第三話 5 Re;
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夢奈に喫茶店の話をすると、どことなく嬉しそうな表情を浮かべていた。
彼女がどういった経緯で“好きな人”を作ったのかは知らない。
話をしてやったのはいいものの、翔はどことなく心が浮ついているようだった。
それは楽しくてとか、好きな人と一緒に居る時に言う“浮ついている”ものと違い、自分の中で確固たるものが無いために、あまり気分が乗らない時のものだった。
あの男に言われるがままでいいのだろうか?それこそ、レールの上を辿っているだけではないか。
彼から聞いた話では、自分がこの先一生後悔するような局面を迎えるという。それがどんなことなのか、断片的で細かくは語られなかった。
だが、翔の中で変わらない考え、意思がある。それは、何者にも代えられない自らの“使命”だと思っている。
悠一も夢奈にも黙っていた秘密。
それをいつ、どのタイミングで告白することになるかはわからない。
だけど、それを翔は躊躇っていた。
今の自分は、彼ら二人と共に居ることが一番幸せであるからだ。
だからこそ、彼らには何も知らないで居て欲しかった。
時はそれを良しとはせず、三人で仲良くする光景は、額の中で飾られる想い出として過ぎ去って行ってしまう。
「どうだ?考えはまとまったか?」
「信じるかどうかはさておき。俺はあの“心霊スポット”に遊びに行くことにしたよ。変な霊に出くわすから気を付けろとか今更言うなよ」
男は満面の笑みを浮かべる。
この男の真意はさておき、自分の成すべきことは成さなければならない。
「そうだ、お前に渡しておく物がある。大事なものだ」
そう言って、男はとあるものを渡してきた。
それは、普段翔は手に取らない代物だった。




