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リアルに銃を撃て。  作者: 金澤裕志
3/19

スイートピストル

昨年、初夏。


修学旅行…の簡易版とも言える、いわゆる東京遠足に行くことになり、班を組んだスター。その班には、スターが少しずつ気になり始めていた女子…平賀希美がいた。

グループLINEを作り、メンバーは皆、お互いの個人LINEを持つようになる。これでいつでも連絡出来る環境が整った。

そんな遠足の前夜、平賀さんからのLINEがスターに送られてきた。


『柊さ、明日の遠足なんだけど、一個提案したいことがあるんだ』


その子のことが気になる…とは言っても、クラスで一緒になって、数回話してちょっといいなって思っただけの話だ。別に極端に恋愛対象として見るというわけでもなかった。

そんな相手からいきなりの提案が送られてきた。


『明日、花やしき行くじゃん?そん時に恋鳥と小堺をくっつけない?』


小堺というのは、小堺勇馬君。どうやら去年同じクラスだったサッカー部の、スターの友達ならしい。今は違うクラスになってしまったが。

小堺君と花蕾さんは一時期噂をされたカップル…とされているが、実際のところは全く持っての嘘であった。何故なら花蕾さんは一切異性に対しての興味がなく、基本的には平賀さん一択という…レズ?百合?みたいな感じの子だ。そんな同姓にしか興味がない花蕾さんを変えたい、そして何より小堺君の優しさには定評があり、割りと花蕾さんも仲良くしている人物だったから、もしかしたらくっ付くかもしれない…と一縷の期待を持っていた平賀さんは、二人に一緒の時間を作る為、花やしきのほとんどのアトラクションが二人乗りなことを利用することにした。それは、グーとパーで別れる際、彼女とスターがパーを出し、小堺君と花蕾さんの二人がグーを出すまでパーを出し続ける作戦だ。


『別に良いよ。てか花蕾はそれを望んでるのか?』


『さあ?』


本人の意思を全シカトするあたり、これまでの彼女の性格でスターは何となく予想がついていた。お人好しというか、お節介というか…。


『あんまやり過ぎには注意な』

そう送って、当日を迎えた。あんまり花蕾さんとの恋仲の噂について小堺君に問い詰めすぎると、返ってあの計画を実行しにくくなってしまう為、敢えてその話題には触れないでおく。

「お前、ここ何回くらい来たことあんだよ」

「う~ん。少なくとも10回以上」

「は?お前誰と来るんだよ?」

「今まで出来た彼女がそれぞれ一回ずつかな~。同じ場所だと俺が場の空気掴みやすいからね~」

スターが他愛もない話のつもりで聞いたこの話題は、小堺君の素性を明かしたようなものだった。

「お前、今までそんな付き合ったことある奴いたのかよ。全然知らなかった」

「ま、別に言うほどの事でもないけどね。スターは?お前、モテそうだよね」

「俺は今まで付き合った事ない」

「え!?マジで!?お前超モテそうじゃん!!」

「あんま他人と合わせながら行動すんの得意じゃない」

「あ~なるほどな~。お前確かにそういうトコあるもんな」

放っとけ。スターは心底そう思った。

「何かモテる秘訣でもあんのか?」

「おやおや~?スターくん、興味津々ですなぁ~」

「くたばっとけ」

「女子はね、果実と一緒」

「は?」

「最初はすっごい固いんだ。その実に辿り着きたくても中々ガードが固くて届きやしない。でも開いてしまえば簡単。どんな女子も最高のフルーティーな心を持ってるんだ。それを俺が操れば良いだけ」

「気色悪いな(笑)」

とにかく性格が優しいという事で有名な小堺君。でもそんなのは世間の感想に過ぎない。近くで本当に優しいヤツだと信じ、親友として誇りに思うほどお互いを大切に思いやれる仲。だからこそ、恋愛絡みになればきっと純粋で、いつだって相手の事を真剣に考えていてくれる存在であるはず。そう思っていたからこそ平賀さんの意見にスターは乗ったのだ。しかし、そんな自分の理想とは遠くかけ離れていた本性をさらけ出した親友の姿に、スターはただ悲しくなった。でもそんな事で彼を責めたりしない。こういう意外な一面もあるんだと飲み込んで受け入れてこそ親友だと思うから。もしかしたら花蕾さんと恋に落ちて、お互いの事が大切な存在になれたら、花蕾さんは男子嫌いを克服し、小堺君は女子を大切に扱ってくれるかもしれない。もしこれで仮に花蕾さんが傷付いたとしても、その時は俺が怒れば良い。「お前のせいで花蕾が辛い思いをしているんだ」と。そしたら親友はきっと何か変わってくれるかもしれない。スターはそう思った。

そしてその時がやって来た。


「グッとパーで分かれましょ」

「分かれましょ」

「分かれましょ」


計画通り、スターと平賀さんはパーを出し続け、花蕾さんと小堺君がグーを出すまで続けた事で仕組まれたペアが完成した。

最初のアトラクションはジェットコースターだ。結構な勢いのあるジェットコースターで、上っている間のドキドキの醍醐味を存分に味わえる長さだ。別にあの2人はお互いの事を意識しているわけではないので、適当に何回かペアを組ませておけば進展どうのは置いといて平賀さんが喜ぶだろうとスターは考えていた。


ゆっくり上っていくコースター。ガタゴトとなる音はどこかレトロな空気感を作り出し、どこか懐かしさを感じさせるようなものだった。


そして、コースターが落ちる瞬間、スターは隣に乗車している平賀さんの発言に耳を疑った。


「スター!こ、怖い…!!!」


普段強がりの平賀さんがこんな所で弱気になるなんて……という部分ではない。そんな事、全く頭にも入らないくらい、スターはその呼びかけにビックリした。


いま、俺を『スター』って呼んだ…!?


いつもは苗字の『柊』と呼ぶ平賀さんのまさかの発言に、落ちるコースターの振動を感じている場合ではなかった。猛スピードで山の中を疾走し、トンネルへと車両が吸い込まれていく。暗闇の中の風はみんなの髪の毛を押し上げ、時期的な涼しさも相まって最高のアトラクション感を演出する。その先にはすぐゴール。到着してひとまず降りる。


「小堺君、これ乗るの初めて?」

「あ、うん!いやぁ~怖かったよね~」

花蕾さんの言葉に、スターの前にも関わらず平然と嘘をつく小堺君。もう既に別の女子を10人以上隣に乗せているはずなのに。

そんな事はひとまずどうでも良い。スターが気になったのは平賀さんの方だ。

「おい…平賀…?」

「あ~面白かった!!でしょ?スター!!」

「お、お前…」

「な~んか変な事でもあんの?別に良いじゃん!下の名前で呼んだって!!だからアンタも私の事、下の名前で呼びなさい!」

「何で上からなんだよ…」

「別に良いでしょ!文句ある?」

「あるから言ってんだろ…」

「もううっさいな~!!!呼んでくれるの?くれないの?早く答えて!!私、優柔不断でノロマなヤツ大嫌い!!」

「じゃあ、平賀のままで」

「はぁ~!?今の流れはどう考えても呼んでくれる流れでしょ!!!??」


「嘘だよ。楽しかったな、希美」


「あっ、うん…」


「え、キャラに合わな過ぎだろ」

「さっきからいちいちうるさいわね~!黙ってて!!」

スターの言葉に、平賀さんはキュンとしちゃったらしい。頬を赤く染め、まさに恋する乙女の様。そんな彼女に影響されたのは、言った張本人もだった。


その後も計画は順調に進め、何度もこのペアを成立させていった。パーばかり出し続けているといつかバレるので、グーパーを交互に出すなど、ちょいちょい打ち合わせをしながら進めていった。時にはグーとパーを出す順番を間違えたりして、スターと小堺君ペアが出来ちゃったりして、その時は平賀さんにキツく睨まれたそうだ。


トイレ休憩で全員が立ち寄った。先にトイレから出たのはスターで、自動販売機で飲み物を買いに行った。戻ってくると、小堺君が花蕾さんを連れて話をしている。スターはなんとなく分かってしまった。きっと他愛もない話である事には違いないのだが、これは小堺君が花蕾さんに仕掛けているトラップのようなモノなのではないかと。

もし、本気で彼が花蕾さんの事を考えているのなら、俺がこの計画に加担した事は罪じゃないと思える。でもきっとそうじゃない。そんな気がする。スターの中で、応援したい気持ちとしたくない気持ちが葛藤し合う。


「ちょっ!!離して!!!」

「良いじゃ~ん。遊ぼうぜお嬢ちゃん」


突然、平賀さんの叫び声が聞こえた。2人に目がいっていた為に気付かなかったが、トイレ前に背の高いヤンキー数人がいるのを見つけた。その先には平賀さんがいた。

「ちょっとお兄さん達?連れなので返して頂けますか?」

「んだとガキ」


バグシッ!!!!


真っ先に助けに入った小堺君は思い切りぶん殴られ、地面に叩きつけられた。

「もしもし先生ですか!のぞみんが!!のぞみんが不良の人に…!!」

「おいおいお嬢ちゃん、先公は勘弁してくれよ~。お嬢ちゃんも遊ぼうぜ?」

電話をする花蕾さんに近付くヤンキーの1人。戦いは好まない、拳のやり合いが大嫌いなスターが彼の前に立ち塞がる。


「それ以上近付くとサツに突き出しますけど、どうしますか」


「あん?調子乗ってんじゃねぇよ!!!!」


堅の良い身体つき、そしてスターよりずっと身長が高いそのヤンキーは小堺君同様、大きくその拳をスターに振りかぶった。するとスターは紙一重でそのパンチをかわし、彼の溝めがけて思い切りキックを入れた。ひるんだその一瞬を捉え、即座に軸足を固定すると、大きく身体を使って後ろ回蹴りを彼の顔面に御見舞いした。そいつが倒れた瞬間、スターの真っ直ぐな瞳にビビったのか、彼らは散っていった。

即座に平賀さんのトコにスターは向かい、

「怪我はないか?」

「あ、あるわけないでしょ!バッカじゃないの!!私が一人でヤバいとでも思ったの!?助けるとかそういうの今どき流行らないし、別に助けて欲しいなんて一言も頼んでないし」

流石にこれはスターもイラッときたようで、

「ふざけんな。お前が助からなかったらな、俺らの責任になるんだよ。連れてかれるほどダルい事はねぇよバーカ」

「ふんっ!結局保身の為じゃん!!」

「じゃあ何だ?お前は助けて欲しかったのか?矛盾してんだよ反応が」

「そんなわけないって言ってるでしょうが、バーカ!!!」


これが、いわゆる「平賀さんの去年やらかした事件」ならしい。


「いてて…お前、強すぎねぇか…」

「空手やってた」

「マジかよ…」

花蕾さんが平賀さんの心配をしていたので、その隙に小堺君に確かめる。

「お前、何で一番最初出しゃばったんだよ」

「え、だってカッコ良いトコ見せられるチャンスだったじゃん?」

「完全に逆効果だったけどな」

純粋にカッコ付けたかったのか、それとも計算高い故の行動なのかは分からない。


「さあ、みんな行こうぜ!ウザい奴等の事なんか考えてたら、せっかくの東京見学が台無しだよ?」

 先導するのはやはり小堺君だ。みんなに気を使ってあげられる優しさとか、辛い事があっても周囲に見せない強さとか、そういうのはスターにはない。真面目に向き合って、真面目に衝突して、真面目に結論を導くのがスターのやり方であり、そうじゃないやり方でうまい具合に世渡りをする小堺君は、やはりスターにとって友であり、尊敬すべき点だと思っているのだ。しかし、あの話を聞いてしまってから、小堺君のこう言った先導も、女子への好感度を上げる為にやっているように思えてしまう。スターはこの時、そう思ってしまった自分がすごく嫌になった。

「ありがとう、助けに入ってくれて」

「ん?どうしたんだよ平賀さん。俺はただボコられただけだよ?活躍したのはスターじゃん」

「いや、一番最初に踏み出してくれたのは小堺だった。スターなんかと違って!」

「俺には『ありがとう』なんか言ってないクセに、他の奴には言うのかよ」

「お前はいいの!!」

「お前っておい…」

「お前だって私の事おまえって呼んでんじゃん!良いでしょ別に!」

 スターと平賀さんがそんな話をしている間に、小堺君は花蕾さんの方に行き、

「花蕾さんもナイスアシスト!あそこで先生に電話したのはスゴい良かったと思うよ!」

「そうかな~?ま、のぞみんが無事だったから私はそれで満足だし」

こうしてスター達の色々あった東京見学が終わった。帰り道にその足で小堺君はバイトに向かったそうで、残りの3人で夕方のアキバを歩いていた。

行き交う人々。あちこちから聞こえてくる喧騒。昼下がりの時間も過ぎた、また周囲がちょっとバタバタし始めた頃のこの時間。スターは完全に疲れ切っていたが、元気で仲良しの2人はずっと喋っている。

改札前の切符売り場で平賀さんがお金をカードにチャージしていると、

「じゃあ、俺はアキバで見たいものがあるからここで」

と言い残してスターはすぐに去ろうとした。しかし、

「待って」

 呼び止めた平賀さんが真剣な目でスターを見つめてきた。流石にちょっと意識したことのある相手という事もあって、これにはスターもドキッとしたそうだ。

「また今度、遊びたい」

それは直球で仕掛けた、平賀さんからのデートをしたいという意志が感じられる提案だった。

「まあ、良いけど」

「けどって何よ!」

「いや、特に意味は無ぇよ」

デートの定義は、付き合っている男女がどこかへ行くことのみを表した単語ではない。男女が日程を合わせる事を基本的に指すものだ。つまり、女子と待ち合わせた事もないスターにとっては、この提案は生まれて初めての出来事だった。

「あれ?2人ともいつからそんな良い感じになっちゃってるのかな?」

全てを察しているのに、あからさまな態度を花蕾さんがとる。

「そ、そんなんじゃないわよ!」

 スターへ抱く感情が見え見えな平賀さん。それは当然花蕾さんにはバレバレなのだが、人に合わせるのが得意じゃない反面感情を読み取る事は俺より長けているスターにもバレバレだった。ただ、明確に平賀さんの想いに気が付いたのは、スターもこの瞬間が初だったようだ。ジェットコースターで隣り合わせのペアを希望したのは、無論あの2人をセットにしたいからというのもあるが、彼女の本当の狙いはそこではなかったと思う。


 ―そうか、希美は俺のことが好きだったんだ―


 ただのクラスメイト、同級生、同い年…、そういう当たり前の常識のそばに、好意が隠れていることに気付くことなどなかった。それは平賀さんだけではなくスターにも言える事で、スターにとって彼女へ対する感情はただの『気になる人』ではなくなり始めていた。ただそこは俺と違って調子に乗り出さないスターだ。あくまで可能性と捉え、もしかしたら思い違いという場合もある、と。単純に今日一日のお礼がしたいというツンデレな平賀さんの思惑なのかもしれないし、今日の東京見学が楽しかったから、シンプルに2人で遊びに行きたいと思っただけなのかもしれない。とりあえずOKは出すが、『付き合いたい』とか『恋人にしたい』とかはまだこの先一緒にいないとその人らしさが見えてこないと思い、この出来事を決定打として踏むつもりはないと考えていたそうだ。ったくガードが堅いというか、そんなんだから女の子のサインを見落とすんじゃないかと思うが、まあ付き合った事もないし女子と素直に話せない俺が言える事じゃねぇか。

 照れながらも、いつものツン要素多めな反応をして改札を通っていった平賀さん。よくまあ、大親友の花蕾さんがいる前でデートの誘いなんかできるよなぁ。

「あれ?花蕾はいかないの?」

「私もアキバでちょっと買い物したいからね!のぞみんには伝えてあるから大丈夫!」

「そっか」

「てかさ~、のぞみんの事は下の名前で呼ぶのに、私は苗字なの~」

「別にそういうつもりはねぇけど。じゃあ、恋鳥?」

「きゃー!照れるぅ!やっぱイケメンから言われるとキュンキュンするよねぇ!」

「何なんだよお前」

「嘘うそ!私の事は花蕾でいいよ!その方がのぞみんがスターくんと付き合った時に特別感出るしね!

「お前、本当にアイツと仲良いんだな」

「そうかなぁ~。まあ、そう見えるよね」

 過去を映し出そうとする花蕾の目。夕陽が当てる彼女の顔は、憂いを帯びた表情だった。


「私ね、実は昔、不登校だったの」


 その発言は、普段何を考えているのか分からないような、天然娘の花蕾さんが初めてスターに明かした自身の本当の『弱さ』だった。



アキバの通りを2人で歩く。他人の話にはそんなに興味が無い方だというスターも、やはりこの女子2人の関係性はちょっと気になるようだった。

「私、小学生の頃結構大人しい子でさ。人見知りばっかして、男子が苦手で、てか女子にもビビってたんだよね~」

「意外だな」

「そうでしょ~。友達も全然できなくて、いつも一人でいるからなのかな?なんかいじめられてたんだよね。それで学校が怖くなって、不登校になっちゃった。毎日自分の部屋で泣いてた。自分が嫌で嫌でしょうがなかった。どんないじめっ子でも、しっかり向き合って仲良くなってたら、もしいじめる側になっちゃっても何とかなったんじゃないかなって。でも、いじめっ子になる勇気なんてなかった。だから初めから誰とも付き合うのを止めちゃったんだよね。そんな時、連絡帳を家に渡しに来てくれたのが、のぞみんだった」


『こんにちはー。恋鳥さんの連絡帳を渡しに来ましたー』

『わざわざありがとう。恋鳥!クラスのお友達が届けに来てくれたわよ~!部屋から出て挨拶くらいしなさい!』

『やだ!』

『恋鳥!ちゃんと顔くらい出しなさい!お友達さんにも悪い…』

『友達なんか、私にはいない!!』


「今思うと一生懸命、壁を作ってたんだよね。誰とも関わりたくないって。意地張ってた。」


『私なんか、誰も興味ないんだよ!その子だって嫌々渡しに来たに決まってるじゃん!』

 自分から逃げ続ける花蕾さん。そんな花蕾さんに、平賀さんは、

『そうだよ!』

 あ、やっぱ油注ぐんだ。小学生の頃から性格は変わってないようだ。

『私だって友達の約束があるのに、クラスぼっちのアンタなんかに構ってるほど暇じゃないんだから!』

 ムカついた花蕾さんは部屋を飛び出し、玄関先のお母さんを退け、

『アンタなんかに何が分かるの!ウザいから帰って!』

 泣きながら反抗する花蕾さんに平賀さんは、


バシンッ!


 思い切りビンタした。

『そうやって逃げまくって、都合の悪い時だけ顔出して、ウザいのはアンタでしょ?一回引っ叩いてやりたかったからスッキリした』

 花蕾さんの怒りがこみ上げた。本来なら本気で歯向かいたかった。でも人と対面して怒りをぶつける方法を知らない花蕾さんはその場に崩れ、ただ泣き叫ぶ事しか出来なかった。

『私は…どうすれば良いの…』

『はぁ?アンタ、バカじゃないの?』

スゴいぞ平賀さん!この期に及んでまだ油を注ごうとしている!ある意味カッコいい!

『友達が出来ないならまずちゃんと相手の目を見て向き合いなさいよ!友達になりたい意志があるならそう伝える!そうしないと変わらないでしょうが!傷つくのを怖がってたら、何も始まらないでしょ!』


「のぞみんに言われて気付いたの。友達を作る方法は、ただ何となく一緒にいて、楽しかったら友達になるだけじゃないって。友達が欲しかったら、『友達になって下さい』って伝えるのも、アリなんだって分かった」


『ほら、顔上げなさいよ。私だって友達少ないの!足りないトコは相手の長所で埋める!だから…』

 平賀さんは、そのセリフを先に言おうとしたのだろう。でも花蕾さんは遮るように、平賀さんが言いたかったそれを先に言った。


『お友達になって下さい…!』


「勇気出して言えて良かった。それから私はのぞみんの良いトコを盗むことにしたの。足りないトコは相手の長所で埋める…らしいからね!」

「なるほどな」

 花蕾さんは元々持っていた不思議ちゃんキャラを、平賀さんの長所である『元気で前向きな姿勢』と組み合わせていった。逆に平賀さんは花蕾さんの長所である『優しくて他人を思いやる姿勢』を自身に補っていった。最終的に2人がもたらしていった相乗効果は、のちに2人の関係性を『親友』へと結びつける懸け橋となった。

「なんか、アイツ怖ぇな」

「あ~、スターくん、その台詞、のぞみんにチクっちゃうよ~」

「マジで勘弁」

 人は互いに影響し合える。それは恋人の関係のみならず、友人関係にも言えることだ。俺はスターの回想を聴きながら、そんな事を思っていた。

 あ、ちなみに現時間軸では、三十三間堂から次の目的地の唐招提寺へ移動中です。回想長くて申し訳ない。スターったら語り出すと止まんなくてさ~。てか、いつの間にかモブも隣でこの話聴いてるし!


 話を戻すとして、それからスターは花蕾さんが買いたいというショッピングに付き合わされる事となった。周りから見たらカップルの様だが、花蕾さんはそんな事に興味は一切ないみたいだ。

「ていうか、こんな事話す予定じゃなかったんだよね~。ねーねー、スターくん」

「なに」

「今日の東京見学、仕組んでたでしょ」

「なぬ!?」

 スターから絶対出ないようなリアクションが飛び出した。どうやら花蕾さんにはバレていたようだった。

「それは…えーと…どういうことかな?」

「だっておかしいじゃ~ん!何回も何回も私と小堺君がペアになるし!ま、どうせのぞみんが提案したんでしょ?上手い事私とあの人がペアになるように!スターくんはそういうキャラじゃないから主犯じゃないのは何となく分かるけどね」

 天然娘ではあるが、実は手強い相手だ。何を考えているのか分からないだけある。

「ごめん、仰る通り」

「やっぱりね~。のぞみんはそういうお節介なトコあるから。でも、ありがとね」

「え?」

「それでも嬉しいよ。2人が私の為に色々。ま、ありがた迷惑ってこともあるけどさ~」

 そう言われた瞬間はスターにはそれがどういう意味かは分からなかった。しかしよく考えてみれば、感謝と迷惑を天秤に掛けた際の前者なわけで、これはつまり…

「小堺君、良い人だと思った」

 あ~、マジか~、そうきたか…。

「今日一日一緒にいて、すごい話してて楽しかったし、スターくんが仲良くなった理由が分かった!」

 純粋な心で感想を言う花蕾さんに、「もしかしたらお前は騙されているのかもしれない」と言う勇気なんか出なかった。

「そっか。じゃあ、お互い頑張ろうな」

「お~!スターくんから動き出すの!?いつアタックするの?私ののぞみんを傷付けたら容赦しないからね!」

「急にグイグイ来るよな、お前」

 きっと小堺はコイツを幸せにしてくれる。そうに違いない。女たらしなんかじゃないと俺は信じている。なぜなら小堺も花蕾も、俺の友達だから。スターにしては珍しく、根拠とか論理とかじゃない、見えない未来に希望を持った。




「で、その後どうなったの?スターくん!」

もういつの間にか俺より食い気味に聴き入っているモブ。話している間に唐招提寺に到着し、その歴史に触れる。

ここはあの鑑真が関わっているお寺ということでまさに神秘の場所だ…と言っても、俺の知っているのは下調べの時のそんくらいで、ぶっちゃけこのお寺がどれだけ偉大なのかはいまいちよく分かっていない。

「まあ、その後、平賀と付き合って別れた」

「え~意外とあっさりしてる~。そこはちゃんと話してくれないと」

「いや俺も唐招提寺見たい」

モブが突っ込んだ部分より、俺が気になるのは…

「あれ?お前、今は希美って呼んでないの?別れたから?」

「別に。別れてから一回も話してないし、呼んだこともない」

「じゃあ、向こうからも?」

「まあな。あ、でも一回プリント受け取る時に『柊!』ってキレ気味で言われたことはある」

「あぁ、やっぱり苗字か…」

「スターくん、何で別れちゃったの?」

 俺の変態後継者、モブはグイグイとスターの傷をえぐっていく。

「普通に。喧嘩別れ」

「マジかよ」

まさかの解答。これ以上はスターに悪いし、えぐるのは止めといた方が…。

「どんな喧嘩しちゃったの?」

 うん!モブくん、君は勇者だ!スゴい!

「それは言うのダルい」

「え~」

 ほら、こうなった。てか、普段クールなスターがそこそこ喋ってくれただけ十分だろ。こいつも色々溜まってたんだ。




「ミツルー!早くこっち来なよ~!」

スターの回想が長かったので、ほたる、久しぶりの登場な感じがしてしまう。

「あ、おう!今行く!」

麗にも声を掛けたいが…昨日の一件があり中々それが出来ない…。一方の麗はと言うと、ほたるとは違って結構波奈とは仲が良く、スターが話している電車の時間とかはずっと波奈と話していた。

「よし!それでは最後!奈良の大仏を見に行きますか!」

モブ!なぜお前が仕切っているんだ(笑)。あんなに喋らなかったモブが、みんなを先導している。本当は意外と目立ちたがり屋なのかもしれない。

奈良の大仏は想像以上に迫力がある。それに圧倒しつつも、ふと隣を見ると…

「大きいね!初めて見た!」

目をキラキラさせている麗を見るのは至福のひと時である。

「だよね!充くん!」

「あ、うん。え?」

不意に話し掛けられてビックリした。もしかしたら麗も早くこういう何て言うか微妙な空気を壊したかったのかもしれない。

「あ~懐かしいな」

突然ほたるがつぶやく。

「どうした?」

「私が前住んでたトコにも昔大仏があったんだ」

 意外な発言に俺は驚いた。なぜなら…

「奇遇だな。俺も地元の方に大仏があるんだよ」

「え?そうなの?」

「地元ってか県が同じってだけ。まあ、北海道は俺にとっちゃ全部地元みたいなもんだからな」

「へぇ。そうなんだ」

ほたるのリアクションがなぜか頭に残る。他愛もない話の裏に何かが隠れていそうな気がした。

「お前の前住んでたトコってどこなんだ?」

「う~ん。憶えてない」

「は?それどういうことだよ」

「あれ?言ってなかったっけ?私、高校より前の記憶ないんだよ」

その瞬間、班員全員が凍り付いた。そして一気に爆発した。

「はあ!?」

「マジか」

「は?」

「そうなの!?ほたるちゃん!?」

「それはスゴいことだよ、星野さん!」

うん!モブ!リアクションがやや間違っている!!

流石に俺だけではなく、これまで敵対心剥き出しだった波奈も相当ビビったようで、

「あ、アンタ記憶喪失だったの!?」

「いや別にそこまでじゃない」

いや~俺もマジでビビった。ってか、麗が潤んでいる…!

「ほたるちゃん…私…ほたるちゃんがそんなに辛い思いしてたのに、私全然気付いてあげられなかった…」

「いやいやいや!大袈裟だって!」

「てかお前それよく今まで隠していたよな」

「だから言ったつもりだったんだって!隠してなんかないよ!あ、でもね、転校ばっかしてたらしいよ!北海道は行った事あるかは分からないけどね」

ほたるの衝撃的なカミングアウト。こうして、俺達の波乱万丈な修学旅行は幕を閉じた…。





修学旅行が終わり、ちょっとだけ代休みたいなのがあった俺等。それも派遣のバイトで一日潰し、またすぐに俺らのいつも通りの学園生活に戻る…と思っていた。

アイツが現れるまでは…。




「はーい!みんな席についてー!」

城島先生が緊張した面持ちでやって来た。教師生活もそんなに長くない先生にとって、こんな特例が二度連続も続いた、初の経験でもあるからだ。それは…

「今日から新しく転校生が入りまーす!仲沢君同様、よろしくね、みんな!」

このクラスには既に俺という転校生がいるのに、またもや転校生だとは。東京の高校ってそんなもんなのか?

「あ、ちなみに女子です」

普通に考えれば「これから見るんだから分かるだろ」的な発言でもクラスは盛り上がる。何だよ、お前ら。俺が転校してきた時は何か変なざわつきだったクセに。女子だとこうなるのはいつでも同じだ。

「では、中へ入って下さい!」

先生の合図で入って来たそいつに、俺は目を疑った。そして頬をつねった。うん、痛い。でもこんなことあり得ない。


「蒼井ひかりだ。よろしく」


うん、あり得ない。こんな事絶対にあり得ない。うん。

「んな!?貴様はこの間ボクをエロい目で見ていた奴!?まさか貴様、このボクを追いかけて東京の高校に転校してきたのか!?このド変態め!」

「違うわ!クラスみんなの前で変な事言うな!俺だって今ビビって戸惑い隠せないんだよ!」

「あの…2人ってお知り合い…?」

城島先生の問いに、明確に反応できるのは俺含め7人だけだった。

そう、コイツは俺が旅行先の電車で見かけた、あの女だった。偶然とかそんな定義じゃ説明できない、まさに神のいたずらとしか言いようがない、衝撃的すぎる展開だった。ここ最近、衝撃的な出来事が多すぎる…。あと数回これやられたらショック死しそうだ。

麗が漫画みたいな目でピヨピヨと動揺している。最適な擬音が見つからない。うん。やっぱりピヨピヨだ。

ほたるも目を見開いてコイツを見る。目が合った瞬間、

「貴様!あの時の女!あ、貴様も!貴様らもそうだ!」

スターや波奈、モブなども見つけて更にヒートアップするコイツ。もう勘弁してくれ…。


ひとまずホームルームが終わったので、アイツのトコへ行く。

「おい、お前、これどういうことだ?こんな偶然あり得ないだろ!」

「それはボクが聞きたい!貴様ら集団転校でボクをハメようとしているな!」

「んなわけあるか!」

「まったく…これは悪い夢だ!頼むから覚めてくれ…」

コイツの願いも虚しく、残念ながら現実を受け入れる事意外に、俺達に残された道はないようだ。

「ねーねー、君、蒼井さんっていうの?良かったら僕とお友達になろ…」

「黙れモブキャラ!!」


バキッ!


すさまじい音がモブの身体から鳴る。流石モブ!撃沈の速度がもはや尊敬の域だ!

「それより男。貴様、名は何だ」

「何時代の名乗らせ方だよ…」

「ウダウダ抜かしてないで質問に正確に答えろ」

「充。仲沢充だ」

「なるほど。充か」

「いきなり下の名前で呼ぶのか」

「そんなに気にするほどのことか?世界観の狭い哀れな野郎だな。まず、字数でそちらの方が言い易い。そして貴様が『充』という単語を繰り返し使用したことにより、意識させたかったのではないかという発想に至っただけだ。何か文句でもあるか」

「いや、別にありません」

なんか、コイツ凄まじく強烈なキャラしてんな…。

「じゃあ、俺もひかりで」

「あ、あぁ」

「ん?どうした?」

「あ、いや、下の名前で呼ばれた事が無かったのでな」

「はぁ?自分からそういう事言ってくるから、てっきり男慣れしてて言ったのかと」

「んな!?貴様、無礼だぞ!」

「いちいち発言が時代劇っぽいんだよ!」

「時代劇では滅多やたらにこのようなフレーズは言わん!貴様、無知にも程がある!」

「んだと!」

 コイツのダルさはほたるや波奈をも凌ぐ。これからどうなっていくのか、俺は恐怖で仕方ない。


さてさてリア銃の3部目です!

スターくんと、のぞみん。早い段階からもう充くん以外の男女に着目する本作ですが、これが今後充くんにとっても大切になったりならなかったり…?って感じでございます。ほんのり香る二人のスイートピストル、まだ決着していないのでそちらもお楽しみに!

ひかりの転校してくる案は団員の正和くんによるものですね。ボクっ娘を出したいとは思っていたのですが、本編が公式LINEで完結した後も未だに『ボク』と呼ばせるのに慣れず、書き終わって見返してみれば一人称が『私』になっていたり。彼女の存在は今後どうストーリーに絡んで来るのかも楽しみにして頂けたら幸いです。

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