第2話<邂逅>
お久しぶりです、ゆにです。
一年以上も失踪してしまって申し訳ないです。
さて、僕は今アメリカ留学中でして、ハリケーンの影響で突如、謎の6連休ができ、割と暇になったからとかそう言う理由でこの第2話を書いています。
これを機にできるだけ高い頻度で更新して行きたいなと思っておりますので、よろしくお願いします。
もう少しで神社に着くというところで俺の身体は悲鳴をあげていた。
幼い頃はこの辺りを時雨や蛍と一緒に駆け回っていたはずなのだが、裏山の勾配がいやに急に感じられた。
自分が普段、いかに堕落した生活を送っているのかを思い知らされる。
「ぜぇ、はぁ、もう、少し・・・っ!!」
一度後ろを振り返る。
「…ッ!?」
依然として餓鬼を撒くことはできていないのだが、餓鬼「たち」は2匹に増えていた。
「いつの間に増えたんだよ、アイツら・・・」
思わず愚痴が溢れる。しかし、こうなるといよいよ悠長なことは言ってられない。
とにかく何処かに身を隠さなくては。
俺は再び駆け出した。
「あった!!」
俺の視界に神社が現れた。
俺は最後の力を振り絞って走った。
全速力で鳥居を潜り、なんとなく本殿に逃げるのが一番良い気がしたので、本殿の中に逃げ込んだ。
本当はこんな罰当たりなことはするべきではないのだが、今はそんな事は言ってられない。
こっちはまさに「神にもすがる思い」なのである。
本殿に入り、すぐに扉を閉める。
本殿の扉はかなり重いので、体の小さい餓鬼たちには開けることはできないだろう。ましてや、最も結界が強いであろう本殿に、魑魅魍魎の類の中でも見るからに階級の低そうなヤツらは入れまい。
息を潜めていると、ペタペタと足音が2つ近づいて来て、本殿の前で止まった。
本殿の前にいる「何か」はガガガという不気味な啼き声を発した。
奴らだ。2匹の餓鬼が、扉を挟んで向こう側にいる。
しかし、こちらには入ってこれないのだから、そのうち諦めてどこかへ行くだろう。
そう思った矢先、奴らはなんと扉に向かって体当たりを開始した。
どんっ、どんっ、と、扉が揺れ、ミシミシと軋む。
「おいおいマジかよ…」
なんて執念だ。流石は「餓えた鬼」と言ったところか、なんて呑気なことを考えている場合ではない事は理解しているが、人の思考というのは不思議なもので、危機的状況に陥っている時に限って明後日の方向に飛躍したりするものである。
「まあ、あやつらがこちら側に入って来るのも時間の問題じゃろうな。」
背後から不意に、声が聞こえた。
「なっ⁉︎」
振り向くと、御神体と思しき紅い龍玉がそこにはあった。
その龍玉から、何か圧倒的な気配を感じる。これが神威というヤツなのだろうか。
「龍神…様?」
俺は問いかけた。
「如何にも。人の子よ、名をなんという。」
龍神が答えた。
「紅月蓮也と言います。」
俺は名乗った。
「そうか、紅月の者か。」
少し間を開けて、龍神は再び話し始めた。
「良かろう、人の子よ、お主を助けてやろう。」
「本当ですか!?」
俺はかなり食い気味に問うた。
「ああ、本当だとも。その代わり、後で我の願いも聞き入れてもらうがな。」
龍神は言った。
「その願いと言うのは…?」
俺は問うた。
「今はそんなことはどうでも良い。兎に角、お主も我もあやつらをなんとかしたい。しかしお主にはそのための力がない。そして我には力はあるが身体がない。わかるな?」
確かに俺と龍神の利害は一致している。
しかし龍神の言い方から察するに、今から俺はこの龍神に憑依されるってことじゃ…
「ええい、まどろっこしい。紅月の者よ、我が器となれ。」
直後、身体の内側に途轍もなく熱い何かが流れ込んで来る。
これが神様を宿すという感覚なのか。
「我が衰えたのかお主が強いのかは判らぬが、身体を完全に支配するには至らなかったようじゃな。」
脳、と言うより魂に直接語りかけられているようだ。
どうやら俺は本当に神様を宿してしまったらしい。
「まあ良い、身体を動かすのはお主に任せることにしよう。良いか、我の言う通りにするのだ。」
その言葉に俺は頷いた。
「よろしい、ならば我の龍玉の前に置いてある箱を開けよ。」
言われた通りに龍玉の前にある箱を開けると、そこには年季の入った、しかし立派な薙刀が横たわっていた。
錆びついてはいるものの、その刃は本物のようだ。
「薙刀を手に取れ。」
薙刀を手に取る。すると、明らかに年季が入っていたはずの薙刀の柄は瞬く間にその鮮やかな紅を取り戻し、その刃は鏡のように輝いた。
「お主、薙刀の心得はあるか?」
龍神が俺に問いかける。
薙刀の心得なら、ある。
小さい頃から祖父に薙刀を教わっていて、中学の時は薙刀部に所属していた。
中学三年生の時には地方大会の準決勝を戦った経験もある。
しかし、高校に薙刀部はなかったし、祖父も俺に薙刀を教えられるような健康状態ではなかったので、高校に入ってからは殆ど、いや全く薙刀に触れていない。
約一年半のブランクはあるが、やるしかないだろう。
「覚悟は決まったようじゃな。」
龍神のその言葉に俺が頷いたその時だった。
片方の扉が外れ、こちらに倒れてきた。
流石にあの重い扉の下敷きになればタダでは済まない。
少なくとも、あの餓鬼たちを撃退する事は叶わないだろう。
頭が真っ白になった。
かっこよく覚悟を決めて置いてこんな事で死ぬなんて、誠に遺憾である。
「斬れ。」
声が聞こえた。
俺はとっさに薙刀を思い切り横一線に薙いだ。
倒れてきた扉は一刀両断され、上半分は俺のすぐ背後に、下半分は鼻先を掠めて目の前に崩れ落ちた。
「おお、すげぇ…」
感嘆の声が漏れる。
「自らの為したことに驚いている場合ではない。早くあの化け物どもを斬り伏せよ。」
おっと、そうだった、あまりの衝撃的な光景に当初の目的を失念しかけていた。
餓鬼たちも一瞬怯んだようだったが、「グガァァァ!!」という啼き声と共に片方の餓鬼が飛び掛かって来る。
俺はそれを往なし、振り向きざまに斬る。
「はぁぁぁ…ッ!!」
一刀両断された餓鬼は「グギァァァ!!」と言う断末魔をあげと、その刹那、体の末端から燃え始め、一瞬にしてに灰に変わった。
「な、なんじゃこりゃぁ⁉︎」
再び驚きの声が漏れる。
「穢れを祓っただけじゃろうが、いちいち驚くでない。そもそも、我と出会った時には少しも驚かなかったではないか。」
少しも驚かなかった訳ではないが、確かにリアクションは小さかったかもしれない。
「まあ良い、残りの1匹も斬ってしまえ。」
俺は小さく頷くと、片割れの餓鬼との間合いを詰め、胸のあたりを貫き、一気に引き抜く。
餓鬼はその場に倒れ、灰に変わる。
「終わった・・・のか?」
俺は呟いた。
「いいや、何かまだ気配が残っておる。それも、今おぬしが斬った餓鬼よりも大きい気配じゃ。」
龍神が俺のつぶやきに反応する。
「え、それってどう言う・・・」
そこまで言いかけた時だった。
「グゴァァァァァ!!」と言う地鳴りのような咆哮が響き渡った。
声のした方を見ると、右手に金棒を携え、背は2メートル程あろうかという「餓鬼」がそこに佇んでいた。
これが本当の「餓鬼大将」ってか。
「つまらぬ事を考えてないで、奴の動きに集中せい。」
叱られてしまった。
「しかし、あやつを一太刀で斬るのであれば、神通力を使わねばならぬな。」
続けざまに龍神が呟く。
「神通力・・・ですか?」
俺は問うた。
「如何にも。しかし神通力はその力故に人の体で使えばタダでは済まぬ。お主がそれに耐えられるかは判らぬが、お主ならあるいは・・・」
どうやらこの龍神は俺が思っている程人遣いの荒い神様ではないようだ。
しかし、餓鬼大将も待ってはくれないようで、「グルルゥ・・・」と唸るとこちらに向かって歩き出した。
「わかりました。俺、やります、神通力。」
俺は威勢良く言い放った。
「了解した。では、お主の内なる力に働きかけよ。紅蓮の火の魂が見えるはずじゃ。」
俺は目を閉じ意識を集中した。
・・・見えた。暗闇に紅蓮の炎が揺らめいている。
「その力をまず身体に巡らせよ。」
炎が発する熱が身体の末端まで行き渡るようにイメージをすると、心なしか全身が火照ってきたような気がした。
「では、その力を薙刀に流し込み、目を開け。そして、あの化け物を斬れ。」
力を薙刀に流し込み、目を開くと餓鬼大将は既に眼前まで迫ってきており、今まさに両腕で振り被った金棒を振り下ろそうとしていた。
「左に跳べ。」
声に従って左に跳ぶ。
振り下ろされた金棒は本殿の屋根を突き破って先程まで俺が立っていた地面を叩きつけた。
金棒の直撃は免れたものの、今度は本殿の天井の一部が崩れてきた。
俺はそれをすれすれのところで躱す。
さっき小さな餓鬼たちと戦っていた時にも思ったのだが、なんだか身体がとても軽い。
どうやら、神を宿したことで身体能力も上がっているようだ。
しかし、その間に体勢を整えた餓鬼大将は、再び金棒を振りかぶり、こちらに向かってくる。
ふと薙刀に目を移すと、薙刀がその刃に紅蓮の炎を纏っている。
なるほど、これが「神通力」か。
「来るぞ。」
龍神が俺に警告する。
俺は餓鬼大将に視線を戻し、動きを見極める。
餓鬼大将は「グルアァァァァァ・・・ッ!!!!」と雄叫びをあげると、再び俺目掛けて金棒を振り下ろす。
俺は右に跳んだ。
今度は本殿の屋根のように遮るものも何もなく叩きつけられた金棒は地面に食い込んだ。
餓鬼大将も攻撃の反動で硬直している。
「あやつの金棒を踏み台にして跳べ!!」
難しい注文をするなぁと思いつつも、今ならできるような気がしたので餓鬼大将の金棒を踏み台にして思い切り上に跳んだ。
「縦一線に斬れ。」
俺の跳躍が頂点に達しようかというところで龍神が指示する。
俺は薙刀を構え、手に力を込める。
薙刀の刃が纏っている炎が激しく燃え盛った。
「うおおおおお・・・っ!!」
餓鬼大将の頭頂部目掛けて薙刀を振り下ろすと、「グギィィィ!!」という断末魔をあげながら餓鬼大将は真二つに割れ、灰に変わっていった。
「今度こそ、終わったのか・・・。」
俺が呟くと、
「如何にも。見事であったぞ、紅月の者よ。」
その言葉に安堵したのも束の間、急に身体に力が入らなくなり、俺はその場に膝から崩れ落ちた。
ー続く






