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リアルに銃を撃て。  作者: 金澤裕志
4/19

麗の休日

それからというもの、俺は事あるごとにひかりと対立するハメになった。馬の合わなさではほたるなんかよりも凄まじい。

すぐに土日休みになったので、そんな平日の日常から抜け出すべく、俺はLINEを使ってではあるが、ちょっと勇気を出すことにした。


『麗さ、どっか遊びに行かない?』


修学旅行の事件以来、中々顔を合わせられない麗との関係をちょっとでも改善したいのと、何より俺自身、この想いを実らせたいという気持ちが更に高まったからである。しかし、こういった経験はほぼ皆無だったので、かつて彼女持ちだった元リア充くんに質問してみたところ、

「お前、ホント坂下のこと好きだな」

「それはもう認めるから良い案くれよ」

「じゃあそうだな…『今週の土曜、一緒にまた布団入ろうぜ』は?」

「ふざけてんじゃねぇよ!」

「嘘に決まってんだろ。そうだな~。シンプルにアイツを遊びに誘ってみれば?」

「え~!付き合ってもないのに!?」

「関係ねぇよ。そういう事でもしないと何も変わらないだろ」

まあ、確かにこれまでの俺の行動と言えば…う~ん、思い出せない。そうなのだ。俺は本当に自分から何も行動していないのだ。もし俺がラブコメの主人公であれば、こんな具合にただモテて、ただ楽して彼女をゲットしていくのだ。最近の俺にはそう言ったフラグしか立っていないのだが、やはり自分で何か始めなければ意味がない。このままの要領の悪さ、行動力の無さでは、王道的なラブコメ展開さえも実らない。

己の意志で行動に移さなければ。


「じゃあ、やってみるわ」


こうして俺にとっては人生初の、デートのお誘いに挑戦してみた。そして肝心の返信はというと…

『う~ん、そうだね!遊びに行きたい!でも…』

麗が前向きに捉えてくれているようではあるのだが、彼女はこれに続いて、

『ごめんね…今日はおうちのお手伝いしなきゃいけないんだ!』

あぁ…流石麗だ…休日はこうやって実家のお手伝いをするのか。悔しい気持ちもあるが、当日に誘った俺の計画性の無さを恨む。というか、スターに話したのが一昨日なのに、どんな文面にしようか散々悩んで今日になってこのシンプルな文面にしたのにこの結果。俺って無様だな…。


『あ、せっかくだから充くん、一緒にお豆腐作ってみない?』


ん?どゆこと?


『あ、ごめん!私の家、お豆腐屋さんなんだ。良かったら一緒に作って食べたりとか…迷惑かな?』

うわぁ!!何だこのいきなりのチャンス!?実家が豆腐屋?俺が招待客?稀に見ない大チャンス到来である。速攻二つ返事でOKをし、自分が知っている限りのお洒落をし尽くして、恐らく服装だけを言えばパーフェクトな格好にしておいた。

てゆーか、絶対お母さんとかいるパターンじゃん!ちゃんと挨拶文考えないとな…。いきなり結婚のご挨拶をするような緊張感に包まれ、テンパり始める。

坂下家と星野家が近い事は以前把握していたので、割と坂下家はすぐに分かった。正面玄関…らしきものはなく、ザ・豆腐屋といった雰囲気を醸し出している。注文口があるが、今の時間は「支度中」の貼り紙がされてある。飲食店かよとちょっと思った。


『着いた』


そう俺が送ると、すぐに返信が返って来た。


『あ、脇にある玄関から入ってきて!』


言われるがままに、右脇にあった細い通路を通り、奥の方へ。するとそこには『 坂下』と書かれた看板が目に入った。


ピーンポーン


気付けばチャイムを押していたが、押した後にふと思った。俺、今から女の子の家に上がろうとしているんだよな…?とんでもない犯罪者じゃないかと麗に思われないかな…あ、でも誘ったのは麗の方だし…てか、何で麗もこんなに簡単に俺なんかを家に上げる気になったんだ…?


玄関のドアが開く。


「ごめんね!わざわざ遠いところから!」

「いやいや!遠くて楽しかったです!」

何だ、この意味不明な返答。

「とりあえず上がって!」

 麗の家にお邪魔する。何よりもまずはこのことを聞かなければ…。

「お母さんとかいる?お土産渡したいんだけど」

「え~わざわざ良いのに。お母さんは今日いないよ」

「え、じゃあ、お父さん?」

「ううん。2人ともいない」

「え?でも営業してるのって…」

「お父さんだよ!お父さんは今、にがりを受け取りに行ってる!」


に、にがり?


「麗、それ何だ?」

「あ、えっとね、お豆腐を作る時に絶対必要なやつなの!もうちょっとで在庫が無く

なりそうだから、今業者の人のトコに行ってるんだ!」

豆腐は普段家で料理したりするときに何気なく使っているが…製造過程なんて考えた事もなかった。

「お母さんは?」

「うち、共働きなんだ。だから、中々帰ってこないんだよね。お父さんと私の2人でお店を回してるって感じかな?」

「なるほど…。お父さんは何時ぐらいに帰ってくるの?」

「今日は一日帰ってこないよ!向こうで一泊するんだって!」


へ?


「じゃ、じゃあ、麗が一人でやる感じなのか?」

「うん!そんな感じ」

基本的に責任者がいないといけないような感じもするが、不在という扱いでも上手く回せるほどの実力を持っているほど麗はスゴいのか…。

「とりあえず仕込みしなきゃ!充くんもやってみる?」

「あ、おう!」

てか、気付くの遅いけど、今日一日、2人きり!?こんな事が起こってしまっていいのだろうか!あ、でも…

「 ごめん…やっぱ俺帰った方が良い気が…」

「え?何で?」

「仕込みの足手まといになるだけだろうし、それより…女の子一人で留守番してる家に、男が上がるってのも…なんかヤバい気が…」

「え…そんなことないよ!私、全然気にしてないもん!」

「う~ん。気持ちは有難いけど…今日はちょっと…失礼するわ」

 こういうのはやっぱり良くない。下心に任せて行動するのは絶対麗にとってマイナスだと思う。でもこんなに紳士ぶっちゃって、カッコつけて、本当は一緒にいられたらどれだけ良いだろうか。こんなチャンス、もうないかもしれない。次また「 行きます」って言っても、麗の方から遠慮しちゃうかもしれない。きっかけ作りに失敗したら、この先ずっと後悔するかもしれない。分かっている…分かっているけど…

あ~もう!何でこういう時に変態にならないんだよ、俺の意気地なし!

自責する部分が正しいかどうかはともかく、もう一度言ってしまった事だ。後には引けないプライドが出来てしまった。もう俺には帰る選択しか…


「待って…」


突然、麗が俺の去ろうとする背中に身を預けてきた。寄りかかるようにもたれ掛かり、麗の左手は俺の左手を握っている。麗の頬の体温が俺の背中に伝わってくる。


「お願い…行かないで…」


突然の出来事に俺は戸惑いを隠せなかった。これ、どういう状態!?麗に何があったんだ…?

「麗…どうしたの…」

「一人にしないで…」

全く状況が飲み込めなかったが、握っている手からじわりと伝わってくる汗は、異常に熱く、俺が振り向いた時の麗の表情はかなり辛そうだった。

「おい…!麗!しっかりしろ!」

そのまま麗は何も言えず、息が上がったまま、ゆっくりと俺の胸に倒れた。俺はそのまま麗を受け止め、

「おい麗!とりあえずベッドに横になれ!お前の部屋どこか教えろ!」

「隣…の部屋…」

ここの部屋は正面玄関のお客様注文口の近くなので、ひとまず奥の部屋へ彼女を誘導する。…っと思ったその時…


「麗~仕込み終わった~?」


俺に寄りかかる麗。それを押さえる(というかほぼ抱いている)俺。この現場を表の注文口から覗くほたる。

まあまあファニーなシチュエーションの完成だ。




「え!?ほたる!?どういうこと!?」

「い、いや、それこっちのセリフ!何でアンタがここに!?てか、何で麗を抱いて…アンタ達、いつの間にそんなに進んだの…!?」

「違うから!誤解だよ、誤解!!それより麗が…」

「え!?どうしたの麗…!」

俺はほたるに現状を説明し、とりあえず納得してもらった。話をしながら麗を彼女の部屋へと運び、ひとまずベットに乗せた。恐らく風邪を引いたのだろう。

「はい、男は出てけ」

「いや、ちょっと待てよ!ここで追い出すのはないだろ!」

「疑いが晴れたのに、このまま女子の部屋にとどまるとか、アンタは何?変態扱いされたいの?」

「んなわけないだろ!疑ったのはお前の勝手だろうが!」

「口悪いな~それが女子にとる態度かよ~」

「うっ…。ご、ごめん」

「ウケる~!女子って言われた途端にこれ?」

「お前なぁ…」

人を小バカにしてくるほたるよりも、今は麗の方が気になるというのに…。

「いいよ、充くん。部屋にいても」

蚊の鳴くような声で麗が呟いた。

「え、いいのか?」

「来てって言ったのは私の方だし、風邪うつっちゃうかもだけど…」

体調が悪いというのに、こんな俺にまで気を遣ってくれる麗は本当に優しい子だ。それにしても一個引っかかるのはさっきの麗の反応だ。単純に体調が悪いから傍にいて欲しいという意味で言った言葉なのか。それとも…

とりあえず深読みするのは置いといて、ほたるに一個尋ねてみる。

「お前、何でここに来たんだ?」

「今日麗が家のお手伝いって言うからさ。お父さんがいないの知ってたし、これから営業になるんじゃないかなって思って様子見に来た」

「あ~なるほど。じゃあ、お前は手伝いに来たわけではないのか」

「うん。そういうミツルは?」

「俺は手伝いに来ないかって麗から誘われた」

「え?麗の方から?」

「まあな」

「え、この子わざわざそんな事をアンタに個人でLINEしてきたの?結構積極的なのね…」

「あ、いや、先に連絡送ったのは俺の方で…」

「え」

「あ、いや…」

やべ。ちょっと喋りすぎちまったか…?

「アンタ、自分から麗に連絡したの?結構行動力あんじゃん!」

「いや別にそこまで深い意味はねぇよ…ただちょっと遊ぼうぜ…的な」

「ふむふむ麗と同性の私には一切そんな連絡してこないというのに、麗にはそういう連絡をしているとは…。やっぱり好きなんでしょ?」

「そ、そんなんじゃねぇって…」

「ホントに~?」

「ホントだって!」

全く隠し切れていない。まあ、元々コイツには見透かされていたし、この際いっか。

俺とほたるが全力で看病する。厨房を借りておかゆを作ったりして、俺達に出来る精一杯を尽くした。



「うん!良かったね麗~!熱も結構下がってきたよ!」

いつの間にか日は暮れ、すっかり晩飯くらいの時間帯になってしまった。

「じゃあ、俺は帰るよ。あんま長居してても悪いしな」

「え、私、ただ看病だけしてもらって何もおもてなし出来てないのに…」

「そんな事、いちいちしなくたって良いからさ。それより家でゆっくり休んで体調治せよ」

「ミツルの言う通り!ちゃんと寝てないとまた熱上がっちゃうよ?」

「う、うん…」

麗の看病が出来ただけ俺は幸せだ。俺なんかが少しでも誰かの役に立てるのであれば、やはりこれほど嬉しい事は無いだろう。

「充くん…今度、お礼させてね!」

あ~もう可愛いな!!そんなの無くて良いのに!

「私はもうちょいいるね!ありがとミツル!」

不意打ちでくるほたるのこういう一言。俺はホントに良い友達を持ったな。

今思えば、転校してからまだそんなに時間は経っていない気がする。それなのにも関わらず、男女問わず順調に友達が増えていっている。みんな変なヤツばかりで、まともなのは数人しかいないけど、それでも俺みたいな取っ付きにくい奴とすぐに仲良くなってくれたみんなには感謝しかない。

帰りにほたるが紹介してくれた世田谷駅近くのアイス屋さんでジェラートを買った。無論、女子が沢山並んでいたが、俺もその列に混ざった。結構恥ずかしかった。そうしてでもアイツのオススメを食べてみたいのと、何より俺自身、ジェラートが大好きだからだ。


一瞬一瞬、大事にしていこう。高校生活としても、転校して得たこの仲間たちとの時間も、あと一年で終わってしまうのだから。

さあて、リア銃の第4部です。


このお話は初めて充と麗がデート(?)する回で、二人の距離が近付くきっかけとなったストーリーです。充くんのジェラート好きは今後ちょいちょい出てきますのでお楽しみに!

先日、ほたる役のあかねさんと収録しまして、凄いほたる愛を感じました、やっぱりキャラを大事にしてくれるのって本当に嬉しいですよね。それにとんでもなく演じてるほたるが魅力的で可愛いし。

単行本としてもリリース予定なので楽しみにしていてほしいです!


それでは!

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