転校早々、修学旅行
数日経って、俺はスターとすっかり仲良くなった。クラスで女子と話す勇気もそこまでなく、配布プリントを渡すとか、授業で隣の人とペアを組まなきゃいけないからとかその程度だ。
すると朝から修学旅行のペアを組むことになった。とりあえず好きな人と組んで良いとのことなので、俺はまずスターと組んだ。
スターはスターで友達がいる。コイツが連れてきたのは、高身長でイケメンなスターとは正反対の…何つーか、ドラマとかだったらモブキャラみたいな冴えない奴。
体育で一回だけペアを組んだことがある。コイツの名は茂武歩猿。パッと見では読めないが、『もぶぼさる』っていうらしい。正直…名前の通り残念なヤツだ。興味もないが、スターという友達を早いうちに作ってるあたり、俺よりかはマシか。
「んとー、茂武くん?よろしく」
「うん」
あんま喋らないのでとりあえずいいや。すると、あの担任が声を張って叫んだ。
「男女ペアだよー?分かった?」
はあ?
こっちからしてみりゃ女友達だってそんなロクにいねぇのに何なんだ。
……っと思ったが、ほたるや麗もいる。何とかなるか。
「麗…ほたるも誘ってペア組まね?」
勇気を出して麗に話し掛けた。断られたら嫌だな…。
「うん!いいよ!」
麗は明るく返事をした。そういうのやめよう。惚れちまうから。あーもう!可愛いなっ!
その後、麗の呼び掛けでほたるも加わった。男3、女2なので、もう一人女子を加えなければならない。
俺達が悩んでいると、後ろから声を掛けられた。
「人数に困ってちょんの?じゃー私入るげん!」
どこで使われているのか分からない独特な方言で近寄って来たのは、クラスでは比較的盛り上げ役に分類されている女子だ。
「むーさい人数足りてちょんじね、私入れたら丁度ええね!」
名前はまだ覚えていないので、とりあえず、
「あ、えとー、ごめん、名前なんだっけ?まだ覚えられてなくてさ」
「私?上崎波奈!よろすくね!」
明るい茶髪、そしてセミロング。こやつもまた可愛い。こんな娘が班にいるなら最高だ。方言使う女子も可愛いし。
…っと思っていたのだが突然、
「あ、ごめんなさい!また方言出ちゃってた!今度から注意するね!」
と改めた。どうやら本人は気にしているようだ。
打ち合わせが始まったのだが、先程から麗を真ん中に入れてほたると上崎さんが距離を取っている。
「んーと、上崎さんはどこ見に行きたい?」
とりあえず話を進めたいので、俺は彼女たちの関係の事などなるべく考えずに、まずは上崎さんに話を振った。
「えーっと、私は…」
「金閣寺!」
「え?」
上崎さんの意見を遮るように入ってきたほたるに、男子たちが驚きを隠せない中、麗だけ「また始まった…」と言わんばかりの表情をしている。
「だから、金閣寺だって言ってんじゃん!」
「ちょっと星野さん!今私の発言の時間でしょ!割って入ってこないで!」
「そーやって男に色目使ってるアンタじゃ下品だと思ったから邪魔しただけ。何か悪い?」
「あなたいっつもそうやって私の邪魔を!」
「ホントの事じゃん!」
「二人とも落ち着いて!みんな困ってるよ」
ヒートアップする二人を宥めるように麗が止めに入るが、その怒りはおさまらない。周りの班に迷惑を掛けそうなので、ひとまず
「まあまあ、お前ら落ち着けよ!何があったのかはしんないけどさ」
っと一応言っておく。正直俺もこんなにイライラしているほたるを見るのは初めてだ。
「あーもー何でこの班に入ってきたの?私がいるって分かって嫌がらせしに来たの?」
「だとしたら何?ちょっけ余っとるから助けやっとき文句あるが?」
「キレたらすぐ方言出すクセ、ウザいんだけど」
「私だってあなたとギクシャクしたない思うたから、こやって歩み寄っとんがな!それあなた一方的に避難して来たっちゃねぇんか!」
過去にこの二人に何かがあったのだろう。それは確実だ。でも俺はこの場のこの光景しか見てないので偉そうには言えないが、少なくともこの状況はほたるが悪いと思う。でも、それを言い出せる勇気が俺なんかにはない。
「充君や坂下さんの言うとおりだよ!二人とも落ち着いて…!」
モブも頑張るが、聞く耳を持ってくれない。
こりゃあ収集つかねぇ。先生呼ぶか…と俺が諦めかけたその時…
『バンッ!!』
机を叩く音が響いた。目を向けると、スターだった。
「何でも良いからさ、早くやろ」
一言そう言って、机のプリントに目を移した。こいつ、カッコ良すぎんだろ。
しばらくみんな黙り混んだが、発端となった二人は
「ごめん」
「すみませんでした」
と一言ずつ呟き、作業を始めた。
次第にワイワイと盛り上がっていった。行きたいとこを何個か出し、その中からみんなの希望が出来るだけ叶うよう調整していった。
俺はそんなことより、この二人の関係性が気になって仕方がない。今日はこいつと帰ろうかな。
昼休みに廊下を一人で歩いていたほたるに声を掛ける。
「なあ…ほたる」
「あぁ、ミツルか。さっきの授業…なんか…ごめん」
「別に良いよ。今日帰り空いてるか?一緒に帰らね?」
しばらく考えている。嫌だったら嫌だって言えばいいのに。
「良いよ」
あ、結局良いのね。
二人でいつもの坂を下る。俺にとって、この坂が「いつも」のモノになり始めて来たのはここ最近の自覚だ。
「なあ」
「上崎さんについてでしょ。知ってる」
やっぱりバレてたか。
「色々あってさ。もう嫌なの。私はあの人が嫌い…」
「言ってくれなきゃ分かんないだろ。そりゃあ、無理に言えとは言わないけどさ。班同じなんだし、何つーか、気まずい」
「だよね」
目がウルウルしている。こんなほたる、俺の前ではこれまで一度も無かった。
風が通り抜けていく。俺が中途半端な時期に転校してきた事を嘲笑うかの様な、生ぬるい風だ。それに押されるように、ほたるの髪がなびく。
「私ね、病気なの」
ほたるのカラッとした一言が胸に突き刺さった。理解なんて出来るわけがなかった。「え?」としか言えなかった。
「持病があってね。大したモノじゃないけどさ。直そうと思えば直せるんじゃない?だから深く考えなくて良いけど。…………。あの子とは去年同じクラスだったの。それで昼休みの時、私が血を吐いてるのをあの子が見たんだよね。何でだか分かんないけど、それを誰にも言わないで欲しかった。多分、自分が他の子とは違うんじゃないかって思われたくなかったし、思いたくもなかった。普通の子として見てもらえない気がしたからね。だから言わないでってお願いした。でも、あの子…」
ウルウルした目からは、既に涙がこぼれていた。
「結局クラスの女子に言ってた。気付いたら普段話さない女子も男子も知ってた。先生にまで隠してた持病だよ?それをあっさり言われた。先生は私に余計な気遣いをし出した。普段冗談を言ってくれてた女の子たちは突然優しくなった。正直、辛かった」
ほたるはほたるで抱えていた悩みだった。俺は何も知らなかった。ほたるが一方的に悪いと思い込んでいた自分が嫌になった。
「男子は可愛いアダ名付けてあげるとか突然意味不明な事を言い出してきた。それが『ほたる』だったの」
由来はそんなよく分からない事がきっかけだったのか。流石に疑問に思った。
「何でお前はそれを強要してんだよ?ほたるってアダ名好きなんじゃないのか?」
「だから使ってんじゃん。自分の名前より気に入ってる。例えそれが慰めの為のアダ名だったとしても。今の自分が越えられなかった壁が作ったアダ名だから。だからそれをみんなに言ってもらって、あの時の辛さを受け入れていくの」
想像よりも遥かに過酷な使命を持ったアダ名だった。
「だったらさ、俺は使いづれーよ。無関係なのにそんなアダ名。使って良いのかすらどーなんだか」
「良いの!使ってくれるだけで自分が何故か安心するの。でも…」
涙を拭い、前を向くその姿は、どこか寂しげであった。
「でも、いつか、名前で呼んでもらえる相手に巡り会いたい。このアダ名は嫌いじゃないよ。でも、名前で呼んでもらう相手に出会えるってことが、私の幸せの瞬間だと思う」
彼女は、きっと、誰よりも無駄に脳を使うんだろう。俺なんかと違って。それくらい、意味不明な使命感に襲われながら、自分の境遇に必死で向き合っている。だから、そう呼んでくれる相手は、きっといつか現れると俺は信じていたい。だから…
「へいへい。頑張れば良いんじゃね」
ってまあ、相変わらずカッコ良い雰囲気出したいが為に余計な発言をしてしまう。
「最低。もうアンタに話しても無駄。死んで」
「またそういう事言いやがって。俺がそんな適当な人間に見えるのか?」
「見えるから言ってるんだよ、バーカ!」
「んだと?」
とまあ、グダグダやった。そして、今自分が持てる精一杯の優しさで、こいつの役に立てるよう言った。
「お前はさ、無駄なんだよ。そういうトコが。お前の事大切にしてくれる人なんて周り見りゃいくらでもいんだろ。麗もそうだ!俺だって…お前が声かけてくれたお陰で学校生活何とかなってんだ。だからさ…気ィ張るのは程々にしとけ。あの上崎って子と仲良くしろとかは言わねぇから、せっかくだし、グループとしてはみんなで楽しくやろうぜ?な?」
「分かったような言い方しちゃって」
不安だらけのほたるがそこにいた。でも、口を閉じたまま、優しい微笑みを見せてくれた彼女の、少しでも役に立てたのならば、俺の存在意義もちょっとはあったのかな。いや、多分そんな役には立てなかった。
ほたると別れた後、一人で道を歩く。俺が学校生活を少しでも楽しめているのは紛れもなくほたるのお陰だ。あいつは色々なこと考えながら生きてきたんだろう。田舎出身だとか言い訳してた俺と違って。いや、よくよく考えてみれば北海道は田舎なんかじゃない。俺は本気でそう思う。だって生まれ育った場所だし、良いところを挙げたらキリがない。それくらいその土地を愛している。でも、いざ東京という巨大な街を前にしては、田舎者だからって言い訳してつい逃げ腰になってしまう。きっとそうじゃないんだ、ホントに大事な事は。育った場所とか関係なく、目の前の人を見ることが大切なんだ。俺はそれを少し勉強することができた。だから、地域とかそういうのは抜きで正直この修学旅行を楽しみたい。だからあの二人仲良くしてくれないかな…。
修学旅行当日。引率の先生はうちの担任と副担任、もちろん各クラスの先生と後数人だ。
「ミツルー!」
集合場所に最初についた俺とモブが話をしていた所に割り込むように叫んでやって来たのはほたるだった。
「ごめーん、遅くなった」
「ホントだよ、どんだけ待たせるんだか」
「良いじゃん。集合時間に間に合ってるんだから」
麗と上崎さんとスターがトイレから戻ってきたので、うちの班は全員集合した。
全校生徒が集まる中、エロ担任が呼び掛ける。
「去年の体験学習で色々あったらしいから、注意してね」
俺はその時、騒動と聞いてピンとこなかったが、後でスターに聞いたところ、どうやら去年の旅行先でうちの女子生徒が別の高校の男子に絡まれたとか何とか。そして、その張本人が…
「やっぱ私帰りたーい」
「良いじゃーん。去年ナンパされたんだしー。今年もされるかもよ?」
「だから嫌なんだって!恋鳥のお陰で何とかなったから良いけど、もう男なんてこりごり!」
俺達の班のすぐ近くで友達と話してる、同じクラスの、平賀希美だ。その友達が確か、花蕾恋鳥。これで「からいことり」だった気が。相変わらず、うちのクラスはとんでもない名前のヤツが多いな。まあ、あの担任が平賀に気を使わないような発言をしたのは、恐らく去年この学年担当じゃなかったんだろう。
新幹線の中、UNOをやろうと持ち掛けてきたのはモブだった。基本的に大人しいが、誰よりも友達を増やしたいっていう意識の高い奴なので、みんなでそれに乗っかる。新幹線の3人掛けのシートをひっくり返した状態で、俺の向かいには左からほたる、麗、上崎。俺の左にはモブ、右にはスター。当然俺が真ん中だ。
「ごめん、充。リバースで」
「あん!?うざぁっ!!!スターそれは反則だろ!!」
「どこがどう反則なんだよ」
最強イケメンのスター君が勝利をかっさらっていく。何かうぜぇな、こいつ。無論良い意味だが。
一方、問題の女子二人は相変わらずロクに口もきかず、麗を間に挟んで距離を取っている。俺はもうこんな二人などどうでも良いと思いたくてしょーがない。いやだってあの麗が正面にいるんだぜ!?時々ニッコリ笑ってくるんだぜ!?もうこれ毎日眺められるならいくらでも金つぎ込むわ。んでまあ、ちょいちょい視線が胸部にいっちゃうわけだ。まあ、これは男なら仕方ない!好きな子をエロい目で見ることは!うん!もうダメだ!死んじゃいたい!
「お前、キモい」
「へ?」
女子が感想戦をして盛り上がってる最中に、ボソッと小声でスターが呟いた。
「エロい目で見てんじゃねぇよ(笑)」
「み、見てねぇよ!誰をだよ!」
「あからさまに坂下見てんじゃねぇよ(笑)。バレても知らねぇぞ。」
「だ、だから見てねぇよ!!」
「うむうむ。おなごの園…良いですなぁ…」
「どうしたモブ。急にエロおやじみたいになってんぞ」
「いやぁ~僕達ほんとついてるよね!こんな美女達に囲まれて修学旅行に行けるなんて!」
まあ、そんなこんなで、下心丸出しだが懸命に理性を保つ、あまりにも幸せな忍耐修行の時間はあっという間に過ぎ、俺達は目的地である「京都駅」に到着した。
結局みんなであれこれ考えたルートは、
一日目が、金閣寺、銀閣寺、映画村。二日目が、三十三間堂、唐招提寺、東大寺に決定した。三日目は帰宅だけなので実質自由行動がとれるのは最初の二日間だけという事になる。
金閣寺で写真を撮る。スポットに先生がいたので、6人で集合写真を撮ることになったが、そういうことじゃねぇんだよな…。やっぱり麗と一緒に撮りたいな…。
中々勇気を出せないでいると、ほたるが声を掛けてきた。
「麗と写真撮りたいんでしょ?」
「バ、バカ!!そんなんじゃねぇって!!」
「ったーく、遠慮しちゃダメだって~」
もう!相変わらずコイツほんとだりぃな。
「麗~!ミツルが一緒に写真撮りたいってさ!」
「んなこと言ってねぇだろ!」
麗が戸惑った表情を見せている。そりゃぁ嫌だよなぁ。突然男と写真撮るなんて。
「充くん…私とでも良いの?」
…。
もうそれどういう意味!?パニック!!!何!?俺に気があるの!?そんなわけあるか!!!「私とでも良いの?」ってそれ「充くんみたいな良い人がこんな私でも良ければ…」的な!?いやいやよくよく考えろ俺。麗は俺の事が嫌いだから他の人と撮ってくれよっていう信号なのかもしれない…!!もうダメだ!!考えれば考えるほどよく分かんなくなってきた。
「ねぇ…大丈夫?顔赤いよ?」
「あ!ごめん!麗!良いの?一緒に撮っても」
「もちろん!」
元気よく返事をしてくれた麗の反応に、その心に、嘘偽りがない事をただただ願う。
「あ~!ダメダメ!充くんは私と撮るの!」
突然乱入してきたのは、上崎だった。
「ちょっ!上崎さん!?」
「波奈って呼んで!!充くん!!」
あ~!なんかかわええ…。俺、ラッキーボーイだわぁ~。
「二人とも人間のクズね」
ほたる、その言い方はひどい…って俺も!?すかさず上崎さんは、
「星野さん、それどういう意味ですか」と突っ込み、
「言った通りの意味ですけど。っていうか何?ミツルが麗とくっ付きたいって言うから親切に私が誘導してあげたんだけど」と返す。ちょっと待て!俺、くっ付きたいなんて言ってない!
「二人とも!俺が悪い!俺が悪いから喧嘩しないでくれよ」
とりあえず二人を宥めるしかできない。それでも…
「この男を使ってアナタの邪魔してあげただけ!何か悪いっちょんが?」
「黙って、方言女!この男は私が使ってるの!!」
ちょ~い!俺、モノ扱い!?
これにはスターもやれやれという表情を浮かべ、モブもこれから大丈夫なんだろうかという不安を隠しきれていない。
とまあ、その後は麗の協力もあって何だかんだ一日目の観光は順調に進み、旅館に到着した。さすがに男女は部屋を離されているので、旅館の開放スペースに入浴後、班で落ち合う事になった。
スターは部屋の旅館のスタッフさんが敷いてくれた布団の位置が気に入らないとか何とかで布団を敷き直し、モブは風邪気味の中今回の修学旅行に来たという事で薬を飲んでおり、俺だけ先に開放スペースへと赴いた。
到着一番乗りは俺だった。まあ、女子って支度とか遅いもんな。にしても今後あの2人大丈夫なんだろうか。基本的には今日の様子を見る限り、人懐っこいというべきか、上崎は男子に積極的に話しかけていたり、一方のほたるも男子とは仲が良いってこともあって、麗と話したり俺らと話したり割とすんなり時間が過ぎていったからな。明日は何事も起こらないでほしいが…。
「お待たせ~!待った?」
女子の一番乗りは上崎だった。
「いや、そうでもないよ。あいつらは?」
「もう来ると思うよ!なんかごめんね。星野さんと喧嘩したりとか。迷惑だよね」
「別に良いって」
「あの子から私との詳細聞いた?」
「まあ…ざっくりだけど」
開放エリアには他のクラスの奴らも利用している。俺らの話し声は周りの人の声でかき消されるほどのボリュームとテンションだ。
「チクった…んだっけ」
「え~。言い方酷いなぁ、充くんは」
「いや、まあ、何っつーか…」
「まあ、ぶっちゃけそうなんだよね」
しばらく沈黙になる。上崎の顔が次第に強張っていく。
「上崎さ…」
「波奈って呼んでよ」
「え?」
「え、じゃないよ。今日昼、そう呼んでって言ったじゃん」
「あ、ごめん、そうだったな」
「私は充くんって呼んでるんだよ?仲良くなりたいって思ってるんだから」
「悪い。じゃあ、波奈」
「改めて言うたると気持ち悪じゃか」
「方言出てるぞ」
「あ!ごめんなさい」
この子はちょっと棘のある子なのかと勝手に思い込んでいたが、話してみると素直で明るい子なんだって気付かされた。
「何でほたるの病気のこと…友達に喋っちゃったの?」
興味本位になってしまった。更に波奈の顔が強張っていく。
「あ、ごめん!!いや言いたくないなら言わないで!俺が何となく2人のこと知りたいなって思って首突っ込んじゃっただけだから!!ほんと無理しないで良いから!」
「ふふっ。優しいんだね、充くん」
なんだか照れるな。そう言われると。
「でも、簡単に女子の事情に首突っ込むのもどうなのかな~」
「だから無理に言わなくて良いって!マジで!!」
「じゃあ、特別に教えてあげるよ」
何がどう特別なんだか。
「去年、あの子が血を吐いてるトコを偶然見ちゃってさ。すんごいその時焦った。何とかしなきゃって。あの子には誰にも言うなって言われたけど、正直それどころじゃなかった。慌ててみんなに言っちゃった…。自分にはどうにもならなくて、みんなに言えばとりあえず何とかなるかなって。まあ、言ったところで何とかなるわけないから、あの子なりに苦しんでるんだろうけどね。多分、余計な事されてあの子、私の事恨んでるんだろうな」
「じゃあ、波奈には悪気はなかったのか」
「当たり前でしょ!悪気があってやる必要もないし!」
勿論、自分一人じゃ、目撃してしまった驚愕の事実を受け入れきれなかったというのが根底にあり、だからみんなに言い触らしたのは確かだ。でも、彼女には彼女なりの優しさがあるってことを、他人の俺からしてみれば、表面だけ、内容だけ知っていても気付いてやれなかったのも事実だ。だから、本当は言い触らしたんじゃなくて、言わなきゃいけないという使命感みたいなものが働いていたってことに、俺は微塵も感付かず、ただ2人のギクシャクしたところを見ていた一日だったのだ。
「お前さ、良いヤツだよな」
「急に何よ」
「いや、お前がさっき、今日のお前たちの様子を自分で迷惑でしょって言ったじゃん。あれ、ちょっと思った」
「それ今言う!?さっき別に良いって言ったじゃん!」
「やっぱ覚えてたか」
「当たり前でしょ!!」
「でもさ、俺、ほたるの意見を先に聞いたからってのもあるけど、お前がちょっと勝手な事したんじゃないかって思っちゃったんだ。でもお前からこうやって詳細聞けて嬉しかったよ。ありがとな、話してくれて」
「もう…突然変だからやめてよ」
「ははっ。でも、2人とも頑固だなぁ。お互い全然譲ろうとしようってか、仲直りしようとか思ってるんだろうけど、今日の様子見てると酷いぞ」
「あの子、私の事、嫌ってるからね。私もついつい反論しちゃう」
「あいつはそういう面倒くさいトコあるよな」
そんなこんなで俺と波奈が時間を潰している間に、ほたると麗、スターとモブがやってきた。
みんなでトークをし、楽しんだ後は…
夜、修学旅行ならではのイベントがある。
「女子の部屋を覗きに行くぞー!」
「いえーい!」
「お前らガキか」
テンション上げ上げな俺とモブを冷ややかな目でスターが眺めている。ホントは行きたいクセに。
「あらら~?スターくんは勇気がないのかなぁ?」
「先生に怒られたくねぇよ、こんなクダらないことで。てか、このスケベはまだしも何でモブまで」
「スターくん!覗きは男のロマンだよ!」
「お前らいつか捕まるぞ」
とりあえずスターは放っといて、女子の館まで忍び足。廊下は物音立てずに小走り。花園で溢れかえるこの館の廊下の先には門番と言える監視がいる。しかも男!なんで男なんだよぉ!おかしいだろ!女の楽園の門番が男とか痴漢とかして捕まっちまえ!
「ふわぁ~あ」
門番の先公が大きなあくびをした。すると、急に立ち上がり、こちらへ向かって歩いてきた。物陰に隠れてる俺ら、バレたら終わりだ。単なる変態としてクラスで一生軽蔑されるぅ!
……っと思っていたら途中で角を曲がっていってしまった。どうやらトイレに行っているようだった。
今がチャンス!……ってか、よくよく考えりゃ、
覗くってどうやって覗く!?
部屋開けないと女の子のパジャマ見れないじゃん!でも開けたら開けたで殺されるし…うわぁ!麗のパジャマ姿があともうちょいで見れるというのに!
こうなったら、モブを使おう。
「モブ、お前がゆっくりドアノブを引け。俺が観察する」
「さすが変態の師匠。もう牢屋に入った方が良いと思うよ!充くん!」
「安心しろ。ゆっくり開くのがコツだ。そこだけは慎重にな」
麗達の部屋の前についた。ゆっくりドアノブをモブが捻る。そーっと…そーっと中の様子を…
あれ?
中に見えるのは、波奈の後ろ姿だ。でもほたると麗が見当たらない。どこ行ったんだ…?
「充くん!僕も見たいよ!」
モブが背伸びして懸命に中を音を立てずに見ようとする。その時…
「ん?そこにいるのは誰だ?」
やばい!門番がトイレから戻ってきた!バレたら俺らの学校生活、ある意味エンドだ!!!
俺はモブを置いて猛ダッシュした。改めて俺ってクズだな。
俺は無事だったが、モブが戻ってこない。捕まったか。まあ、何とかなるだろ。
自分の部屋に戻って来ると、そこにスターはいなかった。あいつ何やってるんだ?
俺が自分の布団で寝ようとしたその時、クローゼットの中から、俺の想像をはるかに上回る人物が出てきた。
麗である。
「う…ら、ら…?」
頬を赤らめながら、麗が一言、
「き、ちゃった…」
ん?どゆこと?いや何で麗が俺らの部屋に!?パニック!!パニック!!死ぬ!
「麗、な、何でここにいるの…?」
「え、えーっと…な、なんか、ほたるちゃんとかに充くん達の部屋に行きなって…」
「反論しなかったの?」
「勿論したよ!絶対嫌だって…」
まあ、男子の部屋になんか夜行くのは絶対嫌なんだろうけど…それでも絶対嫌だって言われて何か悲しい。
「まあ、そりゃ男子の部屋なんか来たくないよな。てか、ここにいたらまずいぞ!」
「う、うん…帰るね…でも先生達にバレちゃったらどうしよう…」
こうなることが分かってても、ほたる達の強引な無茶振りに答えてしまうあたり、麗の素直さが滲み出ている。反論しても結局流されて危険な橋を渡って来るような子だからな…。麗、俺程度の男の部屋に行かされるなんて嫌だろうな。もっとクラスのカッコいい男子とかの方が良かったんじゃないかな…。てか、ほたる達マジで何なんだし!ほたるが前俺に言った、応援してあげるって言葉、こんな形で実るのかよ!勘弁してくれよ…。
結果的に麗と二人きりの空間が出来た事にはただただほたるに感謝だけどな…。てか、ほたるちゃん「とか」って時点で波奈もこの計画に混ざってるわけだろ。何だかんだあいつら上手くいってると思うんだけどな…。
…っと色々考えている俺を見て照れている麗が異常に可愛い。何でこんなに可愛いのか、この世の科学では到底説明できまい。改めて思った。
「ま、まあ、とりあえず何とかしてここから出なきゃ!変にスターとかに見つかって誤解されても嫌だし!」
そもそも何でスターはここにいないんだ?案の定、布団の配置は変わっていた。スターが直したのだろう。
「じゃ、じゃあ一気に走って戻るね!」
「お、おう!頑張れ!」
俺がついていっても誰かに見つかった時点で逆に怪しまれるだろう。こんなあれこれ考えないで潔く彼女をリードできるほどイケメンだったら良かったと自分を悔やむ。
クローゼットを閉め、部屋の角を曲がってドアに向かおうとしたその時…
ガチャッ!
やばい!誰かが入ってくる!
「麗!とりあえず俺の布団の中に!」
「え!?あ!うん…!?」
慌てて麗を俺の布団に隠す。布団が盛り上がってバレバレなので、俺も一緒にその布団に入る。俺は上半身だけ出して壁に寄り掛かり、麗は完全に布団の中に潜り込む。
「あれ?充じゃん。モブは一緒じゃなかったのか?」
想像通りというか、やはりスターだった。
「あ、あいつ?あぁ、置いてきちゃったわ」
頼む、スター!女子部屋を覗いてた事だけは麗がいる時に言わないでくれ!
「あ、そー言えばお前が女子部屋行っても意味なかったぞ。坂下あの時部屋にいなかったらしいから」
バカ野郎!言うなって!この大バカ野郎!!!あ、でも今の発言は覗いてたって事は伝わってないはずだな、ギリギリセーフ。というか気になるのは…
「え、てか、何でお前がそんなこと知ってるの?」
「星野に聞いた」
ほたるの奴、スターと会ってたのか…。俺が覗きに行ってる間、いつの間に…。
「さあて…俺はもう寝るかな…」
「え」
ちょいちょい!もう寝るのかよ!麗ここにいるんだぞ!?いや、逆に寝付いてからがチャンスなのか…!?
麗が俺の足元でモゾモゾしている。頼む!じっとしててくれ…!もう少しの辛抱だ…!
というか、焦ってて全然気付かなかったけど、俺今とんでもないことしてないか!?俺の太ももに麗の頬が当たってるんだぞ!?こんな事が起こってしまって良いのか!?今更ながら心臓がバックバク、胸がドッキドキである。
しばらく経ってスターの寝息が聞こえてきた。タイミングを見計らって麗を解放し、小声で話した。
「ごめんね、こんな目に合わせちゃって…!」
「ううん…!充くんのせいじゃないよ!ありがとね!そっと戻る…!おやすみなさい!」
「うん…おやすみ…!」
我ながらスゴい事をしたと思っている。あの様子だとスターはこの部屋に麗がいる事を知らなかった。ということは、ほたると波奈は、麗をこの部屋に送り込んだ計画についてはスターに話さなかったということだ。
やっとモブが戻ってきた。
「充く~ん…一生恨む…」
先生に凄まじく怒られたのだろう。顔がげっそりしている。
「まあまあ、そういう日もあるさ!明日も早いんだ!スターも寝たことだし、もう寝よう!」
「ちょっと待てーい!ホントに酷かったんだよ!先生にコッテリやられた!何で僕を置いて逃げるのさ!」
「逃げるは恥だが役に立つ」
「全然だよ!僕にとっては不利益だから!」
モブにはホントに悪いことした。幸い、先生は女子には内緒にしてくれるということで話は終わったらしく、担任とかでもない別のクラスの副担任とかだったので、この事件が今後のモブのスクールライフに影響する確率は皆無だと勝手に見込む。
数分してモブも寝た。ハラハラドキドキの1日目。何だかんだ楽しかった。興奮して寝れなかったが、見廻りの先公が出現したので寝たふりをしてやり過ごした。
すると突然、隣から、
「おい、充。まだ起きてるだろ」
「ス、スター!?寝たんじゃねぇの?お前」
「狸寝入り」
ま、まじかよ。てことは…
「布団の中に女隠した気分、どーだった?」
おんまいがー!!!!!
「おぉん前!ふざけんなよ!分かってたんだろ!」
「まあな」
「…いつから気付いてた?」
「全部。星野から聞いてた」
「おいおい勘弁してくれよ…全部芝居かよ」
「いや知らなかったとしても、布団膨らみ過ぎてて全く隠せてなかったぞ」
「ったーくドキドキさせんなよー」
こんにゃろう。ハメやがった…。
「あんま大きい声出すなよ。モブ起きるぞ」
「この際、どーでも良いわ!」
「楽しかったか?興奮したか?」
「うっせぇな!しないわけねぇだろ!」
「青春だねぇ」
「うるせぇ!!」
下心もクソもない、見え見えのハラハラドキドキにただ悔しさと恥ずかしさが募った夜となった。
朝起きて俺とモブと麗だけが寝不足といった顔で集合した。ほたるの野郎を取っ捕まえる。
「おいこら、ほたるさんよぅ」
「な、何でしょうか」
「お前何スターと打ち合わせしてんだ」
「何のことでしょう」
「しらばっくれんじゃねぇよ…麗を送り込んだのも、その情報スターにバラしたのもお前だろ」
「バレた?てへぺろ!」
「ぶっ飛ばすぞ…」
「で、女の子と布団でぬくぬく…いかがでした?」
この野郎…スターと似たような事を…。
「ちょ、ちょっと、まあ…その…良かった」
「変態。死んで」
「いや、今の完全に言わせたようなもんだろ!」
「ホントにそういうこと言うあたり、マジなドスケベじゃん。死んで詫びて」
「ホントにお前って可愛気ねぇな!」
周りをふと見回したところ、波奈は恐らくほたると距離を取る為にモブと話をしているし、麗は俺と目を合わせないようにしているし、ホントにどうなるんだろ。俺も巻き込まれたことで今後大丈夫かマジで心配である。てか、俺はてっきりほたると波奈が仲良くなったのかと勘違いしてたからな。そんな単純な問題じゃないんだろうな。面倒くさいな、女子って。
奈良の大仏までの電車に乗っている最中、なんか目についたのは他校の学生達だ。
「スター。あいつらも修学旅行に来てるのかな」
「さあ?この時期だし、よくあることだろ」
その学生達の班は、男同士の班、女同士の班もあれば、人数がバラバラなとこもある。男3、女3の6人班で統一されているうちの学校とは違って結構自由そうな感じだ。その中で一際目立つのが、男だらけの班に一人だけ女子がいる班だ。俺の勝手なイメージ的には、何となくそういうとこにいる女子って元気そうな茶目っ気ある子な感じだ。で、それ以外のタイプで他に例えるなら…戦隊モノっぽく言うのであれば紅一点のようなおしとやかな女子とか。いわゆるピンクポジションである。しかし、そのどちらにも当てはまらず、威風堂々というか、凛々しく、そして尚且つスタイル抜群のプロポーションで、俺とほぼ身長が同じくらいのスレンダー女子だ。他の男子のほとんどの身長を抜かしているので、尚更よく目立っている。顔は結構美形で、まさに東京ガールズコレクションとかで登場しそうな、読者モデルとかそこらではない、ザ・タレントと言ったべっぴんさんだ。そんな女子に見とれていると、ほたるが…
「アンタってホントに女の子好きだよね。すぐそうやってエロい目で見てんじゃん」
「うるせぇな!そんなんじゃねぇよ!」
「いつか麗も性的な目で見るんでしょ、最低。やっぱりアンタなんかに麗は渡さない」
「勝手に話進めてんじゃねぇよ!」
初対面の第一印象で既に軽く性的な目で見てしまった反省があるので、全否定出来ないのが悔しい。そんな事は死んでも口に出来ないが。
「やはりか」
「え」
突然、その紅一点女子が俺に話し掛けてきた。反射的に俺は「え」としか呟けなかった。
「通りで先程から視線が気になるわけだ。おい、そこの女。この男はボクをジロジロ見ていたということで良いのか?」
「え、まあ、うん」
急に話し掛けられたほたるも、曖昧な返事しか出来ず、戸惑っている。
てか、ボクって!?こいつ?男?いや、でもスカートだし…。
「貴様、殺されたいのか?知り合いでもない女に色目を使ってくるとは、死を持って償う他ない。ボクの視界から直ちに消え失せろ」
「あ、いや!俺はそんなつもりじゃ!」
厄介事に絡まれている俺にやっとうちの班員達が気付く。オロオロしている麗を放って、波奈が首を突っ込んでくる。
「あら!うちの充くんがそちらにご迷惑を掛けたようで!でもごめんなさい!充くんは悪くないんですよ~。この星野さんとか言うアホ女が勝手にそう思ってただけなので!すみませ~ん」
「ちょっと!アホってどういうこと!?」
波奈の発言に、ほたるが乗っかる。
「ま!充くんはモテモテなので、他校の生徒に色目使うような子じゃないからお構い無く~」
「ふんっ。その男がどのような人間かは知らないが、女、貴様に免じて今回は許す。散れ。もう顔を向けるな」
そう言うと、その女は班員の男達とまた話し始めた。俺らの態度の時とは違い、とても楽しそうに笑顔を見せながら班員の人達と話をしている。これが本来のあの子なのかな…。ちょっとその男達が羨ましく思えた。ってか、この男達、他校の学生と自分とこの女子が揉め出したら、普通波奈みたいに喧嘩をとめに入るべきだろ。意気地がねぇな。まあ、俺が言えることではないが。
降りる駅がすぐだったので、俺は降りるとすぐに波奈に礼を言った。
「充くんは悪くないよ~。コイツがさ~」
「誰がコイツだー!」
「今回のは星野さんが悪いでしょ!」
「あーそうですか!すみませんでしたー!」
「まあまあ!二人とも!元はと言えば俺のせいなんだ!二人、いやみんなにも迷惑掛けてごめん!」
「面白かったよ」
「さすが変態の師匠!好感度下がりっぱなしだよ!充くん!」
スターとモブは相変わらず調子に乗ってるが…。てかお前ら何か助けたりしろよって心から思った。
三十三間堂は想像以上に神秘的だった。まったく同じような観音様が無数に並べられているのに、各々が全て違うという、奇跡のような光景だ。まるでまったく性格の異なる6人が集まった俺らを表現しているようだった。
…というのは表面上の話であって、そんなことよりも俺は麗に変態って思われたんじゃないかと内心ビクビクしていた。麗に話し掛けようとしたら何か目を反らされるし。まあ、昨日あんなことがあったから当然なのだが、あれをきっかけに変態度が増して嫌われたんじゃないかと考えてしまってしょーがない。
「うわぁ…綺麗…」
「うんうん…ホントに…」
「って!恋鳥!私を見てんじゃん!」
「だって、のぞみん可愛いんだもん」
「うっさいなー!」
近くに別の班がいる。あれは確か同じクラスで去年問題やらかしたとか何とかの平賀さん。そしてその親友の花蕾さん。仲良さそうだな。いつかほたると波奈もあんな風になってくれりゃ良いのに。
「あ、波奈じゃーん!」
「のぞみーん!こんなトコで会うなんて!」
平賀さんと波奈は元気な二人なので、元々仲も良いみたいだ。
「ほたるちゃん!麗ちゃん!楽しんでる?」
「うん!楽しい!」
「私も!」
花蕾さんの言葉にほたると麗が返す。女子同士でキャッキャしている光景は相変わらず目の保養になりますな~。
「ねぇねぇ!花蕾さん!僕とかどうですかい?」
モブはいつからナンパキャラになったんだ。
「ごめんねモブくん。私、男嫌いなの」
なっ!?花蕾さん!?スゴいフワフワしてて天然キャラと見せかけていきなりの串刺し!?いや、そういうストレートなあたり天然キャラ故なのか!?
……。モブの魂が抜けている。うん。今のはお前が悪い。
「あ。アンタが転校生の?」
「あ~、仲沢くんだっけ?」
「あ、はい!仲沢充と申します!」
面接かよ…。相変わらずいきなり女子に絡まれるのは苦手だ。
「よろしくね!仲沢くん!」
「へぇ~、恋鳥が男子に興味示すなんて珍しい」
平賀さんが不思議に思うと花蕾さんは、
「え、だってこの人なんか男子のクセに女子っぽいんだも~ん」
花蕾さん、おいそれどういう意味だ!
「花蕾さん、どういうことかな?それ」
「え、仲沢くんのこと好きなんでしょ?波奈ちゃんとほたるちゃんと麗ちゃん」
はあ!?何なんだこの子!?
ほたるの反応。
「はぁ!?恋鳥!何で私がこんな奴のことなんか!」
波奈の反応。
「まあ、良い人だとは思うけど、そういうのじゃないよ!」
そして麗の反応。
「違う!ホントにそういうのじゃないから!」
似たようなリアクションなのに、何故か最後のだけかなりヘコむ。はぁ…。俺って女の子の知り合いが増えるってトコまでの運で、モテるかどうかになると途端にこうなるからな…。
そんなことより、一つ気になるのはスターがさっきからずっと口を閉ざしている事だ。女子のかしましい一面を見るのが単に嫌いなだけだとは思うが…。
「ほら、スター。何ボーッとしてんだ。次行くぞ」
「あ、あぁ」
スターの視線の先には平賀さんだ。その視線に気付いた平賀さんは一瞬こちらを見たが、スターと目があった瞬間目を反らした。
「恋鳥、行くよ」
「え~、まだほたるちゃん達と話したいのに~」
「またいつでも出来るでしょ!ほら、行くよ」
うん、おかしい。このくらい俺にでも分かる。
「スター、お前、平賀さんと何かあったのか?」
スターは意地を張るのを諦めたような、そもそも張るつもりは無かったかのような寂しげな瞳を浮かべて呟いた。
「あいつ、元カノ」
「え?」
去っていく二人に手を振るほたると麗と波奈。ヘコんで落ち込んでいるモブ。周囲の喧騒。全て無音に感じさせるような、そんな一言だった。
「ま、マジかよ…。お前の元カノがあの子だなんて」
「もう過去のことだ。忘れるつもりでいる」
「でもその感じじゃ、忘れられないんだろぅ?ソコんとこどうなんだい?スターくんよぉ?」
「鬱陶しい野郎だな、首突っ込んでくんじゃねーよ」
「まあまあ、そう怒んなさんな」
「早く忘れたいんだ…。でもクラスにいる以上、忘れるとかないからな…」
「まあ、そんなもんか」
まーさか、スターに彼女がいたなんてなぁ…。まあ、モテそうだから仕方ないか。
「この際、もうちょい首突っ込んで良いか?」
「何で許可しなきゃいけねぇんだよ」
「まあまあ良いから!何で別れたんだ?」
「何で答えなきゃいけねぇんだよ!」
「いやぁ~この際だしぃ~?知ってて損はないかなと」
「お前しか得しねぇじゃねぇかよ」
呆れた表情だったスターは少しだけ真剣そうな顔になり、当時のことを語りだした。
さてさて、リア銃の第2話でございます。
ここでは作品を彩る多くの個性豊かな登場人物が出てきていますね。転校して早々修学旅行とは、展開が早い早い。でもいっぱいレギュラーキャラ出てきてハッピーです。ここまでの登場キャラがほぼ主要メンバーになりますね。
そんなこんなで、スターくんの過去は何なのでしょうか。そしてほたると波奈さん仲良くしようぜ!波奈の可愛さを狙ってないエセっぽい方言も良いですね(自己満)。
ちなみに充は北海道出身なのですが標準語なのです。特に誰にも突っ込まれなくて結果今回の配信においても意識せず、これまで通りでいきます!