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ノベルRe;バース 0 "ノベルリバース ゼロ"  作者: 鳴海悠一
ノベルリバース ゼロ "ノベルRe;バース 0"
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第一話 2  Darkness

2 Darkness


「心霊スポット?なんでそんな所に……。まぁ別に、私は行ってもいいけど。悠一と夢奈は?来ないの?」

「あいつらは二人でデートだってさ。ったく、羨ましいよな」


 金曜日の放課後。

 翔にとって“暇”や“退屈”というものは大敵だった。それを潰していくには遊ぶためのスケジュールを組まねばならない。

 普段ならば悠一か夢奈を誘ってカラオケかゲームセンターに行って適当に遊ぶのだが、今日の二人はとても誘える状況ではなかった。あまり踏み込みすぎると手痛い仕打ちと火傷をするのがオチだと知っている翔は、いつも自分の身に危険が及ばないように考えながら行動する。それが、彼ら二人と一緒に居るための心得だ。

 これだからバカップルというものは困る。付き合っちゃ居ないが、傍から見れば熟年夫婦並みに息が合う二人。夢奈に至ってはとある“男子”にほの字だし、悠一はその相手が誰かを知らない。だからこそ尚更性質が悪いというものだ。

 男勝りな女子ではあるが、とある一面では乙女な雰囲気を醸し出す夢奈に助言を与えたのがいけなかったかもしれない。

 考えが決まるとすぐに行動に移すのが彼女の性格であると知りながら情報を渡した。実際に会えるのかどうかもわからないが、それを確かめに行こうとする行動力のある彼女は、早々に教室を飛び出して、早速喫茶店へと向かって行ったようだ。

 活発な夢奈に対して、ぼんやりと考えて比較的に面倒そうな物事に関しては自ら動かないのが悠一。例え悠一が動きたくない、行きたくないと言い張っても夢奈が引っ張っていくのがいつもの流れ。それも翔は分かりきっていることだ。

 とある廃墟付近で経営しているという喫茶店。そこに居るという恋愛相談の達人。噂で聞いたことを夢奈にそのまま話しただけであって、どんな人なのか翔はまだ見たことが無い。

 夢奈が出会ったとして、それは幸か不幸か。




 特にスケジュールが決まらぬままに迎えた放課後。

 持ち前のトークセンスと行動力を以って、同じクラスの友人二人と、別のクラスの友人二人をそれぞれ捕まえた翔は、例の心霊スポットに向かうパーティを無事組むことができた。

 あの熟年高校生バカップル二人を加えた七人で向かいたい所だった。何故ならば、悠一と夢奈の二人を驚かせる仕掛けを幾つも用意して、真夏ならばどんな学生もやるであろう肝試しで驚かせたかったからである。

 喚く姿を見たいと思っていた翔は悠一に断られ、渋々とクラスメイトや友人を誘い合計五人のメンバーを形成した。

 誘われた面々が共通して思い浮かんだ疑問。

どうして突然、心霊スポットに行きたいなんて言い出したのか。確かにその場所は、校内でも有名な所だった。

 とある神社の境内に入ると、暗がりの中で蠢く妖怪が見られるという。その妖怪を見た者は、生涯幸せに暮らすことができるか、呪いにかかって死に至るという。

 どちらが降りかかってくるかは、その人次第。

 その手の話をイベント事にして楽しもうとする気概は相変わらず翔らしい。

放課後特に何もすることが無かった男女四人は、暇つぶしという名目の元、翔の誘いに乗ったのだ。

 神社は高校からそう遠くない場所に位置する。

自転車は学校に置いて、徒歩で例の場所へと向かうことにした。

 心霊スポットへ向かう途中で小さな家電屋に立ち寄り、懐中電灯を人数分調達。言いだしっぺの翔が全額負担。翔以外の全員、支払に関して異論を持つ者は居なかった。

財布の中の残額に震えながら、翔とその他四人は冒険気分で道路を歩いて行く。


 いよいよ辺りは、暗さを増してきた。

 怖がっているのか、それとも何もない退屈な道のりで飽きていたのか、心霊スポットへの道中で話す者は誰も居なかった。

 学校からそんなに遠くはないといえども、放課後に準備してから向かえば日も沈み、明るさを感じることなんて少なくなる。

気付けば懐中電灯無しでは歩くこともままならない状態になった。神社の周りには外灯がほとんど無い。

 校内では陽気に喋っていた高校生達も、真っ暗な闇と静かに聞こえる風の音に不気味さを感じ、段々と表情が強張っていく。

 暗がりで考えるのは何か“恐ろしいもの”。

 かさかさと草を掻き分けるような音が聞こえれば、それは風ではなく誰かが動いているように感じるし、辺りに誰も居ないというのに視線を感じてしまう。

 普段家に居ても近所に居ても夜や暗闇が怖いと思うことはない。この場所そのものが彼らを怖がらせるのだ。


「どうしたんだよお前ら。もしかしてビビってる?」


 唯一、言いだしっぺの翔だけは相変わらずニコニコ笑っている。どうしてこんな気味の悪いところでそんなに笑っていられるのか、誰もが彼の心中を察することはできなかった。

 度胸があるのか、怖い物知らずなのか。


「ほら、着いたぞ」


 懐中電灯の明かりが、暗がりの中にひっそりと佇む建物の姿を浮き彫りにする。神社の全容と共に見えるのは、仰々しくそびえ立ってる大きな鳥居だった。年季が入っているためか、所々茶色く汚れている。

 昼間に見るお寺と違って、夜に来るとどうして恐怖心を煽るシンボルになるのだろうか。

 鳥居が異世界への入り口としてぽっかり口を開けているように見えてしまう。

 四人と対照的に、怖がるどころかむしろ楽しくてしょうがないと言った笑みを浮かべている翔が、ずんずんと歩みを進めていく。


「ほらほら、真相を突き止めようぜ。妖怪は本当に居るのかどうか」


 中にはこれ以上進みたくないと思い始めてきたメンバーも居る中、翔に釣られるように、他の四人もゆっくりと歩みを進めていく。


 ざっ。ざっ。ざっ。ざっ。ざっ。


 地面は雑草が生い茂っており、少し道を逸れれば森の中に迷い込んでしまいそうだ。まるで、ぽっかりと大きな口を開けている巨人のように。

 ぼんやりと見える懐中電灯の光で照らされた所が例え木であっても、その木目が人の顔に見えてしまう。何人もの視線を感じてしまうのは、自分が怖がっているからだ。

半ば四人は自分を鼓舞するかのように恐怖心を余所にやろうと話を始める。


「ねぇ翔。こんな所に居ても妖怪なんて見られるわけないじゃない。御社に入るわけにもいかないし、それ以外に行く場所も無いから帰らない?」

「もっとでかい神社かと思ったら、意外に小さな神社だったな。もう少し楽しめるかと思ったのに。しらけたし、帰ろうぜ翔」


 みんなが少しずつ笑顔を見せ始める。翔にはそれがどう見ても強がっているようにしか思えなかった。安心を求める心理。

 となると、悪戯好きな翔は“アレ”をやるしかないと、定番の行動を起こすことにした。他の四人に対し、真顔で答える。


「俺達が御社に入ったかどうかなんて、他の誰にもわからないさ。ほら、みんなで入ろうぜ」


 翔は四人を御社へと入れるために、神社の中をさくさくと歩いて行った。自然と体が引っ張られるように、皆歩みを進めていく。


 ざっ。ざっ。ざっ。ざっ。ざっ。


 御社の扉を開くと、翔は手に持つ懐中電灯の明かりを消した。

 他の四人も、翔と共に御社に入った。その直後、ぽつんと立ち尽くす翔に妙な違和感を覚えた。

 何か、様子がおかしい……。


「ちょっと翔、どうしたのよ。いきなり止まって。ここの中、何もないじゃない」

「さっさと帰ろうぜ。涼しいっていうより、なんだか寒くなってきたし」


 男女揃って乾いた笑いを浮かべた。いつもの楽しげに浮かべる笑みにならない理由は言うまでもない。

 四人のうち、二人は翔にそう言ったが、残り二人の男女はこの時妙な気配を感じていた。

 気配というよりは、異変と言った方が正しいかもしれない。

 なんだか、翔の様子がおかしい。御社に入ってから、一点をじ~っと見つめて動かないのだ。


「おいおい、早く戻ろうぜ。なんだか涼しい風に当たりすぎて寒くなっちまった」


 男子がそう声を掛けるも、翔は何も答えない。ぽつんと立ち尽くしているだけだ。


「気味悪いから、返事の一つくらいしろよ」


 流石におかしいと思ったもう一人の男子が、翔の肩にぽんと手を乗せる。


「わあああああ!!!!!」


 腹から声を振り絞るように出し続ける。

 あまりにも驚いて声が出ないか、釣られて悲鳴を上げるか。男女四人はそれぞれに翔の大声で恐怖を味わった。

 恐怖が何かの装置でエネルギー変換されたかのように、翔の心には楽しさと嬉しさが沢山蓄積していった。


「あっはっはっは!いや~愉快愉快」


 腹を抱えて地面に転がっている翔。呼吸困難になりそうなくらい笑いが止まらなかった。

第三者として見ていると釣られて笑うところであるが、被害にあった他の四人にしてみれば、怒りの導火線にライターで火を付けるようなものだった。


「アンタ馬鹿じゃないの!?いい年して人を脅かすんじゃないの!」

「いや~最高だったぜ。ビデオカメラでも持って来れば良かったかな。夏の定番ってのはやっぱり味わっておくもんだね」


 翔がこういう悪戯を好むことを四人は知っていた。激怒するというより、呆れからくる脱力で怒る気にもならなかった。

 やれやれと肩を落とし、翔以外のメンバーはそれぞれに出口へ足を向けようとする。

 さっさと帰ろう。

 誰もがそう考えていたが、一人だけはまったく正反対の事を考えていた。


「何やってんだよ翔。もう帰るぞ」

「そっちこそ何を言っているんだ?イベントはまだまだこれからだぜ?この祠の扉を開ければ、妖怪が出てくるって話だったろ。それを確かめないと意味が無い」


 ようやく吹っ切れた男子は、翔に対して怒りを注ぐことになる。


「もういいだろうが!ここには何もありゃしねぇよ!」

「お前の冗談に付き合うのはこりごりだ!」


 そのセリフを待っていました!と言わんばかりに、翔は不敵な笑みを浮かべて男子二人に手招きする。女子二人は御社の外へと歩んでいく。

チャンスは今。こそこそと女子二人組には聞こえないように喋りだした。


「怖くて足が震えているっていうなら、二人は帰っていいぜ。俺は残った女子二人と一緒にゆっくり帰るから。男を見せるにはこういう時こそがベストなんだよ。恐怖ってのは誰かを頼りたくなる状況を作りやすい。それがまさに今。学校内じゃ有り得ない『この人と一緒に居たい!』と思わせる感情をコントロールする場面だ。“楽しむ”なら今だぜ?

 

 翔の催眠術に掛かったかのように怒りが急激に冷めた男子二人は、元から翔の意見に賛成していたかのように懐中電灯を祠へと向け始めた。


「さっさとやろうぜ。ここが正念場だ」

「あぁ、校内じゃ何もいい所見せられないからな。今がチャンスだ」


 簡単すぎて泣けてくるぜ……。


 男とはかくも愚かな生き物なのかと、翔は自分も同じ性別であることを嘆いた。


「ちょっと、行かないの?」


 男子達が出て来ないことに気付いた女子の一人が、御社の中に向かって叫んだ。

 その声に対する応答は無い。

 気になった女子二人は、再び御社の中へと足を踏み入れる。

 三人男子は、揃って小さな祠へと歩いて行った。ゆっくり、ゆっくり。


「せーので開こう。誰か一人だけ逃げるとか無しな」

「わかっているよ。翔も逃げちゃだめだよ」

「俺はいつも先陣を駆け抜けているだろ。お前らと違って逃げたりしねぇよ」


 3,2,1せーの……。

 翔が始めたカウントダウンで、残り二人は勢いよく祠の扉を開けた。少し遠巻きに見ている女子二人は、何か恐ろしいモノが出てくるんじゃないかと恐怖し、お互いに体をくっつけあいながら動向を見守っている。

 三人の懐中電灯が祠の中へ向けられるが、そこには白い壁があるだけで、他には鼠一匹居なかった。


「なんだよ。何もねぇじゃんか。かーっ、つまらん」


 まるでおっさんのような文句を吐き捨てて、翔はやれやれと両手を挙げた。


「やってらんね。時間無駄にしたわ。帰ろうぜ」


 …………。


 誰も反応しなかった。


「おい、どうしたんだよ」


 …………。


 時間が止まったかのように、翔以外の四人が動かなかった。

 それぞれの顔を見ていると、恐ろしく顔が歪んでおり、そのうちの一人は人差し指を一点目掛けて指していた。線を辿るように翔はその人差し指からじっと視点をなぞるように動かしていった。すると、自分の背後を指していることに気付いた。

 ゆっくり顔を後ろに向けると、そこには…………。





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