初期地点から北へ
彼は責任を感じていた。自分の軽率な判断のせいで友人たちを取り返しのつかないことに巻き込んだ、と。だから他の三人が気分のままに行動をしているのとは対照的にただただ事務的にブロック収集と地理の把握に努めていた。
彼は用心深く迷子にならないように定期的に土ブロックを重ねた置いて道標にした。そして万が一にも魔物に襲われないように常にスキル:捜索で確認を怠らなかった。
日の光がなくなり魔物たちの動きが活発化した時、土の家に最初に戻ったのも彼であった。彼は合成で頑強に作り上げたドアを土の家の出入り口に嵌めこみながら仲間たちの帰りを待っていた。作り立ての食卓の上には栗のような木の実やリンゴのような果実が用意されてある。
誰も帰ってこないことに心配になった彼が壁に立てかけた松明をもって外に出ようとしたとき、ドアは開いた。そこには七色に色が移り変わる不思議な杖を持ったショータがいた。ドアを開けた際の隙間風で松明の火が消し飛んだ。家の中に暗闇が満ちた。
ベルは頭を抱えた。ほとんどのことは合成とブロック化でどうにかできるブロックガーデンセカンドでも火はどうしようもなかった。あの松明についた火もベルが木を摩擦させることによってやっとのこと生み出したものであったのだ。
落ち込むベルの肩をショータは軽く叩いた。
「俺に任せろ」
ショータが杖を振ると松明に火が灯った。
「それはどうしたの?」
「俺は有能だからな。崖にぶら下がってた宝箱から手に入れた」
少々頭にくる物言いだったがおだてていたほうが扱いやすい性格だというのはこれまでの経験で知っていたのでそのままにしておいた。
「他の無能たちは?」
ベルは肩をすくめるリアクションで答えた。
「遅せーな。どっかで死んでんじゃねえの」
部屋にはショータの高笑いだけが響いた。
そして朝になった。二人は帰って来ていない。
どうしたんだろう、と心配するベルをよそにショータは杖を磨いていた。
「あいつら最初の時も遅かったし、次も遅れて来るだろ」
噂をしていると土の家の扉が開いた。そこには見知らぬ男が立っていた。
「ど、どちら様でしょうか?」
ショータは杖を構えながら尋ねた。答えは男の後ろから聞こえてきた。
「彼はバスバス村のウィンテッド。怪しいものじゃない」
「タク!?」
ウィンテッドの後ろから大柄の男が現れた。ウィンテッドはタクに前を譲って口を開いた。
「これで全員でしょうか?」
「うーむー、一人足りないな。ヤマトは何処へ?」
「おい、どういうことだよ! 何なんだ、こいつら!?」
事情が分からずに置いてけぼりになったショータがタクに噛み付いた。タクは大らかな態度で対応した。
「彼らは私たちを村へ招き入れるためこの家に来た」
タクは順を追って説明する。どのような経緯で村を発見して、どんなに酷い目にあったか。そして誤解が解けて扱いが一転、歓迎される身になったこと、を。しかし泣き喚いたことなど自身の名誉に悪いイメージがつきそうなことは全て除外した。親切なウォンテッドはそれを言い付けることなどはしなかった。
「いいな、それ。じゃあ出発しようぜ」
ショータはいの一番になって誘いに乗った。それをベルがたしなめた。
「まだヤマトがいないよ」
「知るか。あんな奴どうでもいいだろ」
物凄い剣幕に気圧されてベルとタクは黙りこくってしまった。
「……じゃあ、いいな? 村に行くぞ」
「いいえ、それはダメです」反対は思わぬところから飛んできた。ウォンテッドは呆れたように髪をかき上げていた。「村の風習なので勇者がいるとわかって連れて行かないわけにはいきません」
「融通が利かなくない? あんな奴いてもいなくても変わらないから頼むよ」
ウォンテッドは首を振るばかりだった。そしてタクに耳打ちして、どこかへ行ってしまった。
「何て言っていた?」
ショータは叫んだ。タクは小声で返した。
「一旦村に帰る。近くにある村だから迎えに来るのに大した時間はかからない。また明後日に来る、と」
ショータが急いで外へ出たときはすでに村人たちは東の森に消えてしまっていた。