第一話 5 Unknown
5 Unknown
翔が例の心霊スポットに行く数週間前に遡る。
草薙翔は、いつものように放課後になると、悠一や夢奈達に絡んでいた。
翔にとっての一番の楽しみが、二人を茶化して遊ぶこと。学業よりも、テレビゲームよりも楽しいことだ。
放課後も二人を誘っていつものようにどこかへぶらりと出かけようと思ったが、今日は二人揃って予定があるらしく、翔は口を尖らせながら家路に付こうとした。
翔の家は、学校からそう遠くない場所にある。
一軒家の二階建てだが、兄弟は居ないし両親も遠方で働いているため、家を好き勝手できるのは翔だけだった。
家に帰っても、面白いことなんて一つもない。
何か楽しみを見つけたいと思っていた翔は、どこかぶらっと遊びに行こうかと考えた。
細い道に入ると、そこからはスピードを落としてゆっくり自転車を走らせる。ここでスピードを出してしまうと、人が突然飛び出てきた時に間違いなくぶつかってしまうからだ。
なんてことを考えていると、黒い人影が突然見えた。
ぎゅっとブレーキを握り、自転車を止める。
なんとかぶつからずに止まると、翔は相手に声を掛ける。
「突然出て来られたらびっくりするだろう」
そう言われた相手は何も答えない。
黒いローブで顔を隠している。
いかにも怪しい人物だ。
関わらないようにするのが吉と見て、翔はそのまま脇を通って去ろうとした。
すると、横に並んだ瞬間に、強い力で肩を掴まれた。
「お前に教えておかなければならない話がいくつかある」
「なんだよ!離せよ!」
最近流行の不審者と見て、翔は必死に手を引き剥がそうとする。
しかしその力は強く、離すことができない。
顔は見えないが、声のトーンでこの人物が男だとわかった。こんなに強い力を持った女性も、そう居ないだろう。
「私は、お前の遠い親戚にあたる者だ。少しばかり、話をしにきただけだ」
草薙家は、確かに親戚が多い家系だった。父の兄弟は五人居るし、母の姉妹も三人居たはずだ。
だが、こんな怪しい親戚を見た覚えはないし、声を聞いても誰なのかさっぱり見当も付かなかった。
「話しておかなければならないことが沢山ある。そのうちの一つは、心霊スポットに纏わる話だ。そこに行くとどうなるか、興味が湧かないか?」
突然何を言いだすかと思いきや、その風貌に違わぬ怪しい話だった。
見知らぬ人間から心霊スポットの話を聞かされるだなんて、その話を聞いただけでも呪われそうだ。
もしくは、その男事態が幽霊で、地獄へ引きずって行くためにこんな話をしに来たのではないかとすら思ってしまう。
「お前はこういう話が好きだろう?お前にとって、“とっておきの話”がいくつも待っている」
男の口ぶりは、翔のことを前々から知っているようだった。
次第に翔も、警戒心が少しずつ薄れ始める。
心の中で湧いて出てくるのは、“好奇心”だった。




