなかったこと知って、その瞬間お父さん凄いヘコんじゃって、私に『お前に価値はない』って言って、どっかいなくなっちゃった」

「はあ…?何なんだよそれ」

「分かんないけど…少なくともお父さんは、私のことをビジネスの道具だと思ってたみたい。私を心配してくれたわけじゃないんだね…」

何だよこれ…。俺の悩みなんて馬鹿みたいだ…。最低な親じゃねぇか。許せねぇ。許せないけど、人の親だ。それでも、やっぱり許すことなんて絶対できない。

「なんかごめんな、俺の親なんて大したこと無かったな」

「うーん。まあ、大したことなくて良いんだよ。これは大したことあっちゃいけないんだから」

「今…お前はどうしてんの」

「ミツル一回ウチ来たじゃん?あそこでお母さんと二人暮らし。兄弟もいないしね」

「そっか」

「まあ、私の記憶が戻ったら、何か今持ってるものが全部無くなっちゃうような気がしちゃって。ははは…多分そんなこと有り得ないんだけどな」

この意味なんて、俺には伝わらなかった。今分かることは、記憶が戻った時、彼女は今という日常に違和感を覚えるのだろうということだけだ。でも、その違和感の正体なんて、来てしまうかもしれないその時まで分かるわけがないんだろう。そうであっても、俺はすぐにこのほたるの心に答えをあげてやりたいような、さも何もかもを察したような上から対応で守ってやりたいとさえ思ってしまう。そんな自分が何か嫌で、何も分かってないクセにとまた自己嫌悪をしてしまって、それでも…


「記憶が戻っても、俺は何も変わんないから」


「え?」

「変わりようがないんだから、変わらない。そんだけ」

「ぷっ」

「ぷっじゃねーよ!」

「いやだって、カッコ付けてんだもん!(笑)」

「良いじゃねぇか!たまにはカッコ付けたって!男なんだからそれくらい…」

「はいはい」

「てめぇ…人の話遮ってんじゃねえよ…」

「大丈夫、別に今のそんな名言でもないし、それほどカッコ良くもなかったから」

「ズタボロじゃねーか」

あーあ、何ですぐカッコ付けたがんだろ。ほたるとは言えど、女子の前ではちょっとでも良いように見られたいのか、何だかもう自分が滑稽で醜く見えてきた。それでも彼女が打ち明けてくれた部分はほんの少しで、俺はきっとこの先ずっと彼女と一緒にいたとしても、どれだけ理解しようとしても、その苦労には辿り着けないかもしれない。そうと分かっていても、そしてそうと分かっているからこそ、俺はほたるの力になりたい。


「でも、ありがと」


夏のジトッとした日射しの中、振り向いて優しく微笑むほたる。向き合う覚悟は誰にでも出来て、それでも誰にも分かってもらえなくても前を見る決意って大事なんだなって、ひとまず綺麗事で自分を整理した後、なぜか俺は彼女の微笑みに懐かしさを感じたのだった。




さてさて、久々の麗ちゃんメイン回です。

スター役のしょーご君と、とある演劇の舞台を観に行った際、この回について話をしていました。充くんがかつて女の子に傷付けられ、優しくすることは結果的に相手を誤解させるだけの凶器だと思い込み過ぎてしまった…という惨劇ですね。そしてその女子たちと麗を重ねてしまったという。

でもきっとまだ充くんの成長出来るところだと信じて見守るしかない…。

新しいステージに入り始めた充くんと愉快な仲間たち。愉快一色で落ち着けば良いんですが、どうやらそうも行かなくなりそうな今後の展開、どうぞお楽しみ下さい。

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